第27話 理想郷計画-7


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

エメラダ・ロードリアスは際限なく魔方陣から魔獣を召喚してくる。
倒しても倒しても次から次へと襲い掛かってくる魔獣の群れに、初めは優勢だった我々も徐々に追い詰められていった。
そして未だ戦闘に参加せずに魔獣達の後方に控えるエメラダ。
これだけの魔物達を従える彼女自身の戦闘力はまだ未知数である。
・・・まずいな。
じりじりと焦燥感が私の内側を焼く。
恐らくギャラガーの物だと思しき強大な魔力波動は今だ中央付近にある。
このままここで消耗と時間の浪費を続ければ全ては悪い方へと一気に転げ落ちて行くだろう。
そう思っても今の私に現状打破の妙案は出てこない。
その時、不意に私の横合いにいた魔獣が一瞬で両断された。
綺麗に真っ二つにされた魔獣は左右に分かたれて崩れ落ちる。
「お困りの様ですね」
一瞬呆気に取られた私の耳に涼しげな声が届いた。
いつの間にか私の隣にはヒビキが立っている。
「助太刀に参りました」
そう言って彼女は私を見て静かに微笑んだ。

「水臭ぇなーセンセ! 俺らにも声かけてくださいや!!」
ドスッ!!と魔獣のうちの1匹を勢い良く串刺しにしてそう声を張り上げたのはジンパチだった。
その隣ではテッセイが小山程もある巨大な魔獣を両腕で抱え上げて地面に叩きつけている。
「まったくですぞ先生! こういう時こそ私の筋肉の出番でしょう!!」
お前たち・・・しかし隊の仕事が・・・。
「いやそれがしっかり有給とらされ・・・(ガン!)・・・いでぇ!!!」
何か言いかけたジンパチの頭部にヒビキが投げた石が当たった。



エトワールの放った強制ランダム転移術「ジャックインザボックス」で飛ばされたセシルとヨギの前に現れたのは『ハイドラ』の1人ツカサであった。
どうやらツカサの目的はセシルであるらしい。
彼女へ狙いを定め、襲い掛かってくるツカサに対し援護に入ろうとしたヨギは正体不明の敵の襲撃を受けた。
「・・・・・・・・・・・」
無言のまま、2丁拳銃を構えヨギが周囲に鋭い視線を走らせる。
その全身には既に無数の傷が刻まれ、血を滴らせていた。
敵はどうやら空中を自在に飛翔できるらしい・・・そしてその姿は不可視、透明なのだ。
ヨギは高速で移動しているらしいその敵の僅かな風切り音を頼りに応戦していた。
(・・・翼を持つ巨大な蛇の様な体躯の生物だ。今の所主な攻撃方法は鋭い牙の並んだ口での噛み付き・・・)
数度の攻防だけでヨギは目に見えぬ相手の正体にそこまで迫っている。
風切り音が近付く。殺意が迫る・・・しかしヨギは今度は回避行動を取らない。
ただ前方へ向け、右手の愛銃「ピースメーカー」を向けヨギは静止する。
そして銃口が1度だけ火を噴き、周囲にガァン!という銃声が響き渡った。
「・・・アディオス」
スチャッと銃をホルスターへ戻したヨギの背後で、彼に触れることなく絶命してその脇を通過した不可視の生物がビルの壁に轟音を立てて激突した。
一息つく間も無く、セシル達の戦いへと視線をヨギが向けたその時、彼の頭上から声がかけられた。
「『忌まわしき狩人』をこれほど短時間で始末するとはな・・・。彼女たちには手出し無用に願おうか、ヨギ・ヴァン・クリーフ」
「!」
ヨギが弾かれた様にそちらを見る。
彼の背後の数階建ての建物の屋上に誰かが立っている。
痩せこけた背の高い白衣の男が・・・。
「・・・ネイロス!」
「だが・・・生憎とただ強いだけの肉体のサンプルはもう間に合っているのだ。夜翔族(ナイトゴーント)よ・・・ヨギを狩れ」
呟いたネイロスの足元で建物の窓ガラスが砕け散り、そこから背に大きな蝙蝠の様な翼を持つ灰色の人型生物が大量に溢れ出し、一斉にヨギへと襲い掛かった。

