第14話 渓谷の一族-2


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

対面した日より一夜明けて、前日の内準備を整えていたシンラとジュピターと魂樹は早朝からムーミン谷へと出発した。
マナトンネルを抜けると、そこは谷まで続く森林地帯だ。
木々の生い茂る中、3人獣道を行く。

魂樹は出発から何度もシンラにコミュニケーションを取った。
しかし何を言っても「うん」とか「ええ」とか「いいえ」とか必要最低限の返事しか返さないシンラに、段々と魂樹の口数も減っていった。
魂樹はやや歩調を緩めると後ろから付いて来ていたジュピターに並んだ。
「・・・うう・・・私嫌われてるんでしょうか・・・挫けそうです・・・」
はふ、とため息をついて言う魂樹。
「いえいえ、そんな事はありませんよ、まっきゅん。あなたの会話で少しずつ確実に2人の距離は縮まっています」
ジュピターがそう返事をする。
「誰がまっきゅんか。・・・そうかなぁ。自分ではそうは思えないんだけど」
「好感度ゲージがもう今朝から20ポイントも増加しています。大丈夫」
言われて魂樹がふと考える。
「・・・そのゲージのMAXは?」
「10万です」
ゴスッ!!!!!!!
・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・ジュピターは?」
歩調を上げて自分に再び追いついてきた魂樹にシンラが問う。
「少し休んでから追いついてくるって。ああ見えてあの人かなりのお歳だから」
つんと澄まして魂樹が言う。
「・・・・・ごめんね」
「え?」
いきなり謝られて魂樹が目を丸くした。
「つまらないでしょう、私と話しても。私は皆の様に気の利いた返事もできないし、上手く笑う事もできないから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
魂樹は返事に詰まったが、シンラはそのまま話し続けた。
「あなたはいい人ね、魂樹。先生と皆が帰ってきたら仲良くしてあげてほしい」
「勿論仲良くしたい。だけど・・・」
ぎゅっといきなり魂樹がシンラの手を握った。
驚いたシンラが眉を上げる。
「でもシンラとも仲良くするわ。私がこの島に来て最初にできた友達だから」
そう魂樹が言うと、シンラはちょっと黙った後で
「・・・ありがとう」
とほんの微かに笑って言った。
そんな2人を、ジュピターが後ろから優しい瞳で見つめていた。

3人とも森の中の行動には慣れていたので2時間ほどで渓谷へと抜けることができた。
慣れない者であればその倍はかかっただろう。
眼前にいきなり広がった大渓谷に魂樹が「うわ・・・」と感嘆の呟きを漏らした。
「ほお、これは絶景」
ジュピターも額に手をかざして遠くを見やった。
切り立った山々に挟まれた大河。
渓谷は緑に覆われ、あちこちに滝も見える。
「ここからもう彼らムーミン族の縄張りだから気をつけて。排他的でも攻撃的でもない種族だけど、何が彼らのタブーに触れるかわからないから」
先導して谷を下っていきながらシンラがそう警告した。
ピクリとジュピターの長い耳が動いて彼が足を止める。
「・・・何が失礼に当たるのかは、直接お伺いする事にしましょうか」
「え?」
と、魂樹がジュピターを振り返ったその時、
キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
と上空から怪鳥の咆哮の如き叫び声が響き渡った。
「・・・!!!!!」
咄嗟に魂樹が背負った弓を手にとって構えた。
3人の前にザン!ザン!!ザン!!!といくつもの黒影が落ちてくる。
そして着地に折り曲げていた身体をゆっくりと持ち上げる。
「・・・ムーミン族よ」
シンラが静かに言った。
カバの頭蓋骨の様な頭部を持つ人型の種族。膝を曲げ、極端な猫背であるにも関わらず2m近くある。
ムーミン達は眼窩の奥に赤い光を灯して魂樹たちを見た。
(・・・・あの絵、頭蓋骨じゃなくて頭部そのものだったのね・・・・!!!)
内心の動揺が表情に出ないように必死になりながら魂樹が思った。
笑い声なのかギギギギギギイと軋んだ様な声を上げるとムーミンは口からふしゅううううううと蒸気のような煙を吹く。
「・・・・ジュピター様・・・ムーミン・・・・滅茶苦茶怖いです・・・・」
後ずさりながら魂樹が小声で言った。
「あれ?」
しかしその場にいたはずのジュピターがいない。
「・・・大丈夫ですよ。勇気を持ってファーストコンタクトです! さあ、まっきゅん!!」
ずっと離れた背後の木の陰からジュピターは手を振っていた。
「うわあああああああああああああ超安全圏!!!!!」
叫んだ魂樹ががっくりと項垂れた。
「大丈夫、危険な種族では無いから」
シンラがそう言ってムーミンの方へ進み出た。
「いきなり来てごめんなさい。あなたたちの集落の遺跡に用があるの」
シンラの言葉にムーミン達は顔を見合わせると
「・・・ヨウコソ」
「カンゲイ・・・スル」
ガチガチと歯を鳴らしながら金属をこすり合わせたような不気味な声でそう言ったのだった。

ムーミン達の案内で3人は彼らの集落を来訪した。
谷間に石造りの建物が点々と続いている。
なめした動物の革があちこちに見られ、家屋の煙突からは煙が上がっている所もある。
狩猟民族なのだろうか。
ムーミン達は3人を集落で一番大きな建物へと案内した。
集会所のような建物らしい。
藁で編んだ座布団に3人は腰を落ち着けた。
すると一体のムーミンが大きな果実とストローを3人にそれぞれ手渡した。
「・・・ノンデ」
「ストロー刺して果汁を飲むの?・・・・って、うわあ!!!!!」
手に取った果実を見た魂樹が絶叫を上げた。
果実の表面は人面の形をしていた。
「ウマイヨ」
そう言ってムーミンが果実にブスッとストローを突き刺した。
その瞬間、表面の人面がクワッと断末魔の表情になる。
そしてムーミンがズーっとストローで果実を啜ると、果実はシオシオと萎れていって表面の人面もミイラ化したように萎びていった。
「・・・・ジュピター様・・・ムーミンジュース・・・・滅茶苦茶怖いです・・・・」
引きつった表情で魂樹がジュピターの方を見ると、彼は一生懸命マジックで人面にチョビ髭や額に肉の字を落書きしていた。
そして魂樹のハンマーを受けて沈んだ。
「これは断末魔フルーツ。果汁は美味しい。だけど見た目の問題で普通は果実のまま口にする事はないけど」
シンラがそう言いながらストローで果汁を飲んでいた。
魂樹は果実とストローを交互に見て逡巡した後、結局倒れているジュピターの懐にその果実を突っ込んだ。
「・・・そ、それでよかったら遺跡へ案内してもらいたいんですが・・!!」
誤魔化すように愛想笑いを浮かべて言う魂樹に、ムーミンたちがうなずく。
「アンナイスル」
「フタクミメダ」
ムーミンの言葉にシンラと魂樹がピクリと反応した。
「『二組めだ』? 他に誰かその遺跡へ向かったの?」
魂樹の問いにムーミンたちが首を縦に振る。
「ハンニチホドマエ」
「クロイフクノオトコタチヲ、アンナイシタ」
(黒い服の男達・・・・まさか!!!)
魂樹の脳裏を、この島への海上で交戦した2人の姿が掠めた。
共和国銃士隊!!!
「・・・どうやら」
シンラが立ち上がって自分の大剣を手に取った。
「ゆっくりしている暇は無さそうね」
その言葉に魂樹はうなずいて自分も弓を手に取ったのだった。