第27話 理想郷計画-1


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「この世の支配者」
その男はそう世間で呼ばれていたし、事実その通りでもあった。
世界中の政治と経済に絶大な影響力を持つ超巨大組織ロードリアス財団の頂点にいる男。
ギャラガー・C・ロードリアス。
「我が生涯は常に過ちを正すためにあった」
ギャラガーが言う。薄暗い廃墟の町に朗々とした声が響く。
「『歪み』も『汚れ』も常に悪である。人はこれらを排し『完全』を目指す義務があるのだ。人生とは即ちこの『完全』へと至る道程に他ならん」
・・・?
何を言っている・・・?
「そして大きな力を持つ者は、それに見合っただけの物を背負いそれを成さねばならぬのだ。この私とて例外ではない。故にこの世の歪みを矯正し、世界を正しき姿へと調整し、この世界に生きる者たちを導く・・・それが我が天命であり、この世界の意思である」
ギャラガーは右手を腰に当てると、顎をやや上げて見下ろすように私を見た。
「わかるか、バーンハルト。それが我が宿願『理想郷計画』だ。その為に私は『神の門』を手に入れる必要がある」
『理想郷計画』・・・? 矯正? 調整? ・・・私には何がなにやらさっぱりだ。
大体、『神の門』とは異界へも転移できるワープゲートだろう。それが何故世界の矯正だのという話に繋がるんだ。
「そうか・・・。バーンハルトよ、お前にはまず『神の門』が何であるかの説明からしてやる必要があるか。・・・エメラダよ」
ギャラガーが私の背後で傅いていた先ほどの褐色の肌の女性を見る。
エメラダ・・・そうか。彼女は総帥夫人、エメラダ・ロードリアスだ。
再度エメラダはギャラガーに深く頭を下げて礼をとり立ち上がった。
「では、ご説明いたしますわ。『神の門』の機能と『理想郷計画』の概要を」
そう言うとエメラダは片手を上げる。
上空に魔力でスクリーンが形作られる。
・・・彼らは、私に何を語る気なのだ・・・。



大空に紅蓮の花が咲く。
赤い炎の花だ。
無数のミサイルが飛翔するルクシオンとマチルダのペガサスを追う。
シュヴァイツァーの駆る巨大機動魔道兵器「アマテラス」はその怒涛の攻撃でルクシオン達にまったく付け入る隙を与えてはくれない。
『どうした! 逃げ回るだけか!!』
シュヴァイツァーの声が大空に響く。
「・・・中々頭上が取れませんね」
マチルダの腰に掴まりながらパルテリースがいつもの静かな調子で言った。
「ごめんね~。上は特に弾幕が厚いの」
言いながらマチルダは巧みに手綱を操ってミサイルを回避している。
そのマチルダ目掛けて更なるミサイルの束が放たれる。
「くっ!! 何発搭載してるんですか~!」
「マチルダ・・・下がってください!!」
横合いからルクシオンが「竜閃」(ドラゴンレイ)を放つ。
一直線に空に伸びた赤い光がミサイルを爆散させる。
そしてその爆炎の中で、アマテラスは僅かな間標的の姿を見失った。
(・・・今だ!)
マチルダが槍を振りかざし、全身に雷精を纏う。
「ライトニングディザスター!!!!」
雷電のレーザーが空を駆ける。
『効かんぞ!!! 「電磁結界」!!!!!」
バチバチ!!!とアマテラスが激しく放電しマチルダのライトニングディザスターを無効化する。
「・・・そんな!!」
マチルダが呆然となる。
『バカめ!! お前の様に特技が知れ渡っていれば研究攻略の対象となって当然だろう!!』
響き渡るシュヴァイツァーの勝ち誇った声に、マチルダがきゅっと唇を噛んだ。

その死闘の真下、水晶洞窟の入り口にちりんちり~んと緊張感の無いベルの音を響かせて1台の自転車が到着した。
「・・・雨上がりの夜空に~♪ って・・・何だドカンドカンうるせーな、今日は運動会かぁ?」
自転車を下りたレイガルドが顔をしかめて空を見上げる。
「あー・・・何だ戦ってんのか。どーれ加勢してやるとすっか・・・お」
アマテラスに必死に食らい付くルクシオンの姿をレイガルドが見つける。
「そういう事じゃ俺が顔出すワケにゃいかねぇなぁ。お前はできるよな、ルク。ちっちぇー頃から『自分の事は自分でやれ』って散々教えてきたもんな」
そう言ってフッと微笑むとレイガルドは洞窟の入り口へ向かった。
・・・と思ったら足を止めた。
周囲をキョロキョロと見回して握り拳大の石を1つ拾い上げる。
「・・・1発くらいならいいよな? イヤ、これは決してルクが心配とか加勢するとかじゃなくてだな。単に騒音公害への抗議を込めた一撃であってだな・・・」
誰もいないのにぶつぶつと言い訳するレイガルド。
そして彼は、大きく振りかぶって上空へ向けて石を投げた。

