第3話 円卓に集いし魔人たち-7


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共和国兵たちとの騒ぎより一夜が明けた。
シラノに案内された廃屋で仮眠をとったシズマ達は、翌日明るくなってから行動を開始した。
先導するシラノに続いて、堂々と人ごみの中通りを歩くシズマ達。
「思った通り、港はガチガチに固められてますね。後は街を出る街道も全て検問がありました。この街にいるとわかった以上、封じ込めて探すつもりなんでしょうね」
だからこそ、そちらに共和国軍は人手を取られて街の巡回にまでは手が回っていない。
シズマ達が普通に表を出歩ける理由がそこにある。
・・・とはいえ、このままでは自分たちも街を出ることができない。
「彼らは陸、海を封鎖しました。常道ですね。この街には空港はありませんし」
だから共和国軍の飛空艇も海へ降りたのだ。
「そこに、落とし穴があるんですよ」
ふっふー、とシズマ達を振り返ったシラノが不敵に笑う。
「あの・・・」
そんな一同におずおずとツカサが声をかけた。
「私は・・・これ以上皆さんと一緒にいない方がいいと思います」
伏目がちに沈んだ声でツカサが言う。
巻き込んでしまった、と彼女はそれを気に病んでいるのだろう。
「そんな事気にしなーい!!」
バシーン!と勢い良くマリスがシラノの背中を平手打ちした。
「叩く人違いませんかね!!??」
激痛に顔を顰めてシラノが叫ぶ。
「ここで突き放すくらいなら、初めから助けたりしない」
いつもの様に落ち着いた声で言うシズマ。
「そうそう。だからこういう時は『ごめんなさい』じゃなくて・・・」
ピタリとマリスがツカサの鼻の頭を指差した。
驚いたツカサが丸くした目を瞬かせる。
「・・・あ、ありがとう」
「よろしい」
満足げにマリスが肯いて再び歩き出す。
そんな一同の背中を見つめてようやくツカサは初めて微笑みを見せた。

街外れまで歩いてきてシラノが立ち止まった。
「さあ着きましたよ! ここです!」
両手を広げて前方を指すシラノ。
「・・・って」
マリスが前方に広がる光景を見て眉を顰める。
「スクラップ置き場・・・?」
マリスの言う通り、そこはスクラップ置き場の様な場所だった。
フェンスで囲まれた広い敷地には、用途のわからないガラクタの様なものが山と積まれている。
その向こうには工場の様な建物も見える。
「ここはさる御仁の私有地でしてね。・・・ま、もっともゴミ捨て場と間違われてよくゴミを捨てて行かれるらしいですけど・・・」
ガチャガチャとガラクタを掻き分けてシラノが進む。
その後をシズマ達が追いかける。
ガラクタの山を抜けると、工場の前は開けた何もない場所になっていた。
そこに、椅子に座って台に置いた金属製の何かをハンマーでガンガンと叩いている男がいた。
つなぎの上からでも盛り上がった肩の筋肉がわかる。
ゴーグルに顔面を濃いヒゲで覆ったハゲ頭の中年男だ。
「お久しぶりです! アジャックスさん!!」
ガンガンとけたたましいハンマーの音に負けないようにシラノが声を張り上げた。
しかしアジャックスと呼ばれた中年男は反応しない。
綺麗に禿げ上がった頭が陽光を反射してキラーンと輝いた。
「・・・むむむ」
その光るハゲ頭に何かを触発されたか、マリスがリュートをケースから取り出す。
(・・・毛を、生やすつもりか)
そのマリスの様子を見ていたシズマが無言でそう思った。
リュートを奏で、マリスが歌う。美しい旋律が周囲に流れ出す。
するとアジャックスが叩いていた金属製の何かのケースの様な物からにょきにょきと毛が生え始めた。
(そっちから生やすのか!!!!)
シズマ達がガーンとショックを受けた。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!???」
アジャックスも驚愕している。
当たり前だ。
「な、何じゃこりゃあああ!!! ワシの発明品が発毛品になっちゃったよ!!!??」
叫んでオタオタしてから、ようやくアジャックスは脇に立つシラノ達に気付いた。
「ぬ、お前ら・・・」
「どうも、お久しぶりです」
ようやく気付いてもらえたシラノが改めてアジャックスにそう挨拶して頭を下げた。

