第4話 古の島-4


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ガンッと椅子を蹴り飛ばしてエトワールが立ち上がる。
「てめー、食事中の美少女に唐突に変態的行為に及ぶたー神が許してもまずお巡りさんが許してくれねーと思いますよゴルァ!!!!」
「な、何故だ…拙者は頼もしい味方を呼んだはずなのに…」
青紫色の顔色で、口の端に泡を浮かべつつ悶絶したELHが呻く。
その言葉を聞いてエトワールはハッと呆れた様に鼻で哂った。
「冗談は存在だけにしとけよてめー。うちのどこが味方だ。言っとくけどうちの殺すリストじゃてめーはトップに名前が…っつか永久名誉筆頭の勢いだぞこんにゃろー」
そう言うとエトワールは周囲をきょろきょろと見回した。
「大体ここどこだっつーの。とりあえずかつてないレベルでホームシックなんでさっさとお家に帰りてーんですけど」
そしてエトワールとみる茶の視線が合う。
「…?」
小首をかしげるみる茶。
(ははーん…コイツら『ユニオン』と揉めてやがんのか…)
わずかにエトワールが目を細める。
「ま、うちには関係ねーな。好きに気が済むまで殺し合って下さいよって…」
そして皆に背を向けたエトワールがザッザッと歩いていく。
ふと、その瞳に離れた岩場に倒れているウィリアムの姿が映った。
「!!!! …センセ…」
呆然としたエトワールが足を止める。
ウィリアムの顔面は両眼から流れ落ちる血で赤く染まっていた。
「…っ」
ギリッ!とエトワールが奥歯を噛んで踵を返した。
魂樹達の方へと戻ってくるエトワールを三者が複雑な表情で見る。
「…来い、『黒い衣装箱』(ブラッククロゼット)」
呟いたエトワールが前方へ右手を翳すと、虚空に黒い渦が現れた。
そして突然無造作にエトワールが着ていたブラウスとスカートを脱ぎ捨てる。
「うわうわうわ」
下着姿になったエトワールから慌ててELHが目を逸らした。
「こっち見てんじゃねーッッ!!」
その背をエトワールが怒鳴りつける。
(自分は平気で脱ぐのに、誰かに脱がれるとああなのね…)
そんなELHを眺めて魂樹が思った。
黒い渦に手を突っ込んだエトワールがそこから戦闘用の衣装を引っこ抜く。
インナーウェアを着込み、鎧を身に纏って、最後に黒い陣羽織を羽織って腰に愛刀、真打業物の『紅乱世』(くれないらんせ)を差して彼女の武装が完成する。
「ふむ…何だ、結局戦るのかい?」
戦闘準備を整えて自分と向き合ったエトワールに、みる茶がそう言って腕を組んだ。
「ああ、お蔭さんでこっちにてめーらを殺る理由ができちまいましたよ」
そのみる茶を睨み付けるエトワール。
「うちの知らねーとこでセンセいじめてくれやがって…。その綺麗なお鼻を今からブチ折って自分の鼻血で溺死させてやるよ、覚悟しやがれ」
犬歯を見せてニヤリとエトワールが笑った。
しかし瞳は冷たい光を浮かべて鋭くみる茶を見ている。
人喰い虎の眼だ…と、魂樹は思った。
「面白いね。一応名前聞いておくよ」
名乗って、と煽るように手招きするみる茶。
ふん、と鼻を鳴らしてエトワールが鞘に納めたままの愛刀を抜いて肩に背負った。
「なら冥土の土産に持ってきな…うちの名前はエトワール・D・ロードリアス。世界を滅茶苦茶にブッ壊す無敵の美少女だ」
みる茶が名乗るエトワールをやや瞳を細めて見た。
「成程、君があの有名な財団の鬼姫なのか」
そしてみる茶が胸を反らせる。
「私は秘密結社『ユニオン』のラウンドテーブルの1人…」
「あーいいよ、名乗んなくて。今からミンチにする奴の名前なんか興味ねーし、どうでもいいです」
バッサリ切られてみる茶が泣きそうな顔をして俯いた。
「…………・」
(す、すごい落ち込み方…)
自分の所まで漂ってきそうな程の負のオーラに思わず魂樹がたじろいだ。

