第1話 空の王国-1


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暖かい陽気に誘われて、ついデスクでうたた寝をしていた。
う、いかんいかん寝てしまっていたか・・・・。
ここは常春の町アンカー。
世界中から冒険者の集う未開の島、シードラゴン島の玄関口。

ここ一ヶ月ほどは特にこれといって大きな事件も無く、私の事務所も平穏な日々が続いていた。
立ち上がって首を捻って鳴らす。
・・・見ればアシスタント達も3人とも応接用のソファに座って昼寝の真っ最中であった。
DDに左右からエリスとルクが寄りかかるようにして寝息を立てている。
微笑ましいものだ。普段何かとうるさく言い合っているが、根底ではこの3人の仲は良好だ。
時刻を見れば正午を回っている。
どれ、では今日の昼食は私が準備する事にしようかな・・・・。
きのこのパスタでいいかな。どうせ男の手料理だ、凝った物は作れない。
と、そこへシンラが戻って来た。
「ただいま」そう言ってオフィスへと入ってきたシンラは眠っているエリス達に気付いて足音を忍ばせた。
おかえり、どうだった?
パスタを茹でながら彼女に尋ねる。
「ハワードさんの家の猫は見つけてきた。もう届けてきたから」
そうか、ありがとう。ご苦労様だったね。今昼を準備する。少しだけ待っていてくれ。
一仕事終えた彼女をそう言って労う。
今回の仕事は迷い猫探しだった。基本なんでも屋である私の元へは(自主的にそうなったわけではないのだが)日々こうした様々な仕事が舞い込んでくる。お陰で本業である考古学の方が滞りがちで悲しい。
・・・・・・? て、見つかったってジュウベイはどうした?
シンラと2人で出た筈のもう1人のスタッフについて彼女に尋ねる。
シンラはふるふると首を横に振った。
「・・・・わからない。見つからなかった」
おう何と言う事だ。猫は見つかりスタッフが行方不明だ。
今、私の事務所は住み込みの私とエリスとDDとルクの4人、それと通いで勤めているシンラとジュウベイの6人で切り盛りしている。
シンラは聖誕祭の後、少しして事務所の近所に下宿を借りて今はそこで暮らしている。
アヤメとジュウベイはあの戦いの後、国へは帰らなかった。道場は既に人手に渡ってしまっているそうだ。
アヤメは剣とは何かと日々悩みつつも、茶道華道の教室を開いて生活していた。
そしてジュウベイは自分を使ってくれと頼み込んできたのでうちのスタッフとなった。

エリスたちが起きてこないのでシンラと向かい合って2人でパスタを食べる。
「・・・そういえば」
ふと、シンラが顔を上げる。
「古道具屋さんが、先生に見せたいものがあるから来てくれって」
む・・・・あそこか・・・・。
この町唯一の古物商・・・・珍しい遺物や考古学的に価値のある数々の品物も取り扱っているので、私としては研究の為避けては通れない場所なのだが・・・。
しかしある問題があり、つい足は遠のきがちであった。
だが掘り出し物が出たのなら行かないわけにはいかん。
若干憂鬱な気分になりつつも、私は午後の予定を古物商へ行く事と決めた。

「よく来てくれました、先生。一日千秋の思いでお待ちしていましたよ」
店内へと入った私を、にこやかに出迎えた眼鏡の青年こそ、この古道具屋「アサシン堂」の主アーサー・シンバであった。
なんか入ればぬっころされそうな店名であるが、主人の名前を略して付けられた名だ。
アーサー、件の品物を見せてもらおう。
努めて事務的な口調で言う。
「ふっ、つれない人ですね。・・・・しかしそこがまたそそります」
・・・くそう、こえーよー。
奥へ引っ込んだアーサーが戻ってくる。そしてカウンターに布で包まれたいくつかの遺物を並べた。
・・・・・・これは・・・・・・。
レンズを取り出し、細かく観察する。
「・・・・いかがですか?」
アーサーが微笑む。彼は当然わかっているのだろう。
この遺物が、これまで島で発見されているどの遺物とも系統が異なる文明のものであるらしい、という事がだ。
これはどこで?
「本来ならば企業秘密、と言いたいところですが他ならぬ先生の頼みとあっては教えないわけにはいきませんね」
そう言ってアーサーは島の地図を広げてある一点を指し示した。
北東の丘陵地帯・・・・しかしここは・・・・。
遺跡の類はなかったと思う・・・・いや、朽ちたゲートらしき残骸が一つあったか。
「しかし間違いなくこの遺物はその丘陵地帯で見つかったものなのですよ、先生」
しかしあそこにはあの朽ちたゲートが一つあるだけだ。
「ええ、その通りです。・・・・しかしですね、先生、あのゲートは以前からあれこれ言われていましてね」
あれこれ?
「ええ、夜に輝いているのを見た、という話やあの周辺で『天使』を見かけたというような」
ふーむ・・・なんだか眉唾ものの話ではあるな。
しかし私も以前行った時はゲートを調べて朽ちているものだと思っただけで引き上げてしまった。
周辺を含めもう一度詳しく調べてみる必要があるか・・・・。

