第18話 竜の国から来た刺客-6


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じわじわと帝国軍が包囲を狭めてくる。
ルクシオンは浮かない顔をしていた。私との真剣勝負にこだわった彼女は気が乗らないだろう。
しかし彼女も生粋の軍人。上官の指示に逆らうつもりはないらしい。
状況はかなり絶望的であった。
・・・・こうなれば防戦に徹して時間を稼いで・・・・。
だがその必要は無かった。
『そこの船!!! 停まれぇええい!!!』
海上にジンパチの大声が響き渡ったのだ。

「おじさま! やったわ!!」
エリス達が甲板に上がってくる。彼らは私の指示でこの艦の錨に爆薬を仕掛けて破壊して回っていた。
この時間帯、潮の流れは町へと向いている。私はあの時去り際にヒビキがささやいた言葉を思い出していた。
『ですから、先生は何とかして彼らの船をこの町の領海へと押し込んで下さい。その時は私が隊士を率いて助太刀にあがります』
彼女は私にそう言ってくれていた。
「バカな、領海侵犯とは言え対応が早すぎる・・・何故!」
ルクシオンが叫ぶ。
それは勿論彼らがもう全て準備を整えて海上で待機していてくれたからに他ならない。
「御用改めである! 言い分は屯所で聞く! 大人しく縛につきやがれぃ!!!」
乗り込んできたジンパチが威勢良く叫んだ。次いでヒビキが、テッセイが、そしてその他の隊士達が乗り込んでくる。
「あーあーあー・・・・・見なさいよコレ、オジさんが考えてた最悪の事態から数えて下から2番目くらいの状態になっちゃってんじゃないのよ」
人差し指で頬をかきながらスレイダーが言う。
「どうするおっちゃん!」
「ここでとっ捕まるワケにゃいかないでしょ。蹴散らしなさいそりゃもうカッコ良く、後なるべくオジさんに出番が回ってこないやり方で」
やれやれと嘆息しつつスレイダーが天を仰いだ。
・・・・いかん何となく親近感を覚えてしまうな・・・・。

優雅にウェーブのかかった銀髪をかき上げながら一人の竜撃隊員がジンパチの前に出る。
「やれやれ、どうにも美しくない展開になりそうで辟易していたのだがね、キミ達が来てくれてよかったよ。そこの面白い頭をしたキミ、このユーリケと美しく一騎打ちといこうじゃないか」
「テメェ・・・・この漢のヘアスタイルを面白い頭だと?」
ジンパチがユーリケと名乗った伊達男をジロリと睨みつけた。
「面白ぇ。その澄ましたツラを今からジャガイモみてーに変えてやる。うぐいす隊第三小隊長葛城陣八だ。行くぜぇ!!」
ジンパチの長槍とユーリケのレイピアが激しく火花を散らした。

「ヌ!!!」
「む!!!」
テッセイはある竜撃隊員と目を合わせ互いに動かなくなっていた。
その男は竜撃隊員一の巨躯を誇る顎ヒゲの巨漢で小山のように筋肉で盛り上がった体型をしていた。
男が手にしたハルバードを投げ捨てる。そして上半身の鎧を脱ぎ去ると衣服を自ら引き裂いた。
「ヌン!!」
そしてムキッとポージングを決めた。
テッセイも手にした鉄棍を投げ捨てる。そして羽織と胴当てを投げ捨てると上着を脱ぎ捨てた。
「ふん!!」
そして同様にポージングを決める。
「ヌヌヌヌヌヌヌゥ・・・・・・」
「むむむむむむぅ・・・・・」
そしてやおら真正面からがっしりと両手で組み合った。
「ヌォオオオオオオ!! 竜撃隊員ゴルドー!!! いざ勝負!!!!!」
「ぬぐああああああ!! 第五小隊長蒲生哲清!!! お相手仕る!!!!!」
おあああああ!!と二人の筋肉男は力比べの体勢のまま咆哮を上げたのだった。

猛然とカイリに向かってダッシュしたひぢりがハンマーを振り下ろした。
それをカイリが交差した二本の剣で受ける。
「ははっ! これでやっと仕切りなおしだね!!」
カイリが弾んだ声で言った。
「・・・・よさいさん、あれ・・・いくかも・・・・」
「マジでー・・・・今回はホントの本気でガチなんだなぁ・・・・」

