第18話 竜の国から来た刺客-8


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ルクシオンは呆然としていた。
「何故ですか・・・将軍・・・」
「おっと文句は言わさんぞ、コイツを見な。皇帝陛下の署名もある解雇通知書だ」
バサっとスレイダーが懐から出した紙を広げて見せる。
確かにそれは皇帝レイガルドの署名のある解雇の通知書だった。
それを目にしたルクシオンは完全に言葉を失ってしまった。
「・・・・さて、で、ウィリアム先生」
スレイダーがこちらを向く。
「こんな真似しでかしといて恥知らずにも程があるとか自分でも思っちゃいますけどね、この先この娘の面倒お願いしたいんですわ」
「!!!」
その言葉に弾かれたようにルクシオンが顔を上げた。
「スゲーでしょ、ルクは。鍛えりゃまだまだ伸びる逸材ですよ? 竜の血の濃いアタシら帝国民の中でも千人に一人くらしか出てこないドラグーン。そのまたさらにドラグーンでも100年に一人の天才て呼ばれてるんですからねえ」
スレイダーがタバコを取り出して火を付けた。
「けどね、先生。そんなとてつもない才能をただ戦争の為だけに使うのって勿体無いと思いませんかね?アタシら常々思ってたんですわ、この娘には何かこーデカい事させてやりたいってね」
言葉を止め、紫煙を吐き出す。
「けど悲しいかなアタシら戦争屋ですわ。国中そんなだ、呼ばれてケンカに顔出して暴れてくるしか能の無い連中の集まりだもんで戦のやり方や流儀は教えてやれても、それ以外の道なんかどいつもこいつも皆目見当もつきゃしねえ」
自嘲するようにスレイダーが笑った。
「そんで今回のこの島の騒ぎですよ。ホントはアタシら神の門がどうのってどうでもいいんですがね、でも密かに世界中を巻き込んだ騒ぎになりつつある。そんならなんかこー新しい生きる道をこの娘に見つけてやれるんじゃねーかってね。後もう一つ大事なのは帝国って殻に閉じ篭っちゃってるこの娘を外へ連れ出してくれる奴を見つける事。力ずくでね、そんな事ができるお人を見つけられればなってね」
ポン、とスレイダーが私の肩に手を置いた。
「どうですかね先生、アタシらの代わりにこの娘に広い世界を見せてやってもらえませんかね。この通りですわ」
やり方が強引ではないかね?彼女の意思も確認せずに。
「やーこうでもせんとルクは絶対外の世界へ出ようとはしませんからねぇ。必要な痛みです、産みの苦しみって奴ですよ、あ、アタシ子供産んだ事ねーんですけどね」
言われんでもわかるわい。
『生まれ変わるなら俺は鳥がいいな。あんな風に自由に空を飛んでやるよ』
奴の言葉が耳に甦ってくる。
自分が望んで叶わなかった夢を・・・・あの娘に託したのか・・・・レイガルド・・・・。
わかった、と私はうなずいた。ただ、彼女がそれをよしとするならの話だ。
私とスレイダーは一緒にルクシオンを見た。
話は全て聞いていたはずだ。後は彼女が自分で決めればいい。
「・・・う・・・わ、私・・・・」
座り込んでいたルクシオンが立ち上がろうとして横に倒れた。彼女は自身の限界を超えて私と戦った。
身体の疲労と負傷は深刻なはずだ。
カイリが慌てて駆け寄ろうとする。しかしシトリンがそれを止めた。
「私・・・・わた・・・し・・・・」
それでも、必死に手をついて彼女は立ち上がった。足を引きずりながらこちらへ来る。
「・・・・私・・・を・・・」
その歩いた後には血の跡が続いた。
「・・・・私を・・連れて行ってください・・・ウィリアム!」
私の元へと辿り付いた彼女が力尽きて崩れ落ちる。
そんな彼女をしっかりと抱きとめた。

・・・・ようこそ、ここが「外の世界」だ。

葛藤はあっただろう。それでも彼女は自分に向けられた愛情と期待を受け止めて自分の意志で前へと進む事を決めたのだ。
フーッと長くスレイダーが紫煙を吐き出した。
その煙は風に乗って空へと溶けて消えていった。

