第27話 理想郷計画-4


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三銃士カミュとハイドラ大龍峰・・・互いに鋼の肉体を誇るパワーファイター同士の渾身のぶつかり合いは一撃炸裂する毎に周囲の大気をびりびりと振るわせる程だった。
その場から離れたエリック達が身を隠しているビルの窓ガラスも、互いに1打入れる度にビリビリと震えている。
そんな中、ルノーもビル影から1歩外へ踏み出した。
「・・・ごめん、ちょっと行ってくる」
「ルノー」
エリックに呼びかけられてルノーが振り返った。
呼び止めたエリックも続く言葉が出てこない。
・・・危険です、とそう言いたかった。だがそんな一言に何の意味があるだろう。
恐らくそれはこれから彼らの元へ行こうとしている彼女が一番良くわかっているはずなのに。
「ほら・・・あいつバカだからさ、誰かが側で見ててやんないと。だからもう・・・しょうがないから私が見ててやろうって決めたんだ」
そう言ってルノーは少し照れたように笑った。
「うん・・・決めたんだ」
そしてルノーは真っ直ぐエリックを見る。
「この場にはターゲットはいないみたいだ。行ってくれ、相棒」
「わかりました・・・この場は任せますよ、ルノー」
エリックはしっかりと肯いてその場に背を向けた。
「・・・リーダーを頼むぞ」
エリックに続くシグナルがルノーにそう言い残す。
それにコクンと肯き返してルノーもカミュの元へ歩き始めた。



・・・突然現れた三銃士カミュは大龍峰と壮絶などつき合いを開始してしまった。
両者凄まじい膂力だ。
随分離れている私の足元にまで飛び散った血や折れた歯の欠片が飛んでくる。
(・・・あ・・・あのアゴヒゲ・・・)
その時、聞きなれた小さな声が私の耳に届いた。
(シッ! 静かにしたまえ・・・気付かれるぞ)
足元を見る。
そこには大龍峰に転がされたままのDDと伯爵とベルがいる。
「・・・ギャラガー様」
エメラダがギャラガーに倒れた者達を見ながら呼び掛ける。
どうやら彼女も今の一言に気が付いたらしい。
・・・2人とも・・・。
声をかけるとDDと伯爵がむくっと立ち上がった。
「ほれバレてしまったではないか」
ぱんぱんと伯爵が衣服についた砂埃を払いながら言う。
「えー、いいじゃんもうここまで来たんだから」
DDは不満そうだ。
無事だったのか・・・。
そう言う私にDDがピッとVサインを出して見せる。
「あちらの彼が初めにご丁寧に『殺すつもりはない』と言ってくれたのでね。一芝居打ってここまで案内してもらったというわけだよ」
言いながら伯爵はちょいちょいとヒゲの跳ねを指先で整えた。
・・・・・・・・・・・。
自然と我々の視線は未だ倒れたままのベルに注がれた。
「まぁ・・・彼女だけは本当に昏倒しているようだね」
無理もない。・・・ベルはそんな頑丈じゃないしな。
ザッと足音を立てギャラガーが1歩前へと進み出た。
瞬時に我々は構えを取り、全身を緊張させる。
「説明は以上だ。・・・さあ、お前たちも私に従いこの偉大な計画の成就に力を貸すがいい」
揺ぎ無く、淀み無く・・・重たくそう告げて覇王は我々を睥睨する。
「あのさー・・・言っていい?」
後ろ頭を掻きながらDDが言う。
許可は私に求めたらしい。彼女の顔を見て肯く。
「『大きなお世話です』」
うむ、と伯爵が肯いた。
そうだ・・・私たちは、自分で歩んで行こう。
ギャラガーお前の管理も指導もこの世界には必要ない!!
「わからんか」
私たちの拒絶にもギャラガーには失望も怒りも、わずかな感情の動きも見られない。
「ならば、もうお前たちには用は無い」
簡潔にそう言うとギャラガーは我々に背を向けた。
「コアブロックへと戻る。この場は任せる」
その言葉を受け、私達とギャラガーの背を隔てるようにエメラダが立ち塞がった。
その鬼気迫る表情に思わず戦慄する。
夫と異なり、彼女は全身から恐ろしい怒気と殺気を放っている。
「・・・クズが・・・折角のギャラガー様のお誘いを・・・」
エメラダが手にした杖を振り上げた。
ゴウ!と彼女の全身から凄まじい魔力が嵐のように我々に吹き付ける。
「切り刻んで打ち砕いて磨り潰してやるッッッ!!!!!」
叫びと共に彼女は杖を振るい、魔術を行使するための集中に入った。



