第3話 少年の冒険-2


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落下していく・・・・しかし、縛られているのでどうにもできない。
暗い穴の中を落ちていきながら私は上の世界に来てから踏んだり蹴ったりだなぁとのん気にそんな事を考えていた。
・・・・ここで私も終わりか。
残された家族や友人達にどうか、幸多からん事を・・・。
落下する先に光が見えてきた。
いよいよ大陸を抜けて、大空に投げ出されるのか・・・・。
視界一杯に光が広がる。その眩しさに目を細めたその時、私は何かネットのようなものに絡め取られた。
ネットが思い切りしなる。
かなり弾力のあるネットだったが、落下の勢いがかなりのものなので私は力一杯ネットに押し付けられる格好になる。
いででででででででででで!!!!!
びよんびよんと跳ね回ってやがて私はネット上にごろんと転がった。
網目から下を見てみる。
う・・・・・。
背筋が凍る。眼下の世界は遠い。
・・・・私は助かったのか?
まあこのままの状況では墜落死が餓死になるだけの気もするが・・・。
そこへ、「お、かかってるかかってる」と男の声がした。

「あっれ・・・何だ子供じゃねーかよ! お前何やったんだ一体!!」
巨大なエビ似た生物に跨った男が、ネットの下側から私に声をかけてきた。
精悍な感じの青年だ。17,8歳といった所だろうか。
何と答えてよいかわからず、私は「その生き物は?」と聞いた。
何でエビが空飛んでるんだ・・・・。
「お前フライングシュリンプ見るの初めてか。こいつはサワード、俺の相棒だ。俺の名前はルーシェン、よろしくな! えっと・・・・」
ウィリアム、と名乗る。
「そっか、よろしくなウィリアム! 今助けてやるからな!」
そう言うとルーシェンと名乗った青年はネットの端から上に登って私の所までやってきた。
そして戒めをナイフで断つ。
「酷いキズだな。大丈夫かよ・・・。ここから捨てられてくる奴は大体ナバールに酷い目に遭わされた奴ばっかりだからな。大っぴらに始末できない奴だから大体は無罪のいい奴ばっかりだ」
それをサルベージするのが俺たちの役目さ、とルーシェンは笑って胸を張った。
どうやら味方と考えてもよさそうだ。
ルーシェンに背負われて二人で飛びエビに跨る。
「おっとボウズ、跨るのは構わないがカラは剥かないでくれよ? この歳で剥きエビになんかなりたくないからな」
エビ喋ったあああああ!!!! ハスキーな女性の声だあああああ!!!!!
ビッビー!!と音を立ててエビが飛び立つ。
え?クラクション?? 今の音クラクションだったよね???
なんかもう気にするのはやめよう。気にしたら負けな気がしてきた・・・。
「奴らも下を確認なんかできないからな。こんな所に網が張ってあるなんて気付かねえのさ」
なるほどな・・・。それで、我々はどこへ?
「俺たちの本部だ! すぐ見えてくる!」
その言葉の通り、間も無く彼の言う「本部」が、飛行する我々の前に姿を現した。

な・・・・・・・・・。
ルーシェンの背に掴まりながら私は絶句してしまった。
それは巨大な帆船だった。空に帆船が浮いている。
飛空船ではない、海を行く帆船が空に浮かんでいる。
「へへっ、驚いただろ。この船が俺たちの本部、サジタリウス号さ」
そしてルーシェンのエビは甲板へと舞い降りた。
数人のクルーらしき者たちが寄ってくる。
「よーお疲れ。それからようこそ、ちびっこいの。キャプテンがお待ちだぜ」
クルーの1人が言う。
「この船に乗り込んだ奴は最初に必ずキャプテンと話してもらう決まりになってんだ。でもお前はまず手当てだな!」
そう言ってルーシェンは私を医務室へ連れて行き、そこで私は医療担当からかなり荒っぽい治療を受けた。
それが済むと私は再びルーシェンに船長室へと案内された。
その途中、船内の内装を見る。
外観は西洋式の帆船であったが、内部の装飾は何ともオリエンタルだ。
珠をくわえた龍をが巻きついたデザインの柱や、水墨画のような額も飾られている。
不思議な空間だった。
船長室、と書かれたプレートの下がる扉をルーシェンがノックする。
「・・・・開いているよ。入りたまえ」
中から聞こえてきた声は、女性のものだった。