「・・・・・流石にこの様な結果になるとはわらわの神託でもわからなんだわ」
テトラプテラ女王が微妙な表情で言った。
あれから数日が過ぎていた。
私たちは変わらぬ日常へと戻っていた。
結局あの騒ぎの後、「めでたしめでたしでも何も無かった事にはできん」というヒビキの一言でスレイダーは責任者として屯所へしょっ引かれていった。
まあ散々説教されただけで罪に問われる事はなかったらしいが。
ひぢりは戦いの後でうちでケーキを食べて病院と宿を往復する毎日を送っている。その合間にちょこちょこうちにも遊びに来る。
トーガとは戻ってきた港で別れた。
「とんだ茶番だったな」
にべもなく言う。
「だが本気の貴様を見れたことは収穫だった。その強さ、俺と戦う時まで鈍らせずにいろ」
そう言ってトーガは去っていった。
そして私のオフィスにはスタッフが一人増えていた。
「起きなさい、DD。あなたは昨日十分な睡眠時間をとっています。それに食事の後すぐに寝るのは消化によくない」
例によってソファで昼寝していたDDをゆさゆさと揺らしているのは、今だ身体中の包帯やばんそうこうが痛々しいルクシオンだった。
「えー・・・食べたら眠くなるんだよう。ねーかーせーてー」
「ダメです。私は食後の運動に軽く走り込みに行ってきます。DD、あなたも一緒に行きましょう。ここ数日見ていましたがあなたは少し運動不足です」
よいしょ、とルクがDDを抱えて立ち上がらせた。そして引きずっていく。
「えりりんだっているのにー。何で私だけなのよー」
「エリスリーデルは私の目から見て日々十分にトレーニングをしていますから」
たーすーけーてー・・・・という声が段々遠ざかっていった。
「わらわというものがありながらまた妾を増やして帰ってくるとは・・・・そなたも罪な男よの」
う、風向きが怪しくなってきたぞ。
買い物にいくフリをして私はそそくさとオフィスから逃げ出した。

表に出るとオフィスの道路を挟んだ向かいが改装中だった。
そういえば数日前から工事していたな。
木造りのシックなテーブルと椅子が並び、同じように木造りのカウンターが見える。
喫茶店のような店になるようだ。完成したらコーヒーを飲みに来る事にしようかな。
「いいねいいねこれすごくいいよね。こう男の渋さと重厚さと微かな色気みたいのが滲み出てるような店だよね、オジさんほんとこういうのやるのが夢だったんだよね」
て、なんか聞き覚えのある声の男が工事関係者に指示飛ばしてると思ったら・・・・。
何やってるんだお前は。
スレイダーに声をかける。
「お、先生どうもどうも。やーそれがね、酷い話でさ。ルクがちゃんとやってるか落ち着くまで見届けて帰ってこなくていいとか言われちゃってね。しかもその間の食い扶持は自分でどうにかしろとか言いやがるのよね。なんかやるなら最初の資金だけはどうにかしてくれるって言うんでオジさん前から夢だったコーヒーの美味しいお店やる事にしたんだよ。まあ自分じゃコーヒーいつもインスタントで飲んでんだけどね」
なんか不安な事を言っている。
「まー見てよ先生この素晴らしい店!渋くて格調高いでしょ? もう店内クラシックとかかけちゃうよ。まあオジさんクラシック聞くと寝ちゃうんだけどね」
格調高いねぇ・・・・・。スレイダーをまじまじと見る。
ワイシャツにジーンズにサンダル履きでエプロン姿だった。その辺の酒屋のオッサンにしか見えん。
「あ、おっちゃんいた。ちゃんと豆の仕入れの数字決めてくれよー」
帳面を持ってカイリが出て来た。シトリンも一緒だ。二人ともパリッとした給仕にウェイトレススタイルだった。なんでマスターだけがあんなラフなんだよ。
私に気付いたシトリンが会釈してきた。
「あーん? そんなんカンで適当にやっといちゃってよ、あーでもいくら適当つっても大豆とかカンベンね。大豆ならひじきも一緒じゃないとね」
もう既にコーヒーが出るのかも怪しい店だった。
しかし、何となくいざ始まればちゃんとやるのだろう。
スレイダーの横顔を見る。
・・・・有名な帝国の曲者将軍。その言動や立ち振る舞いから彼の本心を伺い知ることは本当に親しい者しか不可能だという。
無数の言葉のフェイクの向こうに本心を隠した『暁の魔術師』か・・・。
もしかしたらルクが私の神剣に手を出す所から今回のこの結末まで、全てこの男の掌の上の事だったのではないだろうか。
そんな事まで考えてしまう。
「そりゃ考えすぎですよ先生」
スレイダーがニヤニヤ笑ってこっちを見ていた。
くっ、思っても口に出してはいなかったのに!!
「いやなんか先生いつも考えすぎてそうな感じですからねぇ」
ポケットからコインを取り出したスレイダーがそれを高く放った。
そしてそれを手の甲でキャッチしてパシッともう片方の手をかぶせる。
「人生なんかこのコインと一緒ですよ。表が出りゃハッピー裏が出りゃ全部無くしてどん底だ。なるようにしかならんもんですて。考えすぎてもしょうがない。・・・・けどま、それでも希望を失わなければ表が来る確率が上がるんだってね、たまにゃそんなおとぎ話を信じてみるのもいいもんですわ」
すっとかぶせた手をどかす。
コインは表だった。
「ざっとこんなもんです」
私はそのコインをひょいと摘み上げた。・・・・やっぱり両面表だ。イカサマ使いめ。
「まー、おとぎ話と時には少々のインチキもね」
ニヤリと笑う。私もやれやれと苦笑した。

その私たちの頭上をトンビが飛んでいった。
どこまでも続く青空を気持ち良さそうに飛んでいった

~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~