第25話 終わらせる者、繋ぐ者-4


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大勢の観光客で賑わうマジカルランドを背景に2人の魔人が火花を散らす。
1人は『焼き尽くすもの』
煉獄の火炎の使い手、炎の魔人グライマー。
1人は『圧し流すもの』
大瀑布の令嬢、水の魔人ヴァレリア。
「・・・気に入らないわね類人猿。溺れ死にたいの?」
ヴァレリアが身に纏ったオーラを増大させる。
・・・う、相変わらず『領域』外で全力ではないのに圧倒されそうなオーラだ。
「ハッ!面白ぇ・・・てめえのチンケな水鉄砲でこの俺様の炎が消せるか、試してみるか!!」
グライマーもオーラを増大させる。こちらも彼女に勝るとも劣らない強大なプレッシャーだ。
・・・まずい、どうする・・・。
こんな所でこの2人が戦えば大惨事になってしまうのは明白だ。
身体を張って止めに入っても果たしてどれだけ被害を抑えられるか・・・。
と、私が内心で焦燥していたその時。
「ハロー、ケンカはダメだよぉ~」
おお、閣下が仲裁に入ったぞ!!
流石は僕らの味方レミングス将軍閣下!!
「俺もケンカにはどちかというと大反対」
おお、謙虚なナイト!!
「・・・そうよ、あなた達少し落ち着いたら?」
そこにベルも加わる。
「こんな場所で大騒ぎを起こせば、勝ったってもうこの町にいられなくなるわよ。それでもいいの?」
言われて流石に2人が気勢を削がれる。
ここに顔を出せなくなれば、彼らには世捨て人のような生活が待っている訳だし気持ちはわからんでもない。
「見なさい、あれを」
ベルが指さす方向を皆で見る。
・・・何だあれは、新しいアトラクションか?
オープンになった列車のような乗り物に乗って線路を走るのか。
看板には『本日オープン!! 新感覚絶叫マシン「ソウルブレイカー」』とある。
「あれに乗って叫ばなかった方が勝者・・・それでどう?」
なるほど、それなら平和的に決着が付きそうではある。
「絶叫マシンか!! 俺様の大好物だぜ!!!」
ぐっと拳を握り締めてグライマーが言う。
「結構よ。野猿の絶叫を聞きながらアトラクションを楽しむのも一興よね」
ヴァレリアも乗り気のようだ。
「バロー!!!!!!! だからケンカはダメだつってんだろうが!!!!! ブッ殺すぞ!!!!!!!!!」
わああ何で仲裁者が一番ブチ切れてんですか閣下!!!!

というわけで何だか絶叫マシン対決になってしまった。
・・・ふうむ。
改めてそのマシンを見てみる。
列車は高速で線路を走り、更にその線路は途中で山なりになっていたり大きく円を描いていたりしている。
絶叫マシンと言うだけあって乗客は皆キャアとかワーとか叫び声を上げていた。
・・・何だか心臓に悪そうだなぁ。私は遠慮しよう・・・。
列車には横2つの座席が付いており、グライマーとヴァレリアは並んで先頭の車両に乗り込んだ。
ガタン、と列車が線路へ滑り出す。
我々は皆下に残って観客だ。
ゴーッと唸りを上げて列車は進む。
傍で見ていてもこれだけの速度なのだ。きっと実際乗っていれば更に凄いんだろうな・・・。
・・・むう、しかし流石に大口叩いて出ていっただけあって2人とも平然としている。
これはドローになるんじゃないのか?
「でもおじさま、何でもこのアトラクションの山場は最後なんですって」
パンフレットを眺めていたエリスが指さす。
ゴール直前がちょっと長めのトンネルになっているようだ。
あのトンネル部分が山場なのか?
「・・・えーっと、何でもあそこに魔術がかけてあって、中を通ると深層心理からその人が最も恐れているものが実体化する、ですって」
何だそれ物騒な!!!
アトラクションでそういう叫ばせ方ってどうなんでしょうかね!!!
名前の通りに本当にソウルがブレイクしてしまうぞ。
・・・列車が問題の「山場」に差し掛かる。
『・・・・キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!! いやああああああああ!!!!??? 来ないでええ!!!お化けええええええっっっっ!!!!!!!!』
めっさ叫んどる。
「お、お嬢様っ・・・!!??」
下では執事がうろたえていた。
やはりヴァレリアは霊が苦手か・・・。これは勝者はグライマーか?
『・・・・・うおあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!! くじらああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』
・・・しかしこちらもめっさ叫んでいた。
っていうかあいつは鯨になんのトラウマがあるんだ。
『バーロー!!!!!!!! 吉田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっ!!!!! 俺が悪かったあああああああああああああ!!!!!!!!!!!!』
そして閣下はヨシダに何のトラウマがあるんだ。
つか何で乗ってるマスコットッッ!!!!!

結局勝負は双方失格でドローであった。
ヴァレリアはベイオウルフに支えられながら、グライマーは1人でフラつく足取りで去っていった。
・・・閣下は足元に大の字になってぶっ倒れている。
マスコットキャラが地面にぶっ倒れてるって、やな遊園地だなしかし。
「さ、邪魔者がまとめて片付いた所で私たちも続きを楽しんできましょう」
仕切るようにパンパンとベルが手を叩いて言う。
「夜にはパレードや花火も上がるみたいですよ~。楽しみですね~」
パンフを見つつマチルダが言う。
・・・夜までかぁ。
これは帰りは遅くなりそうだな。
いつになく楽しそうな皆の笑顔を見て思う。
・・・まあ、こういうのもたまにはいいかな。