薄暗い虚空を銀の光が走る。
人狼と化したラゴールの振るった爪の残光だ。
その神速の攻撃は徐々に霧呼に傷を増やしていく。
変身により身体能力を大幅にUPしたラゴールは最早片目のハンデを補い再び霧呼を追い詰めつつあった。
(このまま押し切る・・・)
ラゴールが一層の猛攻を仕掛ける。
・・・手を緩めたら何をするかわからない。皮肉にも先程の霧呼の台詞の通りに。
瞬間、攻守互いの視線が攻撃の中で交錯した。
(・・・!!)
全身の血が一瞬で冷えるのをラゴールは感じる。
防戦一方となり、全身に傷を受けながらも霧呼のラゴールを見る目は恐ろしく冷静だった。
「貴方は馬鹿よね・・・」
そしてその声が耳に届く。
激しい攻防の最中にまるで似つかわしくない静かな声。
「貴方は財団を裏切るべきじゃなかった・・・どうしてもそうしたいのならせめて私たちの目の届かない場所へ行くべきだったのよ」
その言葉にはいつの間にか苦笑が混じっている。
・・・まるで、子供の悪戯を見つけた親の様な・・・。
「財団を裏切っただけでは飽き足らず、戦いを挑んであまつさえ私に襲い掛かってくるなんて・・・。貴方は今日この場に至るまでにいくつもの選択ミスをしているわ。・・・だから、我々『エターナル』には最も縁遠い筈の『死』を迎える事になる・・・」
霧呼の瞳がつい、と細まった。
その視線には殺意と・・・そして幾許かの哀れみがあった。
そして彼は、音速の風の中にはっきりとその一言を聞き取った。

「・・・『アムリタ』・・・」

・・・それが、柳生霧呼が自身のある能力を発動する時に用いる合言葉だった。
ラゴールが全身を強張らせる。
一瞬にして自身の全てを見透かされた様な・・・まるで自分の設計図を詳細に検分された様な・・・そんな言いようの無い絶望感と空虚感に彼は襲われていた。
それが先程、刀を折られた最初の攻防の際にもほんの一瞬だけ自分が味わっている事にこの時の彼は気付けない。
だがラゴールは怯まなかった。
渾身の力を込めて右手の爪を霧呼へと振り下ろす。
その右腕が、ボッ!!という水気を含んだ破裂音を響かせて肘から先が無くなった。
「・・・ッッッ!!!!」
激痛にラゴールが歯を食いしばって叫び出しそうになるのを堪える。
痛みに眩んだ視界が戻った時、彼が目にしたのは千切った自分の右腕を振り上げている霧呼の姿だった。
咄嗟にガードの為に両手を上げようとして、そしてその腕が片方無い事に気が付いて・・・それきりラゴールの世界は闇に閉ざされた。
霧呼が振り下ろしたラゴールの爪は、彼の残った右目を切り裂いていったからだった。
・・・エリス・・・。
死へ向かう失墜感の中、ラゴールはエリスを思った。

『ウィリアムが好きか、エリス』
「・・・え・・・」
唐突に問うと、エリスは包丁を手にしたまま固まってしまう。
ラゴールもエリスもエプロン姿。
オフィスの厨房での記憶だ。
真っ赤になったエリスはしばらくオロオロしていたが、やがて「はい」としっかり肯いた。
「そうか・・・」
そう言ってラゴールは珍しく微笑むとエリスの肩にポンと手を置いた。
「頑張れよ」
励ますラゴールにエリスが笑顔を見せる。
「はい・・・頑張ります。ライバル多くて・・・皆凄い人で落ち込んじゃう事も多いけど・・・。でも気持ちでは絶対負けてませんから!」

ブン!!と再度ラゴールの右腕を霧呼は叩きつけてきた。
自身の爪を左肩と胸部のちょうど真ん中のあたりに深々と突き立てられるラゴール。
・・・そして彼は残った左腕も上がらなくなった。

・・・DD・・・
・・・ルクシオン・・・
・・・ベルナデット・・・
・・・マチルダ・・・
・・・セシリア・・・

ウィリアムを、親友を想う女性達を順に思い浮かべるラゴール。
(・・・頼む・・・お前たち・・・ウィリアムを・・・やつをあの日の夜の・・・雨のベルンカナードの記憶から・・・)
ドスッ!!!とラゴールの腹に深々と霧呼の手刀が突き刺さる。
ごぼっとラゴールが血を吐いた。
(・・・あの日の記憶から・・・開放してやって・・・く・・・れ・・・)
そして霧呼はラゴールに手刀を突き刺したまま、その手に魔力を集中した。
「舞い踊れ赤い姫君・・・『爆朱』(フレアスカーレット)」
ボン!!!とラゴールの傷口から漏れ出た炎が赤い輝きを放つ。
口から黒煙を吐き、絶命したラゴールがゆっくりその場に両膝を折る。
まるで祈るように頭を垂れ、動かなくなったラゴールを霧呼は見下ろして
「さようなら。ラゴール」
そう言って優しく微笑んだ。

