第23話 ヤマトナデシコ、来島-1


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その日も綺麗な青空だった。
特別な日だ。天気がいいのは良い事だ。
そう、今日は町の中心にある広場で式典があるのだ。
私も招かれているので顔を出すことにする。

広場には何本もの鉄の支柱に支えられた何かが大きな布に包まれていた。
それはエーテルビジョンのプロジェクターだった。
流石に大きいな・・・・。
エーテルビジョンとは魔力で送信された映像と音声を、受信して映し出す画面の事である。
設備に恐ろしい費用がかかるので、大国でもせいぜいが国内に数箇所あればいいというレベルの品物だ。
戦争があって攻め込まれた時、王家の財宝よりもこちらを担いで逃げた方がいいと言われる程の金がかかる。
聖誕祭に合わせて、アンカーの町もこのエーテルビジョンを設置したのだ。
歌姫セシルの舞台を直接見れない人が広場に集まってこの画面で見るというわけだ。
莫大な費用はカンパとエンリケの個人資産から賄われたらしい。
そして今日はそのエーテルビジョンの除幕式なのであった。

そしてもう一つ、広場の中央に布をかぶっている何かがある。
実はそれは町の有志が準備したエンリケの胸像なのであった。
その話はエンリケにはまだ伝わっていない。
ちょっとしたサプライズというわけだ。
エンリケの挨拶が終わった後でファンファーレと共に布を落とす段取りになっている。

間も無くエンリケがやってきた。係と最後の打ち合わせをしながら、胸像に気付いて「これはなんだい?」と尋ねている。
職員達は「それはまだ内緒ですよ」と笑って答えた。
そして式典の時間が来た。
私も整列する。後ろでいいと言ったのだが、係の者は「いえ先生は最前列でお願いします」というのでやむを得ず一番前まで出てくる。
ふう、やれやれエリスたちと別れ別れになってしまった・・・・。
ふと横を見るとデカい鼻が目に入る。
何で? 何でカルタスも一番前なの? 何で私と並べられてるの? できれば対角線上の両端くらいのレベルで離して欲しいんですけど?
頭の中をクエスチョンマークで一杯にして、私は開会の挨拶を聞いた。
別にカルタスが嫌いな訳では無いが、この手の場所で近くにいてはいけない存在だという事を経験から私は知っていた。
「えー、ではエンリケ代表より皆様にご挨拶があります」
進行役がそう言う。エンリケが壇上に上がってくる。
マイクを手に取り、こほんと一つ咳払いをした。
「皆さん、本日は・・・・」
「ぶえええええええっくしょおおおおおおおおい!!!!!!!」
カルタスがどでかいクシャミをしでかす。
胸像との位置関係が悪かった。最前列ではほとんど真下だ。
真下から強風を叩き付けられて胸像を覆っていた布はあっさり吹き飛んで消えた。
「おお・・・・」
自身の胸像を見たエンリケが驚いている。慌てて係が楽団に指示を出し、演奏が始まる。
・・・よしいいぞ!この程度のトラブル、アドリブで乗りきってくれ!!!!
くそう何で自分がやった事でも無いのにここまで罪悪感感じないといけないのだ!!!
進行役が上手く参列者達を煽り、拍手と喝采が巻き起こった。
「いつもありがとう!!」
「エンリケばんざーい!!」
紙ふぶきが舞い、口笛が鳴り響く。
壇上のエンリケはひたすら照れて恐縮していた。
その目は少し潤んでいるように見える。
彼も自分のしてきた事がこんな風に感謝されて祝福される機会など今までなかったであろうし、嬉しいだろうな・・・・。
私も何となく心が暖かくなるような気がした。
「ぶああああっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおい!!!!!!!!」
だが奴のクシャミはそんな周囲の空気を再びぶち壊しにした。
胸像との位置関係が悪かった。
真下から先程にも増す強風を叩き付けられた胸像はシュポーン!!!とシャンパンの栓を抜く時のような小気味良い音を響かせて空の彼方に消えていった。
余談だがこの日、シードラゴン島の沖合い40km程を演習航海中だったセルボルト王国の最新鋭高速戦闘艦サンダーホエール号は上空から飛来した何かの直撃を機関部に受けて動力部を大破し炎上、沈没したそうである。