真紅の魔力の刃を生み出す大鎌「バビロン」を振り翳し、ツカサがセシルに襲い掛かる。
「アニムス」を現界させてセシルは応戦するも、その圧倒的な戦闘力の差に徐々に追い詰められ、傷を増やしていった。
ブン!と大鎌を横薙ぎにするツカサ。その一撃をバックステップで回避するセシル。
かわしきれずにセシルの右肩が切り裂かれて血飛沫が舞った。
「・・・くっ・・・」
セシルが表情を歪める。
1秒反応が遅れていたら致命傷になっていただろう。
ツカサは無表情のままで再度大鎌を構える。
「・・・姉さん・・・姉さんを・・・殺す」
「え?」
ツカサの小さな呟きに、セシルが眉を顰めた。
ツカサは感情の無い目でセシルを見つめている。
「私に兄弟はいないわ」
「・・・お前の認識においてはそうだろう」
声は背後から聞こえた。
セシルが振り返る。ネイロスが歩いてくる。
「だがそのツカサとお前が血が繋がっているのは事実だ。・・・母親は異なるがな」
「!! お父さんが!? 嘘よ・・・お父さんは死んだって・・・」
驚愕し、動揺するセシル。
「母親にそう聞いているか。お前の母ユリアーナはお前に真実を伏せてきたのだ、セシリア。話してやろう・・・真実を」
ネイロスの言葉にセシルの喉がごくりと鳴った。
「お前の父、レオンはルーナ帝國が秘密裏に進めていた女神の細胞を持つクローン体を生み出す実験の被験者だ。その数少ない成功例であるレオンは実験を兼ねて帝國の暗部に所属していた。そこで暗殺対象としてお前の母ユリアーナに出会ったのだ」
セシルは黙って聞き入っている。そこまでは母にも聞かされていた話だ。両者の話に食い違いはない。
「結果としてレオンはユリアーナを暗殺せず、2人で逃げた。そして逃亡生活の最中にお前が生まれたのだ、セシリア」
そしてその後、父は病死したのだと・・・母はセシルにそう語っていた。
「・・・その後数年が経過し、幼子を連れての逃亡生活に限界を感じたレオンは自ら帝國に投降した。お前達母娘の身の安全を嘆願された帝國は、被験体が子供を作ったという事実に興味を持ち、レオンが他の女に子を産ませることを条件にその話を飲んだのだ」
「・・・・・・・・」
セシルの頭の中が真っ白になる。
そして小さく震えながら彼女は振り返った。
相変わらずツカサは感情を感じさせない瞳で黙って彼女を見ていた。
「そうだ・・・その時にお前の父がお前の母以外の女に産ませた子供がそのツカサだ」
「そんな・・・」
呆然とするセシルに冷たい笑みを向けるとネイロスがツカサの方を向いた。
「さて・・・お喋りはここまでだ。さあ・・・ツカサよ、姉を殺せ。同じ『二世体』としてお前の方が優れた固体である事を証明しろ。お前は、暗く冷たいラボから誰かを殺める時にしか出ることを許されなかった。同じ宿命を背負いながらずっと陽の当たる場所で生きてきた姉を憎むのだ」
ツカサが構えた大鎌を振り上げて1歩前へ出た。
「姉さん・・・」
「ま、待って・・・」
反対にセシルは1歩後ずさる。
「殺して構わん。蘇生処置をしてから研究サンプルになってもらうとしよう。・・・最も、蘇生処置といっても精神と感情は回復しないがな・・・クククク・・・」
薄暗い居住区の空にネイロスの笑い声が不気味に反響して消えていった。


ギャラガーがゆっくりと前へ進む。
本来目に見えないはずの魔力の流れが、渦を巻いてギャラガーの周囲に立ち昇るのがうっすらと目視できる。
それはそれだけ彼の魔力量が常軌を逸している事の表れであった。
「あーあ、結局こうなっちゃうのかー」
はーぁ、と苦笑した悠陽が肩をすくめた。
その悠陽の隣では硬い表情で魂樹が弓を構えている。
「ま、あんたと私はいつか戦う事になるって思ってたけどね」
「『戦い』になればの話だがな」
そう言い放ち、ギャラガーが2人へ向けて右手を伸ばした。
そして周囲の風景がまるで溶けるように歪み沈んで消えていく。
代わって周囲を満たしたのは一面の黄色い砂。
・・・そして、その砂に半ば埋もれて朽ちかけた石造りの建物の並ぶ都だった。
「・・・『絶対世界』」
悠陽が周囲を見回して瞳を鋭く細める。
「『忘却の都』・・・為す術も無く乾き崩れて砂と化すがいい」
「・・・!!」
魂樹が自分の服の裾を見て青ざめる。
急速に乾いて風化し始めている。
悠陽も同様に衣服が風化を開始しているのだが、こちらは両手を腰に当てたまま悠然とギャラガーを見ている。
「ゆ、悠陽さん・・・」
魂樹が不安そうに悠陽を見る。
そんな魂樹を見て悠陽は片目を瞑って微笑んだ。
「だいじょうぶ~、私に『絶対世界』は通用しない!」
離れてて、と告げて悠陽が腰を低く落として構えを取った。
そして力一杯右の拳で足元の地面を殴りつける。
衝撃は砂に覆われた世界を揺らし、魂樹は必死に倒れないように両足に力を込めた。
世界にヒビが入る。
亀裂は悠陽が殴りつけた地面から四方へと走り、空まで駆け上る。
『忘却の都』が崩壊していく。
ガラガラと崩れ落ちる砂の世界の向こうに、元の『始まりの船』の居住ブロックが姿を現した。
「・・・いかが?」
ふふっと笑って悠陽がギャラガーを見た。
ギャラガーは自らの結界世界が破壊されても、別段動じた風も無く先程まで同様に無表情に悠陽を見ていた。
「私にとっては『忘却の都』は戦うまでもない相手をふるいにかける程度の意味しかない」
カツン、と靴音を鳴らしてギャラガーが1歩階段を降りた。
「どうやら・・・久し振りに戦うに値するだけの相手のようだ」
そう呟いたギャラガーの周囲に立ち昇る魔力の奔流が、じわりと攻性のものに変化していった。


