第18話 うつりゆくもの-7


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「ンでー・・・・・」
バサッと広げていた漫画雑誌を下ろすとエトワールがアイザックを見た。
「その謎の覆面レスラーに妨害食らって逃げ帰ってきました、と。チミはそう言いたいのだね?」
「・・・おっしゃる通りでございます・・・」
アイザックは平身低頭している。
「っのタコ助!!! この間アイドルにやられてみたかと思えば今度はレスラーかよ!!! 何でそんな変なモンとばっか戦ってんのオマエ!!!」
ばん!と雑誌をアイザックに投げつけて怒るエトワール。
(アイドルもレスラーも向こうから首を突っ込んできたんですけどねぇ・・・)
ついでに言えばレスラーには負けたわけではなく、交戦中の所を無関係の市民に目撃されてしまったので撤退したのだ。
しかしこの場では何を口にしても言い訳になる。
アイザックはただ黙って耐える事にした。
「やり返しに行くんじゃったらワシが行ってくるぞ」
ソファを2人分占領して座っている大龍峰が言う。
「いやいーよキリがねえ。その糸目がとりあえずオルヴィエ以外の2人はボコってきたって言うし、それで今回は良しとしとこうぜ」
エトワールがそう言うと大龍峰はやや不満げに押し黙った。
「それにそっちにかまけて本題が疎かになったら本末転倒だっつーの。オラ糸目、ここまででわかった事纏めやがれ」
「はい。では・・・」
とアイザックが頭を上げて資料を手に取った。
「現在『神の門』にはこの島に呪縛された8人の永劫存在の命で封印がかけられているとは前回のミーティングの時に説明した通りです。封印を解除する為には対象の内7人の落命が条件です」
「つまり1人は生き残っていいって事だな。目下うちらは魔人の1人と交渉中。ソイツが自分で言った『手土産』の条件を満たした時点でうちら財団はそいつと組む事にする」
アイザックの説明をエトワールが補足した。
「・・・続けます。封印が解除された時点で神の門は起動しますが、それはあくまでも『運用可能』な状態になったという事であり我々が事由に扱えるという意味ではありません。更にそこから門を自由に使おうと思ったら『マスターキー』が必要となります。様々な情報を解析した結果、門がマスターキーを認識する際の情報が生体コードである事が判明しました」
つまり・・・、とアイザックがそこで言葉を切って一同を見渡した。
「『マスターキー』と呼ばれる存在は『生物』であるという事です」

「・・・つまらぬ」
ふいにそう呟いて部屋の奥の椅子に他の者たちに背を向けて座っていた女性が立ち上がった。
黒衣の女性だった。顔にも黒いヴェールが降りている。
「おい・・・ムーンライト。話はまだ終わってねーぞ」
ブーツを鳴らして部屋から出て行こうとする女性の背にエトワールが声をかけた。
ドアのノブに手をかけてムーンライトと呼ばれた女性が振り返る。
一瞬ふわりとたなびいたヴェールの端から尖った長い耳が覗いた。
「もの探しなど我ら『ハイドラ』の役目ではあるまい。下の者どもにやらせておけ。私の力でしか制圧が不可能な対象があるのなら呼ぶがいい」
それだけ言うとムーンライトは部屋から出て行ってしまう。
「・・・『黒の荊』はご機嫌斜めのようだな」
リューが静かに言う。
「つまり『いつも通り』って事じゃのお」
大龍峰がそれに応じた。
「やっぱアイツもどっかにぶつけてやりゃよかったかね?」
ギイっと椅子を鳴らして両手を頭の後ろで組んだエトワールが身体を反らせた。
「考えたんだけどねー。帝国の連中がいるらしいじゃん? ガルディアスの。そいつらにぶつけてみようかなってさあ。でもあれじゃん? ガルディアスって事はアイツの国だからさ」
「皇帝レイガルドですね」
アイザックも難しい顔をする。
「『世界3強』の1人だ。無闇に刺激するもんじゃねーかなーってさ」
机の上に投げ出した足を組むとエトワールはそう言って天井を見た。
「世界3強か・・・。皇帝レイガルド、天河悠陽・・・そしてウチの総帥じゃの」
大龍峰の言葉にリューが閉じていた目を開く。
「今はもう当て嵌まらん言葉だな」
「・・・じゃのう」
その場にいる全員の脳裏に、3強と呼ばれる3人の他にもう2人思い浮かぶ顔がある。
「そーゆーこと。3強の時代はとうに終わってる。だからうちは晴れて世界相手にケンカができるんだからよ。『5強』の内の3人が財団にいるんだ。マイアンクルとラゴールとキリコがな」


