第18話 うつりゆくもの-4


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大龍峰がその丸太の様な右腕を大きく振るった。
「どっせぇえええい!!!」
ブン!!!と屈んだルノーの頭上を風切り音を残して腕が通過する。
(デカブツの癖に動きが速え・・・・だが懐に入っちまえば・・・!)
刀の柄に手を掛けたまま、頭を低くルノーが更に大龍峰との距離を詰める。
「・・・・!!!!!!」
しかしそのルノーを迎えたのは無防備な敵の腹ではなく、待ち構えていた左手だった。
間一髪バックステップで頭部を鷲掴みにされるのを免れるルノー。
「かァッ!!! ・・・すばしっこいのぉチビスケ!!」
そこにエリックの拳とカミュの蹴りが飛来する。
両者狙いを過たずに、攻撃はガードを掻い潜って大龍峰のボディに炸裂した。
「こっちはこっちでチクチクとのォ!! 男なら組み合わんか!!!」
(無茶を言う・・・)
エリックが反撃を回避しながらそう思った。
組まれれば恐らく一たまりもあるまい。
(やはり恐ろしく頑健ですね・・・)
タフさは『鉄人』の異能者であるカミュ以上であろう。
本人は「チクチクと」と評して意に介していないが、今の攻撃は自分もカミュも牽制の為のものではなく必倒のはずの一撃だった。
何より驚いたのはその身のこなしだ。
(パワー、タフさで向こうが上なのは想定済みでしたが・・・)
ともすれば速度でも負ける。
エリックは内心背筋が冷たくなるのを感じる。
「てめえバカヤロ! そんなに組み合いたきゃ望み通りにしてやるぜ!!!」
叫んだカミュが言葉の通りに真正面から大龍峰と組み合った。
「グフフフ・・・そうこなくちゃのぉ!!」
ググッと一気に大龍峰が圧力を掛けてきた。
カミュの両手がミシミシと軋んで、その口から殺しきれない苦悶の呻き声が漏れる。
その間にもリーダーの意図を察したエリックとルノーは左右から大龍峰目掛けて跳んでいた。
ガン!!!とエリックの拳が大龍峰の頬を捉える。
「・・・・・がッッ!!!」
切れた唇から空中に血が飛沫いた。
そしてそれと同時にわき腹を切り裂くルノー。
「・・・・・硬って!! クソッ!!!」
ルノーが叫んだ。自身の斬撃は相手の皮一枚切っただけだ。肉にまで攻撃が達していない。
エリックは無言だったが、殴った拳の痺れから攻撃が有効打になっていない事を察していた。
「・・・・・・・・・なーま温いわい!!!!!!!!!」
ぐわっとカミュを持ち上げた大龍峰がそのまま大きく左へ投げ捨てた。
「・・・・ぐおッ!!!!」
石造りの倉庫の床に叩き付けられたカミュが血を吐く。
「こんなもんか!! 情けのうて泣けてくるわい!!! もっと死に物狂いにならんか!!!! おのれら国の看板背負ってるんじゃろうが!!!」
大龍峰の怒りの咆哮に無言の三銃士。
そしてエリックがゆっくりと眼鏡の位置を直す。
「確かに生半可な攻撃は無意味ですね」
静かな一言だったが、カミュとルノーは参謀のその言葉に決意の響きを感じ取った。
「・・・スペードのエースで行きます」
「・・・・・・・!!」
カミュとルノーがその一言に全身を緊張させた。
そして3人は同時に地を蹴った。
ルノーは前へ、カミュとエリックは後ろへと。
(・・・なんじゃあ? チビスケだけ前出して男2人下がりおったわい)
訝しげな表情を浮かべる大龍峰。しかしすぐその表情は不敵な笑みの下に消える。
「何する気か知らんがのお。今度はガッカリさせんでくれい!!!」
まずは向かってくる者からだ。
大龍峰がルノーへと襲い掛かる。
「・・・『かまいたち』!!!!」
「ぬぅ!!!!」
次元断を掌で受ける大龍峰。先程より深く斬り付けられるがそれでもまだ彼にとっては戦闘に支障のあるような負傷ではなかった。
随分と後方に下がった2人はそれぞれ「溜め」の体勢に入っていた。
(しかし遠すぎじゃろが。飛び道具使うようにも見えんがのお)
その間にもルノーのつける刀傷が徐々に大龍峰の身体に増えていく。
「・・・・鬱陶しいわいのぉ!!!!」
自分に向けて跳んだルノーを遂に空中で掴みとめた大龍峰。
「捕まえたぞ!!!」
しかし襟首を掴まれたルノーは瞳をギラリと輝かせて口の端に笑みを浮かべた。
「・・・・こっちがな」
その大龍峰の手首を両手で掴むと、背後2人を振り返ったルノーが「空蝉」で空間を跳躍した。
「ぬわあああッッ!!!!!」
大龍峰を掴んだままでだ。
この相手を巻き込んだ空間跳躍はルノーの奥の手だった。
1人掴まえて短距離を飛ぶだけでもほとんどの体力と魔力を失ってしまう。
掴まれ引っ張られて上体が泳いだ体勢のまま、大龍峰の視界の風景が「ズレた」 先程よりも数m後方・・・待ち構える2人の銃士の眼前へと。
「・・・・・し、しもうた!!!!」
「『鉄拳』!!!!!!!」
カミュの拳が
「『雷霆』!!!!!!!」
エリックの拳が
正面左右から大龍峰を捉える。
「ぐわあああああああッッッ!!!!!!!!」
叫び声を轟かせて大龍峰は吹き飛び、倉庫の壁に大穴を開けてその向こうへと消えていった。


(・・・・殺られる!!!!)
