最終話 Fairy tale of courage-4


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エメラダ・ロードリアスの放つ「獄炎」(ヘルファイア)の魔術が立て続けに3度地面を撃った。
黄金色の輝きは地面を穿ち、そこに巨大な炎の柱を吹き上げる。
大岩がどろりと溶岩となって流れ出す。
周囲はまるで火山の火口の様だ。
高熱で周囲の風景が陽炎のように揺れている。
エメラダの肩口で、彼女に巻きついている彼女の守護神獣、魔蛇「マルデューク」がシャーッと喉を鳴らして舌をチロチロと出した。
「二重詠唱」(ダブルキャスティング)がエメラダの持つ特殊能力。
この能力はLV4までの魔術を1度の詠唱で2発同時に放つ事ができる。
そしてマルデュークの持つ能力は「複詠唱」(ミラーキャスティング)これは主人の詠唱をそっくり真似て同じ魔術を行使できるというもの。
この強力な主従の特殊能力により、南雲響は常に3発の恐ろしい威力の攻撃魔術にその身を晒さねばならなかった。
納刀したままの愛刀の柄に手を添えたまま、響はふーっと長めの息を吐いた。
その頬を伝う汗が、緊張によるものなのか、熱気によるものなのかはわからない。
「逃げ足だけは大したものですわね」
響を見下ろすようにしてエメラダが嘲笑する。
「でも私ももう時間がありませんの。ギャラガー様の秘密を知った者たちを皆殺しにしなければなりませんから」
そう言って右手を上げるエメラダ。
その手の上に闇が集まって黒い槍と化す。
「『滅びの槍』(スピアオブドゥーム)」
それは単体攻撃用の魔術としてはエメラダの所持する中で最強の攻撃魔術だ。
攻撃対象は槍の穂先の一点に限られるが、その速度と貫通力は他の魔術の追随を許さない。
そして炸裂すれば負のエネルギーで攻撃対象を崩壊させる。
槍が2本に分かれる。そして鎌首を擡げたマルデュークの眼前にもやはり同じ槍が浮かぶ。
「これで終わりですわ。黒く崩れて消滅なさいな」
漆黒の流星が真横に空間を薙ぐ。その数は3つ。
響はそれをかわそうとせずに、おもむろにその攻撃の真ん中へと身を投じた。
・・・刹那の交錯。
槍は響を掠める事無く、3本とも通り過ぎる。
そして響はエメラダとすれ違い、彼女の後方に移動していた。
「・・・か、かわした・・・? 3本とも・・・」
呆然とするエメラダが掠れた声で呟く。
「いや・・・」
そう言って響は首を横に振った。
「真ん中の1本は刃峰に当てて逸らした」
「嘘よ!! 貴女は今刀を抜いていなかったわ!!」
ヒステリックにエメラダが叫ぶ。
響は僅かに鞘から浮いていた愛刀をキン、と鞘へ納め直すと低く保っていた体勢から直立の状態へ戻る。
そしてエメラダに背を向けるとざっざっと足音を鳴らして歩き出した。
「ま、待ちなさい!! 何処へ行こうと言うの!!?」
「勝負は着いた。私は先生の助太刀に向かう」
ぐらりとエメラダがよろめいた。
その顔面は蒼白だ。
「・・・ねえ、貴女・・・私を・・・もう・・・斬ってるの・・・?」
無言のまま響が肯く。
「う、嘘よ・・・やられてない・・・やられたはずがないわ・・・! だって私・・・まだ・・・」
呻くように囁きながらフラフラと後ずさるエメラダの足元に何かがボトリと落ちる。
それをエメラダが恐る恐る見下ろす。
地に落ちて転がったのは切断されたマルデュークの頭部だった。
頭を失った身体がずるりとエメラダの身体から滑り落ちる。
「・・・ギャラガー・・・様・・・」
そして自らの身体を袈裟懸けに走った刀傷から激しく出血したエメラダが、その血の海の中に崩れ落ちた。

