第17話 砂漠の女王と熱砂の迷宮-6


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渾身の力を込めて、私は神牙を放った。
巨大なオーラの槍が迷宮を縦に貫く。
衝撃で短剣が粉々に砕け散り、私の右腕の指や腕の骨が何箇所か折れた。
振動が収まるとそこには巨大な縦穴が空いていた。
穴は迷宮を幾層にも貫いて底が見えない程深く続いていた。
右手はもうまったく動かない。ただ激しい痛みだけがある。
しかし私はその痛みを意に介する事無く、下層への穴を瓦礫を飛び移りながら下っていった。

そして8層目に到達した時、そこは通路ではなく広い空間だった。
そしてその奥には巨大な何かが鎮座していた。
「見事だ、ウィリアムよ。失う覚悟ではなく、失わない決意で挑むか。お前の力と心、確かに見届けた」
巨大な何者かは獅子の頭部に人間の身体をしていた・・・・なんか逆な気もする。
・・・・スフィンクスか。
「その通りだ・・・・・・・さっきのやつ当たりそうになった・・・・・真横通った・・・・ちょっとちびっちゃった・・・・・」
最後は泣き声になっていた。
サイカワは・・・・。
「あの人間の魔術師の事ならば心配はいらぬ。既に安全な所へと退避させておいた」
ふぅ・・・・全身の力が抜けるのを感じる。と、同時ににわかに右腕の痛みが酷くなってきた。
「我はフェニックスと違い傷を癒してやる力は無い。その代わりに我に出来る事でお前の力になろう」
出来る事で・・・・?
「もっともそれはまだ先の話になる。ウィリアムよ、引き続き他の神獣に会いその助力を得るのだ。その事がいずれ大きな意味を持つ事となる」
むう、残りは3匹か。まだ先は長そうだ。
「とはいえ、この場で何も無いのも寂しかろう。さあこの喋るヤカンを・・・・」
や、それはいらん。
「そうか・・・じゃあこの夜中に髪の毛の伸びる人形を」
もっといらん!!!!!

その後私は遺跡を出て仲間達と合流した。
「・・・・もう! もう!!またこんな無茶して!!」
エリスは半分泣きながら半分は怒りながら私の右手を手当てしてくれた。
彼女の回復魔法でも流石に骨折は治せないらしい。でもお陰で随分痛みは和らいだ。
今は添え木を当てて包帯で巻いて首から吊っている。
サイカワも負傷は結構あったが大怪我は幸いしていないようだった。
私たちは何も言わずただ静かに笑い合って拳同士を軽くぶつけ合わせた。

「そうか・・・ご苦労であったの、ウィリアムよ。わらわは満足じゃ」
王宮へ戻り、報告を済ませる。女王は上機嫌だった。
報告した内容は、一先ず件の連中は追い払っておいた事、首謀者は逃がしたが結構な損害を与えたのでまたすぐ来るような事はないだろうという事、再度彼らが来た時には連絡をもらえればまた追い払いにくるという事、等であった。
「それにしても神獣の聖域に大穴を開けて帰ってくるとはのう・・・・つくづく規格外の男じゃのそなたは」
女王の台詞に批難の響きは無い、むしろ状況を楽しんでいるように聞こえる。
「・・・地上も悪くないかもしれぬな」
そう言って思わせぶりに笑う女王であった。

かくして私たちはオフィスへと帰還し数日が過ぎた。
腕を負傷しているので流石に地上で見つかった遺跡へは行けなかった。
残念だがまあ仕方が無い。それよりも利き腕をやってしまった私は日常生活がかなり不便で大変な事になっていた。
その日の昼食も慣れない左手でスプーンを必死に使いながらとっていた。
エリスはもう食事を終えて洗い物を始めている。DDは朝から昔のクルーが町に来ているので会って欲しいとの事でエンリケに呼ばれていって不在だ。
いつの間にかエリスがすぐ隣に来ていた。私のスプーンをそっと手に取るとそれで食事をすくって差し出してくる。
「お、おじさま・・・その・・・・」
エリスは湯気が出そうなくらい真っ赤になっている。
私は私で年齢がアレなのでなんだか介護を受けているような複雑な気分になる。
まあせっかく好意でしてくれているのだ。ここは甘えておく事にしよう。
と、ちょうど差し出された一口をくわえたその瞬間、オフィスのドアが勢い良く開いた。
「どうもウィリアム様!その節はお世話になりまして!」
「!!????」
驚いて伸び上がったエリスが私の口にスプーンをドボッと思い切り突っ込む。
喉の奥を突かれて私は激しくむせ返った。
入ってきたのはハイパーココナッツ伊東であった。何故伊東がここに!?
「ああ、これは失礼しましたウィリアム様。今日は女王様の使いで引越しのご挨拶に伺った次第でございます」
女王? 引越し? ・・・・一体何が起こっているというのか・・・・。
すると表がにわかに騒がしくなってきた。
見覚えのある白装束が次々に荷物を抱えて階段を上っていく。抱えた荷物は家財道具や豪華な調度品、黄金の棺などであった。
つか黄金の棺運び込むなよ。
そもそも3階にいた書道の爆惨先生は??
1階へ降りてシンクレアの薬局へ入る。
コラ大家、これは何の騒ぎだ。
「ああ、入居者が新しく来ただけさ。親切にしてあげてくれたまえよ先生、何だか遠くから来たらしい」
かなり離れた地面の中から来た人々だな確かに・・・・。
書道の爆惨先生はどうなったんだ。
「昨日出て行ったよ。抱え切れないくらいの金塊持って大喜びで退去していったよ」
ぬお買収されとる。
これって当然越してきたのは・・・・。
「ウィリアムよ、来てやったぞ喜ぶがよい」
ほっほっほ、と聞き覚えのある典雅な笑い声が聞こえて私は振り返った。
案の定そこには数名の侍女を伴ったあの女王テトラプテラが立っていた。
国はいいのかね女王がこんな所にいて・・・・。
「別にここにずっと居るわけではないぞウィリアムよ。半々と言ったところかの。そう寂しがるでない。こちらにいる間はそなたの相手もしてやろう。幸せであろ?」
ふふん、と女王が優雅に髪をかき上げた。
「全知全能のわらわが側で暮らしておるなどとそなたは果報者よの」
なんという事だ、上の階に女王が引っ越してきた・・・・・。
でも考えてみれば爆惨先生もしょっちゅう爆発音響かせてて落ち着かない人だったしな。
どっちもどっちか・・・・。
そう思い直して私はやれやれと肩をすくめたのだった。

~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~