エトワールがチラリと上空を見上げた。
「極光精霊(オーロラエレメンタル)か…」
呟くエトワール。
その脳内は高速で回転し、記憶の中の知識からオーロラエレメンタルの特性を呼び出していた。
(あれが空高く集めてあるのにはワケがある。オーロラエレメンタルは上空にあればあるほど光量…破壊力が増す特殊な精霊。だから普段は上空に控えさせておいて術者は必要に応じてそれを威力の純度を保ったまま一気に地上へ落とす。弱点は…)
エトワールが視線を下ろし、みる茶へと向けた。
(弱点は、予備動作から技の出を悟られやすい事と、遠方からの攻撃の為の着撃までのタイムラグ)
対するみる茶もエトワールを見ていた。
(あの目は…怖いなぁ。『大体わかった』ってそういう目だ)
手元に数体のオーロラエレメンタルがいる。回転する七色の光の剣。
しかし地上へ下ろした極光精霊は光量を減じられている。
これでは1発当てて相手をしとめると言う訳には中々いくまい。
トン、トン、とエトワールがその場でステップを踏む。
(距離を詰める。懐に入ればもう上のキラキラはいねーのと一緒だ)
迎え撃つ様に、みる茶が腰をやや落とし気味に構えを取った。
(距離を詰められたくないな。ショートレンジでは上空のオーロラエレメンタルが無力化される)
互いの思索が集約する。視線が交錯する。
エトワールが見上げてオーロラエレメンタルを視認してよりわずか2秒。
地を蹴り、美しいブロンドの長髪をなびかせてエトワールはみる茶に襲い掛かった。

一瞬にして、エトワールはみる茶の間合いを侵略していた。
(…迅い!!!!!)
その為、みる茶は迎撃の為に用意していたいくつものプランを全て放棄せざるをえなくなった。
「ブレイドアーツ…『暴君来襲』(ジャガーノート)!!」
ジャッ!!!と袈裟懸けに斬り下ろされた太刀の一撃をみる茶が超人的な反射神経で回避する。
しかしエトワールの攻撃はここからが本番だった。
間髪入れずに鋭いローキックがみる茶を襲う。
(…膝!!)
咄嗟にエトワールの狙いを察したみる茶が足を上げてブロックの体勢を取る。
ガッ!!!とブロックの上にエトワールの蹴りが炸裂した。
その蹴りに使った足を下ろすよりも早く、エトワールが反らせた上体を弾かれた様に引き戻した。
同時に鋭く左の手刀を繰り出す。
(喉笛!!)
上体を横にスライドさせて回避するみる茶。
次に襲ってきたのは右手に握った刀の柄だった。
(鳩尾!!)
下げた両手でブロックする。しかしエトワールはそのブロックを支点にくるりと身体を回転させる。
唸りを上げて放たれるハイキック。
(蟀谷!!)
刺指。
(両眼!!)
どれも急所やダメージを受ければ大幅に戦闘力を減じられる箇所ばかりを狙った怒涛の連続攻撃を全て捌くとみる茶はエトワールから距離を取った。
流れる汗を手の甲で拭って、ふーっと長く息を吐くみる茶。
「てめー…全部しのぎやがりましたね?」
不機嫌そうにエトワールが言う。
「やれやれ…おっかないお姫様だね」
みる茶が苦笑して首を横に振った。
「……・」
無言で2人の攻防を見ていた魂樹が知らず知らずの内に咽をゴクリと鳴らしていた。
一瞬の出来事だった。
両者の影が重なり合った瞬間に無数の攻防があった。
打撃音はほぼ1つに重なって聞こえるほどの刹那の間に。
「あ奴の本気はまだあんなものではないがな…」
「!!」
驚いて魂樹がELHを見る。
ELHは腕を組んで真剣に両者の戦いを見ていた。

