第24話 遥かに遠き森の落日-4


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中央棟貴賓室。
「・・・う、なんか寒気・・・」
椅子に座っていたエトワールが急にぶるっと震えて自分の両腕をかき抱いた。
「何だ風邪か? 自己管理も満足にできんようで財団金融部のトップとは片腹痛いわ」
シュヴァイツァーが嘲笑気味に言う。
「うっせーそんなんじゃねーよ・・・」
そんなシュヴァイツァーをジロリと見上げてエトワールがコーヒーカップを手に取った。
そこへ慌しくドアがノックされ、先程同様にジーンが部屋へ入ってくる。
「失礼します。侵入者に増援が2人現れた模様です」
「ハイドラは何を愚図ついているのだ・・・増援? 何者だ。先行の侵入者とはデキてるのか?」
苛立たしげに問うシュヴァイツァー。
「デキているのかどうかはわかりませんが・・・増援はどうやら『協会』のヨギとELHの様です」
「!!!???  ・・・・んブふーッッッ!!!!!!!」
その名を聞いたエトワールが激しくコーヒーを噴き出した。
その噴霧をモロに浴びるシュヴァイツァー。
「・・・ぐわあああああああああああ!!!! 目!!! 目に熱いコーヒーが!!!!!!」
顔面を押さえて床を転げまわるシュヴァイツァー。
そして部屋の隅に置いてあった大きな調度品の壺に激突する。
「・・・・・・・ぶぎゅ!!!!!!!!」
倒れてきた壺の下敷きになるシュヴァイツァー。
『あ』
エトワールとジーンの声がハモった。
そしてピクリとも動かなくなったシュヴァイツァーを見て、2人は顔を見合わせたのだった。

ヨギとELHがフェンスから飛び降りてくる。
そしてジュデッカを庇うように彼女の前に立つ。
「・・・あんた方お呼びじゃないぜ」
その後姿にジュデッカが声をかけた。
「それは失礼しました」
肩越しに振り返ってヨギが微笑む。
「ですが、私達も友人の依頼でここへ赴いていまして。貴女を連れて戻るようにと」
友人・・・?
ジュデッカが怪訝そうな顔をする。
「パルテリースさんですよ」
そう言うとヨギはハイドラ達へと向き直り銃を彼らに向けて構えた。
「そういう事ですので、彼女は回収させて頂きます」
「・・・それができればの話よな」
リチャードが野太刀を構える。
「先日この刀は御主らの同胞サムトーの血を吸っておる。短い間に三聖の内2人もの血を我が刀に味合わせてやれるとは僥倖な事よ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
リチャードの言葉にヨギとELHの目に鋭さが増す。
「仇討ちがしたいとは思わんのか? ヨギ・ヴァン・クリーフよ」
2丁拳銃を油断無くリチャードへと向けながら、ヨギが静かに首を横に振った。
「その件はまたいずれ・・・。今日は自分の使命を優先させてもらいます」
そしてヨギはELHの方を向いた。
肯いたELHが懐から新たな褌を取り出すと「ふんっ!」と気合を込めてバサッと広げた。
するとその褌は魔法のように大きく広がって地面から50cmほどの高さの所に浮いた。
「・・・良し! 乗れい!!」
言いながらELHが褌に飛び乗る。
ヨギもジュデッカの手を引いて褌に飛び乗った。
そして3人は飛び乗った時の勢いのまま、褌を踏みつけて地面に落ちた。
「・・・言い忘れておった!! 25kgまでだ!!!」
「1人でもだめじゃないですか!!!!!」
ELHの言葉にヨギが絶叫する。
「漫才はそこまでよ!!」
叫びながら一気に間合いを詰めたリチャードが鋭く突きを繰り出してきた。
「!!! ・・・褌バリアーッッッ!!!!!!!!」
ズブッ!!!!!
「・・・ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
広げた褌ごと刺し貫かれたELHが絶叫を上げる。
「流石は『ハイドラ』・・・褌バリアーが見た目程度の防御力しかない事を瞬時に見抜くとは・・・」
押さえたELHの肩口の傷からボタボタと血が地面に垂れる。
そしてバックステップで距離を取りつつ、背にした竜剣を抜き放つ。
「ならばやむを得ぬ! 我がドラゴンブレイドが悪を断つ!!!」
「来い!!!ELHァァァァァッ!!!!」
ガキィン!!!!! と激しく火花を散らしてリチャードの野太刀とELHのドラゴンブレイドが真正面から打ち合わされた。
「・・・食らうがいい!! ドラブレファイアーッッ!!!!!」
ゴウ!!!! と口から紅蓮の炎を吐き出すELH。
「ドラブレ関係な・・・ぐわあああっっっっ!!!!!」
リチャードとその背後に迫っていたツカサと大龍峰が炎に巻かれる。
「今だ!!! 疾風丸!!!」
その隙をついたELHが懐から呼子笛を取り出すとピィーッと吹き鳴らした。
キエエエ!!と甲高い鳴き声が周囲に響き渡ったかと思うと馬ほどもある巨大な鷲が飛来する。
「掴まれい! 疾風丸であれば大人3人乗せて飛べる!!!」
ジュデッカを抱えたヨギがELHの手を握った。
もう片方の手で褌を持ったELHがその褌を頭上に飛来する大鷲にシュッと鋭く投げ付けた。
褌は大鷲の首にしゅるっと巻き付くとぶら下がったELH達の重さでギュウっと締め上げた。
ギエエエエエエ!!!と断末魔の絶叫を残して大鷲が地面に落下する。
「・・・ああっっ!!!! 疾風丸!!!!!」
「ちょっ!! 何やってんですか!!!!」
叫んだヨギが頭上、空へ向けて銃を撃つ。
「・・・来い!! ワイアット!!!」
するとギャリイイイイイン!!!!と激しくタイヤを鳴らしながらその場に無人のセグウェイが駆けつけてきた。
「無人だとォ・・・!!!??」
大龍峰が驚愕して叫ぶ。
「驚きましたか・・・ワイアットは魔法のセグウェイ! 自らの意思を持っているのです!」
ジュデッカとELHを背中に抱えてヨギがセグウェイに乗る。
セグウェイは何事かブツブツと呟いている。
『・・・生きてても何もいい事なんてない・・・死にたい・・・』
「おいその意思はむしろ無い方がええんじゃないのか!!!」
大龍峰の叫び声を背に受けつつ、セグウェイを駆るヨギは高速でその場を離脱していったのだった。

