第22話 鬼人の谷-1


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その日は珍しくエリスが外出するというので、エリス抜きの夕食になった。
料理を担当したのはDDである。
「沢山食べてよねー」
そう言って大盛りのカレーを出してくる。
本当に沢山食べなくてはならない。何しろ作る量がハンパではない。
DDとルクに料理の担当が回ると出てくるのはチャーハンかカレーのどちらかだ。
特にカレーは大型の鍋で大量に作るので(量を減らすと諸々の分量がわからなくなるらしい)毎度自分達で処理しきれずあちこちにお裾分けが行く事になる。また数日オフィスはカレー臭くなるのか・・・・。
ちょうど食事を終えたあたりでオフィスの戸がノックされた。
「オジさんだよー、開けてちょうだいよー」
スレイダーだ。彼がここへ来るのは珍しいな。

彼に連れてこられてノワールにやってくる。
「もうどうにかしちゃってちょうだいよ。オジさん一人じゃもうどうにもできないよ泣いちゃうよ」
そう言って扉を開けて中へ招き入れられた私が見た光景は・・・・。
・・・ある意味でこの世の地獄であった。
酒の匂いが充満した店内には無数の空瓶が転がっていた。
後何があったのか聞くのも恐ろしいが全裸で昏倒させられたカイリがうつ伏せに倒れていた。
そして中央のテーブルで2人でグラスをぐいぐいやっているのはエリスとシトリンである。
「最初はさ、普通に飲んでたんだよ?楽しくさ。でもなんか雲行きが怪しくなってきちゃってねぇ」
困った、とばかりに首を横に振るスレイダー。
エリスは今日ここへ呼ばれていったのか・・・・てゆか2人とも完全に出来上がってるな・・・・。
「・・・・朴念仁で・・・・枯れた風にしちゃってねぇ・・・・それなのにライバルばっかり増えていくし・・・・」
何かエリスがぐちぐち言ってらっしゃいます・・・・。
「人の気もしらないで飄々としちゃってさぁ・・・・いっつもうちで待たされる身にもなってよねぇ・・・・」
ああ何かシトリンの症状も深刻だな・・・・。
「ほら!!注ぎなさいよ張本人!!!」
げ!!矛先がこっち来た!!!
「新しいの持って来なさいよヒゲ!!!!」
・・・あっちはあっちでシトリンに絡まれとる!!!
結局、完全にぐでんぐでんになったエリスを背負って私はノワールを出ることになった。
「・・・わらひらけは・・・ずっと前からなんれすからね・・・・おじいひゃんらったころからなんれすからね・・・・だれにもゆずりまひぇんからね・・・・・」
何か言ってる。苦労かけてるんだなぁ・・・・これからはもっと彼女に楽をさせてやらなければ・・・・。

その翌日、町中での事。
頼んでいた資料が届いたと連絡を受けて書店へ赴き、受け取ったその帰り道の事である。
スフィーダの店の前で数名の冒険者が立ち話をしていた。
「オーガらしい・・・」
「怪我人は3人で・・・・」
断片的にそんな言葉が聞こえてくる。
興味があったので話を聞いてみる。顔見知りの冒険者たちは快く私を会話に加えてくれた。
「南西の荒野を抜けた先にある谷なんですがね、オーガの集落があるらしくて探索に出かけた連中が襲撃されたらしいんですよ」
ふむ・・・なるほど。
鬼人・・・・オーガとは頭部に角を持つ亜人種である。強靭な肉体と豪腕で知られている。
最も人間との関係はそんなに険悪と言う訳ではなく、大陸ではその肉体を生かして傭兵業等で生計を立てている者も少なくない。
しかし、オーガの集落とは・・・・。
この島にあっては先住種族というわけだ。
何かこの島の歴史に関する資料になるものを所有しているのではないか。
「だからワシぁあの谷には近付いたらイカンと言ったのじゃ!!」
ぬお!突然小柄な老人が会話に割り込んできた。
木の杖をついてまるで仙人の様な長い白いヒゲを生やした老人だった。
「おお。長老」
「長老だ」
冒険者達が頭を下げる。
「あの谷はオーガの土地じゃ近付いてはならぬ」
重々しく言う長老。・・・・・って長老ってここって人が入ってまだ10年の島じゃないか。
「うむ、ワシぁ2ヶ月前に大陸から引っ越してきた」
他所の長老だー!!!!!!!