再びエトワールが腰を低く落として飛び出す体勢を取る。
「もっと速く、もっと強く、か…」
小さく呟く。
全身に爆発力が充填される。
「ブレイドアーツ…『猛虎暴虐』(タイガーランペイジ)」
ガッ!!!と蹴った地面が抉られて石片が散った。
瞬間、吹き荒れた突風に魂樹とELHは目を細めた。
暴風と化したエトワールが太刀を振るう。
「…!!!!」
反応は間に合わない。
ザシュッ!!!とその一刀がみる茶の肩口を斬り裂いた。
その血飛沫を裂いてエトワールの拳がみる茶の頬に炸裂する。
「ぐぅっ!!!!」
唇の端から鮮血を吹きつつ、みる茶がぐらりとよろめく。
そしてここまでは彼の計算通りだった。
次は避け切れないと悟った彼は、既に被弾する覚悟を決めて今の攻撃を迎え撃った。
最初から受けるつもりで被弾する箇所を巧みに誘導し、ダメージを最小限に抑える。
…そして、狙うのは攻撃を放った直後の無防備な瞬間。
「極光烈閃弾(フェイルノート)!!!」
無数の七色の光の弾丸が至近のエトワールの身を穿つ。
光弾は鎧を抉って彼女の肉体を穿ち、鮮血を散らした。
怯んだエトワールに向かって手にしたオーロラエレメンタルを振り上げる。
「極光裂空断(カラドボルグ)!!!!」
「…てめーチョーシ乗んじゃ…ねーよ!!!!!」
振り下ろされた七色の光剣の一撃を下に掻い潜ってかわす。
眼前にはみる茶の無防備なボディ。
そこを狙って、エトワールがみる茶を蹴り上げた。
「ぐふッッ!!!」
胸部を激しく蹴り上げられて鮮血を吹いてみる茶が宙を舞う。
「げ…やべ!!!」
エトワールの表情が凍った。まんまと自分が誘いに乗ってしまったことに気が付いた。
みる茶の狙いは初めからそれだったのだ。
わざわざ自分で彼が上空へ逃れる手助けをしてしまった。
空を舞うみる茶がニヤリと笑って右手を大きく振り上げた。
上空の光のカーテンが煌く。
「…極光斬神剣(バルムンク)!!!!」
ズアッ!!!と天から一直線に巨大な七色の光の柱が撃ち下ろされた。
ガッ!!とエトワールは足元の岩場に愛刀を突き立てると、自由になった両手を頭上へ上げて迫り来るバルムンクの光へと向ける。
「『滅びの姫君』(ドゥームプリンセス)」
掲げたエトワールの両手の先から漆黒のエネルギーの渦が発生する。
直撃した光の柱を、闇の渦が散らして四散させる。
だが、その渦を支えるエトワールは徐々に押されていく。
「…うおおおおっっ…!!!」
エトワールが吼えた。
「乙女の底力…ナメんじゃねーッッッ!!!!!」
そして周囲を閃光が埋めて、次いで大爆発が起こった。

「…う…」
吹き飛ばされていた魂樹がゆっくり身を起こす。
すぐ近くの地面には地面に突き刺さったELHの褌姿の下半身が見えた。
専門用語で言う「スケキヨってる」である。
周辺の地形は無残に変わり果てていた。
大きく抉られた岩場。そこはもともと小山があったはずだった。
その中央に立つエトワールは大きく肩で息をしている。
「やっぱ離れて撃ちあうとやべーなァ…」
ギラリと前方を睨みつけるエトワール。
その視線の先にいるのは、緑色のローブの青年。
「やだなー…バルムンクぶつけたのに生きてるとか。でも、もう1回当てればそれで終わりだね」
再び上空へ向かって右手を振り上げるみる茶。
エトワールも構えを取って飛び出す体勢になる。

『…そこまでだ』

「…!!」
突如周囲に響き渡った低い声に、両者は同時に顔を上げた。
「…今度はどこのどいつ様だよ」
エトワールが周囲を見渡すが、人影らしきものはない。
『聖域を汚す悪しき者どもよ。これ以上の狼藉は許さぬ。立ち去るがよい」
「…やだもん」
ぷいっとみる茶が横を向いた。
『大人しく立ち去るがよい!!』
響き渡る声が若干強い調子になる。
頬を膨らませてぶんぶん首を横に振るみる茶。
「帰らないもん」
『帰れつってんだろ!!!! このガキャーッッッ!!!!!!!!』
ついに響き渡る声は絶叫した。
しかも余程興奮しているのか、語尾が少し裏声になっていた。
「…う」
じわっと目に涙を浮かべたみる茶がごしごし目頭を手でこすった。
「あーあ…泣かせちまいやがりましたよ」
ぽつりとエトワールが呟く。
『だ…だってよ!! 大人しく言ってる内に帰らないからこっちもさぁ…!!! あ、自分聖王の鎧なんだけども!!!』
声は狼狽していた。ついでに名乗った。
不意に上空から飛来したブリュンヒルデがみる茶の脇に降り立った。
同時にそのすぐ近くに発生したおでんつゆからおでんが這い出して来る。
「みる茶が泣かされたのでここまでだな」
おでんが言うと、ブリュンヒルデがみる茶の頭をぽんぽんと優しく叩いて撫でた。
「…帰ろ」
「うん…帰ってアイス食べる」
ボワン!!と煙を噴き出したかと思うとみる茶が8匹の小パンダになった。
8匹はブリュンヒルデの頭に上ったり背中に負ぶさったり胸に抱かれたりして纏まる。
そして再びおでんはつゆの中に消えて行き、ブリュンヒルデは最後に離れた岩場に倒れているルクをチラリと一瞥して、飛翔して大空に消えていったのだった。