第4話 古の島-2


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上空で2人の女性が向き合う。
共に竜飛翔の能力を使うドラグーン同士。
ルクシオン・ヴェルデライヒと向き合うのは黒髪のドラグーン。
ラウンドテーブルの1人、ブリュンヒルデ・ラグナシア。
そのブリュンヒルデはふいにルクから視線を外すと、斜め下を向いて全身で大きくため息をついた。
「…最悪」
ボソッと小さな声で呟くブリュンヒルデ。
その様子にルクが眉を顰める。
「わざわざ来たのに…雑魚と当たった」
「!!」
ブリュンヒルデを睨んで、ルクが構えたグングニールの長槍の穂先を彼女へと向ける。
「…言ってくれますね」
「別に…本当の事言っただけ」
相変わらずボソボソとブリュンヒルデが言う。
油断無く槍を構えながら、ルクがブリュンヒルデの全身を見る。
ブリュンヒルデは武器の様な物は携帯していない。
ただしその両腕の黒い手甲…その指先は長く鋭く尖っている。
(…あの爪が、彼女の武器…)
ルクの視線が自分の指先にある事に気付いたブリュンヒルデが右手を上げる。
指先の第一間接から先が10cm程の鋭利な爪になっている。
「そうよ…このブラックオリハルコンの爪が今からあなたを切り裂く」
「易々とやらせはしません…!!!」
叫ぶルクに、再度はぁ、とわざとらしくブリュンヒルデがため息をついた。
そして、ふいにブリュンヒルデの姿が消える。
(!!?)
突如視界から消失した対敵の姿に、ルクは無言で息を飲んだ。
(ど、どこに…)
「ほら…」
ゾクッとルクの全身を冷気が走った。
声は耳のすぐ後ろから聞こえた。
「もう…見えてない」
息が掛かるほど密着して、ブリュンヒルデはルクの真後ろにいた。
「…っ!!!!!」
前方へ高速で飛びながらルクが振り返った。
ブリュンヒルデは声をかけた位置から動かない。
ただ無感情な瞳でルクを見ている。
「だから…これも、見えない」
そう言うとブリュンヒルデは両手の爪を構えた。
ザシュッ!!!! 
再びルクの視界からブリュンヒルデの姿が消失するのと、彼女の肩当が両断されて切り裂かれた肩から鮮血が噴き出すのは同時だった。
「うああっっっ!!!」
ザシュッ!!! ドシュッ!!!!
一瞬で数箇所の傷口がルクの身体に現れる。
苦悶の叫び声を上げるルク。
青空に真紅の飛沫が何度も上がった。

ジュウベイの渾身の突きがおでんへ襲い掛かる。
同時に横合いから魔剣ルドラを構えたウィリアムが斬りかかる。
それは抜群のコンビネーションだった。
突きかかる「点」の攻撃と薙いでくる「線」の攻撃の交差。
この二撃を捌く事は至難。
…しかし妖(あやかし)は赤い瞳を輝かせて嗤う。
「カカカカカカ…」
笑うおでんはジュウベイの突きを手にした巨大な木の串で払う。
「ぐおっっ!!!」
上体が泳いだジュウベイをすれ違わせ、その背に鋭く肘を落とした。
肘打ちで沈んだおでんの頭上をウィリアムの一撃が空ぶる。
「!!」
ジュウベイとウィリアム、両者の表情が凍り付いた。
(今のを…無傷でやり過ごすか!!!)
ゆらりと再び立ち上がったおでんにウィリアムが戦慄する。
おでんは巨体だ。身長(?)は少なくとも2,5mはある。
当然それはウィリアム達にとっては的の大きさとなるのだが…。
この手練の戦士2人をして、おでんはその攻撃を自分の身にかすらせる事がない。
「…非力だな。この程度の腕しかない男が、本当に我ら『ユニオン』の障害となるのか?」
「ぬうう…!!」
ジュウベイが立ち上がる。
手にした長槍を構えて燃える双眸におでんを捉える。
「行くぞ妖怪!!! 闘神無双裂斬衝!!!!!」
それはジュウベイの奥義。「突」「裂」「払」の神速の三段攻撃。
鋭い突きがおでんの脇をかすめた。
裂かれた着物の切れ端が風に舞う。
「…ぬっ!!!」
おでんが目を見開いた。
続く切り裂く縦一文字の攻撃が胴体上部のダイコンを削る。
「悪くない…悪くないぞ」
それは笑みなのか…口元を不気味に歪めるおでん。
「だが、我に満足な手傷を負わすには今一歩よな」
ジャッ!!!!と鋭い音を立てておでんの口から何かが迸った。
それは超高圧の煮え滾るおでんつゆの刃だ。
ジュウベイが肩口にそれを受ける。
「がああああっっっ!!!!!」
激痛に咆哮するジュウベイ。
鋭く切り裂かれた傷口が高熱のおでんつゆで灼かれている。
「カカカカ…とどめだ!!!」
体勢を崩したジュウベイに大串を振り上げるおでん。
「ジュウベイ!!!!」
ウィリアムが叫んで走り込む。
振るわれる魔剣の一撃をおでんはジュウベイに向かって振り下ろすはずだった大串で受けた。
「ではお前から逝くか…バーンハルト!!!」
大串に当てられた魔剣を力でぐいと押し込みつつ、おでんが口からつゆの刃を放った。
「…!!!!!」
そして、全力でおでんの押し込みに持ち堪えていたウィリアムはその一撃を回避できずにまともに顔面で浴びた。
「…っっっ!!!!!!」
声にならない絶叫が周囲の空間に満ちた。
「ウィリアム!!!!」
ジュウベイが叫ぶ。ウィリアムの足元にぼたぼたと鮮血が垂れる。
ウィリアムの両眼が横一文字に切り裂かれている。鮮血はその傷から滴ったものだ。
両目の傷は焼かれてじゅうじゅうと嫌な音を立てている。
「終わりだな。その両眼…最早使い物にならぬわ」
「おのれええええええええい!!!!!」
怒りの慟哭と共に突き出されたジュウベイの槍の穂先を回避するおでん。
そしておでんは向かってくるジュウベイの胸板にぴたりと右の掌を当てた。
「轟爆掌」
ドォォン!!!!と掌撃は爆発し、ジュウベイを吹き飛ばす。
仰向けに地面に投げ出され、胸元を焦がしそこからぶすぶすと黒煙を上げるジュウベイは完全に昏倒していた。
そのすぐ近くに空から何かが落下してくる。
それは全身を刻まれて血塗れになったルクだった。
「そちらも終わったか」
「…退屈凌ぎのつもりで来たけど、無意味だった」
おでんのすぐ脇にスタッとブリュンヒルデが着地する。
「うぐ…お…」
両目を潰され、ふらつくウィリアムの髪の毛をガシッとおでんが鷲掴みにする。
「…クククク…カカカカカ」
そしてぐいっと髪の毛を掴んだまま、ウィリアムを頭を上に持ち上げるおでん。
「カッカッカッカッカ!!!!」
「別に…勝ち誇る程の相手じゃないし…」
そのおでんの隣で、ブリュンヒルデがふーっと横を向いて溜息をついた。

