第4話 古の島-5


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ここは、何処かの空の彼方。
雲海の中に浮かぶ小さな白い庵。
庵の中の調度品も全て白い色で統一してある。
中央にあるものは四角いテーブルに椅子が4脚。
そしてその椅子に着いて4人の人影があった。
いずれもゆったりとした装束に身を包んだ4人の男性だ。
4人の囲むテーブルの中央には球形のビジョンが浮かび上がっている。
そこに映し出されているのは、聖王の鎧の島でのウィリアムたちと襲ってきたラウンドテーブルの死闘だ。
やがてシーンはラウンドテーブルのメンバーが引き上げる所まで進んだ。
「ふーむ…」
一人が深く息を吐いて椅子の背もたれに身を預けた。
「ひとまずテリブルは去ったようだね」
別の一人もそう言って椅子に座りなおした。
テリブルの部分にやけにアクセントがある。
また別の一人が両肘をテーブルに置いて顔の前で腕を組んだ。
「残念ながら…まだ彼らではメギドや円卓の面々と互角に戦うには実力が足りぬようだ」
「そのようだな…」
最後の一人が重々しく肯いて同意する。
「さて、我らはどうするか…」
「このままクワイエットしてルックしてていいのかい?」
すると、一人が静かに椅子を引いて立ち上がった。
「では、私が地上へ降りて彼らを導くとしよう」
立ち上がった一人が穏やかな声で言う。
「頼むぞ」
「この世界の安定と平和の為に」
他の3人も立ち上がる。
そして彼らは互いに深々と礼をし合う。
それが4人のしばしの別れの合図となった。


襲撃者達が去った後、傷の浅いELHと魂樹の2人が他の面々を急いで手当てする。
しかしウィリアムとルクシオンとジュウベイの3人の傷の状態は深刻であり、中でもウィリアムの無残に抉られた両眼に魂樹たちは言葉を失った。
「…先生」
ウィリアムの目に包帯を巻きながら魂樹が涙ぐんだ。
「おめーらが雑魚なせいでセンセがえらい事になっちまってるじゃねーかよ」
ぶすっと不機嫌そうに口を尖らせてエトワールが文句を言う。
そのエトワールを魂樹がキッと睨み付けた。
「放っておいてください! あなたには関係ないでしょう!! 大体用が済んだならさっさと帰って!! 帰りたいって言ってたでしょう!!!」
「なっ!? てめー人の楽しいランチタイムをグロいもんのドアップで台無しにした上に今度は帰れってどういう了見ですかゴルァ!! お帰りの際にはリムジンかテムジンでも呼ぶのが礼儀ってもんじゃねーんですかね!!」
がるるる、と牙をむいてエトワールと魂樹が睨み合う。
そんな2人を尻目に、ELHはルクに包帯を巻いていた。
「…う…わ、私は大丈夫です…それより、ウィリアムを…」
意識が朦朧としているのだろう。焦点の定まらぬ目で、それでもルクはウィリアムを気遣った。
「大丈夫だ…先生殿は魂樹が手当てしておる」
ルクにELHが微笑みかける。すると、ようやく安心したのか、ふぅと息を吐いて再びルクは意識を失った。
だが、その傷口は無残だ。
肉を切り裂かれ、骨にまで届いているものがほとんど。血も相当流れてしまっている。
(筋を…断たれてしまっておる。これでは、傷が癒えても、もう…)
2度と戦える身体には回復しないかもしれない、と声にはせずに思いELHは沈痛な表情を浮かべた。
隣に倒れているジュウベイの傷も酷い。肋骨が滅茶苦茶にされている。
下手に動かせば損傷した骨が内臓を傷付けるかもしれない。
「…ありがとう。手間を取らせてすまないね」
包帯を目に巻かれたウィリアムがそう礼を口にした。
その声ににらみ合っていた魂樹とエトワールがハッとウィリアムの方を見る。
「強かったな。やられてしまったよ…皆の様子はどうだい? 怪我は?」
その言葉に魂樹が辛そうな顔をする。
「ルクシオンとジュウベイさんが、少し傷が酷くて…。早くお医者様にかかる必要があると思います」
「そうか…。では、急いで戻らなければね。すまないが、前が見えない…誰か手を引いてもらえるかな」
ウィリアムが立ち上がろうとしてぐらりとよろめいた。
そのウィリアムをエトワールが支える。
「センセはうちが連れてく。おめーらはそっちの2人を運びやがりなさいよ、ホレ」