突如アマテラスの後部で爆発が起こり、その巨体が大きくグラついた。
『ぐおおおおぁぁぁぁ!!! 何だ!!!??』
操縦席のシュヴァイツァーが絶叫する。
『左エンジンが大破だと!!! バカなどこからの攻撃だ!!!』
それが地上からの投石によるものだと知る由もないシュヴァイツァーは必死にレーダーの中に敵影を探す。
しかし有効攻撃範囲の中にそれらしき反応は見つからない。
「・・・隙あり、ですね」
そしてその隙に頭上を取ったペガサスからパルテリースがアマテラスの上に飛び降りていた。
「アントワネットちゃん・・・よろしく」
パルテリースの懐からぴょんと子豚のアントワネットが飛び降りると「ぷぎー」と一声鳴いてトコトコとアマテラスの上を歩いていく。
そしてゴアアアアアアッと咆哮を上げるとアントワネットの身体が見る見るうちに変容し巨大化していく。
立派な鬣と角を持つ獅子にも竜にも見える魔獣・・・巨神獣(ヴィヒモス)がそこにいた。
アントワネットが前身を持ち上げ、重力波と共に力一杯前足を打ち下ろす。
「烈震」(メガクェイク)がアマテラスのボディを揺さ振り破壊する。
そして揺らぐアマテラス上で、パルテリースが愛用の細身のロングソードを抜き放った。
剣を地面と垂直に構えて顔の前に置き、彼女が静かに目を閉じる。
「『鋼鉄の幻想曲』(フルメタルファンタジア)」
呟いて目を開いた彼女が剣を振るってアマテラス上を駆ける。
そして途中、子豚に戻っているアントワネットを拾い上げてアマテラスから飛び降りた。
そのパルテリースを空中でルクシオンが抱きとめ、マチルダのペガサスへ戻す。
「・・・また、愉快なものを斬ってしまった」
呟くパルテリースの眼前で、アマテラスの巨体の中央部分に一筋、線が入ったかと思うとそこから前後がズレて分かれた。
次の瞬間、大気を震わせてアマテラスが大爆発する。
「・・・やった・・・」
ルクシオンが呟くように言う。
『・・・いいや、まだだな!!!!!』
爆炎を裂いて黒い影が空に躍り出る。
「・・・っ!! 中にもう一機!!!!』
マチルダが目を見開いた。
それは黒い魔道機械兵だった。アマテラスの様に巨大な物ではない通常の装甲兵サイズの物だ。
手に大剣を持ち、背には翼がある。
『褒めてやるぞ貴様ら!!! まさかアマテラスの中からこの『スサノオ』を引っ張り出すとはな!!!!』
叫びながら大剣を構え、シュヴァイツァーは空中の3人に襲い掛かった。

水晶洞窟に入ったレイガルドは、予め悠陽に説明を受けていた通りの道順で遺跡へと足を踏み入れた。
(・・・む)
その足が止まる。目の前に誰かが先行しているのだ。
赤い髪の男だった。
しっかりとした太目の木の枝を杖代わりに、フラつく足取りで奥を目指しているようだが・・・。
男はレイガルドの目の前で、段差に躓いて膝を折る。
「・・・おいおい」
歩み寄ったレイガルドが男を抱えて起こした。
「げ」
そのレイガルドの手にべったりと赤い血が付いた。
男がクリストファー・緑という名で『ハイドラ』の1人である事をレイガルドは知らない。
「すまないな。誰かはわからんが・・・礼を言う」
苦しい息の中でリューが言う。
彼の眼は既に光を失いつつあった。眼前のレイガルドの顔も薄ぼんやりとしか見えていない。
「行く場所間違えてねえか。この下に医者はねえよ」
言いながらもレイガルドには、この男がもう今から医者へ向かっても間に合わないであろう事がわかっていた。
フッとリューが苦笑する。
・・・彼も、自分の身体がもう手遅れである事を理解していた。
「初めて会う相手にこの様な事頼めた義理ではないのだが・・・どうか下を目指すのなら俺を連れて行ってくれまいか。やらなければならない事があるのだ」
言われてレイガルドが困ったように頭を掻く。
「戻るべきなんじゃねえか? お前の大事な人らが泣くぞ?」
「自分の身体だ・・・自分でもう手遅れである事はわかっている。それに大事な者など・・・」
言いかけたリューの脳裏に1人の姿が思い浮かぶ。
「いや・・・。いるにはいるのだが・・・困った事に既に遺せる物は遺してしまったのだ。遺品のつもりはなかったが、何でもやっておくものだな・・・」
半ば見えていない目でリューが遠くを見る。
その顔には既に死の影が濃い。だが表情はどこか清々しい。
「だからもう本当に思い残す事は何もない。・・・この先に1人どうしても道連れに逝かなければならない男がいる事を除いてな」
そのリューにレイガルドが肩を貸した。
「連れて行くだけだ。事情とか知らんしな。下着いたら勝手にしろ」
ぶっきらぼうに行ってリューを担ぐように歩き出すレイガルドに、
「謝々」
とリューが頭を下げた。

始まりの船の居住区。
廃墟の立ち並ぶ中に一際威容を放つ高層のビル群。
その内の一棟の屋上に風に吹かれる人影があった。
白いスーツ姿・・・財団のピョートルである。
「ンーッフッフッフ・・・役者が揃ってきましたなぁ」
彼は遠く遺跡部、ゲートへと向かうレイガルドとリューの姿を見ていた。
「折角そんな身体に鞭打ってここまで辿り着いたのです。是非、この場にて彼と彼女との邂逅を果たして頂きたいものです」
バッと開いた扇子で口元を隠すピョートル。
「愛と憎しみの交差するその時にこそ、このピョートルの目的も果たされるのですよ。・・・ンフフフフ」
不気味に笑うピョートルの瞳が冷たい輝きを放った。