最終話 Fairy tale of courage-3


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自身の身体が紫色の花弁に包まれたと思った瞬間、セシルの身体は転移していた。
花弁が舞い散り、視界が戻ると周囲の風景は一変している。
結構な広さのある高いビルの屋上らしい。
フェンスに囲まれた空の上の空間。
・・・そして、そのセシルの目の前にはアルテナが立っていた。
「アルテナさん・・・」
セシルの呼びかけに、アルテナは冷笑で応じた。
「気分はどうだ? セシリア、お前はこの仲間と離れた目の届かない場所で1人寂しく死んでいく事になる」
アルテナが右手を上げる。
その手に魔力が集中し無数の枝と蔦になる。
しかし、そのアルテナに対しセシルは構えを取ろうとしない。
「・・・戦えません」
セシルが顔を上げてアルテナを見る。
「戦いたくないんです・・・! もういいじゃないですか! あんな人の言いなりになってあなたがこれ以上誰かを傷付ける必要なんてないと思います!!」
必死にアルテナに訴えかけるセシル。
「失望させてくれる」
呟いたアルテナが右手を突き出した。
爆発的に増殖した枝がセシルを打ち、吹き飛ばす。
「・・・うぐっ!!」
冷たい石の床に投げ出されるセシル。
「そんな程度か! お前の覚悟と決意はその程度なのか!!」
叫びながらアルテナは両手を振り上げた。
その手の先にまたしゅるしゅると太い枝の束が生み出される。
「総帥と戦うのではないのか!! 仲間達の力になるのではないのか!! ・・・ここでつまらない同情と一緒に沈んで構わない程度の決意であるのなら、私が打ち砕いてやろう!!!」
ドクン、とセシルの鼓動が鳴った。
ギャラガーと必死に戦うウィリアム達の姿が目蓋に一瞬映って、そして消えていく。
「・・・違う・・・」
地面に手を突き、セシルが身を起こす。
アルテナが両手を突き出した。
かつてない枝幹の奔流がセシル目掛けて放たれる。
「・・・先生・・・!!!」
セシルはその迫り来る緑褐色の束を右の拳で迎撃した。
その瞬間、セシルの全身は白い輝きに包まれる。
「・・・え・・・」
拳を繰り出したセシル自身が呆然とする。
あふれ出す力はアルテナの放った樹衝を完全に粉砕し、そのままアルテナの胸を撃ち抜いた。
「・・・そうだ。それが本当のお前の力だ・・・セシル・・・」
アルテナが穏やかに言う。
「アルテナさん・・・」
アルテナはセシルを見て微笑んでいた。その身体が淡い輝きに包まれる。
「私はあるべき所へ還る。気にする事はない。・・・どちらにせよ、この身体は総帥がL6魔術を維持していられる間だけの仮初めのものだ。総帥が魔術の制御を失った時点で消える」
ゆっくりとアルテナは自分のしていた銀色の指輪を外すと、セシルの手を取ってそれを握らせた。
「お守りよ・・・セシル」
セシルの目から涙が零れ落ちる。
最後にアルテナはもう一度微笑むと
「スレイダーを・・・恨まないであげてね」
そう言って無数の光の塊になり、空へと舞い上がって散っていった。

『・・・死ぬがいいッッ!!!』
大空にシュヴァイツァーの声が響き渡る。
その大剣の一撃をマチルダは大きくペガサスを下方へ旋回させて回避した。
「雷精展開・・・!!!」
その全身がバチバチとプラズマに包まれる。
『フン! またそれか!! 「スサノオ」になってその攻撃が通用すると思ったのならそれは間違いだぞ!!』
嘲りの言葉にもマチルダは怯まない。
真下からライトニングディザスターの構えを取る。
スサノオが電撃を無効化する電磁結界で機体を覆った。
『・・・!!??』
コクピットのシュヴァイツァーが驚愕する。
マチルダはライトニングディザスターの体勢のまま、渾身の力で槍を投擲したのだ。
電磁結界では電撃は無効化できても物理的な攻撃には無力だ。
完全な不意打ちとなったその投槍に対し、シュヴァイツァーは神がかった機体操作術で回避を試みた。
マチルダの槍はスサノオの機体を僅かにかすめ、上空へ消える。
間一髪で攻撃を無傷でいなしたスサノオが大剣を構えた。
『勝負あったな!!!』
真下のマチルダには最早武器はない。
「・・・ええ」
マチルダは上空を見ていた。
自身の頭上にいるスサノオ・・・その更に上の空を。
「貴方の負けです。リヒャルト・シュヴァイツァー」
『!!!』
シュヴァイツァーが上空を見上げた。
未だ電撃を帯びるマチルダの槍を手にしたルクシオンが一直線に自分を目指して落下してくる。
(・・・か、回避を・・・!!!!)
シュヴァイツァーがそう思うのと、着撃は同時だった。
「ドラゴニックメテオール」
攻撃を終えたルクがマチルダ同様に下方から上空のスサノオを見上げる。
スサノオは胴体を大きく抉られ、火花を上げていた。
『・・・総帥・・・閣下・・・』
そして次の瞬間、スサノオは大空を赤く染めて大爆発して散った。

