第19話 花は心のオアシス-2


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4番街に着いて、目的の店「フラワーショップ冴月」はすぐに見つかった。
見た感じは明るくて華やかな普通の花屋なんだが・・・。
店に入ると濃い花の香りに包まれる。
「らっしゃい!! 何をお探しですかねお客人!!」
えらく威勢のいい声がして、エプロン姿の若い男が1人接客に出てきた。
・・・・・またえらく気合の入ったリーゼント頭の男だ。
色々と花を勧めてくるその男に、私は自分がここへやって来た要件を告げた。
「ま、マジっスか!!? ちょちょちょっとお待ちくだせぇ!!」
リーゼント男は慌てて店の奥へと引っ込んでいった。
「・・・お嬢! お嬢!! 大変っスよ!! ウチの花に食われたってお客さんが!!」
「お嬢はよしなって言ってるでしょ!! 店長とかオーナーって呼んでよ!!!」
奥から女性の怒声が聞こえたかと思うと、ガン!!!と何かで殴打する音が響いた。
そして殴られたらしい頭を押さえて涙目になっているリーゼント男を伴って奥から若い女性が出てくる。
「いらっしゃいませー。フラワーショップ冴月の経営者の桜貴って言います。私がご用件お伺いしますね!」
・・・元気のいいお嬢さんだな。
私も自己紹介を済ませると、花輪の一件を説明して、配送に手違いがあったのではないかと聞いてみた。
桜貴は、棚からファイルを取り出すと、えーと、とパラパラめくり始める。
「あ、ありました。ノワールのスレイダー・マクシミリオン様・・・お送りしたお花はA-3のタイプね」
ファイルを覗き込んでみれば「A-3」の表示と一緒に花輪の写真が付いている。写真に写っているのはオーソドックスなタイプの花輪だ。
あの食人植物とはやはり似ても似つかないな・・・。やはり手違いか。
「特に間違いはないみたいですね! あのお花で合ってます!!」
ええええええええええええええええちょっと!!!
「ほら、ここを見て下さい」
言われてファイルを見てみると、「アレンジ」と表記されている部分の□のマークにチェックが入っていた。
「ちゃんと確認取ったんですよ。『無料でアレンジできますけどどうしますか?』って。そしたらお願いしますっていう事でしたのでアレンジを加えたものを!」
あれはアレンジで済む問題なんですか!!!! 丸っきり別物になっちゃってると思うんですけど!!!!
「・・・だ、だからお嬢のアレンジはトラブルの元になるからやめましょって俺は言って・・・」
「お黙り!!!」
シャッと素早く懐から取り出した短刀(ドス)の柄で桜貴がリーゼント男の頭を真上から思い切りどついた。
ゴスッと鈍い音が響く。
「困りましたね。お気に召さなかったかしら・・・。じゃあお取替えしますね!」
そう言って奥へ引っ込んだ桜貴は何かゴソゴソとやっていたかと思うと巨大な『何か』を持って戻ってきた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
何でしょうか、あの巨大なイソギンチャクみたいな植物(?)は・・・。
中央部にはまた剣呑な牙の並んだ大きな口がある。
どうしてこの店はこう食われそうな植物ばかり出してくるのだろう。
「・・・これなんてどうでしょう!! ちょっと臭い息吐くから気をつけないといけないんだけど・・・」
言ってる側から植物(?)はブハーっとガス状の息を吐いた。
「あ、全ステータス異常」
直撃を受けたリーゼント男がそう呟いてバッタリと倒れた。

結局、私は歩み寄れない高い壁を感じてフラワーショップ冴月を撤退した。
これ以上話がこじれて炎を吐く植物や酸性の濃霧を撒く植物でも出てきてはかなわん。
オフィス前の食人植物は私が撤去するしかないな・・・。
そんな事を考えつつ帰路を急いでいると・・・。
「・・・待ってくだせえ! お客人!!」
先程のリーゼント男が走って私に追いついてきた。
手には小さな鉢植えを持っている。可愛らしい薄紫の花の鉢植えだ。
その鉢植えを私に差し出してくる。
「お詫びの印に、せめてこちらをお納めくだせぇ! 俺が丹精込めて育てた鉢植えっス!!」
鉢植えを受け取った私に深々と頭を下げるリーゼント男。
「どうか・・・お嬢を責めないでやってくだせぇ。本人に悪気はまったくねーんス。・・・ただ、ちっとばかしセンスが普通の皆さんの斜め上をいっちまってるっつーか・・・」
必死な彼に何となく好感を覚えて、私は気にしていないと告げる。
「あざーっす!! 自分は桜庭銀城といいやす!! ケチなヤロウですがフラワーショップ冴月共々ご贔屓にしてやっておくんなせえ!!」
ギンジョウ、と名乗った男は私が見えなくなるまでいつまでも深々とお辞儀を繰り返していた。