「いやー笑った笑った」
オフィスに戻ってきてから、まだDDはたまに思い出し笑いをしていた。
いや笑うなよエンリケ可哀想だろう。自分の元副官なのに・・・・。
「まあ気持ちは伝わってると思うしいいんじゃない?大事なのはハートだってば。あの位ドラマチックだった方が思い出にも残るって」
まあ確かにそれはそうかもしれんが・・・。物にこだわらないDDらしい豪快な意見だった。
最後エンリケやっぱり涙目になってた。あれは絶対感動の涙だけじゃなかったと思うがなぁ・・・・。
「人間の集まりって変わった事をするのね」
静かにそうシンラが言った。
「帝国の祭典ではあのような事はありませんでした。地域によって文化は違うものです」
ルクが生真面目にそう説明している。
「いえそういう問題じゃないんだけどね・・・・・」
エリスは引きつっている。この場では彼女が一番私の感性に近いようだ。
何故シンラがこの場にいるのかと言うと・・・・。

先日私の口利きで無事にオーガの里とアンカーの町は交易が始まった。
その時にオババの手紙を携えてシンラはこの町へやってきたのだった。
手紙は私宛で、「これからは姫も人間の世界の事を知らなければならない。諸々の手配を手伝って欲しい」という内容が血文字で(怖い)記されていた。
断ったら呪われそうなので、一先ず色々と決まるまではオフィスで面倒を見る事にした。
追ってちゃんとした仕事と住居を紹介してあげよう。
「嫁だらけでござるな」
パチンと、駒を置きながら将棋盤を挟んだ向かいにいるゲンウがそう言った。
私は苦笑して、そんなつもりはないよ、と答えて自分の駒を進める。
皆大切な娘のようなものだ。
「こんなに綺麗どころを抱えて?全部娘???」
見るとなんか目を丸くしてゲンウがポカーンとしている。
ああ、そうだが・・・なんでそんなビックリしてる。
「・・・・・・・・・何を恐れておる?」
恐れる?私がかね?
うむ、と肯いたゲンウが私を見る。
「何故周囲の者の幸せを誰より強く願いながら自身の幸せには背を向けようとするのだ。望んで暗い場所ばかりに目をやってそちらへ進んで行こうとしておる。御主はまさか・・・・無意識に死に場所を・・・・」
ぽん、とそのゲンウの肩に手が置かれた。DDの手だった。
ゲンウを見てDDがふるふると首を横に振る。そして優しく微笑んだ。
「・・・・そうか、ならばもう拙者は何も言うまい。ただ友として御主らの幸せを願っておる」
『この次もウィルはいくよ。私にはそれがわかる』
いつかDDに言われた台詞を急に思い出した。
そんなはずはない。私は死にたがってなどいない・・・。
だが・・・自分のこの命が誰かの幸せの為に消費されるのだとしたら・・・・?
私は頭を振ってその思考を振り払った。
やめよう、そんな事を考えてもしょうがない。
「忍法・二歩の術」
いやそれ普通に反則負けだから。

オフィスの戸がノックされた。
どうぞ、と答えると戸が開いて振袖姿の若い女性と中年の侍が入ってくる。
「失礼致します」
女性が頭を下げ、侍もそれに倣う。
「音無あやめと申します。旅の者なのですが、少々困った事がありまして、ここへ来れば相談に乗って頂けるとご紹介を頂いて参りました」
「連れの宮本十兵衛でござる」
ここはなんでも相談所だったそういえば。
椅子を勧めながらどういったご用件でしょうと聞く。
「はい、実は人を探しておりまして・・・」
差し出された写真を受け取る。
・・・・・・・・・・・・・・。
表情には出ないようにした。見間違い様も無い白猿の老獣人。
どういった間柄の方かな。見た所種族も年齢も随分異なっておられるようだが・・・・。
あやめは一瞬の逡巡の後に私をまっすぐに見つめると
「父の仇なのです」
そうはっきりと言ったのだった。