第18話 うつりゆくもの-2


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早朝から我々は簡単な手荷物一つ持った状態でオフィスの外へと追い出されてしまった。
その間にも我々の家財道具は次々にリヤカーで運び出されていく。
思えば昨日から上と下の階が妙に静かだとは思ったのだ。
要はシンクレアと女王達は既に仮の住まいに移っていたという事だ。
・・・・って、我々はどうするんだこれから・・・・。

ジュピターが我々を促してやってきたのは向かいの「ノワール」だった。
「はいはいはいはい。お帰りお帰り。無事だよ信じてたよオジさんは。まぁそのオジさんは無事じゃなかったんだけどね、浜辺に埋められて一夜を明かしたりね。ホント満ち潮がギリギリまで来て死を覚悟したよね」
コーヒー豆をミルでごりごりとやりながら相変わらずの調子でスレイダーが言う。
シトリンは向こうでルクたちと再会を喜びあっていた。
「では今日から10日程お世話になりますよ」
カウンター席に着いたジュピターが言う。
・・・・なぬ!? ここに間借りすんの我々!?
つか10日て・・・10日でビル一軒建つはずがな・・・・。
ズズズズズズズズズズズズズズン!!!!!!!!!
その瞬間、轟音が響き渡りノワールがびりびりと揺れた。
・・・・っ!! 何だ!!??
爆音は外からだった。
慌てて店外へと飛び出す。
・・・・・・・・・!!!!!
絶句する。オフィスのあった建物がない。
そこにはただ瓦礫の山があるばかりだ。
一瞬で解体してしまったのか・・・あの建物を・・・。
作業員達がわらわらと現れて瓦礫の撤去を開始していた。
しかしあれ程のビルを一瞬で解体するような発破をかけておきながら周辺の建物には被害がまったくない。
どういう理屈か知らんが大したものだ・・・。
等と思って見ていたら作業員が瓦礫の下からボロボロになった覆面の筋肉男2人を発掘した。
・・・・わーッッッ!!! エレベーターさん1号2号!!!!!!

ノワールへと戻る。
「如何でしたか? 10日と言えば10日でやる人達に依頼してありますから、遅れの心配はいりませんよ」
そう言ってジュピターがコーヒーカップを口へと運んだ。
「まー気にしなくていいよ先生。元々がうちだって先生にルクを押し付けちゃったんだからさ。こんくらい何でもないよ」
うーむ・・・遠慮してられる状況ではないし、ここはスレイダーの言葉に甘えさせてもらう事にするか・・・。
すまない。世話になるよ。手伝えることがあれば何でも言ってくれ。
「気ー使わなくていいんだって。先生にはやる事そりゃもうどっさりあるんだしねぇ」
スレイダーがニヤリと笑う。
・・・いや、まったくその通りなのだが・・・。
まずは、帰還の報告に回らなくてはな・・・。
「・・・しっかし・・・カイリがねぇ・・・」
グラスを磨きながらスレイダーがぽつりと呟いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
その呟きを耳が拾ったシトリンが、テーブルを拭く手を一瞬だけ止めた。
カイリが修行の為に浮遊大陸に残った事は、先程私の口から2人に告げた。
「子供だと思ってたけどさ。あっという間に大人になっちゃうんだよねぇ」
しみじみと言うスレイダーの言葉が耳に残った。

翌日、私は知り合いの所を回っていた。
無事に帰ってきた事を報告する為だ。
午前中の内にかなりの距離を歩いたが疲れはあまり感じていなかった。
久しぶりにアンカーの町へ帰ってきて気分がどことなく高揚しているのだろう。
もうこの町が、私の「故郷」なのだな・・・。
大通り、3番街セントラルストリート・・・この町一番の大きな通りだ。
その通りに面した壁に私は背を預けて空を見た。
澄み渡った青空が視界一杯に広がる。
そして視界を目の前へと戻す。
様々な種族の大勢の人々が目の前の通りを行き交っている。
観光客も町の者も入り混じって、人の流れと喧騒は絶える事がない。
通りには露店や大道芸人も数多く出ている。それらに足を止めている人々もいる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ふと、そんな中、大通りを挟んだ向こう側の壁に、同じように背をもたれてこちらを見ている男がいる事に気付いた。
人ごみがひっきりなしに目の前を通るので、その合間にチラチラと見えるだけなのだが、あの男私を見ていないか・・・?
注意してその男を見る。
銀色の髪の男。年齢は今の私と同じくらい・・・か・・・?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

時間が止まった。

何かで読んだ事がある。
「運命」とは常に唐突に訪れるものなのだと。
足音も無く、ノックも無く、前奏も無く・・・・ある日唐突に目の前に「それ」はあるのだと。
そんな事を思い出していた。
・・・・目の前に、私の運命がいたからだ。

奔流の様に、脳を記憶が駆け巡る。
法則性も無く、ただ出鱈目にバラバラにジグソーパズルのピースをこぼしていくかのように。
いくつもの情景が、言葉が、感触が一瞬で蘇る。
・・・・・・・・・・。
『その女を殺せ・・・ウィリアム!』
・・・・・・・・・・・・・・。
『・・・・・・で待ってるわ夜明けまで。一緒に逃げるの。静かに2人で暮らせる場所まで・・・』
・・・・・・・・・・・・・・・・・。

軽い頭痛に見舞われる。
過去の幻影は消えた。
かつて永遠と信じたかけがえの無いものの記憶。
命よりも重かったはずのまぼろし。
ただひたすらに、信じ願い祈って進んで・・・あの日の紅の中に全てを失った記憶が眼前を通り過ぎて消えていった。
しかし目の前の男は消えていない。幻影では無く現実だからだ。
あの紅い記憶の日を最後に、私と彼の道が再び交わる事は無かった。
あれから何十年も過ぎた。
それなのに・・・・。
彼はあの日の姿のままで今、私の目の前にいる。
私もあの日の姿のままで今、彼の前にいる。
「・・・・ラゴール」
かすれる声でその名を呼んでいた。
かつての我が親友の名を呼んでいた。