第4話 Northern Tiger-1


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応接テーブルの上に広げて置かれた本。
その本の上に映し出された映像を、私達は額を突き合せんばかりに顔を寄せ合って見ていた。
「揃ったな。そんじゃ代表の所まで挨拶にいくぜ、てめーら」
カミュが残る3人を見回してそう言った。
「面倒くさそうだな、私はパスだ」
すかさずルノーがそう返事をする。
「バカヤロ。4人で来ましたがこの場に顔出してねーのがいます、で筋が通ると思ってやがんのか」
カミュがルノーの襟首を掴んでひょいと持ち上げるとエリックにバンと押し付けた。
「お前が持ってこい、参謀」
「困った子猫ですね」
エリックに抱えられたルノーが退屈そうに欠伸する。
そして4人はエンリケの事務所へ向かって歩き出した。

「ちょっとどういう事なのこれ! なんでしぐぷーがコイツらと一緒にいるのよ!」
オルヴィエが叫んだ。近すぎ、耳痛い。
ってゆか、本当にそのしぐぷーさんなワケ?他人の空似とかじゃないの?
「・・・いや、それは有り得ぬ」
見るがよい、とゲンウが指したのはそのスーツの人の腰に下がってる白い西洋剣だった。
装飾が凄くてなんか強そうだって事はわかるけど・・・・。
「これこそ魔剣ローレライ。この剣を持つ者はこの世に二人とおらぬ。かつての我らが盟友、シグナル以外はな」
なるほどー・・・契約魔剣てワケね。
「・・・ねぇ! オルにゃんどうしよう! しぐぷーが!! ねぇ!!」
オルヴィエの襟首を掴んでコトハがガクガクと揺すっている。
「ちょ・・・ちょっと・・・ちょっとって・・・・!!」
前後に激しく揺すぶられて目を白黒させるオルヴィエ。
「・・・ちょっと落ち着きなさいってば!!!!」
バシッ!!!と激しくゲンウの横っ面を張るオルヴィエ。
「メンチカツ!!!!」
吹き飛んだゲンウが本棚に突っ込んだ。
「・・・・あ、ごめん。目回ってたから・・・・・」
コトハを打とうとして狙いが逸れたみたい。
半開きの口から舌をダラーンと出して昏倒しているゲンウを助け起しながら、シンラが静かに口を開いた。
「皆落ち着いて・・・・大変な時ほど冷静になったほうがいい」
と、シンラが映像の中の三銃士+1人を指さす。
「この人たちは・・・・当分島にいると思う。だから急いで何かしなくてもいいはず」
まー確かにね。時間かけてあれこれ調べて回るだろうね。
「そうね。まずはしぐぷー本人に話を聞いて・・・それで必要なら本国に連絡を取りましょ」
オルヴィエがそう言ってソファに腰を降ろした。
とりあえずその場は、その一言でなんとなく解散になった。

問題は一つも片付かない内に増えていく一方だね・・・・。
オルヴィエ達が帰った後のオフィスで私たちはお昼ご飯を食べていた。
「空を飛ぶ船を都合するっていう話、どうなったの?」
えりりんが私に聞いてくる。
私は、船はどうにかなりそうだけどエンジンが届くのに半月くらいかかるんだって、と返事した。
「半月・・・うう・・・・」
えりりんが頭を抱えている。
や、私も待つのは辛いんだけどさ・・・・。
でもどうにもならない事もある。ここは黙って我慢の子だよ、えりりん。
なんて思ってたら、思いも寄らない朗報が次の日私に舞い込んできた。
朝っぱらから慌しくオフィスの戸を叩いたゲン爺の使いの彼のお弟子さんは、予定よりずっと早くエンジンが手に入るかもしれないから工房まで来て欲しいとそう伝言を持ってきた。
そりゃもう行くしかない。
私は朝食もそこそこに慌ててオフィスを飛び出した。

