第27話 理想郷計画-6


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猛毒のオーラを纏った野太刀が赤紫の残滓を残して無数に空を切る。
リチャードのその猛攻をジュウベイが全てかわし、捌き、無傷で掻い潜る。
「・・・な、何故だ」
愕然としたリチャードが呻く様に言う。
・・・かすり傷1つ負わせただけでも終わる戦いなのに。
その僅かな傷1つ付ける事ができない。
「わからぬか・・・リチャードよ」
槍を正眼に構えたまま、ジュウベイは静かに口を開いた。
「わ、わからぬ!! 合点がゆかぬぞ!!! 何故拙者の刀は御主に掠りもしないのだ!!!」
「それは御主が真の侍では無いからだ、リチャード。侍では無いものが形だけ真似て攻撃してこようが、侍である拙者には通用せんのだ・・・!」
雷喝するジュウベイにリチャードがぐらりとよろめいた。
「そんな・・・そんな筈はないぃ!!!」
踏み止まったリチャードが鬼気迫る勢いで上段から唐竹割りに野太刀を振り下ろした。
・・・速度、威力共に人域を大きく超えた鬼剣であった。
ガキィン!!!!!とその修羅の一撃をジュウベイが構えた槍で受け止める。
「拙者はブシドーも学んだ!! 刀の扱いも学んだッ!!! 拙者は侍だ!!!!誰が何と言おうが侍なのだ!!!!」
「武士道か・・・」
リチャードを真っ直ぐ見据えたジュウベイが力を込めてその刀を弾き返す。
「武士道とは・・・ヤマトの民の心が下地にあってこそ意味を持つ!! 御主にはそれがないのだ!!」
歯軋りするリチャードにジュウベイが鋭い突きを放つ。
その一撃を必死で捌くリチャード。
「ヤマトの民の心だと・・・」
「そうだ。それ即ち、『仁』『義』『礼』『智』『忠』『信』『孝』『悌』の八心である!!『仁』とは慈しみ、慈愛の心!! 『義』とは正道を重んじ悪を許さぬ正義の心!! 『礼』とは礼節を重んじる心!! 『智』とは世の道理を知り正しい判断を下さんとする心!! 『忠』とは主に忠実に仕えんとする心!! 『信』とは信頼、誠実の心!! 『孝』とは親を愛し敬う心!! 『悌』とは年上の兄弟を立て、力を合わせんという心!!!」
ジュウベイの怒涛の八連撃がリチャードに襲いかかる。
その八度目の攻撃がリチャードの野太刀を高々と弾き飛ばした。
「その心無き御主がいくら形だけで侍を真似ようが・・・それは仮装でしかないのだ!!!!」
長槍の鋭い穂先がリチャードの脳天に振り下ろされる。
そして穂先はリチャードの頭部まで数ミリの所でピタリと停止した。
「拙者の言葉の意味をよく考え、もう一度出直すがよい」
ドサッ!と崩れ落ちるようにリチャードが地面に両膝を突く。
「・・・拙者の・・・負けでござる・・・」
そしてガックリと項垂れるリチャード。
そのリチャードを振り返らず、静かにジュウベイは歩み去る。
暫く後に、リチャードは顔を上げて自分の脇を見た。
「・・・連れて行かんのか・・・こやつ・・・」
そこにはジュウベイの前にリチャードと戦ってフルボッコになったシイタケマンが白目を向いて大の字に倒れていた。


