第7話 砂海を越えて-2


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砂の海から我々が引っ張り上げたのは迷子のエルフとペガサスであった。
自ら遭遇してなきゃ悪い夢の話か酔っ払いの戯言だと思う所だ。
しかし・・・・。
「気付いていますか・・・ウィリアム」
ルクが背後から小声で言う。私は小さく頷いた。
天馬を駆るエルフ・・・そんな者はエストニア森林王国のペガサスナイツに他ならないだろう。
しかも、マチルダの名前には聞き覚えがある。
深緑の地に闘神ありと謳われる最強の天馬騎士・・・・マチルダ・レン・アリューゼ。
通称『彗星のマチルダ』 神を穿つ槍ロンギヌスを所持し雷を自在に操ると言われる天馬騎士団団長。
・・・・の、はずなのだが・・・・。
「えっとぉ。私お友達と一緒に船でシードラゴン島を目指してたんです。そしたら船長さんがもう少しで島だよって言うから、私この子を少し遊ばせてあげようと思って・・・ずっと船倉の檻に押し込められて可哀想だったから~」
なんか間延びした娘だなぁ。
「なるほどね、それで空をブッ飛ばし過ぎてこの大陸を覆ってる幻視結界を越えちゃったわけね。普通透過するだけでこの大陸へは辿り着けないんだけど、ペガサスは高位幻想種だからね」
ベルナデットが言う。
なるほどそういう事か。
愛馬が優秀過ぎるのも考え物だ。
「下に砂漠が見えて~降りてみたらそのままズボーって潜っちゃってもうどうしようかと思ってたんです~」
どうしようかと思うどころの騒ぎじゃないと思うが、緊迫感がまるでない。
まあしかし、それなら来た手順を逆に辿れば下へ戻れるんじゃないのか。・・・・そのままちゃんとアンカーへ辿り着けるのかどうかはわからないが・・・。
「それはやめておいた方がいいわね」
しかしベルナデットにそれを否定される。
「幻視結界は外から中へ抜ける時より中から外へ抜ける時の方が、かかる魔力的負荷が大分大きいのよ。既にその子、中へ抜けて来た時に大分消耗しているはずよ。その上また外へ出ようとすれば最悪、何らかの障害が残る可能性があるわ」
ペガサスを見てそう言う。
確かにペガサスはグッタリしてしまっている・・・・てゆか砂の中でもがいてたせいの気もするけど・・・・。
「一緒に来ればいいんじゃない? 私たちも最後はアンカーへ行くんだから。どう?ウィル」
私は構わないよ。
「僕!!!」
・・・・・僕は構わないよ・・・・このイジメいつまで続くの・・・・。
「わぁ、ありがとうございます~! ところで、こちらのカバの獣人さんはツェンレンからいらっしゃったんですか?」
「拙者の事かな!!!!!????」
いや、その頭デカいおっさんは人間だからね。

というわけで、私たちは天馬騎士マチルダを同行者に加えて旅を続ける事になった。
マチルダは無邪気に私たちに話しかけては良く笑っていた。
とてもあの七星や六剣皇に匹敵する四葉の筆頭将軍には見えない。
まあ、悪い子には見えないな・・・・そう決めてかかるのも早計とは思うが。
「・・・・あ」
自分の国の事を話していたマチルダの台詞が途切れた。
異変を感じ、身体を緊張させたのは我々も同時だった。
「・・・・何か来るわね」
ベルナデットが落ち着いた声で告げる。
ジュウベイもルクもそれぞれの武器を構えていた。
砂の海が震える。
下から来る・・・・何か大きな力を持った存在が・・・・。
バーン!!!!と爆発音の様な音を周囲に響かせ、大量の砂が空中へ撒き散らされた。
巨大な何かが太陽を背に砂上に姿を現す。
「・・・・・・オーレッ!!!!!」
サンバワームか!!!!!
しかし若干形状が異なる・・・・腹部に並んでいる筈の無数の節足の代わりにヒレのようなものが並んでいる。
やはりこの砂海に適応した進化を遂げた亜種らしい。
大きく顎を開いたサンバワームが我々を食らわんと襲い掛かってくる。
・・・まずいな。この足場でサンバワームの様な難敵を相手にするのは辛い。
しかし、そのサンバワームの動きがぴたりと止まる。
大きな顎を一杯に広げたまま、その顔は空中で静止していた。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
そしてサンバワームはターンするように後ろに跳ねて砂中へと姿を消した。
気配は瞬く間に遠ざかり、やがて消えていった。
「ウィリアム」
ルクが声をかけてくる。
彼女にはわかったのだ。
私もわかった。ジュウベイもわかっただろう。
我々三人の視線がマチルダへと向く。
彼女は愛馬に「びっくりしたね~」と話しかけていた。
今、サンバワームは彼女に怯えて去っていったのだ・・・・。

砂の海を小船が進む。
ベルナデットの話ではこの砂海を抜ければ神都はすぐそこらしい。
とはいえ、この広大な砂海を抜けるには、この船で数日はかかるとの事。
今日もそろそろ日が陰ってきた。
砂漠の夜は冷える。
荷物からごそごそと毛布を出していると、
「おお、ウィリアム、宿があるぞ」
と、望遠鏡を覗き込んでいたジュウベイが言う。
・・・・・この砂海のど真ん中に宿?
前方を見てみると、確かに宿があった。
まるで小島の様な大岩があり、その上に宿があるのだ。
「ちょうどいいわ。今日はあそこに泊まりましょう」
そうベルナデットが言い、我々は大岩へと小船を着けた。
・・・・しかし、こんな所で営業していて客など見込めるのだろうか・・・・。
そんな事を考えながら宿の看板を見る。
『ホテル・ド・宿命』
・・・・・・・・・・・・。
「よく来た諸君!!!我が宿命の宿屋へようこそ!!!!」
大声が響き渡る。
声を主を見る。
その男は宿の屋根の上にいた。
鋼の様な肉体の大柄な老人がいる。レスリングパンツにドテラを着込んだ老人の顔は、プロレスラーの様な口元の開いた派手なマスクに覆われていた。
・・・・来る場所を間違えた気が凄くするんですけど!?
「とう!!!!!」と叫んで老人が飛び降りてくる。
そして丸で猫の様な身軽さで我々の前にシュタッと着地する。
「ワシは砂海の賢者『マスク・ザ・バーバリアン』」
賢者なのかバーバリアンなのかどっちかにして欲しい。
「お前たちがここへ来る事は宿命。避けられぬ運命だったのだ」
重々しく言うマスク・ザ・バーバリアン。
しかし格好のせいで雰囲気はブチ壊しだった。
「我が宿命の宿でひと時の安らぎを得るがよい。ウィリアム・バーンハルトよ」
!!
何故私の名前を!?
「ワシは砂海の賢者・・・・この砂海にあるもの全てを見通すものだ。さぁ遠慮はいらん入るがいい! ルクシオン・ヴェルデライヒ、マチルダ・レン・アリューゼ、そして顔のデカい中年」
「また端折られたわ!!!!」
ジュウベイが叫んだ。
「そして・・・・」
最後にマスク・ザ・バーバリアンがベルナデットを見た。
「まさか我が宿命の宿に『永劫存在』を迎える日が来ようとはな! 歓迎するベルナデット・アトカーシアよ」
そう言って老人はニッと微笑みを見せ、その白い歯がキラーンと輝いたのだった。