最終話 ぼくらの故郷-8


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空が青い。抜けるような快晴。
雲ひとつ無い空にカモメが点々と白い斑模様を描いている。
アンカー港は今日も盛況。
台座の上のDDの銅像は静かに港の賑わいを見つめている。
病院を抜け出してきた私は、松葉杖を脇へ置いて釣り人に並んで桟橋に腰を降ろした。
まだ病室を出ては行けないといわれているのだが、何しろ担当看護婦が・・・・・。

「婦長の骸柳デス子でございます」
いやああああああああああああゾンビーッ!!!!!!!
なんかムクロヤナギ婦長は激しくある意味で病院に似つかわしく、そして病人の前に出すには不適切な容姿をした人物だった。
フシュウウウウウウ、と口から灰色の蒸気・・・煙?のようなものを吐いて挨拶される。
既にこの病院の常連であるサイカワとは顔なじみらしい。
「骸柳婦長は有能な看護婦さんですよ。とってもチャーミングな女性です」
見た目はデッドリーだけどな。
るーるる、るるる、るーるる♪
なんかテーマソングかかったぞ。
「デス子の部屋へようこそぉ・・・・」
いやここ病室だからね。

まあそんなわけで日中はなるべく病院から退避するようにしている。
聖誕祭の日から数日が過ぎていた。
まだ町のあちこちには片付けの終わっていない祭の飾りその他が見られ、人々は未だ喧騒の余韻の中にいるように浮かれている。
ケンカに器物破損に・・・・小さな事件は多々あったものの、全体的に見ればそれは取るに足らない事であり、アンカーでの聖誕祭は大成功と言っていい終わり方をしていた。
私達の戦いは、後始末を手伝ってくれたうぐいす隊の協力もあって一切表には出る事はなかった。
捕らえたシャークの連中は残らず島外に待機してもらっていたツェンレンの軍艦へと引き渡した。
オルヴィエ達があらかじめ手配していてくれたものだった。
・・・・彼らは、アンカーで裁くには数が多すぎる。
留置設備や監獄もそんなに数が無い。
四王国管轄下の国際裁判で裁きを下して貰えるように、ツェンレン王アレキサンダーへと口添えを頼んだ。
「これだけの規模のテロを未然に防いだっていう事で、王も自治賛成派に回ってくれるって。よかったね」
そう言ってオルヴィエは笑っていた。
確かに賛成1中立2反対1の現状で中立であったツェンレン王アレキサンダーが自治賛成派になれば情勢はこの町にとって一気に有利になるだろう。
それは明るいニュースだった。
キリエッタ・ナウシズはただ1人生き残ったシャークの大物幹部として、他のメンバーと同じ様に引き渡されていった。
その前にゲンウ達が尋問したらしいが、やはり彼女は財団の事を何も聞かされてはいなかったようだ。
純粋に金で雇われた傭兵だった。
昨晩の彼女の引渡しには私もルクに肩を借りて立ち合った。
縄で縛られ、鋼鉄の手枷を填められて連行されていくキリエッタの表情は特に落胆や憔悴は無く、割り切ったさばさばとした印象を与えるものだった。
そこにイブキがやってくる。
「・・・おや、お嬢ちゃん・・・アタシを笑いに来たのかい?」
不敵に笑って言うキリエッタ。
「・・・・罪をちゃんと償って綺麗な身体になったら、私の店に来なさい。ラーメンが本当に美味しいものだって教えてあげるわ、キリエッタ」
ムスッとした表情でぶっきらぼうにイブキはそう言った。
キリエッタは一瞬ポカンとした表情になると、フッと苦笑して肩をすくめた。
「・・・・お嬢ちゃんには、かなわないね・・・・」
いつか食べにいくよ、とさっぱりした顔で笑ってキリエッタは高速艇に消えていった。

私の病室には連日大勢の見舞いが訪れた。
事情を知らない者達には、私は階段から落ちた事になっている。
仕方がない事とは言え、些かばつが悪いのも事実だ。
先日、エンリケも見舞いに訪れた。
彼は病室に入ってくると、その場にいた私と仲間達に深々と頭を下げた。
? 仲間達と顔を見合わせる。
「皆さんには、何とお礼を言ってよいのかわかりません。この町を守ってくれて、本当にありがとう」
言ってエンリケはもう一度頭を下げた。
・・・流石に代表だ。ごまかし切れるものではなかったか。
気にする事はない、とエンリケに言う。
「そうそう、私たちはただこの町が大好きだって、それだけなんだから」
シトリンがそう言って微笑んだ。
「この先、皆さんがどこへ行かれる事があっても、アンカーの町はいつでも皆さんのお帰りをお待ちしていますよ。この町は皆さんの故きょ・・・・」
「ぶぇーっくしぃっっっっ!!!!!!」
エンリケの台詞を遮ってカルタスが盛大にクシャミをした。
真正面から突風を浴びたエンリケは病室の扉を突き破って廊下へと飛び出し、更に廊下の窓ガラスを突き破って(ここは三階だ)外へと消えていった。
・・・・そして今は私の隣の病室に入院している。