ふーむ・・・行ってみたいな鬼人の谷。
襲われたという話だが、言葉の通じる相手ならどうにかできるのではなかろうか。
そんな事を考えながら帰路につく。
すると、誰かが後ろからふわりと覆い被さるように私に抱き付いてきた。
「・・・せーんせ」
長身の私に上から抱きついてくるような女性は一人しかいない。
コトハだ。彼女はいつもふわふわと浮いている。
「先生行くの?オーガの谷に」
先程の話を聞いていたのか。私はそのつもりだ、と彼女に答えた。
「じゃあボクも一緒に行くよ」
そう言って無邪気に笑う。その突然の申し出に私は面食らった。
ふうむ・・・・別に断る理由はないのだが・・・・。
「あっはっはっは!聞かせてもらったわその話!!」
上から声がする。てゆか良く上から女性に声かけられる日だな!
高い塀の上に逆光をバックにしてオルヴィエがバーンと仁王立ちしている。
「そんな面白い話を私抜きに進めようだなんて神が許しても神っぽい私が許さない!!」
大変だ神っぽい人だ。
そんな彼女の所へコトハがふわふわと飛んで行った。
「まーまーオルにゃんとりあえずおやつだよ。ホラお饅頭」
そう言って懐から取り出した饅頭をオルヴィエに手渡す。
「あら気が利くじゃない!・・・・もぐもぐ・・・・・・はふぅ」
パッタリ倒れたオルヴィエをコトハが抱きとめる。
そしてふわふわ降りてくる。
オルヴィエは幸せそうに口を半開きにしてすーすー寝息を立てていた。
「オルにゃんはねー、ボクたち七星の中でも1番か2番目くらいに強いんだよ。『獣属』としての位も王様と同じ位高いし・・・・だけどこんな風にチョロい所があって、そこが大好き」
んーっとオルヴィエに頬擦りするコトハ。
「げんうー。オルにゃんをお願いー」
そうコトハが言うと、その場にボウンと灰色の煙が上がった。
「やれやれ・・・・拙者を便利屋と思われても困るのだがな」
とか言いながら取り出したマジックでオルヴィエの目蓋に瞳を書いているゲンウ。てオイオイ何してるんだよ!!!
「これも武人の性よ・・・・許されよ」
どんな武人だ。
「ホレホレ、カー○おじさん」
オルヴィエの顔をぐいぐい押し付けてくる。
ぶははははははは口の周りに円形のヒゲはやめれ!!!

「と、いうわけで今回はボクがせんせーと一緒にオーガの谷に行ってきまーす」
オフィスに戻るなり、その場にいるエリス達に一方的に宣言するコトハ。
途端にエリスのボルテージがMAXになる。
「バカ言わないでこの女狐!!!! そんなの許すわけないでしょう!!!!」
残る2人もウンウンとうなずいている。
「んふーそーんな事言っちゃっていいのかなぁボクに」
そう言ってエリスに顔を寄せて何かぽそぽそ呟いているコトハ。
エリスの顔がみるみる真っ赤になっていく。
「あう・・・・・はう・・・・・・・」
「いいよね?」
そうコトハが念を押すと、エリスはこっくりとうなずいた。
「残念ですが、エリスがいくら認めようが私は許しません。そもそも私はまだあなた達を信用したわけではない」
そっけなくルクが言う。
そんなルクの耳元にも同じように口を寄せて何か囁くコトハ。
ルクはエリスとは対照的に真っ青になった。
「・・・・そんな・・・何故それを・・・・・うう・・・・」
こうしてルクも陥落してしまった。
「だっらしないなぁ2人してー。やっぱしウィルを守る最後の砦って私だよねー」
DDが自信満々に胸を張った。
「はい、プリンだよー」
「お、さんきゅー・・・・・・もぐもぐ・・・・・あふん」
寝た。
最後の砦が一番チョロかった。
天井の板が一枚ガパっと外れてそこからゲンウがひょこっと逆さまに顔を出す。
「・・・・その娘、そう見えて七星にしてツェンレン情報戦略局の局長だ。流血を避けて物事を自分の思い通りに進める手腕において国内で右に出る者はおらぬ」
ぬう、恐るべし情報戦略局長。

こうして私はコトハと2人で仕度を整えてオフィスを出た。
さてまずは南西の荒野を踏破しなくてはな・・・・・。
するとその我々の出鼻を挫くかのように威勢のいい声が周囲に響き渡った。
「お前か!! 七星っていうのは!! 僕は帝国竜撃隊隊長雨月海里!!! 僕と勝負してもらおうか!!!」
そこにはカイリが普段の給仕服ではない戦闘服で立ちはだかっていたのであった。