魂樹、ELHの両名と対峙したみる茶は無手のままゆらりと悠然と立つのみで仕掛けてこようとはしない。
「何者だ御主…何故我らを狙う」
ELHが問う。
するとみる茶はやや困ったような表情を浮かべた。
「説明が面倒くさいね…。君らも2,3は狙われる心当たりがあるだろう? 適当にそのあたりの者だと思ってもらえれば嬉しいんだけど」
「なっ…バカにしているの!!?」
怒りの表情を浮かべた魂樹の周囲に淡く緑色に輝く風が吹く。
「風精展開…精霊加速!!」
「おっと…それは禁止しておこう」
フッ、と魂樹の周囲から呼び出したシルフが消失した。
「…!!!」
魂樹は驚愕し、次いで呆然となった。
「悪いね。周囲でちょこまかと動かれるのは好きじゃない」
「どうして…」
掠れた声で呻くように言う魂樹に、余裕のままみる茶は右手を腰に当てた。
「ふむ、知らないのかい? 他者の使役する精霊にも自分の方が支配力で勝れば干渉できるんだよ」
それは魂樹も知っている。ただそれはあくまでも理論上そういう事も起こり得る、というレベルの話だ。
実際同じ場にある精霊使い2人の差がそこまで開く事はまずありえない。
『駆け出しの精霊使いと妖精王様くらいの差があればの話ですよ』
指導官の言葉を思い出す魂樹。
(駆け出しと…大精霊使い…)
ぐっと魂樹が奥歯を噛み締めた。
自分は何年も厳しい修行を積んできた精霊使いのエキスパートだというのに…。
ザッとELHが1歩前へ出た。
「どうやら只者ではないようでござるな…ならば拙者も本気の脱衣でお相手仕ろう…!!!」
グッと着物の襟をELHが掴む。そんなELHの様子をみる茶が鼻の頭を指先で掻きながら見る。
「…それも禁止しておこう。男の裸体は好みじゃない」
「何っ!!??」
驚愕したELHが恐る恐る襟を引いてはだけてみる。
「…ぬ、脱げるけど…」
「でも禁止」
重ねてみる茶が言う。ELHが困ったように1回魂樹の方を見てから、再度みる茶の方を向く。
「いや…脱ぐぞ…」
「ダメだもん」
ぷいっと横を向いたみる茶がぷーっと頬を膨らませた。
再度困り果てた様子でELHが魂樹を見た。
「…ぬ、脱ぎ辛い」
「脱げばいいじゃないですか。私としては着ててくれた方がいいですけど…」
ELHは動揺していたが、反対にその間に魂樹はメンタルコンディションを困惑から戦闘時のそれへと回復させていた。
事実はともかく1つだけだ。もう自分がこの場で精霊力を行使できなくなったという事。
愛用の霊木で造られた長弓を構え、魂樹が矢筒から矢を引き抜いた。
「…ええ!!?」
その魂樹が驚愕する。矢筒から抜いた矢の異常にである。
エメラルドグリーンの矢は、半分から先が赤黒い何かで汚れている。
(何これ…どうして私の矢)
一瞬魂樹は言葉を失ったが、矢が汚れていた程度で怯んでいる場合ではない。
矢を番え、全神経を視覚と指先に集中する。
みる茶へ向かって矢を放つ。
「…む」
向かってくる神速の矢に、みる茶が片手を上げて防御体勢を取った。
シルフの作り出す暴風の壁が矢を阻む。
「…?」
みる茶がふと眉をひそめた。違和感を感じたのだ。
(何故この場に私以外の精霊力を感じる…?)
その瞬間、暴風の壁を魂樹の矢が突き破った。
「!!!」
みる茶が目を見開いた。矢が迫る。
先端に赤黒い汚れ…無数の耳障りなギチギチという鳴き声。
「ブラッドエレメンタル…!!!」
次の瞬間、叫んだみる茶の右肩を矢が刺し貫いた。