第23話 ヤマトナデシコ、来島-3


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ノワールにて作戦会議中。
面子はスレイダー、ゲンウ、テトラプテラ女王と私の4人だ。
かなり異様な面子ではあるが、ものを探る事にかけて私の頼れるメンバーを集めてみた。
事情を説明し、シャークの事を探って貰える様に頼む。
「そなたの頼みであっては仕方があるまい」
「まあ・・・・ってよりオジさん達もこの町なくなったら寂しいし困るしね」
女王とスレイダーはそう言ってくれた。ゲンウは黙っている。
少々虫が良すぎたかな・・・。彼らは全員皆帰る国のある身だ。
ここで危険な橋を渡る必要などまったくないのだ。
それに七星であるゲンウにとって、主君である獣王アレキサンダーはシードラゴン島を、アンカーの町をどう思っているのだろうか。
等と考えているとゲンウが私の視線に気が付いた。
「どうした?」
「や、先生はお宅の返事待ってるんだと思うけど?」
とっさに返事に窮するとスレイダーが横から助け舟を出してくれる。
「そうであったか。沈黙は肯定であると取ってもらって結構だ。異存があれば口にする」
そうか、ありがとう。虫のいい頼みごとだったかと思っていた。
「それに拙者もあの集団はかねてよりきな臭いと思っておった所だ。色々と不可解な点が多い」
「そうなんだよねぇ」
スレイダーがコーヒーを出してくれながら相槌を打つ。
「かなりの資金が流れてきてるんだけどさ、バックが良くわかんないんだよね。オジさんも調べてみたんだけど金の出先とかも巧妙にカモフラージュされててね」
「拙者も調べてみたが、どうやら四王国のいずれかの国では無さそうだという事までしか調べはついておらぬ」
・・・・シャークの背後にいるのは四王国のうちのいずれかの国ではないのか。私の仮説の一つが崩れたな。
「四王国ではないにしたってさ、力のある国は他にもあるしねぇ」
「国家かどうかはわからぬが、それに匹敵する巨大な存在であろうな。かの集団の背後にいるのは」
ゲンウとスレイダーがうーむ、と考え込む。
「わからぬ事をここでどうのと言った所で始まるまい。まずはわかる事を調べてまいれ」
女王が言う。
「確かに。では行ってくる」
ゲンウがシャッと音を立てて消えた。
「オジさんも探りを入れてみる事にするよ」
こうしてひとまずその場は解散となった。

私はその足でアヤメとジュウベイの泊まっている宿屋へとやってきた。
アヤメに部屋へ招き入れられる。
そこは和室になっていた。
ジュウベイは出かけていて留守らしい。
私にとってはそれは好都合だった。
アヤメがお茶を点ててくれる。
私も一応の作法は聞きかじったレベルでは知っているが・・・しかしなんとも落ち着かないな、この正座は。
「わざわざおいでくださったという事は何か進展があったのでしょうか」
アヤメがそう尋ねてくる。
私は肯いて肯定した。
所在そのものはまだわからない、とした上でビャクエンがシャークと呼ばれる危険な集団に現在所属している事を伝える。
「そうでしたか・・・・」
だから君は仇討ちのつもりでも、向こうはそう素直に応じるとは思えないし最悪そのままシャークとの揉め事になる。
それに・・・。
私はビャクエンが元ツェンレンの武術指南役で七星に匹敵する実力者である事も伝えた。
当然あやめも剣術にそれなりの自信があるからこそ、仇討ちとしてビャクエンを追っているのだろうが、そのビャクエンの強さは恐らく生半可なものではあるまい。
情報を提供しておいて返り討ちにされたのでは私も目覚めが悪い。
「先生は私の腕前をお疑いなのですね。ビャクエン老人と戦えるだけの実力があるのか、と」
声に怒った様な響きはなかった。私を見てアヤメは微笑んでいた。
「ご心配有難う御座います。それでは私の腕をお目汚しながらご覧頂きたいと思います」
そう言われて2人で宿の庭に出る。
アヤメが地面に付きたてた丸太に藁を巻いた。
そして刀を抜いて正眼に構えを取る。
む・・・・・。
澄んだ剣気。静かな闘気・・・・なるほどアヤメもかなりの実力者のようだ。
「はあッッ!!!」
剣閃が走る。その数3条。一瞬の事であった。
目の前の丸太がバラリと分解して地に落ちる。
「あ、いけない・・・・私力が入りすぎてしまって・・・」
アヤメが袖で口元を覆った。
丸太の背後、離れた所に立つ巨木の幹が断ち切られゆっくりと倒れていく。
ぬう、あんなに離れた巨木まで・・・・。
倒れた巨木は通りをたまたま歩いていたカルタスの頭部を直撃した。
「ム”!!!!!!!!!!!!!!!!!」
カルタスは頭部を眉毛の辺りまで胴体にメリ込ませて倒れた。
「ファハハハハーッ!今日はバーゲン!!!」
そのカルタスを踏みつけて民子さんが地響きを立てて走り去っていった。

正直なところ、ビャクエンの実力を知っているわけでもない私がアヤメの腕で奴と互角に戦えるのかどうかはそれ以上判断がつかなかった。
もう一つの心配事はジュウベイの危惧だが・・・・ただジュウベイの気持ちはわかるものの、私はそれに関してはどうしていいのかわからなかった。
忘れて生きろ、と他人が口にすることは容易い。
でもそれが正しい事なのかどうかは人によって意見は分かれるだろう。
人の命を贖えるものが命以外にあるのかどうか、それはわからない。
だから、正直に聞いてみる事にした。
・・・あやめはビャクエンの命を奪うつもりか?
そう問われて彼女は少しの間黙った。
そして静かに首を横に振った。
「いいえ、先生私は彼の命が欲しいとは思いません。ただ父の無念を父と私の流派の剣技にて晴らしたいと、それだけを考えてここまで来ました」
しかしあやめはそのつもりでも、ビャクエンは勝負となれば命を奪いに来ると思うぞ。
「それも承知の上です。互いに真剣にて立ち会う以上はどちらかの死が勝負の結果となってしまう事もあるでしょう。その結果は受け入れるつもりです。ただ・・・」
私を見てアヤメが微笑む。
「私の剣は命を奪う為のものではありません。それだけは決して変わらない私の信念です」
がちゃん!と音がして私とアヤメはそちらを見る。
ジュウベイが立っていた。音は彼が持っていた焼き物の狸を落として割った音だった。何故そんなものを持っていたのかはよくわからない。
「・・・・若者とは、思っているよりずっと早く大人になってしまうものなのだな・・・」
そしてまた天を仰いで号泣するジュウベイ。
「蒼雲ーっ!!見ているかあーっ!!御主の娘はこんなに立派に成長しておるぞーっっ!!!!」
だばだばと涙が飛んでくる。
アヤメは慣れているのか、私の側に寄ると番傘を広げた。
・・・しかしこれで私の腹も決まった。
間もなく来るであろうシャークとの決戦、その時はこの2人にも力を借りる事にしよう。
そう思いながら見上げた大空にはジュウベイの涙が作った綺麗な虹がかかっていたのだった。

~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~