「エトワールか…。どうして、君がここに」
エトワールに肩を借りながらウィリアムが言う。
「そりゃうちも聞きたいトコなんですけどね…。ま、今はそんな事はいいんだ。大事なのはセンセと他どうでもいい連中のピンチを華麗に現れたうちが助けたってトコね。ここ大事ですんで、ヨロシク」
そう言ってエトワールはにっこりと笑った。
「君が助けてくれたのか…理由はわからないが、ありがとう」
「イエイエどういたしまして。それ程の事でもあります」
そんな2人を釈然としない様子で魂樹が見ている。
(パンツに呼び出されて好きに暴れただけなのに…)
むう、と魂樹が唇を噛んだ。
『ぉおーっとゥ!! ちょいと待ってもらおうか!! 兄ちゃん方よゥ、あぁーん!?』
突如周囲に響いた声に一同が顔を上げる。
「聖王の鎧、か…」
ウィリアムが虚空へと呼び掛ける。
『如何にもその通り。我は聖王ディナダンの身に纏いし聖なる鎧である。お前たちに大いなる宿命を告げる為に我が元へと呼んだ』
「呼んだって…お陰で私たち酷い目に遭ったんですよ!!」
魂樹が声を荒げて言う。
『ちょぃ待てや!! さっきの連中はオレとは関係ねーべ!? どこいたって襲ってきたと思うぜベイベー。むしろ人気の無いこの島だったから周りに被害が出なくてよかったんじゃねえの? そこんとこ夜露死苦ゥゥゥ!!!』
「つかまずキャラ統一しやがれUZEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!」
キレたエトワールが絶叫する。
するとしばし鎧の声は沈黙した。
『…相わかった。ではこの通りにキャラは統一して我の話を続けさせてもらおう。ちゅーわけで続きだけど』
「統一し切れてねえよ」
半眼でエトワールが突っ込んだ。
「待ってくれ、鎧よ。仲間に傷が深いものがいるのだ。今はあなたの話を悠長に聞いている余裕がない」
ウィリアムが慌てて言う。ルクとジュウベイを早く医者へ連れて行かなければならない。
ウィリアム自身も相当の深手なのだが、彼はここではその事実に考えが及んでいなかった。
すると途端に周囲を白い光が満たす。
上空からの眩い白の輝きが一行を照らし出した。
「む…」
ウィリアムが唸る。顔の傷の痛みが和らいでいく。
『一先ず傷を塞いだだけだが、これで些かの時間の余裕ができたであろう。しばし我が言葉に耳を傾け、全開バリバリオールナイトでオレたちの国境は地平線だぜ』
「もうキャラがどうこうの前に何言ってるかわかんねー」
エトワールがぐったりと肩を落とした。

ウィリアム達が立っている場所から見上げる位置にある丘への岩壁が急に崩れた。
崩れた壁の中に、半ば岩に埋もれて朽ちかけた古い鎧が姿を現す。
錆びて半分崩れて風化しかかっているが、かつては装飾の見事なプレートメイルだったのだろう。
辛うじて形を保っている部位からそれが偲ばれる。
「これが…なんちゃらの鎧だって?」
エトワールの放った小石がカン、と音を立てて鎧に当たった。
『ちょ!! いきなり石投げるかテメー!!!』
「るせーな。こっちは昼飯食べ損ねて殺し合いさせられるわ大事なセンセは大怪我してるわで気ぃ立ってんですよ。これ以上くだらねー事グダグダ抜かすつもりなら元が何だったのかもわかんねーくらいに細かく分解してやってもいいんですがね?」
鎧を冷たく睨んで低い声でエトワールが言う。
『…マジすいませんでした。ホント勘弁してください』
応える鎧の声にはあからさまな怯えが感じられる。
「…弱」
呆れた様に魂樹が小さく呟いた。
コホン、と気を取り直すかの様に鎧が咳払いをする(らしき音を立てた)
『聞くが良い、ウィリアムよ。今この世界はかつて無い危急の時を迎えようとしておる。数多の邪悪なる意思がこの世界の安定と調和を破壊せんと歴史の闇より策動しているのだ。誰かがその悪しき流れを断たねばならぬ。…そして我は数十年ぶりに目覚め、その我らの意思を継ぐ者を探して…』
「じれってぇーッッ!!!! 手短にいけや!!!!」
ズガッ!と鞘に納めたままの愛刀で強く地面を突くエトワール。