港近くのゲン爺の工房まで小走りに急ぐ。
途中、私はアンカーグランドホテルの前を通り掛った。
・・・・・・・!!!!
反射的にわき道へ身を隠す。
や、別に隠れる程の事もなかったかもしれないけど・・・・。
ホテルの前にはカミュ達がいたのだ。
まあでもやっぱ顔は合わせたくないよね。
・・・に、しても・・・・。
私は脇道からそっと顔を出した。
やっぱ揃ってると威圧感あるなぁ・・・・。
「じゃ、周るとするか」
カミュがタバコに火を付けて言う。
するとシグナルが口を開いた。
「今日は僕は1人で動く。予定の時間までには視察は終らせて集合する」
「ん? どこ行く気だ?」
ぴくりと眉を上げたカミュがそう問う。
「それは君達には関係が無い」
シグナルの返事はそっけない。
おいおい、と言いかけたカミュの胸にエリックがそっと手の甲を当てて制した。
「・・・彼の自由行動は作戦に支障の無い範囲で、出来うる限り容認するようにと大統領閣下に申し付かっています」
「ちっ、わかってるよ。好きにしやがれ、バカヤロ」
面白く無さそうにそう言い捨てると、行くぞ、と号令を出してカミュとエリックとルノーはどこかへと出発した。
シグナルはその反対側・・・こちらへと歩いてくる。
そして彼はそのままわき道への曲がり角を曲がって・・・・。
私と真正面から出くわした。

向かい合う形で数瞬、私たちはお互いに静止する。
「・・・・失礼」
そう言うとシグナルは私を避けてすれ違った。
ふと、思う。
・・・わかってるんだ・・・。
人にはそれぞれ事情があって、そこにはよく知りもしない第三者がハンパな親切や好奇心で首を突っ込んじゃいけない類の話だってある。
これは、きっとそういう話だ。
・・・私にはわかってる・・・。
だから、『これは余計な事だ』と・・・。
わかっているけど、私は声を出していた。

・・・・・ねえ、シグナル。

ぴたっと足を止めて、彼が私に振り返った。
「何か僕に用なのか」
そう、尋ねてくる。
ん、私は別に・・・・でも、オルヴィエとコトハとゲンウが心配してたよ。
その名前を口にする時、彼に何かの変化が起こればと私は期待してた。
けど、彼の表情はまったく動かなかった。
そうか、と短く言うと彼は再び私に背を向ける。
そして、
「知り合いなら伝えておいてくれ。もう僕には関わるなと」
そう冷たい拒絶の一言を残して、彼は歩み去っていった。

んー・・・・やっぱり余計な事だったなー。
でもどうしても黙ってられなかったんだよね。どうしてだろ。
自分がそんなお節介さんだとは思わないんだけどなー。
なんて考えながら私はゲン爺の工房へやってきた。
よぉ、とキセルを持った手を上げてゲン爺がやってくる。
エンジンがすぐ手に入るって?
「・・・・それなんだがよォ、ちょっとまあお嬢が直接話してくれよ。俺っちじゃどうにも答えようがねェ」
そう言ってゲン爺が後ろを振り返る。
そこには、スーツ姿の背の高い女性が立っていた。
泣き黒子のある綺麗な人だ。
私と目を合わせると、彼女は微笑んで会釈してきた。
なんだろ? 
疑問に思いつつも、どーも、と私も頭を下げる。
「こちらさんがな、エンジンを準備してくれるってぇのよ。予定よりずっと早くな。2,3日で都合付くそうだ。・・・しかも俺っちが注文した代金そのままで最新の最高級のエンジンを回してくれるっつーのよ」
ナニソレ。随分都合のいい話ね。
でも美味しい話には裏がある。
・・・・条件は?
そう、女性に聞く。
そもそもこの人どっからその話知ったんだろ?
「私もその船に乗せて欲しいの。私も『上の国』に用事があるのよ。だから行く手段を探していたというわけ。ギブアンドテイクよ。悪い話ではないでしょう?」
そう言って女性は微笑んだ。
「・・・・柳生霧呼よ。よろしくね」