ウィリアム達とギャラガーの交戦する、セントラルエリア、コアブロック入り口より4kmほど南にある高いビルの屋上に妖精王ジュピターの姿があった。
「・・・成る程、『魔王石』ですか。その名の通り、神話の時代に魔王がその身に帯びていたという恐るべき闇の力を持つアーティファクト・・・その魔王石を持ち出してきたならば彼のあの常軌を逸した強さも肯けますね」
屋上のフェンスに身を乗り出すようにしてジュピターは北方を見ている。
風の精霊魔術「遠視」により彼は現地の状況をまるで眼前の事のように視認していた。
「・・・胸部、背部、両肩部でしたね。胸部は一番目立つので恐らく悠さんが行きたがるでしょう。では私は左肩部を受け持つとしましょうか」
呟いたジュピターの手の中に長大なエメラルドグリーンの弓が浮かび上がった。
妖精王ジュピターの契約武器「アークウィンド」である。
魔力の矢がジュピターの手の中に現れる。それを番え、弦を引くジュピター。
その背後に半透明の髪の長い美しい女性が浮かび上がった。
『我が契約者・・・妖精王ジュピターよ』
女性がジュピターに呼びかける。その美しい長い髪が風になびく。
『矢に込める魔力の量は如何程とするか』
「我が守護者、偉大なる風の精霊神よ。この一射に私は全ての魔力を込めます。二射目の事は考えません」
淀みなくジュピターが答える。
その答えに風の精霊神はその端正な顔を僅かに曇らせた。
『万一仕損じればお前は全身の全ての魔力を無駄に失う事になる・・・それを承知で申すか』
「ええ。どちらにせよ一射目を外せばもう警戒され二射目を当てられる可能性はほとんどありませんよ。それに・・・」
ジュピターが精霊神を見上げて微笑んだ。
「私がこのアークウィンドより矢を放った回数はこの600年で73回。その命中率は?」
『・・・100%だ』
フッと精霊神が苦笑する。
「その通りです。私は外さない。・・・この一射は我が親友ウィリアム・バーンハルトに捧げるとしましょう・・・!!」
極限までジュピターが弦を引く。
その視線は遥か彼方の一点のみを射抜いている。
恐るべき集中力。この瞬間、例え背後から心臓を剣で刺し貫かれようと彼は正確な射撃を行うだろう。
そして彼の手が弦を離れた。
ゾキュッ!!!!と音を立てて弾き出された光の矢が空を翔る。
ふーっと大きく息をついたジュピターが矢を放った方角へ背を向けて、フェンスにもたれかかって座り込んだ。

天河悠陽とギャラガーの攻防が再開されていた。
しかし、悠陽は防戦一方であり明らかに先程に比べて動きに精彩を欠いている。
ギャラガーも周囲でまだ『ハイドラ』の3人が戦っている為か先程までの様な大魔術は使わずに、細かい魔術で確実にウィリアム達にダメージを与えていった。
・・・悠陽はただ攻めあぐねていたわけではない。
彼女は待っていたのだ。
必ず来る筈の「あるもの」を。
(・・・来た!!)
悠陽が顔を上げた。
南方の空から唸りを上げて1本の矢が飛来する。
そして矢は西の方角を向いて戦っていたギャラガーの左肩に命中した。

『・・・当たったぞ・・・!!・・・』
一瞬目を輝かせた精霊神が絶句する。
『障壁だ!! ギャラガーは結界を張っている!!』

バチバチバチ!!!!!と激しく周囲に火花が飛び散り、まるで真昼の様に明るく照らし出す。
ギャラガーの障壁はジュピターの放った矢を受け止めていた。
その鬩ぎ合う2つのエネルギーが巻き起こすフラッシュだった。

「・・・大丈夫、計算の内です」
やはりそちらの方角は見ないまま、ジュピターが呟く様に言う。
「破りますよ・・・4・・・3・・・2・・・」

「・・・ぬ・・・う・・・!!」
ギャラガーの表情が歪んだ。
障壁で受け止めた矢が地面に落ちない。
底知れぬ威力を秘めたままでシールドを抉りにかかってくる。

「・・・1・・・ゼロ」
『・・・おお・・・』
精霊神が呆然と北の空を見た。
その視界には、粉々に砕け散るギャラガーのシールドと左肩に確かに命中した矢がはっきりと見えていた。