同時刻。
ソル重工貴賓室。
「・・・はぁ!? 帰る!? 帰るって何だよオマエ!!」
エトワールが素っ頓狂な声を上げた。
豪奢な木造の執務机に座る彼女の前には、旅行カバンを一つ提げたリューが立っていた。
「言葉の通りだ。俺にはもうこの島にいる理由が無くなったのでな。店へ帰る」
そのリューがいつもの落ち着いた声音で言う。
「何じゃいおどれ、勝手に押し掛けて来てみたかと思えば今度は帰るとか・・・身勝手な奴じゃのお」
呆れた様に言う大龍峰に、リューがフッと苦笑して見せた。
「・・・まったくだ。返す言葉も無い」
う、とその反応に大龍峰が言葉に詰まる。
そんな風にリューが皆に笑顔を見せる事はかつてなかったからだ。
「・・・だってさ。どうすんの? キリコ」
エトワールが霧呼を見る。
「・・・・・・・・・・・・・・」
応接用のソファに座って目の前の応接机の上に資料や報告書を並べて目を通していた霧呼は話を向けられても暫し反応しなかった。
「・・・いいわ、行きなさい」
報告書から目を離さずに霧呼が短く言う。
まるでもうその話にはまったく興味がない、とでも言う様にあっさりと。
「だとさ。オラいっちまえいっちまえ・・・シッシッ」
エトワールがまるで野良犬でも追い払うように手を振る。
「すまんな。・・・さらばだ」
一礼したリューが静かに扉を閉めて退出する。
コツコツと規則正しい早足の足音が部屋から遠ざかっていく。
「・・・いいんか? 行かせてしもうて」
大龍峰が言うと、エトワールは不機嫌そうに腕を組んだ。
「仕方がねーだろ・・・無理やり留めて言う事聞く奴かよ・・・」
苛立たしげに言うとエトワールがチッと舌打ちする。
「バカが!! 帰るなら2,3日前にとっとと帰っちまえばよかったのによ・・・。もうオマエ生きてこの島出れねーぞ。昨日から『あいつ』が来てるんだからな・・・」
そしてエトワールが窓から視線を遠く空を見上げた。
「・・・あばよ、リュー」

夕暮れの通りを、リューが港へ向かって歩く。
この時間ならば、本日出航の最終便に間に合うはずだ。
懐から懐中時計を取り出して見たリューがそう思った。
・・・残していく同胞や財団の計画から外れる事に抵抗が無い訳では無かった。
しかし、リューは自分を破った勇吹への義理立てとして彼女とその友人とはもう拳を交えまいと決めている。
そうなればもう島に残っても邪魔になるだけだろう。
勿論造反として自身に財団から何らかの処分が下される可能性は大きい。
店を奪われるのならそれも仕方があるまい。
リューは足早に港を目指す。
仕事から家路を急ぐ者や、夕食の買い物を終えて帰る主婦、学校が終わって帰宅する子供達等で通りは賑わっていた。

『・・・何処へ行くつもりですか。クリストファー・緑』

そんな雑踏の中なのに、静かに告げられたその一言がまるで大寺院の鐘の音の様に激しくリューの耳朶を打った。
「・・・!!!」
バッ!とリューが振り返る。
雑踏の中、静かに佇む1人のスーツ姿の目つきの鋭い男がリューを見ていた。
「・・・総帥秘書、マキャベリー・・・」
リューがその男の名を呼ぶ。
「久し振りですね。クリストファー」
マキャベリーと呼ばれたスーツの男はにこりともせず冷たくリューを見据えたまま言った。
「片時も総帥の側を離れる事が無い、と言われているお前がどうしてここに・・・?」
訝しげに問うリュー。
「わかっているではありませんか、クリストファー。・・・ならば、『今私がここにいる意味がわかりますね?』」
リューの表情に険しさが増した。
「総帥がここへいらしている・・・と?」
リューの問いにマキャベリーは無言だ。
「馬鹿な。総帥が島におられるのであれば、俺ならば島の反対側からでも感知が可能だ。・・・それ程あの御方の気配は大きい。そして総帥は自らの気配を消して忍んだりするような方では無い」
フン、とリューの言葉にマキャベリーが冷笑を浮かべる。
「自身の感覚が絶対だと驕るから真実を見落とすのです、クリストファー。・・・まあいいでしょう。その事を今貴方に説明する必要性は感じません」
口元から笑いを消して、マキャベリーが鋭くリューを見る。
「間も無く『理想郷計画』は大事な局面を迎えます。それを目前にしてナイトの駒である貴方が敵に背を向けてどうするのですか? さあ・・・クリストファー、戻って戦線に復帰しなさい」
冷たく言い放つマキャベリー。
それは宣告であった。ロードリアス財団にいる者であれば決して逆らう事の出来ない命令だ。
「・・・断る」
リューが静かに拒絶する。
「今・・・何と?」
マキャベリーの眉間に深い皺が刻まれた。
「断ると言ったのだ、マキャベリー。俺はもうこの島の住民達に拳を振るうつもりはない」
「正気ですか、クリストファー。『理想郷計画』は財団の最重要プロジェクトであり、総帥の御意思でもあります・・・それをこの私の前でそこまで明確に叛意を示すなどと・・・」
ズアッ!と目に見えない殺気がマキャベリーから噴き出した。
それは絶対零度の吹雪の様に吹き荒れてリューを打った。
静かにリューが目を閉じる。
・・・意外に早く、『来るべき時』が来た・・・。
今の自分の前にマキャベリーが現れた時に、もうこの結末は避けられないものとなっていた。
「やむをえませんね・・・クリストファー。貴方はこの場で『廃棄処分』とします」
自らの眼前に右手を翳したマキャベリーが、掌を自分の顔へと向けてまるで何かを掴むかのように5本の指を曲げて力を入れた。