第3話 少年の冒険-5


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

短剣を構えたヨアキムがじりじりと私に迫る。
「ンフフフフフ・・・この短剣の刃には特殊な術がかかっていましてね・・・。かすりでもすればそれだけで、かかっている術や呪いの効果が倍化するのですよ、バーンハルト」
・・・つまり私の場合は、より幼い身体にされてしまうというわけか・・・。
「その通りですよ。言っておきますがわたくしの妖術は若返りの術などと言う都合のいいものではありませんよ? 対象は強制的に無力な幼児に変えられ、そこから成長できなくなるのです。つまりあなたもそのままもう成長する事はないのですよ」
・・・・やはり・・・・単に若くなるだけなら都合のいい術だとは思っていたが・・・・。
「わたくしは戦闘のような下品な行為は嫌いでしてな。いつも相手を幼子へ変えて一方的に虐殺する事にしているのですよ」
私を見るヨアキムの目には狂気の光があった。
「さぁ大人しくしていてくださいよ!!!」
短剣を振りかざしてヨアキムが襲い掛かってくる。
繰り出される奴の刃を右に左に素早く動きながらかわす。
・・・動きは機敏とは言えんな。それとも油断を誘っているのか・・・?
飛び上がって天井の梁を掴むと、私は駆け寄って来たヨアキムの顔面を思い切り蹴った。
「・・・・ぐェッッ!!!!!」
悲鳴を上げて奴が後方へ吹き飛んで尻餅をつく。
「・・・・ご、ごのっ!! ・・・ガキめ!!!」
鼻血の滴る曲がった鼻を直しながらヨアキムが立ち上がる。
「その歳でもうそれだけ動けるのか!! ・・・・誤算だ、だから幼児以外を相手にするのは嫌なんだ!!」
絶叫しながら私へ両手を向ける。
その手が赤く輝く。術を使うつもりか・・・!
しかし最初に不意打ちを受けた時のようにはいかない。私は術が効果を現す前にヨアキムへ駆け寄るとショートソードで斬りつけた。
「・・・・あギャッ!!」
傷を負ったヨアキムが悲鳴を上げ、術が途切れた。
間髪いれずにショートソードの柄で頬を殴りつける。
「ぶげッ!!!」
折れた歯を吐きながら横倒しになったヨアキムはそのまま床を転がった。
・・・今まで真剣に戦ってこなかった酬いだ。対等の条件の一対一ならばヨアキムは弱い。
奴が必死に両手をついて立ち上がろうとする。
妙な真似ができないように、ひとまず腕を折っておくか!!
そう思って奴へと駆け寄ったその時、
「まっ、待て!! ・・・・待って下さい!! 殺さないで!!!」
奴はそう叫ぶと床に額を擦りつけんばかりに平伏して頭を下げた。
「金で・・・金で雇われただけなんだ!! 助けてくれ!! じ、術も解く!! 元の身体に戻してやる!! ・・・だから!」
ならまずはベルナデットを解放しろ!!!
叫ぶと奴は飛び上がった。
「わ、わかった!! ちょっと待て!!! すぐにやる!!!!」
ガチャガチャと音を鳴らして腰から鍵束を取り出す。
そしてその内の一つを取り出すと、それを使って独房の鉄扉を開けた。
ガシャーン、と扉が大きく開け放たれる。

