第3話 円卓に集いし魔人たち-6


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そこは「時の部屋」と呼ばれている。
ツェンレン王国の深奥にある秘密結社ユニオンの本部の更に最奥部。
いかなる秘儀を用いて作られた部屋なのか、その名の通りこの部屋では時間が止まっている。
中で何年過ごそうが出る時には入室した時刻なのだ。
内部で歳をとることはない。
どこまでも星空の続く部屋。
最早それは部屋と呼べる空間なのかもわからない。
時折、箒星が尾を引いて流れていく。
その星空の空間には巨大な白い円柱がいくつも浮いている。
円柱の内の一つの頂上に、ラウンドテーブルの名の由来である円卓がある。
円卓に席は13。
その内の幾つかには既に誰かが着席している。
ユニオンの幹部集団「ラウンドテーブル」のメンバー達。
財団の幹部でもあるピョートル。
真紅の髪の女エウロペア。
ライングラントの公爵ヴェルパール。
ファーレンクーンツ共和国の陸軍大佐ビスマルク。
その他にも数名。

柱の上の円卓からやや離れた何もない場所に突然ドアが現れる。
席に着く数名がそちらを見た。
ドアが開き、川島しげおとおでんが入ってくる。
「久し振りだなぁお前ら・・・ククク」
川島しげおが一同を見回してニヤリと笑うと、円卓の椅子に乱暴に腰掛けた。
「さしもの『砂漠の猛虎』も、メギドに呼ばれては顔を出すか」
エウロペアが斜めに川島しげおを見ながら、大して面白くもなさそうに言う。
「当たり前だ。メギド様の召集を無視できるものなぞユニオンにいるかよ」
ハッ、と短く笑うと葉巻を取り出して火を点ける川島しげお。
隣に座ったおでんは無言だ。
そんなラウンドテーブルの面々を眺めて、ピョートルは扇子の影でほくそ笑む。
厳密に言えば、ユニオンには創設者のメギドを始めとしてメンバーに一切の上下関係は無い。
それでも長い間に少しずつメンバー中でも抜きん出た者達が自然に皆を纏める役割を担うようになる。
・・・そうして生まれたのがこの精鋭13名の「ラウンドテーブル」である。

「・・・ん?」
ふと、ヴェルパールが床を見た。
白と緑のカラーリングの小さなパンダが1匹、トテトテと歩いてくる。
パンダは仲間を呼んだ。
新しいもう1匹の小さなパンダが現れる。
パンダは仲間を呼んだ。
新たに出てきたパンダもまた仲間を呼んだ。
パンダが3匹になる。
「何だ何だ・・・」
ビスマルクが眉を顰めて増えるパンダを見る。
パンダは仲間を呼んだ。
パンダは仲間を呼んだ。
小さなパンダは増えていく。
瞬く間にその数は8匹になった。
・・・なんとパンダたちが・・・!?
ぽよんぽよんと音を立てて小さなパンダが重なり合う。
小さな山になったパンダの上に最後の8匹目がぴょーんと飛び跳ねて乗った。
するとその瞬間、ボワン!と音を立ててパンダ達は煙に包まれた。
煙が収まると、そこには「本日は終了しました」という紙がヒラヒラと落ちてきた。
「何でだよ!!!!?」
ガタンと椅子を鳴らして叫んだビスマルクが勢い良く立ち上がる。
「何で終わるんだよ!!! まだ始まってもいねえよ!!!」
「お、落ち着けビスマルク」
隣のヴェルパールが必死に興奮して叫ぶビスマルクを宥める。
「・・・・・・・・・・・」
パチン、と無言でピョートルが扇子を閉じた。
そして目を閉じ、やや顔を伏せ気味にフッと笑う。
「お久し振りですな。みる茶殿」
その声に皆が一斉にピョートルの向いている方を見る。
いつの間にか席に着いていた髪の毛もローブも緑色の青年が「・・・ん」とコクンと肯いた。
そして突然みる茶と呼ばれた青年は隣に座っていたおでんのダイコンをぶしっと握って削り取るとムシャムシャと食べ始める。
いきなりボディを削られたおでんは「ぐわああああああああああ」と悲鳴を上げていた。