「ふーん、そんな事があったのね」
帰った私は鉢植えを前に花屋の一件をベルに語った。
そんなベルにアンカーの生活には慣れたかと尋ねてみる。
「お陰さまで中々快適に過ごさせてもらっているわ。この新しいオフィスも素敵ね。流石私がパートナーに選んだ男性の事だけはあるわ」
そう言ってベルは満足そうに私の頭を撫でた。
まあ、見た目は一番下でも実年齢はぶっちぎりで一番上だし、子ども扱いされるのもしょうがないような気もするしそうでない気もするしで複雑だ。
「それにしてもよくこんなお金があったわね。随分このビルお金かかってそうだけど」
・・・確かにそれは私も気にかかっていた。
まあ、四王国の君主なのだし財力はあるのかもしれんが・・・。
「いえいえ、私にそんなお金はありませんよ」
と、いつの間にかジュピターが近くにいて会話に加わってくる。
「土地の買収から建物の新築まで一連の費用はズバリ全て借金です!!!!! これから皆で返していきましょう」
えええええええええええええええええええええ!!!!!11
借金なの全部!!!!?!??
自慢じゃないがうちは収入凄い少ないんだぞ!! 労働に対する報酬を農作物で受け取ったりしてるんだから!!!!
「はっはっはどうにかなりますよ。皆で頑張りましょう」
「行き当たりばったりね・・・。そんなやり方で国務もこなしてたわけ?」
半眼で問うベルに、ジュピターは胸を張って
「いえいえ、周りの皆さんが優秀でしたから私は日がな一日読書したり昼寝したりして過ごしていましたよ」
と自慢げに言う。
いや自信満々に言われてもな・・・。


その夜。「フラワーショップ冴月」にて。
桜貴と銀城の2人は店の閉店準備をしていた。
「大体、銀城はアレコレうるさすぎなのよ」
ガタガタと重たい植木鉢を運びながら桜貴がむくれている。
「お嬢の事ぁオヤっさん(組長)からよく頼まれてますから・・・」
「パパの話はやめて!!」
銀城の台詞をピシャリと桜貴が遮った。
「折角この町に来てパパや家の事気にせずやってるんだからそんな話蒸し返さないでよ」
「お嬢、オヤっさんは本当にお嬢の事を心配して・・・」
ギロリと睨まれて銀城はそこで言葉を止めた。
「そもそもアンタ達がどこへ行くにもおっかない顔してゾロゾロついて来るから、学生時代の私は友達もできにくかったしカレシもできなかったし!! だから決めたのよ! もう家からもパパからも離れて私は普通の女の子として生きていくって!! お花屋さんとしてね・・・そう、お花屋さんは女の子の夢だし!!」
そう言って桜貴は一輪の白い花の鉢植えを持ち上げた。
「見なさい私が品種改良して生んだこの子(花)を! 食べると火の玉吐ける様になるんだから! ちょっと着てる衣類が白っぽくなっちゃうんだけど・・・」
(お嬢、火の玉吐ける様になりたくて花屋に来るヤツはいねえっス・・・!!)
銀城はそう思ったものの、口に出すことはなかった。
続いて桜貴はピカピカと輝く星を持ち上げる。
「見なさいこの子も。取ると一定時間身体が点滅して無敵になるんだから!」
(お嬢、無敵になりたくて花屋に来る奴は・・・ってそもそもそれもう植物じゃねーっス!!!!)
やはり銀城の叫びは言葉になる事はなかった。
その時、銀城のつま先が一つの大きなダンボールを小突いた。
「・・・ン? ナンだこりゃあ」
ゴソゴソとダンボールを開ける銀城。
「あーそれ・・・」
桜貴がダンボールの中身を見て言う。
中にはツボや花瓶、掛け軸など骨董品ばかりが無造作に放り込まれている。
いずれも国宝級の名物ばかりだ。
「家を出た時に持ち出してきた残りだわ。お店開く時に大分換金したんだけど、なんか思ったより随分いい値段で売れるものばっかりで全部は処分しなかったのよね」
「・・・し、知らねえっスよ・・・どれもオヤっさんが大事にしてたもんばっかじゃねえスか」
そんな骨董品の中から、銀城が一振りの剣を取り上げた。
「んが!! これなんか本殿の御神体じゃねえスか!! こりゃヤベえっスよ!!!」
「あっはっは。そういえばそんなのも持ち出してきたわねー。いやー、若気の至りっていうの?」
特に気にした様子も無く、明るく桜貴は笑った。


同時刻、アンカー港。
その日の最終の旅客船からぞろぞろと旅人がタラップを伝って港へと降りてくる。
その中に数名の男たちがいた。
いずれも体格のいい男たちばかりだ。見るべきものが見れば、旅行客を装っているその男たちの全身に纏ったプロフェッショナルな荒事師の空気に気がつくだろう。
「・・・『紫桜会』のお嬢さんもえらい遠くまで来たもんだ」
その男たちの中の1人、丸いサングラスをした背の高い男がタバコの煙を燻らせて言った。
「若頭(カシラ)」
そのサングラスの男にやや身を寄せて別の男が小声で言う。
「例のブツはどうやって回収しやす?」
サングラスの男はしばらく無言で考えた後、
「ここにゃ今、各国のこわーいお兄いさん達がいらっしゃるようだ。なるべく騒ぎは大きくしたくねえな」
そう言ってフーッと紫煙を吐き出した。
「天帝の時代から代々紫桜会が守護して管理してきた『草薙之剣』・・・・その神器を俺たち『黒麒会』に奪われたとあっちゃ紫桜会のメンツは丸潰れだ。大和の極道の勢力図も大きく塗り変わる」
サングラスの男がタバコを地面に落として踵でもみ消した。
「・・・久し振りにいい組長(オヤ)孝行が出来そうじゃねえか、行くぜ」
そう言って男たちは夜の闇の中へと消えていったのだった。