カミュの渾身の拳が大龍峰の頬を捉える。
返す張り手がカミュを打ち据える。
「・・・ぜえ・・・! はぁ・・・!」
腫れ上がり変形してしまっている顔から血を滴らせてカミュが荒い息を吐いた。
衣服も既にボロボロである。
覗いた肌は痣だらけだ。
「し、しぶといのォ・・・おどれ・・・!」
呻いた大龍峰も満身創痍である。
見た所の状況はカミュと大差無い。
(ありえん!! ありえんぞ!! ・・・ハイドラ一の頑強さを誇るこのワシがぁ!!!)
言葉には出さずに内心で大龍峰が歯噛みする。
そんな2人を、やや離れた位置からルノーが黙って見ていた。
ポケットに手を突っ込んだままで・・・だが誰よりも真剣な眼差しで見つめていた。
「いい加減にぃ・・・」
ぐわっと開いた掌をカミュの頭上へ持ち上げる大龍峰。
「倒れんかい!!!!!!」
ドガッ!!!!!と打ち下ろし気味の『鬼鉄砲』がカミュにまともに炸裂した。
ぐらんぐらんとカミュの上体が大きく前後に揺れる。
勝利を確信して大龍峰の頬が一瞬緩みかけた。そして次の瞬間その表情は驚愕に引きつる事になる。
踏み止まったカミュがギラリと鋭く光る瞳で自分を見上げてきたのだ。
「・・・いたくねぇんだよって・・・」
拳が引かれる。
「言ってんだろうがぁっっっっ!!!!!!」
ドスッ!!!!!っと重たい音を立てて突き刺さるようにカミュの『鉄拳』が大龍峰の鳩尾に炸裂した。
「ごあッ!!」
血を吐いた大龍峰が身体を大きくグラつかせる。
(イカン・・・負ける・・・このワシが負けるんか・・・!!)
揺れる視界にカミュが映る。
(負けとうない・・・負けてたまるか・・・!! あの・・・ベルトを取れば・・・)
必殺の『阿修羅寄り』で逆転する・・・そう決めた大龍峰がオオオッと雄叫びを上げてカミュのベルトに手を伸ばした。
「最後の・・・最後に・・・『組み』に逃げやがったな・・・」
しかしそれはカミュに読まれていた。
半身を向けてよろめきながらも、カミュは大龍峰からは隠れて見えていなかった左の拳を握り締めて待ち構えていた。
大龍峰の手が虚しく空を切る。
そして交差したカミュの拳は大龍峰のボディに深々と炸裂していた。
「・・・ハッ・・・。こりゃ・・・かな・・・わん・・・わぃ・・・」
最後にそう呟いて、白目を向いた大龍峰はその場に倒れ伏し動かなくなる。
「こっちも後1発貰えばそれでオダブツだったのによ・・・大馬鹿野郎が・・・」
そしてその大龍峰を見下ろして、静かにカミュはそう言った。
「よ、お疲れ・・・」
そんなカミュにルノーがぱちぱちと気の無い拍手をする。
「ぷっ・・・何だお前ひっでーツラ。ボロボロじゃん」
「あーん? てめー甘く見るんじゃねぇぞ。こんくらい何でもねえんだよ」
くすっと笑うルノーにカミュが仏頂面で返事をする。
そのカミュの背をバーンとルノーが叩く。
「ぐあぁっっ!! てめ・・・何しやが・・・」
今度こそ膝が崩れたカミュを、そのルノーが下から支えた。
「・・・何だ・・・悪ぃな」
呆気に取られて礼を言うカミュ。
「私の肩は高けーぞ・・・お前一生かかっても返し切れないくらいな!」
そう言ってルノーはカミュを見て明るく笑った。


