第17話 人間模様、空の上-3


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ゴルゴダは自らの指定した二層西部貯水池の畔で私を待っていた。
足音を立てて奴へと近づいて行く。
ゴルゴダが振り返る。その銀色の頭髪が月光を弾いた。
「・・・来たな、バーンハルト」
その金色の瞳が私を捉えた。
神剣を抜き、足を止める。
これ以上は迂闊に踏み込めない・・・。
奴の足元に転がされているエリスを見る。
縛られて猿轡を咬まされているらしいエリスは眠っているように目を閉じて動かない。
最悪の結末が予想され、我知らずに表情に険しさが増した。
「そう怖い顔すんなよ。眠ってるだけさ。傷つけちゃいねえよ」
そんな私の表情の変化を見てとったゴルゴダが言う。
「こうでもしなきゃ、こうやって2人で落ち着いて話せる場も中々ないと思ってな。約束通りお前は1人で来たから、小娘は返してやるよ」
そう言って倒れたエリスから離れるゴルゴダ。
小走りにそちらへと駆け寄り屈みこんでエリスの戒めを解く。
彼女は目を覚ましはしなかったが、呼吸は規則正しかった。
それを確認して一先ず安堵する。
「安心したか? じゃあそろそろ俺の用件を済まさせてもらうぜ」
ゴルゴダが言う。立ち上がって奴を見る。
・・・私に何の用がある。試したい武器が完成したので立ち合えとでも言うつもりか。
先日の奴の言葉を思い出してそう言う。
奴はこの間の長槍ではなく、腰から長剣の鞘を下げている。
長い刀身を持つ剣だ。
「そうだな。新しいのが一本打ちあがった。だから会いに来た。・・・だがな、立ち合えって意味じゃねえ」
そう言うと奴は腰に下げた剣を鞘ごと外して持つ。
「これはお前が使え。その為に打った剣だ」
そう言ってゴルゴダは剣を私へ向けて放った。
・・・・・!?
バシッと山なりに飛んできた長剣を手に取る。
どういう意味だ? あの鞭剣の様な仕掛けで私を傀儡にしたいのか?
訝しげに眉根を寄せると奴へ問う。
「その剣にはそんな仕掛けはねえよ。不安なら気の済むまでお前の仲間達に調べてもらったらどうだ? ベルナデットとかそういうの得意なんじゃねえのか?」
ゴルゴダが言う。
意味がわからん。何故お前が私の為の武器など用意する。一体お前の目的はなんだ・・・?
問われたゴルゴダはその視線を私の神剣へと向けた。
「・・・理由か。理由は『それ』だ。お前のその剣だ」
私のエターナルブルー?
「その剣、休眠状態だろう。本来の力がまるで出せてねえ」
ぬ・・・・流石に「専門家」だな。見ただけでわかるか・・・。
「歯痒いんだよ。お前が扱い切れてないのかその剣がダメなのか知らんが、不完全な得物ぶら下げて戦場に出てくるんじゃねえよ」
初めて表情と言葉の端に怒りと不快感を滲ませてゴルゴダがそう言った。
「魔創師の1人・・・・魔剣の刀鍛冶として俺はその手の歪みには我慢ならねえ」
・・・しかし、教団と敵対するだろう私にこんな真似をしていいのか?
元々この男は教団と同調してるとはまったく言えないが・・・。
「言ったろ。俺にとっては教団なんぞどうでもいい。奴らには言われた武器は提供してやってるし、必要であれば俺自ら増援に出てる。それ以上のことをあれこれ言われる筋合いはねえな」
思った通りの返事が返ってくる。
そしてゴルゴダは頭上の月を仰ぎ見た。
「・・・俺の目的はただ一つ・・・。この世で最強の、究極の一振りを創造する事だ。お前はその為の貴重な『候補者』だ。親切にもしてやるさ」
・・・・「候補者」?
ゴルゴダが視線を下ろして私を見る。そして不敵に笑う。
「そうだ。俺の剣の主としての資格保有者だと言ってるんだよ。俺の剣を手にして『誰にも負けない事』で最強を証明するか、或いは俺の剣を手にした誰かに『討たれる事』で最強を証明するのか・・・。『所有者』も『好敵手』も、どちらも俺にとっては大事な存在だ。お前はそのどちらにもなり得る」
踵を返してゴルゴダが私に背を向けた。
「その剣の名は『ルドラ』・・・嵐の暴君の名を持つ剣だ。まぁ使ってみな。使えばすぐその良さはわかるさ」
振り向かずに歩き出すゴルゴダ。
「・・・また会おうぜバーンハルト! それまで誰にも負けるなよ!! ハッハッハッハッハ!!」
そして笑い声を残響させながらゴルゴダは夜の闇へと消えていった。

