第14話 一つの終わりと一つの始まり-2


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

レディ・ダイヤモンドダストの封じられた水晶を前に、私は魔人ペルゼムスと対峙していた。
資格、だと?
「そうだ人間よ。こちら側は正確にはこの世界ではない『隙間』のような場所だ。元々この島は次元の狭間の上に存在している。それ故島内の随所にこのような隙間の場所が存在しているのだ。・・・・そこへ至れるのは『資格』を持つ者のみ。即ちゲートをくぐり『新しい世界』へと至る事のできる資格を持つ者だ」
? 奴の話はよくわからない言葉に満ちていた。だがそれは今はさして重要ではない。大事なのは他の事だ。
お前が彼女をこの中に閉じ込めたのか?
「グギギギギ・・・・その通りだ人間よ。美しいだろう?我が水晶封獄の術は時の流れすら封じ込める。彼女は永遠に10年前のままのこの美しい姿で我とここで過ごすのだ」
自分の言葉に陶酔するかのように、ペルゼムスは大きく4本の手を広げて天井を仰ぎ見た。
「10年前、あの運命の日に我と彼女はここで出会った。我は領域を乱した者を排除せんと彼女に襲い掛かった。彼女は素晴らしかった。魔人である我と互角に戦ったのだ! 戦いの中で我は彼女の強さと美しさに魅せられた。
だから我は戦いを止め彼女に求婚したのだ。我が妻になってくれと」
そこでペルゼムスはうつむいてわずかに頭を振った。
「残念ながら受け入れてはもらえなかったがな・・・・そこで本意ではなかったが我は遺跡の外へ離脱し、そこにいた彼女の仲間たちを捕らえた」
拳を握り締める。こいつは彼女の仲間達を人質に取ったのだ。
「彼らの命を盾にしたら彼女もようやく了承してくれてね。我は彼女を水晶へと封じ込めた。・・・・以来10年、ここで我は彼女に毎日語りかけながら時を過ごしている。とても幸せだ。我には他に何も必要ではない。この空間と彼女さえあれば、他には何もいらぬ」
彼女を閉じ込めた後、彼女の仲間達をどうした・・・?
答えは想像できている。だが尋ねないわけにはいかなかった。
「当然始末したとも。我には不要なものだ。それに彼女の事を知るものを帰すわけにもいかぬしな」
事も無げにペルゼムスが答えた。
怒りで目が眩む。グライマーの時には感じなかった嫌悪感に吐き気がした。
目の前の存在は、ただ形を持った悪意そのものだった。
そして同時に、私は自身が感じていた予感に誤りがなかった事を悟った。
彼女をこの悪意から解放する。・・・・きっとその為に自分はここへ来たのだ。
ちらりと横目で水晶を伺う。奴の話からいくつかわかった事がある。
時間すら止める、という程の術を10年も維持しているのだ。おそらくかかる魔力は膨大なものになるだろう。それだけの魔力を常に奴が供給し続けているとは考え辛い。
恐らく魔力を留める仕掛けがしてあるはずだ。それがあの水晶を囲んだ魔法陣なのだろう。
魔方陣の周囲に5つの水晶玉が配置され、今も明滅している。
あれか・・・・・。
「納得したか、ではそろそろ死んでもらうぞ人間よ」
ペルゼムスが手をかざした。奴の頭上に数本の鋭い水晶の槍が浮かび上がった。
瞬間、奴に向かって一直線に駆け出す。
「串刺しになれ、人間」
奴が槍を放った。それを横っ飛びに交わし、そのまま真横に走り出す。
「・・・・・!!! ・・・・・・キサマ!!!」
奴が私の狙いに気付いた。だがもう遅い。私は水晶玉の一つに駆け寄ると長剣をふるってそれを打ち砕いた。
場の魔力が乱れて水晶の塊から軋むような音がした。狙いに間違いはなさそうだ。
2つ目の水晶玉へ向けて走り出す。
「やらせるかァッ!!!」
何本も槍が飛来する。何本かは交わす。何本かは打ち払う。
だが全てはさばききれなかった。数本の槍は私をかすめ、そこから血が飛び散った。
しかし私は足を止めない。
2つ目の水晶玉へ辿り着いた。渾身の力を込めて打ち砕く。
彼女を覆う水晶の塊に大きなヒビが入った。
よし!この調子なら後1つ壊せば・・・・・・!!!・・・・・。
全身に激痛が走り、私の動きは止まった。
胸板を水晶の槍が貫いていた。背中から貫かれたのだ。
「我が手元にしか槍を生み出せないと思ったのが浅はかよな・・・・」
奴の耳障りなしわがれ声が聞こえる。
更に続いて2本、背中から槍は私を刺し貫いた。
血の塊を吐き出す。ふらつく、視界は暗転しかかる。
しかし倒れなかった。私はふらりと3つ目の水晶玉へ向けて1歩踏み出した。
よろよろと数歩進む。ぼたぼたと床を滴った血が汚していく。
もう、後、数歩・・・・。
前のめりによろめく。皮肉な事に突き刺さった槍が支柱となり私は倒れなかった。
もうさらに数歩進む。そして私は横倒しに倒れた。
3つ目の水晶玉への距離を半分程進んだところだった。
だがそれで充分だった。『ここからなら届く』・・・・私は懐に手を入れて愛用の短剣を取り出した。
それを水晶玉へ向けて床を滑らせて放る。
投げる前にもうスイッチは入れてあった。ゲンジのシワだらけの顔を思い出して私は微かに苦笑した。
ありがとう・・・・まさかこれが役に立つ日が来るとは思わなかったよ・・・・。
短剣が水晶へと届いた。同時に変形が始まる。
「!!!!  やめろォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!」
奴が私の意図に気付いて絶叫した。
変形した短剣を取り囲むように恐ろしい数の槍が現れる。
・・・・・その水晶を、破壊しろ・・・・・
最後の力を振り絞って私はそう命令した。
無数の水晶の槍が降り注ぎ、短剣を粉々に破壊する。
しかしそれより一瞬だけ早く、短剣は3つ目の水晶玉を打ち砕いていた。
「ーーーーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!」
奴が声にならない悲鳴を上げたのがわかった。

バキィィン!!!!!
周囲に澄んだ破裂音の様な音が響き、巨大な水晶は粉々に砕け散った。
ダイヤモンドダストが空中に投げ出される。
開放された瞬間、彼女はしっかりを目を開いて地面に倒れ伏す事無く自分の足で着地した。
そして一瞬だけ私を横目で伺うとペルゼムスへ向かって走り出した。
・・・・そうだ、それでいい・・・・・
私は役目を果たした事を悟った。
先ほどまで全身を覆っていた激痛と熱さは、やがて凍えるような寒さに変わり、今はそれすらも感じなくなり、ただ眠気だけが私を包んでいた。
今日は、随分動いたからな・・・・一眠りする事にしよう・・・・
目を覚ましたら、また探検に出かけよう。エリスを連れて、そうだカルタスも連れて行ってやろうか・・・・。
私は静かに目を閉じた。世界は闇に包まれた。
次は・・・・何処へ・・・・行こう・・かな・・・・・。
弱々しく微かに刻まれていた鼓動が、完全に静かになった。
意識に夜の帳が降りる。私は眠りについた。