第14話 一つの終わりと一つの始まり-3


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私は目を覚ました。
いや、正確には意識はずっとあった。
この10年間、水晶の中に閉じ込められていながらも、私は外界の音を聞き取る事ができ、物を考える事もできた。
もっとも聞こえてくる音なんか、不愉快で吐き気のするアイツのささやき声だけだったが。
いつか、ヒーローが現れて私をここから解放してくれるんじゃないかなんて、そんなファンタジーを思い描いたりもしてた。
もっとも本気で信じてたわけじゃない、半ば自虐的な夢想であったんだけど。
だけど、そんなヒーローは本当にいた。
思い描いていたより随分年上だったけど、確かにいたんだ。
その人のお陰で私は自由を取り戻した。
今すぐ倒れたその人に駆け寄りたい。
名前も知らない、私を命がけで助けてくれたあの人。
だけどその前にしなくちゃいけないことがある。
この手でケリをつけなくちゃいけない。奴には10年前から色々なものを貸し過ぎた。今ここで命でそれを清算させる。
時間の流れも無いという奴の術がここだけはありがたいね。筋肉にはわずかな凝りも張りも感じられない。
私は一気にペルゼムスとの間合いを詰めるとハイキックを繰り出した。奴が手でそれをガードする。
でも私の一撃は奴の枯れ枝のような細い腕を砕いて折った。
「ギヒィィィィィィィィッッ!!!」
奴が不愉快な悲鳴を上げる。
折れ飛んだ奴の腕は水晶になって砕け散った。10年前と同じだ。コイツの身体を離れたものって肉片であれ血液であれ全部水晶になる。
「やめろ!!! やめてくれDD!!!! 愛しているのだ!!!!!」
あーうるさい。虫唾が走っちゃうからやめてくれ。
続いた蹴りが奴の腕をもう1本折る。
この10年何度と無く繰り返してきたイメージトレーニングの通りに奴に私の攻撃が決まる。
実際は想定してたより奴の動きは随分鈍かった。きっと動揺とかあるんだろう。
だけど容赦する気はないんだけどさー。
お前が殺めた私の部下たちの、そして私を助けようとして傷付いたあの人に詫びながら・・・・。
私は拳を引いて力を溜めた。残った2本の腕で奴が頭部を庇った。
・・・・地獄へ落ちろ。
渾身の力を込めて拳を突き出す。その一撃は奴の2本の腕を砕いて頭部を粉々に叩き割った。
「・・・・・ゥゴァッ!!!」
次いで全身が水晶化して砕け散る。
・・・・あー終った。やっと終った。
一瞬私の胸に複雑な思いが去来したが、ボーっとしてる時間は無い。
彼へと駆け寄り、抱き起こす。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
彼は、もう息をしていなかった。
その表情はまるで眠っているかのように穏やかだった。
勝手すぎるだろ・・・・いきなり現れて、いきなり助けて、それでありがとうも言わせないで逝ってしまうなんてさ・・・・。
悲しさと悔しさで胸が詰まる。
そして私が彼と一緒に過ごすのを許された時間はそこまでだった。
背後から突然闇の気配が膨れ上がった。
気配は暗闇を伴ってまるで突風の様に周囲を薙いだ。
跳び退る。着地して気がついた。抱きしめたままのはずの彼がいない。
「やァどーも団長お久しぶりです。相変わらずお元気そうで何よりですわ」
人を食ったようなおどけた言い回し。その声は私がかつて馴染んだものだった。
・・・・・漂水・・・・・。
こいつまったく変わってないなー。私も変わってないんだろうけど。
漂水は小脇に彼を抱えていた。
「先生が随分頑張ってくれたみたいで。お陰で全部予定通りですよ」
漂水が笑った。冷たい笑いだった。
この男が心の奥底にドス黒い獣を飼ってる事は一緒にやってた時からずっと気がついてた。いつかその獣の牙で私や仲間達を傷つけるんじゃないかって、思ってはいたんだ。
だけど、見て見ぬフリをずっと続けてきた。仲間なんだと、そう思いたかった。
なんかよくわからないがブン殴っておこう。話はそれからだ!!
私は一瞬で奴との間合いを詰めると。その鼻先に拳を突き出した。
「ぅおっとぉッッ!!!! あぶね!!!」
その一撃を身をかがめて横っ飛びに漂水がかわす。
「おーぅ、コエーコエー。バトルはゴメンですよ団長。ドンパチ苦手なもんでねぇ」
昔からの奴の口癖だ。
でも気付いて無いんだと思われてるなら私もナメられてるな。
お前本当は戦えば強いだろ。知ってるぞ。
「それに話し込んでる時間もないんですわ。先生にゃまだ用がありましてね」
漂水がポケットから何かを取り出した。筒のようなものだ。
「つーわけで失礼させてもらいますよ、団長」
漂水が筒を放った。地面に落ちたそれが激しく白煙を噴き上げる。
瞬く間に私は煙に包まれる。
『団長にも期待してますよ。 この下らん時代を面白おかしく盛り上げてくださいよ』
煙の中、奴の声が遠ざかっていく。
人一人抱えて私の足から逃げ切れると思ってんのかこのドアホウ!!
そして煙が晴れるのを待って、私は奴が消えたと思しき通路へと駆け出したのだった。

~DD回想より~