その後、更に残る数名が到着し、円卓の席は全て埋まった。
「揃ったようだな」
川島しげおが腕を組んで深く椅子に座り直す。
「メギド様の招集との事だが・・・おいでにならんな」
ビスマルクが周囲を見回して言った。
「・・・その事なのですがね」
ピョートルが立ち上がって一同を見る。
「この度の召集、実はこのピョートルがメギド様のご許可を頂きまして、お名前をお借りして出したものでしてな。皆様にはその点まずお詫びしておきましょう」
「何だと!?」
ビスマルクが声を荒げる。
「ふざけるな! 謀ったのか!!」
他にも怒りを露わに席を立つ者が出る。
「フン、メギド様の御用事でないと言うのなら俺がこの場にいる意味はないわ。帰らせてもらうぞ!」
川島しげおが席を立ち、円卓を立ち去ろうとする。
他にも数名、その彼に続いて席を立つ。
川島しげおが隣の椅子を見て呼ぶ。
「おでん! 帰るぞ!! ・・・おでん・・・?」
おでんの席はいつの間にか空になっていた。
いや・・・椅子の上に着物と巨大な木串だけが残されている。
さらにその隣の席では、みる茶がお腹をぱんぱんに膨らませてげふーっと息を吐いていた。
「あああああああああああああ食った!! 残らずおでん食った!!!!」
川島しげおがみる茶を指さして叫ぶ。
そのみる茶は「知らない」と言うように掌を翳して首をぶんぶんと横に振る。
「・・・皆様ご静粛に!!!!!!!!!!!!!」
突如、星空を震わさんばかりの大声でピョートルが雷喝した。
全員が思わずビクリと身を竦める。
ビシッとピョートルは握った畳んだ扇子を皆へと向けた。
「お帰りになりたいという方はどうぞお好きになさるがよろしかろう。ですが・・・このピョートルが今から皆様にお話する事柄は我ら『ユニオン』の究極の悲願とも言うべき内容!! 今お帰りになられるのでしたら半年後にはもう円卓に御自身の席は無いものと思われませい!!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
ピョートルが他のメンバーに対して声を荒げるのは初めての事だ。
その迫力に一同はしばし無言となる。
「・・・大きく出たものだな」
フン、と鼻を鳴らして腰を浮かせかけていたビスマルクが再び席に着く。
川島しげおを始めとする立ち去ろうとしていた者達もそれに倣う。
「ンンフフフフ・・・」
その様子にピョートルが満足そうに笑った。
「で、何を言いたいのだ」
そうピョートルに声をかけたのは、先程から騒ぎにまったく関知せずに1人円卓に肘を突いて退屈そうにしていたエウロペアだ。
「よろしい。では貴女にお尋ねするとしましょう・・・エウロペア。この世界の『三大秘宝』と言えばそれは何ですかな?」
「くだらん・・・。『天上都市』『神の門』『深淵の水車』の3つだ」
不快そうにエウロペアが言う。
ピョートルは目を閉じて肯く。
「・・・まさか、お前」
ピクリと眉を上げてエウロペアが身を起こした。
「見つけたのか」
残るラウンドテーブルメンバーもざわっと色めき立った。
「その通り。・・・遂に残る秘宝『天上都市』と『深淵の水車』の在り処がわかったのですよ」
ピョートルがニヤリと口元を歪める。
「我らユニオンの存在理由とは、この世の全ての叡智を発見回収し管理する事・・・その究極の3とも言える三大秘宝は我らにとっては避けては通れないものです。神々が造り、都市一つが丸ごと1つのアーティファクトであるという『天上都市』、異世界よりの知識により作られたあらゆる場所へあらゆるものの転移を可能とする『神の門』、そしてこの世界のマナを調節し管理しているという『深淵の水車』」
バッと扇子を開いてピョートルがひらひらと扇ぐ。
「その三大秘宝を我ら13人が入手し、盟主メギド様へと捧げる時が遂に来たのです・・・ンフフフフフ」
「もう12人だけどな・・・」
ビスマルクが空になったおでんの席を見て呟いた。

ポテッ、とふいに上から降ってきた小さなパンダがみる茶の頭に乗る。
「・・・む」
みる茶が上を見る。
カタン、と椅子を鳴らしてみる茶が立ち上がった。
「話の途中だが・・・」
バサッと優雅にみる茶がローブの裾を払う。
「央海のロゼッタ諸島にてウィリアム・バーンハルトを捕捉した。出向いて始末してくる事にするよ。・・・続きは戻ったら聞こう」
ふわりとみる茶が前髪をかき上げる。
「ふむ・・・」
ピョートルが小さく唸った。
「わかりました。しかし彼も1人ではありますまい。万一という事もあります。貴方が選んだラウンドテーブルのメンバーを数名お連れするがよろしかろう」
言われてみる茶が首をかしげるように一同を見回し、
そして・・・2人、同行者の名を挙げたのだった。