第25話 終わらせる者、繋ぐ者-5


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リューが対峙する男の顔を改めて直視する。
(アルフォンソ・マキャベリー・・・総帥秘書であり、財団内部監査官でもある男・・・か)
財団では総帥ギャラガーに代わって不適格とされる職員を処断する者として恐れられている男だ。
処断とは降格や解雇等といった組織的な制裁から、時には命を奪う事もあるという。
(闘法はまるで不明だが・・・)
油断なくリューが構えを取る。
まずはこの男の戦闘スタイルを把握しなくてはならない。
凡そ、初見の相手の攻撃や動きを見極める事に関してリューの右に出る者はいない。
どの様な攻撃であれ、彼のオーラの内側・・・感知域へ入れば即座に対処が可能だからだ。
バン、と地を蹴ってリューが通りに面した建物の屋根へ跳躍した。
「・・・むっ!」
マキャベリーが見上げる。
そのマキャベリーを一瞬見下ろして、リューは建物の向こう側へ姿を消した。
「逃がしませんよ。クリストファー」
そしてそのリューを追い、マキャベリーも跳躍した。

港まで一気に駆け抜けたリューが周囲に人の気配を感じない一角で足を止めた。
(ここならばよかろう・・・)
振り返り追って来るマキャベリーを迎え撃つ。
「・・・逃げ切れるものではないと、ようやく理解しましたか?」
追いついてきたマキャベリーが嘲笑を交えて言う。
巻き添えを出さないようにリューは人気の無い場所までマキャベリーを誘導したのだが、マキャベリーはそれを逃走を試みたと思っていた。
そもそもが財団とそれに従うもの以外を全て無価値と断じているマキャベリーにとっては、巻き添え云々と言うリューの思考は理解できないものだ。
そしてその事を今の一言からリューも理解した。
・・・ならばもうここからはいかなる言葉のやり取りも意味を持つまい。
構えを取ったリューがオーラを増大させる。
普段は自身を中心に半径15m程に展開している不可視のオーラのドームを更に広げる。
消耗は増すが遠距離から何かされた場合、攻撃の起点を感知できれば対処もそれだけ容易になる。
半径27m・・・今の自身が維持できる最大のオーラを形成してマキャベリーに挑む。
「聞いていますよ。貴方の超感知能力は・・・」
マキャベリーは両手に取り出したオープンフィンガーのグローブを装着している。
「ではご自慢のその能力で私のこの攻撃を凌ぐ事ができますか・・・!?」
右手をバッとリューへと向けて突き出すマキャベリー。
(・・・遠い。飛び道具か・・・)
身構えたリューの身体を何かが切り裂いていく。
(攻撃が・・・感知できん・・・!)
一瞬にして自分に無数の切り傷を刻んで行った何かが、真空波や魔術の類でない事だけはわかった。
しかしその攻撃はあまりに早く、鋭く・・・そして微細でありリューの感知でも追い切ることができない。
「どうです? 何かわかりましたか?」
バッと腕を振るったマキャベリーの周囲に、何かが夕暮れの陽光を受けてキラキラと煌いた。
「・・・糸、か」
呟くリューにマキャベリーがほう、と感嘆の息を漏らす。
「斬鋼糸」・・・研ぎ澄まされた無数の鋭い鋼の糸がマキャベリーの武器だ。
「たった一度で私の攻撃の正体に気が付くとは大したものです。情報部の殺し屋程度と少々侮っていましたか。・・・まあ、しかし」
再びマキャベリーがリューへ向けて大きく腕を振るった。
「正体がわかってもどうにもできないのが我が攻撃!! 死ぬがいい!!」
またも全身を刻まれながらリューが大きく後ろへ跳んでマキャベリーから距離を取った。
側面の建物の壁に横っ飛びし、そのまま重力を無視したかのように壁面を駆け上がる。