意識を失ったままの勇吹を抱きかかえたリューが後ろへ大きく跳んだ。
そしてシンラのすぐ近くに着地する。
「・・・頼めるか」
無言でこくんと肯いたシンラが勇吹をリューの手から受け取る。
そしてリューはマキャベリーへ向かって歩いていく。
マキャベリーは薄笑いを浮かべてそれを待ち受ける。
1歩、また1歩と両者の距離が狭まる。
互いに言葉は無い。リューがマキャベリーの間合いに入るまで後残り1歩。
リューもその距離を把握している。
・・・だが彼は足を止めずに、そのままその最後の1歩を踏み出した。
その瞬間にマキャベリーは動いた。
「死ぬがいいクリストファー!!!!」
両手を振るう。
虚空を裂く10条の銀閃。
恐るべき速さと鋭さ、そして軌跡の複雑さを持ってマキャベリーを無敗たらしてめていたブレードワイヤーが舞うようにリューへと襲い掛かる。
「・・・!!!」
リューは全神経を目と両足に集中する。
受ければこの一撃だけでも致命傷になる。回復しているとはいえ全盛時にはコンディションは程遠い。
被弾は許されない。
紙一重で死を呼ぶ鋼の糸を回避したリューが、ポケットに突っ込んだ手を引き抜き、空中に何かをばら撒いた。
「何!!?」
リューが空中に撒いたものは黄金色の繊維らしきものの束だった。
束は空中でふわりと広がってマキャベリーの斬鋼糸に絡みつく。
「何だと!!! ・・・くそっ!! 軽い!!!」
繊維が巻きついた斬鋼糸は急にその重量を減じ、マキャベリーはその操作を失った。
「それは我が大蓮国(ツェンレン)産の翔蹄馬の尾の毛だ、マキャベリー。ヴァイオリンの弓にも使われる最高級の毛・・・その軽さとしなやかさと頑丈さにおいてはこの地上のあらゆる繊維の追随を許さん」
リューが静かに告げる。
舌打ちをしたマキャベリーが斬鋼糸を仕込んだグローブを脱ぎ捨てた。
最早この戦闘に斬鋼糸は使用不能だと判断したのだ。
「まさかこの様な奇策で私のブレードワイヤーを封じてくるとは・・・少々貴方を甘く見ていましたよ」
マキャベリーが格闘の構えを取る。
「ですが・・・ブレードワイヤーを封じただけで私を倒したと思っているのでしたらそれは間違いですよ」
マキャベリーの構えにはまったく隙が無い。
この男がマーシャルアーツの達人でもある事はリューも聞き及んでいる。
格闘は自分に一日の長があるとはいえ、コンディションの差もある。
今徒手空拳でお互い戦えばマキャベリーに分があるだろう。
・・・そう、徒手空拳でお互いに戦えば。
ボッ!!と音がしてマキャベリーの右の腿に指先で抉った様な穴が開いた。
ブシュッと傷口から血が飛沫く。
「ぐああっっ!!!」
叫んで体勢を崩したマキャベリーの、今度は右肩が抉られ同様に血が噴き出す。
「な、何だ!! 何をして・・・」
「お前程の使い手に空手で挑もうというのは確かに自惚れだった」
リューがマキャベリーへ歩を進める。
握り込んで下ろした右の拳の中で、ビシッ!という鋭い音が鳴った。
そしてマキャベリーの左手が抉れる。
「何かを・・・飛ばして・・・!!!」
「暗器は何もお前だけの専売特許ではない」
リューの拳からまた何かが射出される。
咄嗟に身を捻ったマキャベリーのスーツの裾にボッ!と音を立てて風穴が開く。
『烈火指弾』・・・リューは拳の中に握りこんだ無数の鋼球を親指で弾いて飛ばしている。
オーラを込めたその小さな鋼球の一撃は厚さ1cmの鉄板を貫通する威力がある。
再度、指弾がマキャベリーの右足に2つ目の穴を開けた。
痛みの叫びを上げ、マキャベリーが倒れる。
最早勝負ありと見たか、リューは攻撃の手を止めマキャベリーへ近付いて行く。
(・・・そうだ・・・来なさい・・・)
倒れ付すマキャベリーの瞳がギラリと輝いた。
(勝利を確信して近付いて来い・・・そこで地獄を見せてやる!!!)
どす黒い殺意を秘めて、血で汚れたマキャベリーの口元が笑みの形に歪んだ。