「・・・ちぃぃい! 追うぞ!!!」
ようやく炎を払い消した大龍峰が残る2人を振り返って言う。
ツカサとリチャードが肯く。
「追わなくていいわ」
そして3人が駆け出そうとしたその時、背後からの声がその動きを止めた。
ゆっくりと柳生霧呼が歩いてくる。
「キリコ。・・・じゃがのぉこんだけワシらの陣地で好き勝手されとるのに見逃すんか」
苛立たしげに言う大龍峰に、対照的に涼しげな微笑を浮かべて霧呼が肯いた。
「あのメモリークリスタルの中の情報は既にこちらが入手済みなのだし、今は行かせて構わないわ。これ以上今貴方達を減らすわけにはいかないの」
霧呼の言葉に3人がピクリと反応する。
後を追えば誰か死ぬとも取れる言い方である。
「・・・彼らの逃げる先には伏兵がいるわ」
「待ち伏せと? だが拙者ら、例え誰が待ち受けていようが命ぜられれば蹴散らしてくるのだがな」
リチャードが腕を組んで言う。
「そうね・・・待ち構えているのが三聖や四葉だというのならそれでもよいのだけどね・・・」
口元から笑みを消すと霧呼がリチャードを見る。
「でも相手が『彼』だとそういうわけにもいかないわ」
「・・・ラゴールが、来とるんか」
大龍峰の声がやや低くなった。無言で霧呼が肯く。
「御主の目から見て、我らではラゴールには敵わぬと見えるのか」
リチャードが言うと霧呼が首を横に振る。
「そうは言っていないわ。でも私は勝率が8割を切ると思う相手には貴方達をぶつけるつもりはないの。多分勝てると思って行かせたけど駄目でした、じゃあ済まされないのよ。戦争なんだから」
それに・・・と霧呼が付け足す。優しい微笑を浮かべて。
「焦る事はないわ。彼らとはすぐに総力戦になるから。その時に当たった相手に思う存分その力を振るって・・・?・・・」
霧呼が言葉を切って周囲を見回す。
「・・・何? この香ばしい香りは・・・あら大きな焼き鳥。これは何?」
霧呼の問いに先程投げ捨てた上着を拾いつつ大龍峰が答える。
「知らんわい。連中突然火を起こしたかと思ったらその鳥をそこへ放り込んだんじゃい」
「腹でも減っていたのでござろうよ」
ギュリオンが言うと霧呼は「戦闘中に?」と怪訝そうな顔をした。

ヨギの駆るセグウェイは高速でソル重工の敷地を抜けると、そこからわずかに行った場所にある路地裏へと飛び込んだ。
そこにはジュウベイとラゴールが待っていた。
「・・・どうじゃ?」
ヨギ達を迎えてその後方を見るジュウベイ。
「追ってくる気配は無いな」
気配を探り、ラゴールが言う。
「・・・ちっ、離せ・・・よ」
ヨギに抱えられるようにして立っていたジュデッカが弱々しくその手を振り払った。
「ここまでの事はとりあえず礼を言っておく・・・。でもこれ以上お前たちの手は借りないぜ」
フラつく足取りで離れようとする。
そのジュデッカへラゴールがずいっと詰め寄った。
「勘違いするな。手を貸すだのとそんなつもりはない。こちらはこちらの都合で動く。お前が拒むなら昏倒させてでも治療を受けさせるだけだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
暫くの間、ジュデッカは無言でラゴールを睨んでいたがやがて根負けしたかのように大きくため息をついた。
「わかったよ・・・好きにしやがれ」
「では、アンカー病院へ・・・」
言いかけたヨギを突然ラゴールが取り出した木製バットで激しく臀部を殴打した。
「おフッ!!!!!」
尻を押さえたヨギが倒れて動かなくなる。
「あそこは駄目だ、キノコにされる」
そう言ってラゴールは路地の奥を指す。
「こっちだ。モグリだが腕のいい医者がいる。そこへ連れて行く」

オフィスビルの4階、魂樹とパルテリースは相部屋である。
彼女達の部屋の電話のベルが鳴り、受話器をパルテリースが取った。
「・・・はい。・・・ええ。わかりました。どうもありがとう」
「?」
電話を受けるパルテリースに魂樹が怪訝そうな顔をする。
どうやら予め予定のあった連絡らしい。
「はい。ではそちらで後ほど」
パルテリースが受話器をフックに戻した。
そして魂樹の方を見て
「・・・魂樹、話したい事があるの。私と一緒に来て」
そう静かに言って優しく微笑んだのだった。