「・・・無駄な事を」
マキャベリーも同様に壁面を駆け上ってくる。
ビルの側面を駆け上がっていたリューは、ある程度の高さの位置で突然身体を反転させると一気に追って来るマキャベリーへとビル壁を駆け下りた。
「むっ!!!」
迎撃の為、マキャベリーが両手を振るった。
指先から伸びる10本の斬鋼糸がリューへ迫る。
リューはそれを気にせず攻撃の中へ身を投じた。
ガードの為に上げた両腕を刻まれ鮮血が迸る。しかし防御に集中した突進を仕掛ける事で浅い負傷で凌ぐ。
「・・・軽量の攻撃だ。打ち上げる時には威力を削がれよう」
リューが斬鋼糸の攻撃を抜けマキャベリーに肉薄する。
「!!!!!」
マキャベリーが目を見開く。
「そして懐に入られれば無力」
渾身の力を込めて拳を引き絞る。
そして必倒の気迫を込めてリューが拳打を繰り出した。
「・・・40点、ですね」
マキャベリーが口元に嘲りの笑みを浮かべた。
「ぐっ!!!!!」
リューが呻く。その胸板が×の字に大きく切り裂かれている。
「私は自分の攻撃の特性を良く理解しています。貴方の幼稚な意図などお見通しですよ、クリストファー」
キチキチ、と音を立てて何かがマキャベリーの背から両肩へ這い上がってきた。
それは握り拳大の機械仕掛けの鋼鉄の蜘蛛だった。マキャベリーの両肩に乗っている2匹の蜘蛛が斬鋼糸を放ち拳を放ったリューを迎撃したのだ。
まともにカウンターを受ける形になったリューの傷は深かった。
速度と威力を大幅に減じられた拳を、ひょいとマキャベリーが脇へずれて避ける。
ぐらりと体勢を崩しながらリューとマキャベリーがすれ違う。
ビルの壁面上で、ここに両者の上下は逆転した。
そして皮肉にも先ほどリューが指摘した通り、見上げる不利の逆・・・相手を見下ろすこの位置関係こそマキャベリーの必殺の間合いだった。
「お別れです、クリストファー。偉大なる全知全能の総帥閣下に楯突いた愚を悔やみながら死ぬがいい」
・・・その瞬間、リューはマキャベリーを見ていなかった。
彼の視界には厨房で必死に調理をする1人の女性の姿が映っていた。
(・・・勇吹・・・)
斬鋼糸が風を切る。
宵闇の虚空に死を呼ぶ銀色の煌きが走った。
リューの全身がズタズタに切り刻まれていく。
(・・・美味いラーメンを・・・作れよ・・・)
先に落下し動かなくなったリューの側へマキャベリーも着地する。
「・・・料理人風情が」
侮蔑の表情を浮かべて吐き捨てるようにそう言うと、マキャベリーは靴音を鳴らしてその場を立ち去った。

ソル重工アンカー工場中央本部棟会議室。
そこに現在ロードリアス財団の重鎮達が集合していた。
財団全体を統括する5人の大幹部の内、
軍事部総責任者、リヒャルト・シュヴァイツァー
財務部総責任者、エトワール・D・ロードリアス
情報部総責任者、柳生霧呼
研究開発部総責任者、ネイロス・ミュンヒハウゼン
その4名である。
大きなホール状の部屋の中央に据え付けられた円卓に4名は着いていた。
自動ドアが静かに開き、そこへマキャベリーがやってくる。
「・・・遅ぇよ。呼び出しといて本人が遅刻してくるとはどーゆー了見だオマエ」
ジロリと自分を見て文句を言うエトワールに、マキャベリーは嘲笑で応じた。
「フン、どなたかが飼い犬の躾もしっかりできていないせいで私にいらない仕事が増えるんですよ」
マキャベリーの視線の先にいる霧呼は涼しい顔のまま無言だった。
『まあまあ皆様方!! 今は仲間同士でいがみ合っている場合ではありませんぞ』
突然会議室に大きな声が響き渡り、壁面の大スクリーンにスーツ姿の中年の男の映像が映った。
5人の大幹部の最後の1人、リーダー格である総務部総責任者のピョートル・ヴォルグニコフ。