ELHの顔を掴んだまま、エトワールが『爆閃』(エクスプロージョン)の魔術を使おうとしたその瞬間、横合いから何者かが飛び込み、ELHの身体を蹴り飛ばした。
ELHが吹き飛んだ一瞬後に魔術は発動し、周囲が爆炎に覆われる。
「・・・チッ、今度はどこのどなた様だよコノヤロー」
立ち込める煙の向こうから誰かがゆっくりと歩いてくる。
「あーら、レディのくせに言葉遣いがなってないわね、エトワール」
そう言って優雅に長髪を書き上げたのは涼しげな風貌の優男だ。
「てめー・・・やっぱ生きてやがりましたか」
そう言って忌々しげに奥歯を鳴らしたエトワールに余裕で微笑んだのは、海に消え消息がわからなくなっていた協会のサムトー・ユングだった。
「悪いわねエトワール。そのパンツマンうちの大事な労働力なのよ。こんなとこでやらせるわけにはいかないのよね~」
言いながらサムトーは長髪の先を指先で摘んで「あらヤダ枝毛」と顔をしかめた。
そして何となく2人は吹き飛んだELHを見た。
『・・・あ』
2人の声がハモる。
蹴り飛ばされたELHは壁に上半身を突き刺し、褌姿の下半身をだれーんと力なく垂れ下がらせていた。
「・・・くっ!! ELHっ! 仇はアタシが討つわ!!」
「え・・・うちのせいなん?アレ」
エトワールが自分を指差してポカンとする。
「・・・ま、まーいいや・・・誰来ようが一緒だ。うちに挑んでくるなら写真が黒いリボンで飾られるだけ・・・」
刀を構えかけたエトワールの両肩に誰かが後ろからポンと両手を置いた。
「はい、そこまで」
「キリコ・・・」
エトワールが背後の霧呼を振り返る。
「撤退するわよ。・・・上からもっと厄介なのが近付いて来ているわ」
言われてエトワールが感覚を集中する。
そして彼女も、「その気配」を感じ取った。
「・・・げ・・・ガルディアスのドラゴン親父か・・・」
「私も『アムリタ』を使っちゃったから今は彼と戦いたくないの。退くわよ」
エトワールが空間に裂け目を作る。
そして霧呼は微笑んで手を振りながら、エトワールはべえ、と舌を出しながらその裂け目に消えて行った。

廃墟の町並みに激しい剣戟の音が木霊する。
『ハイドラ』の1人リチャードとジュウベイが互いに武器を構えて鬩ぎ合う。
おおおお!と裂帛の気合を込めてリチャードが野太刀を振り上げる。
「食らえ魔剣『竜頭蛇尾』!!!!」
オーラは巨大な龍の頭に変じてジュウベイに襲い掛かった。
よく見れば龍の後頭部に小さな蛇の尾が付いている。
間一髪でその一撃を回避するジュウベイ。
爆音が轟き、地面が無残に大きく抉られる。
「・・・ぬう・・・何たる威力・・・そして勘違い・・・」
流れる汗をジュウベイが手の甲で拭った。
「そもそも・・・何で御主西洋人のクセにサムライなんじゃ」
ジュウベイが問うとリチャードがフンと鼻を鳴らした。
「下らぬ・・・侍に西洋人も東洋人もあるか! 大事なのはブシドースピリッツであろう!」
叫んで拳を握り締めるリチャード。
「西洋人だろうが、拙者ほどサムライを愛している者などおらぬ! その為に拙者は祖国も銃士隊も捨てたのだ!!」
立ち上るリチャードのオーラが不気味な赤紫色に変化していく。
「受けるがよい宮本十兵衛・・・我が魔剣『三日坊主』」
ネーミングはアレでも構えと殺意は本物だ。
ジュウベイが長槍を構える。
「毒化したオーラが傷付けた者を三日以内に死に至らしめる(坊主行き)・・・それが我が魔剣『三日坊主』だ」
「形を真似ても・・・どうやら大事な物が見えておらんようじゃのう」
ぬ・・・とリチャードが半歩無意識の内に退いていた。
ジュウベイの闘気に気圧されて。
「・・・ならば拙者が真のサムライとは何かを教えて進ぜよう」