グワッ!!!と爆発音を響かせてギャラガーの障壁が破れる。
左肩に突き立ったジュピターの矢はその内部に埋め込まれた闇の宝玉『魔王石』の1つを粉々に破壊した。
「・・・・・・・・」
痛みの為か怒りの為か・・・初めてギャラガーは表情を渋い物にしたがその口から言葉は出てこなかった。
そしてその隙を突いて、悠陽がギャラガーとの距離を零まで詰めた。
「待ってたわ・・・この隙を・・・」
右の拳を悠陽が引く。
その手は眩い白い輝きに包まれていた。
「『神帝白龍砲』!!!!!!!!!」
渾身の力を込めた悠陽の右の拳がギャラガーの胸部中央に炸裂した。
「・・・おおおおおおおおッッッ!!!!!!!」
ギャラガーが咆える。
そして彼も全力の障壁でそれを防ぐ。
ぶつかり合う2つの極大のエネルギーの余波は周囲に暴風となって吹き荒れた。
戦っているものもそうでないものも、皆その風を受けて吹き飛ばされる。
間近な所では建物の崩壊が始まっている。
「・・・・・・・・・・・・」
ビシッ、ビシッと悠陽の右手に亀裂が入っていった。
「・・・ふ」
ギャラガーが僅かに笑みを浮かべる。
「・・・そっちの手は・・・」
だが、悠陽はそこで更に1歩踏み出した。
「あんたにくれてやるっつーのーッッッッ!!!!!!!!!!」
ドォォォォン!!!!!!と雷鳴の様な音が響き、ギャラガーの展開していた障壁と悠陽の右腕は同時に粉々に砕け散った。
右腕を失いながら・・・悠陽は残った左手を鋭い手刀にすると無防備になったギャラガーの胸部へと突き立てる。
そして噴き出す鮮血と共に抜き出された左手には、輝く宝玉が握られていた。
その宝玉が悠陽の手の中で粉々に砕け散る。
「・・・天河・・・悠陽・・・」
ギラリとギャラガーの目が輝きを放った。
二つ目の魔王石を失いながらもギャラガーは右手を悠陽へと向ける。
(・・・あ・・・)
致死現象(フェイタルフェノメノン)・・・その動作の果てに自身の死があるのだと知りながら悠陽には既にそれを回避するだけの体力が残されていない。
ギャラガーの右手に魔力の渦が現れる。
(・・・ここまでか・・・ま、やる事やったかな・・・後はヨロシク・・・みんな・・・)
悠陽が静かに目を閉じる。
だが彼女に死を与える筈の魔術がギャラガーの手から放たれるより早く、横合いからの輝くエネルギーの奔流がギャラガーを飲み込んだ。
それは、ウィリアム・バーンハルトの放った奥義「神牙」だった。

・・・完全に決まった。無防備なギャラガーは直撃を受けた。
だが、
「誤りを訂正しよう。ウィリアム・バーンハルト」
ドウ!!とギャラガーが右手を縦に振り下ろす。
神牙はそこで2つに裂かれ、左右に流れて空を走った。
(・・・神牙を・・・裂いた・・・!!!!)
力の源である4つの魔王石の内2つを失って尚、ギャラガー・C・ロードリアスは強大だった。
「お前たちのしようとしている事は、大海の水を全て手にしたコップで掬い出そうとしているようなものだ。例え海水の量が半分になった所で、到底叶う望みではない」
ギャラガーがウィリアムへ向けて魔術の詠唱に入る。
赤黒い雲の様なものがその手の先より発生する。
「・・・く・・・」
大技を放ち終えたすぐ後のウィリアムは脱力してしまっている。
それでも必死に回避を試みるウィリアムに、無情にギャラガーは右手を翳した。
「・・・それでも・・・」
ふいに、周囲に声が響いた。
・・・同時に風切り音も。
「・・・ぐあ!!!」
ギャラガーが仰け反る。
その右目に矢が突き立っている。
「それでも・・・私たちのコップは諦めが悪いのよ!」
ウィリアムに並んで、弓を手にした魂樹がそうギャラガーへ向けて叫んだ。