魂樹が身を竦めたその時、銃声が鳴り響いた。
「・・・・!」
弾丸を回避したリューの拳が魂樹を逸れる。
足を止めたリューが弾丸の飛んできた方向を見た。
ジュデッカが立っている。リボルバーをリューへと向けたまま。
肩がわずかに上下している。
わずかにでも息が上がっているジュデッカを魂樹は初めて見た。
「お前の弾丸は奇妙な軌跡を描く。回避がし辛い」
リューが言う。
「私の弾丸にはシルフが乗ってるからな・・・」
ジュデッカが下ろしていた左の手も上げる。
左手にもリボルバーがある。2つの銃口がリューへ向けられる。
体勢を立て直した魂樹も自身の弓に矢を番えてリューを狙っていた。
その間、マチルダは動かなかった。
最初に被弾した位置に片膝を突いて屈み、折れた右手に左手を添えて目を閉じている。
観念したわけでも放心しているわけでもなく、彼女は今全力で折れた骨を修復していた。
水精(ウンディーネ)の癒しの水が体内を循環する。
常人の数百倍の速度で負傷が回復していく。
ただし常軌を逸した回復速度がマチルダに要求したものは、全身のほとんどの体力だった。
数分後、骨が修復されて再びまともな攻撃ができるようになったその時、恐らくマチルダの体力はほとんど残っていないだろう。
(恐らく、攻撃できるのは一撃のみ・・・)
だが今のままよりはいい。
負傷を抱えた今のままでは意味のある攻撃を放つ事は不可能だから。
数分後に只一撃を放つ為だけに、敵を前に瞑想状態に等しい状態で治癒に入ると言う暴挙にマチルダが出た。
「・・・『死に至る舞踏』(ダンスマカブル)」
ジュデッカの銃口が火を吹く。
紅い奇跡を描いた弾丸がリューへ襲い掛かる。
「『ホワイトレイ』!!!!!」
光精を纏った白い光の矢を放つ魂樹。
「・・・・・・・」
無言のままリューは走り出した。
彼はまず標的をジュデッカに定めた。
神速でジュデッカの間合いを侵略しながら迫り来る弾丸と矢を回避する。
両者どちらも、今まで放って敵に回避された事の無い攻撃を無造作に。
迫るリューに、ジュデッカが取り出した小瓶を放り投げた。
そしてそれを空中で撃ち抜く。
「・・・!!」
リューが先程までより大きめに回避動作を取った。
砕け散った小瓶から撒き散らされた液体が空中に飛散する。
わずかにその一部がリューの裾を掠めた。
衣服のその部分が煙を上げて黒く灼ける。
「酸か。色々な芸を見せる」
無表情のままリューが言う。
そのリューへジュデッカが両手の銃を乱射した。
周囲に銃声が鳴り響く。
(こいつの強さの秘密はこの反応速度だ・・・)
弾丸をかわしながら尚距離を詰めてくるリューにジュデッカが舌打ちする。
「生憎とこちらには大した芸が無くてな。くれてやれるものといえば・・・」
不可視の一撃がジュデッカに炸裂する。
「・・・この拳くらいだ」
ジュデッカがぐらりとその身をくの字に折った。
「・・・・ぐはッッ・・・・・」
その口から鮮血がぼたぼたと滴る。
リューの拳はジュデッカの腹部に突き刺さる様に炸裂していた。
横倒しにジュデッカが倒れる。
そして、入れ代わるかの様にマチルダが立ち上がった。
そのマチルダをリューが見る。
彼は無言だ。
ただその視線だけが、立ち上がるのならもう一度地に這わせるだけだと言っていた。
マチルダも無言でリューを見ていた。
その両目には全身の全ての魔力が集中していた。
(・・・マナはここで使い切っていい。どうせもう一撃しか出せない・・・)
ロンギヌスの槍を構える。自らの見立て通りに、その身体にはもう全力の攻撃をたった一度放つ分だけの体力しか残っていない。
(なんとか枝の一本だけでも・・・・!!!)
「その位置」へ誘導するための最良の攻撃ポイントを・・・。
ユグドラシルの枝を全力で見出そうと、マチルダの瞳が軋む。
そしてマチルダは地を蹴った。
その速度はリューに等しい領域に達し、その勢いのままにマチルダは全力で突きを放った。
リューもその一撃に自身の最速で応じた。
迫り来る刺突を紙一重で回避するリュー。
しかしマチルダにとっては、それでよかった。
否、「その為の」攻撃だった。
「『ユグドラシル』・・・・貴方は、『その位置へ退避する』」
「・・・・・!!!」
何かがリューの足に絡み付いてその動きを封じた。
それは地面から伸びた無数の蔦だった。
「『ソーンバインド』・・・やっと掴まえたわ! クリストファー・緑!!!」
地面に樹精を展開して罠を仕掛けていた魂樹が叫ぶ。
普通なら余裕で反応できていたはずの地面よりの戒め。
だがマチルダの一撃に全力で対応した為に彼はその術より逃れる事ができなかった。
魂樹の背後に巨大な光る魔方陣が浮かび上がる。
そしてその魔方陣より巨大な黒い魔犬が現れる。
「・・・やれ!!! ゼフィールヴァルト!!!!!」
ガオオオオン!!!!と咆哮を一つ上げるとケルベロスは大きくリューへと顎を開いた。
「・・・・ぬう!!!!」
その巨大な口腔より迸った地獄の業火が蔦に戒められたリューを飲み込んだ。