薄暗い独房の中を覗き込む。
内部は結構な広さがあった。床一杯に不気味に赤く輝く魔法陣が描いてあり、その中央に誰かが膝を抱えた姿勢でうずくまっている。
ヨアキムが壁に立てかけてあったモップを持ってきた。
「封印は魔方陣の一部を消すだけで簡単に解けるんだ・・・。待ってろ・・・!」
がしがしとモップで床を擦る。
魔方陣の一部が擦り消されると、全体の光が失われる。
そして、中央の人影がゆっくりを立ち上がった。
こちらへ無言で歩いてくる。見張りの詰め所から漏れる僅かな明かりがツインテールに結んだ髪の毛を照らし出す。
・・・・・・ベルナデット・・・なのか・・・?
私の問いには答えずに、少女はヨアキムの前に立った。
そしてその手からモップを取る。
・・・・?・・・・
「・・・・?・・・」
私とヨアキムが同時に怪訝そうな表情を浮かべたその時、
「・・・・フンッ!!!!」
少女は力一杯ヨアキムの脳天にモップを振り下ろした。
ベキッ!!!と音を立てて折れたモップの半分がくるくると回転しながら宙を舞う。
「・・・・ぁ・・・・ヴぇ・・・・・」
割れた脳天からぴゅーぴゅーと血を噴き出しながら白目を剥いたヨアキムは倒れて動かなくなった。
ふんっ!と鼻を鳴らして少女がモップを投げ捨てる。
「とりあえずこのくらいにしといてあげるわ。・・・・今はね」
そして私の方を向く。彼女は長身ではない、子供の私と視線の高さが同じだ。
しばしお互い、無言で見詰め合う。
そして彼女はぷっ、と苦笑して吹き出した。
「しまらないね」

「囚われのヒロインをマイヒーローが助けに来る最高のシーンなのに、ウィルちっちゃいんだもの」
むう。
「・・・まぁ、それならそれでいいけどね。別の意味で私は嬉しいし」
そう言って優雅に髪をかき上げて微笑む。
「『解き放つもの』ベルナデット・アトカーシアよ。改めてよろしくね」

ベルナデットと並んで城の廊下を駆ける。
「ナバールを捕らえるわ。それでこの戦いも、都の人達の苦しみも、全て終わりにする!」
途中、衛兵に何度か遭遇したが、彼らは皆口々に「ベルナデット様!?」「ベルナデット様だ!」と叫んで驚くばかりで仕掛けてはこなかった。
「ナバールは何処!?」
ベルナデットが叫ぶ。
しかし兵たちに答えられるものはいなかった。
「・・・どこかへ逃げるつもりね。その前に取り押さえないと!」
そこへルクが走ってきた。
「ウィリアム!」
ルク! ・・・・ゴルゴダは? 勝ったのか。
そう言うとルクの表情が翳る。
「・・・申し訳ありません。追い詰めたのですが、逃げられてしまって・・・」
そうか、まあいいんだ。目的は達した。殺し合いに来たわけではない。
ルクがベルナデットを見た。ウィンクしてベルナデットが片手を上げた。
「・・・この、女の子が・・・ベルナデットなのですか・・・?」
「失礼しちゃうわね。見た目は14歳でも中身はあなたの何十倍も生きてるわよ?」
し、失礼しました。とルクが恐縮する。
そしてルクが私を見る。
「ウィリアム、ジュウベイを・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
喪失感が再び胸に甦ってくる。
ジュウベイ・・・・。
「とりあえず、これ以上戦う必要は無さそうなのでジュウベイを止めましょう。やりすぎてしまっては良くない」
・・・・・・・・へ????

「うおおおおお!! 蒼雲ーっっ!! 今そっちにいくぞおおおお!!!!」
何だかもう矢まみれでハリネズミみたいになってるジュウベイが兵達を追いまわしている。
兵達は皆悲鳴を上げて逃げ惑っていた。
「男十衛兵の死に様!!とくと見るがよいわあああ!!!!」
ちぎっては投げ、ちぎっては投げ・・・兵が次々に宙を舞った。
「・・・・ジュウベイ、戦いは終わりました。落ち着いて下さい」
「うおーっ!! 蒼雲!! 拙者の好きだった酒を準備して待って・・・・・え?」
ジュウベイがこっちを見る。
「おお、ルクよ! これからは拙者の分までウィリアムを・・・・・って、アラ?」
そして私に気付く。
「ウィリアム! 行けと言ったであろう!!」
いや行ってきたんだよもう。
ベルナデットがそんなジュウベイの様子をしげしげと見つめた。
「・・・酷い怪我ね。でもまあ、内臓に届いてる矢は一本もなさそうね」
「おお、お主はもしや!!」
ジュウベイが顔を輝かせる。
「ベルナデットよ、改めてよろしくね。猫の時に体格差で大きく見えるのかと思っていたけど、生身で見てもやっぱり頭大きすぎね、ジュウベイ」
そう言ってベルナデットが無造作に1本の矢を掴んでブシッと引き抜く。
んがーっ!!とジュウベイが叫んで飛び上がった。

