第9話 陣八捕物帖-5


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全体のシルエットはワーウルフに近い・・・だが頭にゃ捻じくれた角があって背には蝙蝠みてーなデカい翼がある。
身の丈は250てとこか・・・でけえな・・・・。
獣は片手にロングソードを持ってた。
・・・・獣に襲われたような傷跡と刀創か・・・・。
ガオォン!!!
魔獣が咆哮を上げて飛び掛ってくる。
・・・・・・!!!・・・・・・・
鋭い爪の一撃をかわし、長剣の一撃を槍で受けた。
・・・この動きは!!!
魔獣の膂力は想像してたより遥かに強かった。俺は攻撃を受けたまま側面の壁に思い切り叩き付けられた。
全身に激痛が走って意識が飛びかける。
「陣八!!!!」
シグナルが叫んだ。
そして援護の為に魔獣に背後から斬りかかる。
だが魔獣は振り向く事無く、トカゲの様な太い尾でシグナルを弾き飛ばした。
「・・・ぐあっ!!!」
反対側の壁にシグナルが打ち付けられる。
・・・くそったれが!! ここまで凄ぇのか!! 『ビースト』ってのはよぉ!!!!
だがどうやら魔獣は俺らと思い切り殺り合うつもりはなかったようだ。
奴は身を翻すと倒れている覆面男たちに襲い掛かった。
男たちは皆、恐怖と後俺とシグナルがブチのめしてたせいで満足に動けない。
ひいいと情けない悲鳴を上げてずるずると這うだけだ。
・・・そこからはただ虐殺だった。
俺とシグナルが再び体勢を整えて奴へ襲い掛かるまでの間に、奴は4人を血祭りに上げてた。
そして迫る俺らには目もくれずに羽ばたいて夜空へ消えていった。

ふぅ、とシグナルが大きく息をついた。
そんな奴に大丈夫か、と俺は声をかけた。
「・・・ああ、傷は大事無い。しかし・・・」
周囲を見てシグナルが渋面になる。
辺りは血の海だ。
「・・・・・やられたな」
ああ。完敗だ・・・くそう。
目の前でこんだけ殺られちまうとはよぉ。
韋駄天の陣八の面目丸潰れだぜ・・・。
俺はただ1人生き残った男に歩み寄った。
最初に俺が覆面を剥いだ奴だ。
結果的にそれが幸いしてこいつだけは殺されずに残った。
男はうずくまって頭を抱えてガタガタと震えている。
「・・・ひィィ・・・ビリー・・・許してくれ!! 俺たちが悪かった!!!」
オイ・・・奴はもういねぇよ。
俺の言葉に男が恐る恐る顔を上げた。
その顔は恐怖に歪んで、涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。
・・・てめぇにゃ話して貰うぜ。色々とな。

それから呼び出した部下達が駆けつけてくるまでの間に、路地裏で座り込んだ男に話を聞いた。
思った通り、アッシュのファミリーはビーストの取引に手を出していた。
「・・・『シャーク』に、大分組員を取られちまったからよ・・・ボスは焦ってたんだよ・・・。何とかファミリーに勢いを取り戻すってよ・・・」
ああ、シャークに入った連中は全員パクられて大陸へ移送されちまったからな。
アッシュのファミリー以外にもどの組も大なり小なりシャークにはメンバーを取られちまってる。
「それには金がいるからよ。だからファミリーの有り金はたいてビーストを買い付けたんだ。・・・けど、それをビリーが持ち出しやがってよ・・・。問い詰めて痛めつけても口を割りやがらねえ・・・。俺らも頭に血がのぼってたんで半殺しにしちまってさ・・・」
ビリーがビーストを持ち出したのか・・・。何故だ?
「動かなくなるまで鉄パイプだの木刀だのでブン殴ってやったんだ。だのに、ちょっと目離した隙にビリーのヤロウ逃げ出しやがってよ」
そこまで話すと再び男は頭を抱えて慟哭した。
「・・・ありゃぁビリーだ!! あいつに決まってる!! ビースト打って俺らに仕返しに来たんだ!! 助けてくれ!!俺ぁ死にたくねえ!!!」
・・・だが、てめーはビーストの取引に関わった。どっちみち縛り首だぜ・・・。
泣きじゃくる男を見下ろして、声にはせず俺はそう思った。

現場の後始末を部下に任せて俺は報告書を急いで書き上げた。
時刻は深夜を回ってたが、屯所には連絡を受けた隊長と副長が待っててくれてた。
「大変だったようだな。応援がいるか?」
報告書に目を通した副長が珍しく労いの言葉を口にした。
俺は目の前で証人やられて叱責食らうと思ってたんだが・・・。
・・・・いえ。俺が受けたヤマなんで。俺と相棒で最後までやらしてください。
そう言って頭を下げる。
「そうか。だがお前は一度失敗している。次に奴が何かやる前に捕まえられないようなら担当からは外す。そのつもりで当たれ」
「お土産忘れんなよ」
相変らずの隊長と副長に張り詰めてた俺の表情がちょっと緩むのが自分でわかった。
あざっす!!! と2人に頭を下げて俺は屯所の外へ出た。
そこで待っているシグナルに声をかける。
オイ、仮眠室貸してやる。ちょっと寝るぞ。
「僕はすぐ出られるぞ」
馬鹿野郎、この次は失敗できねんだよ。奴とやりあう事になる可能性もでけえ。俺とお前は今日は歩き通しだ。少しでも寝て体力回復させとけ!
そう言って渋るシグナルを無理やり布団に放り込むと俺もその隣の布団に倒れこんだ。
布団をかける余裕すらなく眠りに落ちる。
「・・・・仕方がない男ですね」
誰かが俺に掛け布団をかけてくれた。
眠りに落ちる前に一瞬、視界に緑色の長髪が映った気がした。

翌朝、目を覚ました俺らは早速外へ出た。
そのままシンクレア姐の薬局へやってくる。
流石にここには入り辛いらしく、シグナルは表で待つと言った。
姐さん、聞きたい事がある。瀕死の奴がビーストを打ったらそいつは回復するのか?
「いいや、そういう類の薬では無いのは知っての通りだよ。痛み止めの代わりにはなるかもしれないが、弱った人間に打ったりしたら逆に止めになりかねないな」
そうか・・・やっぱな・・・。
ありがとよ姐さん。
「・・・どういたしまして。まあ頑張りたまえ、お巡りさん」
タバコを吹かすと、そう言って姐さんは手をひらひらと振った。

よう待たせたな。
表に出てシグナルにそう声をかけた。
「いや・・・・。それでこれからビリーを探すのか?」
シグナルに問われて俺は首を横に振った。
探しても無駄だ。多分・・・もう奴はどこにもいねえよ。
5番街へ行くぜ。
この救いのねぇヤマもそろそろ終わりにしなきゃな。