クリストファー・緑とアルフォンソ・マキャベリーは2度目の対峙の時を迎えた。
だが先日の時とは異なり、マキャベリーの端正な顔は苛立ちに歪んでいる。
「・・・まさか・・・殺し損ねていたとは。とんだ失態ですよ、クリストファー」
そう言ってマキャベリーは右手を眼前に翳すと、掌を自分へ向け何かを鷲掴みにするように指を折り曲げる。
「しかし助かりますね。わざわざ貴方の方からその失態を帳消しにする機会を与えてくれるとは」
口元を笑みの形に歪めるマキャベリー。
対するリューの表情は丸で風の無い日の水面の様に静かだった。
「先日と同じとは思わん事だ・・・確かに俺は死ぬだろう。だが・・・」
マキャベリーを見るリューの双眸に鋭さが増した。
「・・・お前も死ぬ」
フン、とマキャベリーが鼻を鳴らす。
「何を馬鹿げた事を・・・。見た所貴方は満足に回復してもいないようですね。万全の状態で私と戦って手も足も出なかった男が、半死の状態で何ができると?」
嘲笑うマキャベリーに対し、リューは超感知の不可視のオーラを広げる。
・・・ここに来るまで、ひたすら温存してきた最後の力だった。
リューは勝算無しにこの場までやってきたわけではない。
マキャベリーの必殺の斬鋼糸を破る方法は考えてきていた。
・・・しかし、それはタイミングが命。
早ければ見破られ2度とその手は通用しなくなり、遅ければ自分は攻撃され命を落とすだろう。
その絶対の一瞬を・・・リューは尽きかけた生命で見極めねばならなかった。
(初撃だけは・・・どうしても回避しなくては・・・)
それが「この方法」で斬鋼糸を封じる条件だ。
リューが構えを取る。
「・・・っ!」
視界が揺れ、一瞬リューの意識は遠くなった。
自分が考えている以上にここまで来る事で消耗してしまっている。
「ハッ・・・やはり死に損ない。すぐに楽にしてあげますよ!!!」
ズアッ!!!と空中を10本の斬鋼糸が走った。
高速のその一撃をオーラで捉えてリューが回避を試みる。
しかし・・・彼の両脚はもうその意思に従ってはくれなかった。
(ここまで・・・か・・・)
相手を害さんとするならばまた己も害される覚悟をするべし・・・それも彼の師の言葉だった。
次の瞬間、リューは大きな衝撃を受け横倒しにされた。
倒れた痛みで意識が明滅する。
しかしそのお陰で斬鋼糸は彼の身体に届かない。
そして彼は自分に覆い被さっている娘の顔を見た。
「やっと・・・見つけたわ・・・この、バカ・・・!」
「勇吹か・・・」
自分に覆い被さっている勇吹を見てリューが僅かに目を細めた。
「何故お前がこんな所にいる。お前は・・・こんな戦いには関わるな。大人しく店に帰れ」
この場においてもリューの調子は普段通りだった。
勇吹が思わず嘆息しつつも苦笑する。
同時に、勇吹の身体がぐらりと傾いてリューへと倒れこんだ。
「・・・!」
その身を抱きとめたリューが驚愕する。
勇吹の背は大きく斜めに切り裂かれ、傷口からは血が滴っていた。
先程の攻撃からリューを庇った時に受けた傷だった。

マキャベリーはその2人を追撃しなかった。
不意の闖入者が何者かわからなかった為だ。
その為彼は迂闊な深追いを自らに禁じた。
(・・・何者です・・・? 財団の女ではないようですが・・・)
暫しマキャベリーが思案する。
しかし、彼が両者共に屠り去るべしと結論付けて再度の攻撃に移るまでの時間は後ほんの僅かだった。

「勇吹・・・聞け」
倒れた姿勢のまま、勇吹の上体を支えてリューが静かに言う。
「俺はもう助からない。・・・だがそれは仕方が無い。当然の事だ。今まで俺は他者に散々そう言う運命を強いてきた。それが今度は俺の番になった。・・・ただ、それだけの事だ」
そして頭上の勇吹をリューが真っ直ぐに見上げる。
「だが・・・お前は生きろ。俺にこれ以上付き合う必要は無い。死すべきものが死に、生きるべきものが生きる・・・それが道理だ」
「そんな事・・・どうだっていいわ」
勇吹が不機嫌に答える。
そして彼女もリューを真っ直ぐに見た。
「私は・・・ただ瀕死の身体で病院抜け出したバカがいるって聞いて、そいつをぶん殴りに来ただけ。だけどね・・・」
リューを見つめる勇吹がフッと優しく微笑んだ。
「まずは元気になってくれないと・・・ぶん殴るにも殴れないわ・・・」
そして彼女はリューの頬を軽く平手で叩いた。
その手の中には赤い符があった。
もう1枚・・・黒い符は既に彼女が自身の服の下で貼り付けてある。
「・・・うっ・・・うぁあああああっっ!!!!!」
急速に生命力が失われていく感触に勇吹が苦悶の叫び声を上げた。
「いつまで2人でそんな芋虫の様に這いつくばっているつもりですか!?」
飛来するマキャベリーの斬鋼糸が2人に襲い掛かる。
それは鋭く地面を打ち据えて砂埃を上げる。
「どうしました・・? 道連れにしてくれるのではなかったのですか? クリストファー!」
嘲りの言葉を放つマキャベリー。
砂煙の向こうにゆらりと人影が映る。
「その話だが・・・悪いが気が変わった。たった今大きな借財を作った所でな」
砂煙が晴れる。
リューがしっかりと立っている。
その手の中には意識を失った勇吹が抱きかかえられていた。
「お前を倒してから、返済生活に入らなければならん。すまないがあの世へはお前1人で行ってもらう」
マキャベリーを見据え、静かにリューがそう言い放った。