「・・・・あれ・・・?」
背中でもぞもぞと身動きする気配がする。
どうやらエリスが目を覚ましたらしい。
「・・・あれ? 私・・・。おじさま・・・? あれ・・・?」
私はエリスを背負って4層へ戻る途中だった。
エリスはよく状況が飲み込めていないらしい。
「私・・・買い物していて・・・それで・・・あれ?」
いいんだよエリス。何でもなかった。
むー・・・としばらくエリスは納得が行かなかった様だが、やがてぼふっと私の背に頬をつけた。
「・・・いいわ。何だかよくわからないけど、おじさまの背あったかいし」
そう言ってエリスはふーっと長い息を吐いた。

「グラスは行き渡ったかー!」
バルカンがジョッキを手に声を張り上げた。
おーっ、とテーブルを囲む面々が各々グラスやジョッキを掲げて声を上げる。
夕食は別れの宴だった。
「それでは我らが友ウィリアム氏とそのご家族一同の別れを惜しんで前途を祝ってカンパー・・・・・イと見せかけてラリアットォォォ!!!!!!!」
「悪は滅びぬッッッ!!!!!」
フェイントからのバルカンの渾身のラリアットを受けたキャムデンが窓ガラスを突き破って庭木に激突した。
「わー、流血が噴水みたいですね~」
皆の分の料理を取り分けながらマチルダが言う。
豪勢な料理に舌鼓を打ちつつ、皆思い思いに談笑している。
そんな中でグラスを手にベルが私に近づいてきた。
「ウィル。カルタスだけどやっぱりまだ退院は無理みたい。退院したら追いついてくるように手配してとりあえず置いて行くわよ」
何!? あいつまだ復活してなかったのか!!
そういえば姿が見えないな・・・。
あんな何やっても1時間後には復活してるような男を完全に病院送りにしたか・・・。
恐るべしプロレス・・・・。

「・・・・なぁ、ウィリアム」
今度私に声をかけてきたのはカイリだ。
表情がいつになく真剣に見えるな。
・・・そう言えば彼は今日はずっと物思いに耽っていたように思える。
「色々考えたんだけどさ・・・今はまだ僕は帰らない。そう決めたんだ」
!!
「修行がまだ途中だし。アレイオンが僕を家に置いてくれるって言うんだ。暫くアレイオンの家で暮らして修行を続けるよ」
そうか・・・。
考えて出した結論なのだろう。まっすぐなカイリの瞳に迷いは見られなかった。
わかった。スレイダーとシトリンには私から伝えておく。・・・頑張れよ。
「うん。今よりずっとずっと強くなって帰る!! 見てろよウィリアム!!」
カイリがそう言って笑う。
そして私たちは固く握手を交わした。

そして翌朝。
神都からやや離れた場所にある庵に設置されているマナトンネルへと私たちは集合していた。
防衛上の理由から神都内にはゲートの類は設置されていないらしい。
まあ当然かもしれん。
いよいよ帰還か・・・。
色々と感慨深いな。
「何だかんだで長い空の旅じゃったのお」
ジュウベイもただ喜んでいるというだけではないやや複雑な表情で神都を振り返った。
最初にここへ飛んだ私とルクとジュウベイは数ヶ月この浮遊大陸にいたからな。
だが、一番感慨深いのはその我々ではないだろう。
ベルを見る。
彼女は荷物の入ったカバンを手に神都の方角を見ていた。
表情は無く、彼女が何を考えているのかはその面持ちからは窺い知る事はできなかった。
そのベルがマナトンネルへと向き直る。
「・・・行きましょう」
ゲートが起動し、周囲が光に満たされる。
我々は1人ずつ順にその光へと足を踏み入れ、光の中へ消えていった。
一番最後になった私が神都を振り返る。
白い多層都市のその上の、澄み渡った青い青空に目をやる。
ここへはきっと、また訪れる事になるだろう。
その時を予感しながら、私も光の中へと足を踏み入れたのだった。

~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~