『は、ハイ! サーセン!! でですね、その辺ウィリアムにどうにかして欲しいんス! やばい悪い奴らをパパパッとやっちゃってくれって! でも今のままじゃさっきみてーにまだウィリアム達力不足だもんで…まずは『天上都市』を目指して欲しいと思います! ハイ!!』
「…断る。他当たれよ」
あっさりぶった斬るエトワール。
『ええええええええ何で姐さんが返事するんスか!!!?? それに話最後まで聞いてくだせぇ! そっちにとっても悪い話じゃねーはずっス!! 『天上都市』にはこの世界で最高の『再生術師』の一族がいるんス!! 彼らならウィリアムの眼を元通りにできるはずっスわ!!!』
「…!」
それまで興味無さそうに鎧の話を聞いていたエトワールがピクリと眉を上げた。
その目の光が真剣なものになる。
『かつて、我が主…聖王ディナダンも『影の王』との戦いの折に『天上都市』を目指しそこで力を得て戦いに勝利した。ウィリアムよ…汝も聖王の歩んだ道筋を辿るのだ』
「私にそれができるかわからないが…。その『天上都市』とやらへ行くにはどうすればいい?」
慎重に言葉を選んでウィリアムが鎧に返事をする。
『聖王ディナダンは都市の力を誰かが悪用する事を恐れ、戦いが終わった後に天上都市へと続く『ミザールの門』を封印した。そして、その封印を解く鍵が我ら各地に安置されし聖王の遺した武具なのだ』
パアッと上空から一筋の光が射すと、その中を小さな破片がゆっくりと降りて来た。
破片を手にするエトワール。
『我が一部、その鎧の欠片を持っていくがよい。残る3つ、『兜』『剣』『盾』を集めたその時こそ、汝は天上都市へと導かれるであろう』
「残る3つの聖王の武具…」
ウィリアムが呟く。
『ウィリアム・バーンハルトよ…汝は我と出会うずっと以前より既に大きな流れの中に身を置いている。世界すら動かす大きな力の探求を望んだその時に全ての戦いは避けられないものとなったのだ。飲み込まれて消えていきたくないのなら、自らの傍らにいる者達を護りたいと願うのならば…汝は力を得て戦うしかないのだ、ウィリアムよ』
「…………」
それは『神の門』を巡る話なのだろうとウィリアムは思った。
確かに、自分はここで脱落するわけにはいかない。
果たさなければならない約束があるからだ。
『我が一部…その欠片がこの先汝を導くであろう。汝の道行きに光あれ』
ベキッ、とエトワールが手の中の鎧の破片を二つ折りにした。
「…折れたぜ」
『折るなよ!!!!!??』
鎧が裏声で悲鳴を上げた。

鎧の話を聞き終えて、一行はカナンの街へと帰ってきた。
島での戦いから騒ぎになるかと思われたが、長老が上手く皆を宥めてくれたお陰で然程の混乱も無くウィリアム達は宿へと戻る事ができた。
『海獅子亭』の一階。
魂樹とELHとエトワールの3人がテーブルを囲んでいる。
「協会に連絡を取った。間も無く医師が派遣されてくる」
ELHが言う。
「でも、ルクシオンとジュウベイさんは…」
魂樹の呟きに、ELHの返事は無い。
2人とも口にしなくてもわかっていた。ルクシオンとジュウベイはもう旅を続ける事はできないと。
俯いていた魂樹が顔を上げた。
瞳に強い輝きを宿して。
「私は…先生と一緒に『天上都市』を目指すわ。王様に連絡を取って許可を貰う」
うむ、とELHが肯く。
「拙者もそのつもりだ。既に悠陽様にはご許可を頂いておる」
そして何となく2人は、先程から黙ったままのエトワールを見た。
2人の話を聞いていたのかいなかったのか、エトワールは黙ってヤキソバを食べている。
「…あん?」
2人の視線に気付いたエトワールが眉を顰めた。
「あなたはどうするの? エトワール・D・ロードリアス」
魂樹が問う。心なしか、「ロードリアス」の部分を口にする時に声が硬くなっていた。
本質的な部分では彼女は敵対者なのだ。
「どーするもこーするもあるかよ。こっちは忙しいんだ。お前らヒマ人と違ってよ。お仕事沢山抱えてんですよ」
ヤキソバの皿と割り箸をテーブルに置くエトワール。
「…って言いたいトコだけどな。しょうがねーよ、お前らは雑魚だし、センセはあんなだし…このまま帰るワケにもいかなくなっちまった」
「!」
予想外の言葉に魂樹が驚く。
「一緒に行ってやりますよ。有り難がって泣いてもいいんだぜおめーら」
フン、と面白く無さそうに鼻を鳴らしてエトワールはそっぽを向いた。