謎の助っ人の1人、カイリ(?)の脳天唐竹割りを食らったアイザックが地面に突き刺さると、再度その頭上へとカイリ(?)は手刀を振り上げた。
その巨躯を見上げるアイザックがふう、と嘆息する。
「いやはや、なんとも・・・」
「ポゥ!!!」
ズドォン!!!!とまたも大地を震わせて豪快な炸裂音が響く。
「こりゃ僕も少し真面目にやった方がよさそうですねぇ」
アイザックはカイリ(?)の頭の上に立っていた。
カイリ(?)が腕を頭上に上げてアイザックを掴もうとするも、身軽に飛び降りてかわす。
そして着地したアイザックの全身がメキメキと音を立てて変容していった。
獣人とも鎧ともどちらとも言えない銀の魔鳥へと姿を変えるアイザック。
「むむっ!! カイリ!!気をつけて!!」
警戒したカルタス(?)が注意を促す。
「さあ行きますよ!! ・・・羽刃(ブレイドフェザー)」
バサッ!!とアイザックが両手の翼をはためかせると、鋭い刃と化した無数の羽が周囲に吹き荒れた。
「・・・ぐあっ!!!」
「おおぅ!!!」
咄嗟に2人はガードしたが、その全身に羽が突き刺さり血塗れとなる。
間髪入れずにアイザックは突進すると鋭い爪を持つ両手で2人の頭を鷲掴みにした。
その勢いのままに背後の壁に2人を叩きつけるアイザック。
轟音を立てて壁が崩れ、2人が瓦礫の向こうに押し倒される。
そしてまだアイザックの両手は2人の頭をがっしりと掴んだままだ。
「折角僕の相手に名乗りを上げて頂いたのですからね。・・・退屈はさせませんよ」
メキメキと腕に力を入れるアイザック。
呻く2人の頭部にギリギリと爪が食い込み、地面に血が滴った。

ピョートルの幻術に堕ちたマキャベリーは、総帥ギャラガーの命じるままにその力の秘密を語りだした。
「・・・総帥の御力の秘密は・・・」
「ふむふむ・・・?」
そしてそのマキャベリーの胸元には小型のマイクが取り付けられている。
スピーカーは居住ブロックのあちこちに配置されていた。

『・・・総帥の御力の秘密は・・・』
周囲に不意に響いた聞き覚えのない男の声にウィリアムは訝しげな顔をする。
見回せば周囲の仲間たちも同様に眉を顰めていた。

「全身4箇所・・・胸部、両肩、背中に埋め込まれた4つの魔道遺物(アーティファクト)『魔王石』による強化であります!! 魔王石には1つに100に近いエンチャントが施され、総帥の神の如き御力をより揺ぎ無いものとしているのです!!!!」
マキャベリーは叫ぶ。
それは財団において、妻エメラダ以外は彼、マキャベリーにしか許されていない秘密。
いわば彼の存在意義であり拠り所、忠誠を総帥ギャラガーが認め信頼した証であった。

「・・・マキャベリー・・・何故ッ!!!」
南雲響と死闘を演じながら、エメラダが怒りを込めて叫んだ。

ザッ、と砂埃を上げて悠陽が1歩前に出た。
「胸、両肩、背中ね・・・あんたのエンチャはそこかぁ」
ぼきぼきと指を鳴らして悠陽がニヤリと笑った。
その視線の先にいるギャラガーは相変わらずのポーカーフェイスのままだ。
「それを知った所で・・・」
ギャラガーが目を閉じて首を横に振る。
「お前たちにできる事などありはしない。お前たちの力で我が護りを抜いてこの身から『魔王石』を抉り出すか? ・・・叶わぬ望みだ」
「そりゃどーかしらね。狙う所がここって決まればまだやり方もあるってもんよ」
悠陽が構えを取る。
(・・・私の残り全部使い切って・・・1個かな・・・)
悠陽が静かに目を閉じた。
そして彼女は無言のままに、彼女が愛したもの全てに別れを告げた。

「・・・さあーて・・・こんな所でしょうなぁ」
満足そうに笑みを浮かべてピョートルがマキャベリーを見た。
「さてまずは何を置きましても私とここで顔を合わせた事を忘れて頂きましょうか」
パン!と両手を打ち鳴らすピョートル。
その音を聞いたマキャベリーがカクンと首を落として目を閉じて動かなくなった。
眠りに落ちたマキャベリーをドサッと地に投げ出すピョートル。
そして彼は扇子を開いていつもの様に口元を隠した。
「ンフフフ・・・さて私めのできる事はここまででございます。後は皆様せいぜい死に物狂いになられるがよろしかろう」
いつの間にか2人を取り囲むかのように周囲には無数の人影があった。
無言のままに腰を落として控える黒装束の者達。
隠密衣装に木彫りの鬼の面を被ったその者達はピョートル配下の実働部隊『六道衆』(リクドウシュウ)であった。
「では・・・お前たちかねてより指示していた通りに」
そうピョートルが言うと、六道衆達はシュッと姿を消した。
「ンフフフ・・・誰一人としてこの『始まりの船』から生かしては帰しませんぞ」
闇の混じった呟きを漏らすピョートル。
その紅い瞳が冷たい殺意を秘めて冥く輝いた。