「シンラがね・・・・シンラが・・・・拙者を置いてったんだよー」
戻るとジュウベイがめそめそ泣いていた。
それをシンラがごめんごめんと言いながら頭を撫でている。
何だこの構図。
私は皆に丘陵地帯をちょっと調べてくると告げた。
「おお! ならば拙者が同行しよう!! 猫探しでは役に立てんかったからな!!ここで名誉挽回とさせてもらうわい!!」
がっはっはっはと豪快にジュウベイが笑っている。
意気込んでいる所悪いが、丘陵地帯はこの町から比較的近いし、それに周辺に危険なモンスターも生息していない。
私1人で十分だ。
「万一という事があります。念の為同行者はいた方がいい。私も明日はフリーですので同行します、ウィリアム」
そうルクが言う。オフィスの壁のホワイトボードを見てみれば確かに明日の仕事が無いのはルクとジュウベイの2人だ。
わかった。では2人に同行を頼もう。
こうして私たちは3人で丘陵地帯へ向かう事になったのだった。

そして翌日、私たちは丘陵地帯の朽ちたゲートへとやってきた。
以前来た時と変わりなく、小高い丘の上にそのゲートはぽつんと佇んでいる。
「確かに平和そのものだわい。まるでピクニックに来たような感じだのう」
弁当をいつ広げようか、とジュウベイは豪快に笑って言った。
「周囲に危険な気配はありません」
瞳を閉じて周囲の気配を探っていたルクもそう言う。
よし、まずはもう一度ゲートを調べてみよう。
そう思いゲートへと近付いたその時。
『待っていたわ。ウィリアム・バーンハルト』
女性の声が聞こえた。
同時にゲートが激しく発光する。
!!!! 何だ!!!??
眩い輝きに目を開けていられずに私は右手で顔を覆った。
そして物凄い力で光の方へと引き寄せられる。
私は咄嗟にゲートを構成する柱の一つを掴もうと手を伸ばした。
しかし間に合わない。
その手は空を切る。
「ウィリアム!!!」
伸ばしたその手をルクが掴んだ。そしてそのルクの手をジュウベイが掴み、ジュウベイはもう片方の手で柱を掴んだ。
「こっ、これは何事じゃあああああ!!!!」
ふんぬーっと踏ん張るジュウベイ。しかし、その彼よりも先に掴んでいた柱の方に限界が来た。
ぼごっ!と音を立てて石柱は崩れ、我々は全員光の中へと飲み込まれていった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「ウィリアム、起きてください。ウィリアム」
肩をゆすられている。
徐々に意識が覚醒してくる。
目を開けると、心配そうに見ているルクの顔があった。
ここは・・・・・。
見れば先程とは違う草原地帯だ。
どこまで飛ばされたのか・・・・。
目の前にはゲートがあった。ここへ飛ばされたのだろうな。
するとそこへ真っ白い何かが吹き付けられてきた。
うお、なんだ!
「雲です。ウィリアム」
そうルクが言う。雲?雲とは空の雲か?
ルクが指を指す。その先にはジュウベイがいた。何やら草原の切れ目に立ちわなわなと大口を開けて震えている。
何だ?断崖絶壁にでもなっているのか?
私もその隣に立ち、下を見てみた。
・・・・・!!!!!!!!
そして絶句する。
大地が、シードラゴン島が恐ろしく下に見えている。

・・・・ここは、遥か空の上なのか・・・・。