「久しぶりじゃなぁ、銀行屋ぁ。前にお前がうち来てからもう何年経ったか」
「えーと・・・もう2年近くになりますかね・・・」
その後、アジャックスはシズマ達を工場に隣接する自分の住居へと案内した。
小さな小屋である。
ベコベコのブリキのマグカップに全員分コーヒーを淹れて出すアジャックス。
「いただきまーす」
コーヒーを口にしてマリスが「う」と目を白黒させる。
「な、何コレ・・・苦い・・・」
「ぐあっはっは! ワシぁコーヒーはうんと濃いのが好きでな! スマンスマンつい自分の濃さで淹れてしもうた!!」
大口を開けてアジャックスが豪快に笑う。
「で・・・わざわざ尋ねて来たって事ぁワシに何ぞ用があるんじゃないのか」
「お察しの通りです。アジャックスさん」
マグカップを机に置くと、シラノがアジャックスの方を向く。
そして彼はここまでの経緯をかいつまんでアジャックスに説明した。
「ナルホドな! 海路と陸路を塞がれたか!! それでワシの『あれ』を使わせてくれっちうわけじゃな!?」
アジャックスの言葉にシラノが肯く。
腕を組んだアジャックスは、椅子は全部シズマ達が占領しているのでベッドにどかっと乱暴に腰を下ろした。
「話はわかった!! だがタダで協力はできんぞ。ワシの出す条件を飲むのならあれを使わせてやるわい!!」
シズマ達が緊張した面持ちになる。
「いいか・・・? この街の海沿いにある浅瀬、その浅瀬の先に水中から入る事のできる鍾乳洞がある。そこはワシが昔秘密の実験場にしていた場所でな。一番奥に、木箱に入ってワシと死んだかみさんの思い出の品が置いてあるんじゃ。それを取ってきてもらおう。久しぶりに眺めて思い出に浸りたいんじゃが、取りに行くのが大変で・・・」
「わかりました。これですね」
アジャックスの話を遮ってシラノがカバンから小ぶりな木箱を取り出した。
「ええええええええええええええええええええええええええええ!!!!????? 何でえええええええええええええええええええ!!!!!!!!???」
パリン!とアジャックスのゴーグルの両眼が砕け散った。
「こんな事もあろうかと、予め準備しておいたのですよ」
「どんな予知能力!!!!???? てかワシ鍾乳洞の話もこの木箱の話もかみさん死んで10年誰にもしたことないよ!!!!????」
木箱を受け取り、中を検めるアジャックス。
「ほ、本物じゃ・・・」
そして呆然と呟く。
「さて・・・これで協力して頂けますね。アジャックスさん」
そんなアジャックスを見て、シラノがにっこりと微笑んだ。

夕闇が迫る。
西の空が赤紫色に染まっている。
そんな中、シラノとシズマは作業をするアジャックスを見守っていた。
「・・・なあ」
「?」
何となく、シズマは脇に立つシラノに声をかけていた。
「どうしてシラノは、俺たちにここまでしてくれるんだ?」
漠然とした疑問だった。何となく、聞いただけの理由では納得のできない部分がある。
決してこの正体不明の元銀行員を信用できないわけではないのだが・・・。
「あはは、まあ・・・いいじゃないですか。ツカサさんの前に貴方達が現れたように、その貴方達の前には私が現れました。大袈裟に言えば運命のようなものですし、そうでなければ『そういうもの』なのですよ」
そう言ってシラノは視線を遠く空へ泳がせる。
「正しいと信じた事を真っ直ぐ行う人には、そういう思わぬ救援もあるんですよ。だから、そういう場合は『どうして?』ではなく・・・」
先程のマリスの言葉をシズマが思い出す。
「『ありがとう』か・・・」
笑ってシラノが肯く。
そこへアジャックスから2人に声がかかった。
「おおおおおい!!! 準備ができたぞおお!!!!」
一同は『それ』の前に集合した。
「これは・・・」
シズマが目の前のそれを眺めて呟く。
「熱気球」
マリスが言うとアジャックスが「そうだ」と大きく肯いた。
「夜陰に紛れ、貴方達はこれで空から街を脱出してもらいます」
シラノが言うと、アジャックスが籠の中を指す。
「燃料も積み込んでおいたわい。少なくとも央海のロゼッタの島々まではたどり着けるじゃろ。そこからは船を手配するなりどうにかせい」
そう言ってアジャックスはシラノに地図と方位磁石を手渡した。

