第18話 竜の国から来た刺客-3


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帝国の竜騎士、雨月海里と私の友人の妻、斉川ひぢりが公園で一触即発状態になってしまった。
私は慌てて止めに入ろうとする。怪我でもさせたらサイカワに申し訳が立たない。
「・・・・先生は下がってて」
「『大人しく見てなぁ!!このボーヤが今から地面の赤い染みに化けるとこをなあッッ!!』だってさ!」
ガラ悪いっていうかもう言ってることが危険人物みたくなってますよ!?
「帝国竜撃隊、隊長雨月海里・・・・・・行くよ!」
バン!と地を蹴ってカイリが一気にひぢりとの間合いを詰めた。
次いで繰り出される無数の斬撃をひぢりがおしおきピクニックで受ける。
ガキキキキキキキン!!!!! と連続した金属音が鳴り響き、火花が飛び散った。
「受けきるんだ! やるね!! ならスピード上げていくよ!!」
そう言うとカイリは更に攻撃を加速させる。
それをひぢりは凌ぐ。しかし捌き切れなかった攻撃がいくつか彼女の衣服をかすめた。
わずかに血が飛び散るのが見えた。
!!・・・・・いかん・・・・!
「・・・・・・・・」
ぽそぽそと何かひぢりが呟いた。しかしその呟きは聞き取れなかった。
「『速い・・・・・鋭い』だって!!」
よさいさんが言う。
「『・・・・・でも軽い』だってさぁ!!」
バシッ!と横薙ぎにハンマーを振るって攻撃を打ち払ったひぢりがそのまま真上にぴょんと跳んだ。
そして上空でハンマーを縦に構える。
「ぐるぐるあたっく・・・・行きます」
ハンマーを構えたまま高速で身体ごと縦に回転するひぢり。
「『ハイアングル・スピンジェノサイドだッッ!! 食らっておねんねしなボーヤ!!! ヒャッハァッ!!』」
ギューンとまるで円盤のように高速回転しながらひぢりはカイリを直撃した。
「うあああっ!!!!!」
ドガッッ!!!と空気を震わせて炸裂音を響かせ、カイリは地面にクレーターを作ってその中心に沈んだ。
うわ・・・・死んだ・・・・運が良くて全身打撲で再起不能コースか・・・・・。
・・・・そう、『普通の戦士なら』
しかしカイリは竜騎士。
「・・・・・いっっ・・・・・・てー・・・・・・・」
頭からぽたぽたと血の雫を滴らせてカイリが立ち上がった。
こめかみのあたりから伝う血をぺろりと舌を出して舐め取る。
「・・・・やるなぁ・・・・見た目で油断しちゃった。これは僕も本気を出していいよね・・・・」
・・・・・来る。『リンク』する気だ。竜騎士の本気。彼らの本当の恐ろしさ。
カイリの瞳が徐々に金色に染まっていく。同時に彼から感じるオーラが一気に膨れ上がっていく。
しかしその時上空から何かが高速でその場に飛来した。
この気配は・・・・。
「ルク!!!」
カイリが叫んだ。ドラグーン、ルクシオンは丁度カイリとひぢりの中間地点に降り立った。
「そこまでです。海里、剣を収めなさい」
「う・・・邪魔しないでよルク!!」
ルクシオンが静かにカイリを見た。カイリがうっと詰まる。
「町中でリンクを使おうとしましたね、海里。シトリンには何と言われていました?」
「うー・・・・町の近くでリンクしたら絶対にダメだって・・・・」
ルクシオンがうなずく。
「そうです。こんな場所でリンクを使えばいらない敵を増やします。それだけ我々の目的から遠ざかります」
シュンとカイリがうな垂れた。その様子を見てルクシオンが今度はこちらを向く。
「ウィリアム・バーンハルト、腕を負傷していたのですね」
私はその通りだ、とうなずいた。
「そうですか、ではこれを服用しなさい。負傷は即座に完治するでしょう」
そう言って彼女は腰のポーチから小瓶を取り出すとこちらへ放った。それは橙色の液体の入った小瓶だった。
それを私は左手でキャッチする。
「なっ! エリクサー!! 何でだよルク! 1個しか支給されてないのに!!」
「彼が全力を出せない状態では私も困りますので」
・・・そうまでして私との勝負にこだわる理由はなんだ。帝国のドラグーンよ。
「幼い頃から何度もあなたの話を聞かされて育ちました。西方に最強の剣帝がいるのだと。・・・・私は貴方と戦い、勝利して自身と帝国の最強を証す為に来ました。ウィリアム・バーンハルト」
そう言って真正面から私を見据える。その瞳はどこまでも澄んでいた。
「私は14の時に初陣を迎えてより今まで戦場で敵に遅れを取った事は一度もありません。そしてそれはこれからも変わる事はありません」
そう言うとルクシオンはカイリを抱えて肩に担いだ。
「わっ! ルク恥ずかしい降ろしてって!!」
「・・・・船で待っています。私と海里と竜撃隊員がお相手します。腕に覚えのある仲間達と一緒に来なさい」
そう言って振り向かずにルクシオンは飛翔して去っていった。