降りしきる雨の中、傘をさした人影が一つ町中に佇んでいた。
鷲鼻の男は顎鬚をいじりながら面白くなさそうな表情で人通りの消えた通りを見ている。
男は鳴江漂水だった。
(来ても2人だと思ってたんだがなぁ・・・いきなり4人も来やがるとは、『ハイドラ』)
漂水はポケットから手帳を出すとペラペラとめくり始める。
(しかもその内1人はラゴールときてやがる。バランスとってやらなきゃいけなくなっちまったじゃねえか。めんどくせえが・・・)
メモの中に一つの電話番号を見つけて漂水が電話ボックスに入った。
回すダイヤルは遥か異国の番号だ。
何度目かのコールの後、誰かが電話に出る。
「あーどーも。代表お願いしますわ、天河さん」
漂水のその言葉に対して、受話器の向こう側の事務員らしき女性が何事か返事をする。
「あ、俺? 鳴江漂水つってくれ。それで通じるはずなんで」
その後暫くの間話し込むと、漂水は受話器を置いてボックスを出た。
「お次は教団かよ。こっちはもう直接行くしかねぇなぁ・・・。やれやれだぜ。霧呼さんが上いる間は行きたくなかったんだがなぁ」
雨模様の天を仰ぐとそう言って漂水はため息を一つついた。


アンカー総合病院の廊下をばたばたと慌しく通り過ぎる数名の足音があった。
「廊下は走ってはいけません! 祟りますよ!!」
骸柳婦長の怒声が響く。
「・・・で、皆命に別状はないんだよね?」
先頭を急いでいたDDが確認するように振り返って言った。
「そう聞いているわ。相手が誰かはわかっていないみたいだけどね」
冷静に返事をしたのはベルナデットだ。
「誰が一体そんな真似を・・・。あのマチルダやオルヴィエ達を相手に・・・」
ルクが眉根を寄せる。
その隣で無言のままジュピターがややうつむいた。
(考えられるのは財団の者達・・・しかもそれだけの腕となるとハイドラクラスでしょうね・・・)
病室の前にはマスク・ザ・バーバリアンが腕を組んで立っていた。
「・・・ば、バルカン!? 何してんのこんなとこで!!?」
DDがバーバリアンを見て驚いて目を丸くする。
「生憎だがワシはそのバルカンという者ではない。ワシの名は砂海の賢者マスク・ザ・バーバリアン」
重々しく名乗るバーバリアン。
「そっか! まあどうでもいいや。それで皆の様子はどうなの?」
どうでもいいと一蹴されてバーバリアンがしょんぼり俯く。
病室のドアの上には「手術中」のランプが光っている。
その時、突然病室の中から絶叫が響き渡った。
廊下の皆がビクッと飛び上がる。
「・・・・に、肉だ!! 肉が切れた!! 肉を持ってこいィィィィィ!!!」
そこへ香ばしく焼けた串刺しの肉や野菜を鉄板の上に満載したワゴンが看護婦に手押しされてやってくる。
「すいません、通ります!!」
ワゴンは手術室へと入っていった。
「よぉぉぉぉし肉が来た!! これで私は無敵!!!!」
「あああ先生!! クランケに!クランケにタレがこぼれています!!!」
「先生! それは串です!! メスはこっちです!!!」
手術室の中から引っ切り無しに響いてくる叫び声に、一同なんとも言えない表情で互いの顔を見合った。
「私はスーパードクターBBQ!! 串でオペするくらい造作も無い事だ!!!」
「そうじゃねーから!! 汚ねーから!! 不衛生だから!!!」
相変わらず叫び声とドタバタと暴れる音が手術室から響いていたが、やがて扉の上の「手術中」のランプが消えた。
手術室の中がシーンと静まり返る。
やがて扉がゆっくりと開いて白衣の男が出てきた。
顔に縫い傷があり、額に「B」の文字がある男だ。
「・・・先生、どうだったんですか・・・!」
エリスが医師に問うと、医師は難しい表情ながらもしっかりと肯いた。
「オペは成功だ。もう心配はない」
その一言で皆がホッと安堵の表情を浮かべる。
そこへ患者を乗せたベッドが廊下へ運び出されてきた。
一斉に皆がベッドへ駆け寄る。
そこには巨大なシイタケの頭部を持つ患者が横たわっている。
「サービスだ! 治療だけでは物足りなかったのでシイタケマンにしておいたぞ!!!」
「ちょっ・・・!!!!」
エリスがぐわっと医師の襟首を掴み上げた。
「何で改造してんのよ!!! 元誰よこれー!!!!!」
午後の病院を震わせてエリスの絶叫が響き渡った。