『大事を控えた場での事。どうでしょう・・・ここは一つこのピョートルの顔を立てて双方矛を収めては頂けますまいか』
ピョートルが画面の中から一同に愛想良く笑いかける。
円卓に肘をついてその手に顎を乗せたエトワールがうんざりした様にため息をついた。
「なんでショボいオッサンの顔立ててやんなきゃいけねーんだよ。うちら4人して出張って来てるっつーのに1人で本部でぬくぬくしやがって」
『うわっはっはっはっはっは!! これは手厳しい!!』
ピョートルが哄笑すると自らの額を手でピシャリと叩いた。
『ですが、そこは是非この私めの言い分もお聞き頂きたい! 確かに我らが悲願『理想郷計画』が大きな山場を迎えようとしている今、このピョートルも皆様同様現地へと馳せ参じ粉骨砕身の覚悟で働きたいのは山々なのですが・・・』
大げさに天を仰ぐピョートル。
『しかし!しかしですぞ? 如何に計画が我が財団の大事とはいえ、我ら5人の大幹部が揃って本部・・・バベル・ザ・ドーヴァルトを空けてしまうというのは些かに無用心が過ぎるというものではございませんかな? そこでこの不肖ピョートルめが泣く泣く皆様のお留守を守らんとここに残った次第にございますぞ。ンンンフフフフフフフフ』
噛んで含めるようにゆっくりとピョートルが言う。
「あーもういいっつのタヌキ親父。オマエの長口上聞いてたら朝になっちまうよ」
ぐったりして答えるエトワール。
『しかしながら我が総務部も決してただ黙って本部から計画の成就を眺めているわけではございませんぞ。信頼できる者をそちらに送りましたのできっと皆様方のお役に立ってご覧にいれましょう』
「・・・あん? 信頼できるって・・・」
そこでハッとエトワールが顔を上げる。
「・・・『テラー』か・・・」
エトワールの声は掠れている。
その頬を一筋汗が伝った。
「オマエあいつを送りつけてくるつもりなのかよ」
『ンフフフ・・・既にテラーは皆様のお側に控えておりまするぞ』
ピョートルの言葉に、うえと顔をしかめたエトワールが慌てて周囲を見回した。
「さあ下らない雑談はそこまでです」
話を打ち切るようにマキャベリーが言う。
「計画の最終確認に入りますよ」
天井から下りてきたスクリーンにシードラゴン島の全図が映し出される。
「4日後に本部よりカシム博士が到着します。それを待って我々は『神の門』を奪取します」
スクリーンに映し出された全島図の中央部がクローズアップされ、内部『始まりの船』の構造図になる。
「水晶洞窟のゲートより『始まりの船』内部に進入後、我々がD-4と呼称している居住ブロックを抜けて、中央制御区域セントラルブロックを占拠します」
「・・・もしもその途中で魔人が現れたらどうする」
シュヴァイツァーが言う。
「当然迎撃します。既に船の内部がどの魔人のテリトリーにも属していない事は調査済み。わざわざ出てきて討たれてくれるのなら門の奪取と鍵の開放もできて一石二鳥と言うべきでしょうね」
マキャベリーがそう言って冷笑を浮かべる。
「神の門を奪取した後はカシム博士に船の内部機能を掌握してもらいます。これでほぼ島の全域を我々は自由にサーチできる事になりますので、残りの魔人を探し当てて討つのも、未だ見つからない『マスターキー』を探し出すのも容易になるでしょう」
言葉を切り、マキャベリーが一同を見回す。
「そして、我々がマスターキーを入手し神の門を起動させたその時こそ・・・総帥閣下の理想、真なる美しき世界が誕生するのですよ」
「おお、素晴らしい」
シュヴァイツァーが拳を握り締める。
霧呼は微笑んでパチパチと拍手をしていた。
「・・・美しき世界、ね・・・」
そんな中で、エトワールだけが誰にも聞こえない程度の小声でどこか虚ろに呟いたのだった。

~第25話 終~