幸い仲間内では私が一番の重症だった。
他に入院している者も無く、各自包帯を巻きつつも日常生活へと戻っている。
「ケッだらしねえ!肉食ってんのかちゃんと、肉!!」
あのアホはそう言って笑っていった。
くそう、いつか仕返ししてやる。
等と考えていたら、誰かが私の隣にすっと座った。
「ホットドッグは売ってなかったわ。だからたこ焼き、ハイ先生の分」
セシルだった。初めて出会った時と同じボーイッシュなスタイルの彼女は私にたこ焼きを1パック差し出した。
これは嬉しいな。どうもありがとう。
礼を言って受け取る。
朝の早い内に病院を抜け出して、昼過ぎの現在まで今日は何も口にしていない。
しばし2人で並んで無言で海を眺めながらたこ焼きをつついた。
「・・・・今日、私この島を出るんだ」
やがてセシルがポツリと呟いた。
そうか。沢山の人々が君を待っているのだろうな。これからも頑張れ。
なんとも在り来たりな台詞になってしまう。こう言う時にもっと気の効いた台詞の一つも言えればいいのだが、と自分でもつくづく思う。
「ガッハッハッハ! ここにいたかウィリアム・バーンハルト!! 随分と探したぞお!!!」
と、そこへ雰囲気をブチ壊しにするだみ声が響きわたった。
2人で振り返る。そこには全身を筋肉の鎧で覆った毛深い巨漢が立っていた。
手には大きなバトルハンマーを持っている。
「俺の名はドンツー・コング!!! 俺様にやられた奴は全て鈍痛に悩まされて命を落とす!!!」
なんか微妙だな。強いのかどうかイマイチよくわからん説明だ。
「シャークを壊滅させたと噂のキサマを倒して名を上げてやろうという作戦よ!! 怪我をしている今こそがチャンスだ!! ガッハッハッハ!!!」
ぬう、どうしようもない小物思考だが、今はマズい・・・セシルを安全な所へ逃がさなくては・・・。
すると、そのセシルがすたすたと私の前に出てドンツー・コングの前に立ちはだかった。
「・・・・空気、読みなさいよ。今いいところなのに!!」
ズドッ!!!と物凄い炸裂音を立ててセシルの拳がコングの鳩尾に飲み込まれた。
ぐえーっ!!!と絶叫を上げてコングが前のめりになる。
突き出され、降りてきたそのコングの顎を、セシルはコン!!と裏拳で弾いた。
顎を打たれ脳を揺らされたコングがぐりんと白目を剥いてその場に座り込むように昏倒した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
えらい強いな。ひょっとしたらシャハルにさらわれた時も自分でどうにかできたかもしれんな・・・・。
「・・・見てた?先生」
セシルが振り返る。
「私、結構戦えるつもりよ。先生が悪者と戦うお手伝いだってできるわ。・・・・だから、先生言って!『ここに残れ』って!!そうしたら私・・・・」
どこか必死な表情でセシルはそう私に言った。
私は静かに目を閉じ、首を横に振った。
ダメだ。セシル・・・君はここへ留まってはいけない。行くんだ、君は君の戦場へ。
彼女は目に涙を一杯溜めて、そして笑顔を見せる。
「・・・・・・先生、残酷!!」
私は苦笑する。
そうだよ、実はドSだったのだ。驚いたかい?
ばふっ、とセシルが私に抱きついてきた。
「大根役者・・・・・でもそのすっごい下手な演技に免じて、今日は素直に言う通りにしてあげる・・・・。いつかまた遊びに来るね、先生」

船が沖合いへと消えていく。
彼女は見えなくなるまでずっと手を振っていた。
それを見送って、気付けば日は既に傾きかけ、辺りは茜色に染まっていた。
「・・・・カッコつけちゃって、もう」
言われて振り返る。
エリスが両手を腰に当ててこっちを見ていた。
「私は別によかったのに・・・・もう1人や2人増えたって一緒!」
エリスの言葉に苦笑する。そうもいかんよ、と。
エリスが私に肩を貸す。大人しく彼女に寄りかかる。
重いだろう、と言う私にエリスは、平気よ、と笑った。
その少し先にDDとルクが待っていた。
4人で病院へと戻る。
家路を急ぐ子供達とすれ違う。
皆泥だらけだが満面の笑顔だ。
仲間たちと守った、ささやかだがかけがえの無い安息。
当たり前の平和。
来年の聖誕祭は、余計な事を考えずに皆と楽しめればいいのだが・・・・。

常春の町アンカーは今日も賑やかで、そして概ね平和であった。

~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~