再び廊下を急ぐ我々。
先頭を走る私は涙目に真っ赤になって怒っていた。
なんだよ!!くそう!!一杯泣いちゃったよ!!
涙返せよもう!!!
そんな私の横顔を、隣を走りながらベルナデットが覗き込んだ。
そしてニヤリと笑う。
「・・・泣き腫らした目してたもんねぇ。死んじゃったと思って本気で悲しんだのよねぇウィルは。はー、可愛かったなぁあの顔。ゾクゾクしちゃったわ」
くっ! ドSだ!! ここにドSがいますよ!!!
等とやり取りしながらも、ベルナデットの案内で我々は隠し通路に入り、その先にナバールを追い詰めた。
ナバールは両手に財宝の一杯詰まった袋を持って息を切らしている。
「・・・べ、ベルナデット・・・様・・・・」
ガシャン、と袋を落としてナバールが後ずさる。
「4年ぶりね、ナバール。あなたまた随分と太ったわね」
ネズミを追い詰めた猫の微笑みを浮かべて、ベルナデットがナバールに迫る。
「・・・わ、私はただ・・・言われた通りに・・・」
「そうよね、あなたにこんな事考えて実行できるだけの度胸はないものね」
すっとベルナデットの顔から笑みが消えた。
「・・・・・・誰?」
その声が氷の気配を帯びる。
「あなたに指示して私を閉じ込めさせたのは、誰?」
ヒッ、と悲鳴を上げてナバールが尻餅をついた。
ベルナデットが更に1歩、ナバールへと近付こうとしたその時、両者の間にドチャっと湿った音を立てて何かが落ちてきた。
!!!!!
それは昏倒したまま地下牢に放置してきたはずのヨアキムの生首だった。
ひいいいい、とナバールが悲鳴を上げる。
ビュッ!!と風切り音がしたかと思うと、飛来した何かが驚愕の表情のままのナバールの頭を真っ二つに断ち割った。
それは振り下ろされた鞭剣の鋭い刃だった。
鮮血を噴き出しながら倒れたナバールの横に誰かが上から飛び降りてくる。
・・・・ゴルゴダ・・・・・。
そのゴルゴダの姿を見て私は絶句した。
胸部に3つの大穴が開いている。いずれも身体を貫通し、向こう側の景色が見えるほどの穴だ。
ルクを振り返る。彼女が肯く。
「私のつけた傷です。一つでも十分致命傷のはずなのですが・・・・」
ゴルゴダがニヤリと笑みを見せた。
「はー終わった終わった。あぶねえとこだったぜ。コイツは小物なんだ。脅したら簡単に口を割っちまうだろうからなぁ」
口封じ・・・・。
そうか、お前は「大元の敵」の指示でナバールの元にいたというわけか。
「ご名答。まー護衛とこうなった時の後始末の役目を兼ねてたワケよ」
先に始末してきた所を見ると、どうやらヨアキムもその「黒幕」の正体を知っていたらしいな・・・・。
しかし、こいつの身体は一体・・・・。
「なるほどね・・・・つまり、お前が『ゴルゴダ』なのね」
そう言ってベルナデットが指をさしたのは、ゴルゴダの手にしたウィップブレードだった。