第3話 少年の冒険-3


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「ウィリアム!!」
甲板上で、私は駆け寄ってきたルクに抱きしめられた。
その後ろにはジュウベイと、彼の懐から顔を出しているベルナデットの姿もある。
シルファナが連絡を取ってくれたのだ。
どのような手段を使ってかはわからないが・・・。
「心配しました。・・・・私がついていながらこんな事になってしまって・・・本当に申し訳ありません・・・・」
ルクのせいではないよ。気にしなくていい。心配かけてしまったね。
それより恥ずかしいのでそろそろ離して欲しいのだが・・・・。
それでもルクは中々私から離れてくれなかった。
「ちぇ、いいなぁ。綺麗な人だなぁ・・・・ウィリアムのお姉さんかな?」
我々を眺めていたルーシェンが言う。
「フッ、あれはそういうんじゃないわよ」
そしてそれに何故か自信ありげにサワードが答えた。
「・・・思い出すわぁ。ラシェッドの海でのあの激しい一夜。年下の子との恋のアバンチュール・・・・」
うおなんかエビが恋愛遍歴語り出したんですけど。
「彼、鮭だったんだけどね」
サーモンかよ。

シルファナの計らいで我々はサジタリウス号に各々の船室を用意してもらった。
ふと、思い立ってベルナデットにシルファナに面識があるのか尋ねてみる。
「いいえ、彼女とは初対面よ。ウィリアムの知り合いじゃないの?」
尻尾をぴんと立てて澄まし顔でベルナデットはそう言った。
まあそうだろうな。シルファナも面識があるというような話はしていなかったしな。
私はベルナデットに自分の知り合いと言うわけでもない事を告げる。
「・・・ふぅん・・・何で私たちに手を貸してくれるのかしらね? まあ、でも信用してもいいんじゃない? だって勝手にジリ貧の私たちを今更罠にかける意味も無いでしょうしね」
いざ言われてみるとひたすら寂しいが、まあそういう事なのであった。
「後、ウィリアム・・・しばらく一人称を『僕』にしなさいね」
!? 何で!!??
「その容姿で『私』とか自分を呼んでたら変よ。滑稽だわ。TPOってものをわきまえてちょうだいね」
まあ確かにそうかもしれんけど・・・・。
「本当は半ズボンにしなさいと言いたい所だけど、それは想像だけで我慢してあげるわハァハァ」
なにこのねここわい。
船室を出たところでルクと鉢合わせをした。
「船内の構造を把握しておこうと思います。何かあった時に後手を踏まないように」
生真面目なルクらしい。
僕が案内するよ、と申し出る。
「・・・・・・・・・・・・今、何と言いました?」
や、案内するって・・・・不要かな?
「いえそうではなく、自分を何と呼びました?」
・・・・僕って・・・・。
くっ!と真っ赤になったルクが私から顔を背けた。
「・・・・どうしたのですか、ウィリアム。どうしてそのように私を惑わせるのですか・・・・」
えー・・・・。
何だかなぁこの姿になってから挙動不審の身内が増えたよ。
これもヨアキムの妖術のせいなのだろうか。

「あ、ルクシオンさーん!!」
そこへそこへルーシェンが手を振りながら駆け寄ってきた。
「俺が船内を案内するよ!!」
「あ、いえ・・・私はウィリアムに・・・」
言いかけてルクが私を見る。
ふむ・・・ルーシェンはルクに気があるのかな・・・。
まあ年齢の近いもの同士一緒にいるのが自然か。
それならルーシェンに任せるよ、と私は言った。
ルクは何かを一瞬言いかけて言いよどみ、「では、お願いします」と、ルーシェンに頭を下げた。
元気良くルーシェンがルクを案内する。
その2人を手を振って見送る。
・・・微笑ましいな。
・・・・?・・・・・
何故だろう、胸の奥がもやもやとする。
しかし私はその微かなわだかまりの正体が何かわからなかった。
「・・・・船内で青春かな?」
背後から唐突に声をかけられて私はビクリと飛び上がる。
振り返るとそこにはシルファナがいた。
それから何となく私たちは2人で甲板へ上がった。
ついでなので聞いてみる事にする。何故、彼らや私達に手を貸すの、と。
シルファナは形の良い顎に人差し指を添えると少しの間考え込んだ。
「ご立派な動機を期待しているのなら、申し訳ないがね。深い理由はまったくないんだ。成り行きかな」
そしてそう答える。
「何でもよかった。やれる事があるのならね。・・・私は空っぽでね」
そう言ってシルファナは遠く空を見た。
・・・・・空っぽ・・・・・。
彼女の台詞を復唱する。
「今、私の人生には『目的』のようなものがないんだ。この船でただ何となく空を彷徨っているだけ」
船の縁に肘をかけて寄り掛かり、シルファナが私を見る。
「・・・・これ以上空虚な時間を過ごすくらいなら、他人の感情の受け皿になってみるのも悪くない」
そうか・・・見つかるといいな。あなた自身の生きる道標のようなものが。
「ありがとう。動機は朧でもやるからには全力を尽す。その点は安心してほしい」
そう言ってシルファナは澄んだ瞳で真っ直ぐ私を見た。

そして一夜明けて、私は甲板上でジュウベイに相手をしてもらってトレーニングをしていた。
とにかくこの身体でも動けるようにならなくては・・・・。
足手まといにはなりたくない。
色々やってみた結果、私は両手にショートソードを持って小回りと身の軽さを武器に戦う事にした。
神剣はこの身体では重くて満足に扱えない。
刃止めを付けた武器でジュウベイに斬りかかる。
「よーっし!! 大分いい動きになってきたぞお!!」
ジュウベイがそれを捌いてアドバイスをくれる。
流石に弟子を多く持っていたというだけあって、ジュウベイの修行は理に叶っていて得るものが多い。
「やはり基本が出来ているから上達も早いのう」
私の修行は現在の身体と前の身体の違いをきちんと理解する事が目的だった。
そこがわかっていれば、以前の動きを大分取り戻せるだろう。
一息ついた所で、ルクが食事を運んできてくれた。
3人で遅めの昼食を取る。
「食事中すまないね、少しいいかな?」
そこへ、シルファナがやってきた。
何だろう? 彼女の言葉に耳を傾ける事にする。
「私の方の準備は明朝には整う。よければ決行を明日の夜としたいのだが、どうかな?」
!!!!
遂に・・・来たか。
知らずに拳を握り締めていた。
脳裏にゴルゴダとヨアキムの姿が甦る。あの恐るべき強敵達を、この身体で出し抜いてベルナデットを救出しなくてはならない。
・・・わかった。よろしく頼む。
私は力強く肯くとそう言ったのだった。