船長室の中も、やはり内装と同じく東洋の物が溢れていた。
香炉が置かれ、水晶球が飾ってあり、木彫りの老いた亀の置物がある。
そして私を出迎えた女性も船長服を肩に羽織ってはいるが、その下は東洋の道士服であった。
「ご苦労だったね。私は彼と2人で話をする。君は外してくれ」
女性が言う。
「わかりました。何かあれば声をかけてください!」
ルーシェンが敬礼して出て行った。
「・・・さて」
と、女性が私の方を向く。
何はともあれまずは礼を言わなくては。
助けてくれてどうもありがとう。私の名は・・・・。
「ああ、自己紹介の必要はないよ。ウィリアム・バーンハルト・・・・あなたの事はよく知っている」
!!!!!
「もっとも容姿は随分と変わってしまっているようだがね。私はシルファナ・サジタリウスだ。よろしく」
淡々とシルファナは名乗ると、椅子に腰掛けて私も椅子に座るようにと促した。
言われた通りに腰を降ろす。
・・・・どうして私を知っている?
私の問いにシルファナが静かに笑った。
「その話はまたいずれ。さし当たって私たちは君の味方だ。いきなり味方だというのも御幣があるかな?少なくとも我々は太守ナバールと敵対的な関係にある」
・・・・そうか、まずは改めて助けてくれてありがとう。あなたたちは私の命の恩人だ。礼を言う。
「気にする事はないよ。我々はただ穴の下に網を張って誰かがかかればここへ連れて来るだけさ」
背もたれに寄りかかり、視線を斜め上に向けるシルファナ。ぎしっと椅子が音を立てた。
「しかしね、ここでただひたすらあなたのように落とされてくる者を受け止めつづける毎日にも些か飽きが来ていた所でね。・・・・大元をどうにかしたいと思っていたところだ」
そしてシルファナが私を見る。
確かに私はナバールに捕えられたベルナデットを救出する為に動いているのだが・・・・協力してくれるという事かな?
「利害は一致していると思う。あなた達がベルナデットを救出する事に成功すれば、ナバールは破滅だ。ベルナデットの口から真実が語られれば、最早どのような後ろ盾もナバールを庇う事はできないだろう」
ぬう、しかしそれが難しいのだ・・・。
兵力が違いすぎる。封印の場所への警備も厳重だ。
「方法はある」
ギシッと椅子を鳴らしてシルファナが立ち上がった。
「陽動を引き受けよう。ナバールの兵の大半を城から引き離す。その間にあなたと仲間たちでベルナデットを救出して欲しい」
!! しかし・・・そう簡単には・・・・。
「不安かな? あなたたちは待機していて兵が離れたのを見届けたら突入すればいい。それなら手違いも起こるまい」
そう言ってシルファナは私を見て微笑んだ。

私は甲板へと上がった。
船の縁に立ち大空を眺める。
それにしても不思議な船だ。一体どういう理屈で飛んでいるのだろう。
「よっ! ウィリアム、ここにいたのか!」
そこへルーシェンがやってくる。
やあ、と片手を上げて彼に挨拶をする。
「聞いたぜ!なんかキャプテンがお前に協力してナバールと戦うって。お前チビなのに凄いんだなぁ」
私は曖昧に笑って応じた。
ルーシェンは私が元々は大人だと知らないようだ。
甲板に上がるまでに会ったクルーも誰もが私を子供と思って接していたように思う。
多分、私の事を知っているのはシルファナだけなのだろう。
彼女は一体何者なのだろうか・・・。
私はそれをルーシェンに尋ねてみた。
「それは俺たちも誰も知らないよ。キャプテンは元々この船に1人だったらしいよ。たまたま通りかかって、穴から捨てられた人を助けて、それでこの空域に留まって救出活動をしてくれてるんだ」
という事はこの船のクルーは全員・・・?
「ああ、ナバールに城から捨てられたやつらさ! 俺は違うけどな。俺は親父が捕まって穴から捨てられたんだ。親父はこの船に救出されて家へ戻ってきた。それでキャプテンの話を聞いて、俺も使ってもらおうとやってきたってわけさ!」
ルーシェンが胸を張る。
ふーむ・・・益々わからなくなった。
こんな不思議な船を1人で操って、ある時突然この国へやってきて、そのままなし崩し的にここで人助けをしているわけか。
私は視線を甲板の先に立つシルファナへと向けた。
そんな私の視線も疑問も何処吹く風と、ただ優雅に彼女は飛んでいる鳥達にエサをやっているのだった。