戦いが始まるとすぐにスレイダーは数歩下がって全体を見渡せる位置に移動した。
「はぁー・・・・。やれやれどっかに戦ってるフリだけしててサボってもよさそうな適当に弱い人はいませんかね、オジさんが喜んで相手しちゃうんだけどな」
「アンタの相手は私でしょ? 蹴り逃げはズルいなー」
スレイダーが振り返る。海水を滴らせたDDが立っていた。
「やっぱねぇ・・・・インパクトが妙に浅くて飛び過ぎだと思ったんだよなぁ。自分で後ろに跳んで衝撃を殺したよね。オジさんが蹴り入れるのわかってたでしょ」
わしわしとスレイダーが頭をかいた。
「10年前まで海の上で会ったら絶対逆らうなって言われてた『氷の戦姫』か・・・・。でもオジさんもこう見えても地元の繁華街じゃ絶対ツケで飲ませるなって言われてる『暁の魔術師』って・・・・・」
いきなりスレイダーがハイキックを放った。
しかし今度はDDも同時に反応していた。高く上がった互いの足が×の字に撃ち合わされる。
バシッ!!!!!!と激しい炸裂音がした。
「呼ばれてるんだよね!!! ・・・・・ってイッテー!! 足いてえ!! 何食ってればそんな頑丈になるのオジさんに教えてちょうだいよ!!!」
ブン!!!と唸りを上げてスレイダーの拳がDDに襲い掛かる。
ガキッ!!とその拳をDDが腕を上げてブロックした。
「えりりんの愛のこもった手料理!!!」
反撃の拳が繰り出される。その一撃はかわしたスレイダーの頭部をかすめて髪の毛を数本散らした。
「愛かよ!!うらやまし過ぎてオジさんちょっと涙目だぜ!今度お夕飯にお呼ばれしていいかな!!」
ドン!ドン!ドン!!と必殺の速さと重さを持った拳が矢継ぎ早に繰り出される。
その全てを紙一重でDDが捌いていく。
「いいけど食材そっちもち!!!」
ごうと風を切ってDDの蹴りがスレイダーを襲う。スレイダーが上げた膝でその蹴りをブロックした。
「いいねぇじゃあオジさん豚肉沢山買ってっちゃおう!! 牛より豚のが好きなんだよなぁ!牛ってなんかお高くとまってて胃がもたれるって言うか・・・・」
スレイダーが跳んだ。DDも同時に空中に跳んでいた。
「・・・・オジさん根が小市民だからね!!!!」
そして二人の飛び蹴りが空中で交差した。

初めからヒビキはシトリンを見たまま他へ視線を移さなかった。そしてそれはシトリンも同様であった。
「初めまして、私はシトリン・メディナ・クフィール。ガルディアス帝国竜騎士団長です」
一礼してシトリンが挨拶する。
私はー、と言いかけたヒビキにシトリンが言葉を重ねた。
「存じていますよ、ヒビキ・ナグモ。ヤマト最強を謳われた剣客集団『虎鳳隊』の隊長さん」
言われてヒビキがくすっと笑った。どこか自嘲的な微笑だった。
「今はうぐいす隊所属、それに私は副長だ」
「おや、あなたを従わせるような猛者がいましたか」
「・・・・いや、どうしようもないダメ中年だ。・・・・でも戦う事しか知らなかった私にそれ以外の生き方を教えてくれた人だ」
そしてヒビキが私と対峙しているルクシオンを見た。
「・・・・昔の私がいるな」
「・・・・・・・・・・・・・」
シトリンは何も答えなかった。
「見つかるといいな、彼女にも」
カチャッ、とヒビキが刀の柄に手をかけた。
「・・・・・・行くぞ」
「出るわ、クリムゾン」
シトリンの瞳が金色に輝いた。

「ようやく2人ですね」
グングニールを構えてルクシオンが言う。
そうだな・・・・。
周囲を見る。後は周りの事は仲間達に任せよう。
もう、何十年ぶりだろう。周囲の事をまったく気にせずに全力を出すのは。
いつからか私は常に戦闘中も仲間の事を気にかけて全力で目の前の敵に集中するという事をしなくなっていた。
それこそ、最後に本当に相手だけに集中して戦えたのはあのアホとの戦いだったかもしれない。
その時の気持ちを思い出す。
世界は私と彼女だけになった。
・・・・・戦場で負けた事が無いと言っていたな。
「はい」
では、今から敗北を教えてあげよう。
私は神剣を構えて地を蹴った。
周囲の喧騒も、風も、全て置き去りにして私はただ一振りの刃と化した。