・・・・これはもう、私が行って彼女と戦うより他なさそうだ。
先ほどのひぢりとカイリの戦いを思い出す
ぼーっと待っていればどんどん事態は悪化する。
しかし・・・・誰を連れて行けばいいのだ・・・・・。
すると袖をくいくいと引かれる。ひぢりが私を見ていた。
「・・・・私が一緒に行く」
「『あのボーヤは殺りかけの獲物だぁ!キッチリ追い込むぜ!!』だってさ!」
・・・しかし、友人の妻をそんな危険な場所に連れて行くわけにはいかんよ。
「・・・・先生、ともだち」
そう言うと初めてひぢりは微かにだが微笑んで見せた。
「『お礼は甘いものどっさりでいいよ!』だってさ!」

そして私はオフィスへ戻ると経緯を皆に説明した。
答えは聞くまでも無く、エリスもDDも同行すると言ってくれる。
胸が熱くなった。私は本当に幸せ者だ。
「残念じゃがわらわは荒事の手伝いは出来ぬ。その代わりと言ってはなんじゃがもう町に帝国軍とそなたのいさかいの噂を流しておいたでの。血の気の多い者が勝手に名乗り出てくるであろ」
テトラプテラ女王が言った。血の気の多い者か・・・・。
そこへオフィスのドアがバーンと開いた。例によってノックは無い。
「先生の一大事にこのカルタスが駆けつけてきましたよー!!!」
・・・・君は血の気が多かったのかカルタス。

その後、私は外へ出た。
ダメ元でスフィーダの店で同行者を募ってみようと思ったのだ。
帝国軍とケンカしに行ってくれる酔狂な冒険者がいるとは到底思えないが・・・・。
ところがその道中、意外な男が私に声をかけてきた。
「待て、バーンハルト」
呼び止められる。振り返った私の目に映ったのはがっしりとした体躯を漆黒の衣装で包んだ銀髪の男・・・・。
シャークの第一部隊長、トーガだった。
「面白い話を小耳に挟んだ。お前がこれから帝国軍と戦いに行くのだとな」
私は頷いた。
「ククク・・・いいぞ、その話俺が乗ろう」
何!? 思わずトーガをまじまじと見てしまう。
「そう変な顔をするな。俺は戦いたいだけだ、他意はない。お前は駒がいる、俺は強敵に飢えている・・・・利害の一致だ。だから互いに貸し借りに思う必要もない」
しかしそんなマネをしてシャークの方はいいのか。
「鮫のルールは町では騒ぎを起こすなと頭の指示に従えとの事だけだ。頭に町の外でお前と共に戦うなと言われた覚えもない」
ぬう・・・しばし考える。言葉に裏表のある男ではあるまい。
「馴れ合う気は無いが戦場では最低限の指示には従う。悪い話ではあるまい」
私にとっては渡りに船の話だ。わかったと頷く。
お前の力を借りる。
「それでいい。この先に冒険者の集う酒場があったな。そこで連絡を付けられるようにしておく。出発の時は俺を呼び出せ」
それだけ言うとトーガは私に背を向けた。
・・・・いつかは敵になる男だ。でも今は頼もしい援軍であった。
去り行くトーガの背に、ありがとうと声をかけた。
トーガはその声に振り返ることなく歩み去った。