燃料に火が点され、バルーンが膨らみ始める。
「・・・世話になった」
「どうか、お気をつけて」
シズマとシラノが握手を交わす。
マリスとツカサもシラノとアジャックスに順番に握手して籠へと乗り込む。
熱気球がゆっくりと離陸する。
地上で手を振るシラノとアジャックスの姿が遠ざかっていく。
「このまま、首尾よく海上へ抜けられるといいが・・・」
シズマがそう呟いた時だった。
「・・・何だあれは!」
「下りて来い! お前たち!!」
地上から小さな叫び声が熱気球上の3人に届いた。
「!!!」
シズマが籠から身を乗り出して地上を見る。
共和国兵が叫んでいる。
「くそっ!! まさかこんな街の外れを巡回してる連中がいたとは!!」
「で、でもこっちはもう空の上なんだし、大丈夫じゃない?」
叫ぶシズマに慌てた調子でマリスが言う。ツカサもシズマと同じ様に地上を見ている。
やがて1人の共和国兵が大型の銃器の様なものを担いできた。
「狙撃するつもりか!!」
シズマが表情を強張らせる。
籠の上にいては回避もできない。
共和国兵が大筒から何かを放った。
ドシュッ!!!!!と言う音を立てて撃ち出されたのは先端にアンカーフックの付いた太いワイヤーだった。
アンカーフックはバルーンと籠を繋ぐ太いロープのうちの1本に絡みつく。
「よし、捕捉した!!」
「引け!! 綱を引けッッ!!!」
共和国兵達は数人でワイヤーを引っ張る。
籠が大きく揺れた。
「うわっ!!!」
「きゃあ!!!」
グラグラと揺れる籠の中で、シズマ達が必死に倒れないように籠の縁やロープにしがみ付く。
「くっ・・・!!」
シズマが刀の柄に手を掛けた。しかし大きく揺れる籠の上では狙いが上手く定まらない。
無理に斬り付ければ気球のロープの方を断ってしまうかもしれない。
「・・・!! シラノさん・・・!!」
籠の縁に必死にしがみ付いて下を見ていたツカサが叫んだ。
綱を引く共和国兵達に、鉄パイプを握ったシラノが駆け寄っていた。
「ダメだ! やめろ!! シラノ!!!」
シズマが叫んだ。

「うおおおっっ!!!!」
叫んでシラノが兵士達に鉄パイプを振り回した。
「何だ!!?」
「ぐあっ!!」
鉄パイプで急に背後から殴り掛かられた兵士達は動揺し、ワイヤーを手放す。
籠の揺れが収まった瞬間、シズマは愛刀を鞘走らせた。
漆黒の空に一筋の銀光が走り、ワイヤーを切断する。
熱気球は再び上昇を開始した。
「・・・シラノ!!!」
籠から身を乗り出してシズマが叫んだ。
「キサマ!! 邪魔しおって!!」
「奴らの仲間か!!!」
シラノは地に仰向けに引き倒され、数名の共和国兵から激しく暴行を受けていた。
その中でシラノは必死に空に向けて右手を高く差し上げて、握った拳の親指をグッと立てて見せた。
「・・・シラノさん・・・」
ツカサの頬を涙が伝った。

夜空に熱気球が遠ざかっていく。
その様子を、シラノは倒れた自分に暴行を加える兵士達の隙間から僅かに目視できた。
「ぐ・・・グッドラック・・・」
血で汚れた唇の端に微笑を浮かべるシラノ。
「・・・good luck・・・my friends」