第22話 鬼人の谷-4


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最近オーガ達の狩場を魔物が荒らしているという。
その魔物を退治する為にオーガの姫が周囲の静止を振り切って飛び出してしまっていったらしい。
私はオババの家に戻り、コトハと合流するとオーガの狩場へと急いだ。
「すごいお婆ちゃんだったねー」
コトハはまだ動揺から立ち直っていないようだった。なんか気持ちフラフラしている。
「獣王様より迫力あったよ!」
まあ、あれは絶対無い方がいい類の迫力だったけどな・・・・。

途中、先行していたラハンに追いつく。
「おお!旦那に姐さん!来てくれたんですかい」
退っ引きならない事態のようだ。手を貸そう。
それで、狩場を荒らす魔物とはどんな奴らだ?
「アリですよ。あのアリども最近急に増えてきやがって!!」
アリか・・・・アリ系の魔物も種類が多い。
いずれも数の多さと統率された動きが脅威となる。
だから相手にしたければこちらもそれなりの頭数が必要になるのだが・・・・。
姫様とは好戦的な人物なのか?
「とんでもねーです!姫様はお優しい方だ。普段は子供たちに楽器を聞かせたり機織りしたりして過ごしてらっしゃるんですぜ」
ぶんぶんと頭を横に振ってラハンが言う。
「・・・・でも本当は姫様はとても強いんだ。ワシが里で一番強いて言われてはいるが、本当は姫様の方が強い。何度か稽古してていつも勝つのはワシだが、あれは姫様が本気でやってないんだ。ワシにはそれがわかるんですわ」
なるほど、個人としては中々の実力者なのか。
「姫様を失うわけにはいかねえ!姫様は里の皆に慕われてる!オババは里の皆に恐れられとる!!」
オババの事は言われんでもわかる。
間もなく森が見えてきた。
そこが我々の狩場なのだ、とラハンに説明を受ける。
ではあそこが戦場になるわけだな。

森へ突入して間もなく、前方の木々の陰から巨大な何かががガサガサと音を立てて出てきた。その数は3体。
「出やがった!!アリです旦那!!!」
アリ? あのシルエットはグリズリーの類では・・・・。
む。全身のシルエットは熊のものだが、頭部と腕の肘から先、それに足の膝から先がアリのものだ。
尻の先にはアリの腹がついている。
・・・・・アントベアか。数いるアリ系の魔物の中でも戦闘能力においては最強の部類の魔物だ。
豪腕から繰り出される一撃は巨木を薙ぎ倒す破壊力を持つ。
「うおおおおこのアリどもがあ!!!」
ラハンが大斧を構えるが、その動きは精彩を欠いていた。
やはり負傷した肩が痛むのだろう。
私は神剣を構えた。
襲い掛かってきた1匹と切り結ぶ。
「『落陽崩し』」
ふわりと飛び上がったコトハが1匹のアントベアを飛び越えた。
飛び越えられたアントベアを見ると頭部が上下逆になっていた。アゴが真上を向いている。
ズズン、とそのアントベアがそのまま倒れる。
「うー、おっきいと技がかけ辛いよ」
渋い顔して文句を言っている。その間に私も1匹を倒していた。
やはり通常の斬撃にはかなりの耐性があるな。深手を負わせても怯まない。
粉々にする類の技も持ち合わせはあるのだが・・・・。
まだ相手の数も掴めてはいない。最初から飛ばすのはやめておこう。
ラハンを見る。
必死に戦ってはいるが苦戦しているようだ。肩に巻かれた包帯は血で真っ赤になっている。
加勢しよう、と前に出かけたその時、木々の奥から素早く飛び込んできた何者かが一撃でアントベアを斜めに切り裂いた。
「姫様あ!!」
ラハンが目を輝かせる。
この女性が・・・・オーガの姫君か。
長身細身の女性だった。細腕に似合わないナタに似た形状の巨大な刀剣を手にしている。
「ラハン・・・・この人達は誰」
そう言ってこちらを見る。その表情からは微かな警戒心が伺える。
「ウィリアムの旦那とコトハの姐さんですぜ。姫様を探しに行くって言ったら力を貸してくださったんでさあ」
そう、と表情を変えずに姫はうなずいた。
そしてこちらを見る。
「私はシンラ。・・・・ここまで来てくれた事には礼を言う。でもこれは私たちオーガの問題。あなたたちは帰って」
そうそっけなく言い放つ。
「そんな姫様!旦那がたは親切で来てくださったんですぜ!それに姫様1人でアリども皆相手にしようだなんて無茶だ!」
「1日で全滅させようなんて思ってない。何匹か狩れば戻る。それを毎日繰り返す」
静かに、しかしきっぱりと言うシンラ。
物静かではあるが芯は頑固な性格らしい。
私は先ほどのオババとのやり取りの一部をシンラに話した。
これから友好的な関係を築いて行こうというのだ、ここで見て見ぬフリをして帰るわけにはいかない。
私の話を聞いてシンラは思案顔になった。
しかしここは敵地のど真ん中。我々にゆっくり議論する間は与えられなかった。
じりじりと距離を詰めてくる気配がある。アントベアだろう。かなりの数だ。
それに気付いたシンラも再び武器を取る。
「報復する気だね」
そうコトハが言った。そんな事がわかるのかね?
「うん。なんとなくだけどねー。ここで自分たちの仲間がやられたのがわかるみたい」
コクンとうなずく。
仲間同士に通じる不思議な野生の感応能力があるのか。
いずれにせよ、これで私たちだけ帰るわけにはいかなくなったな。

そこからはただひたすらに連戦だった。
後から後から沸いて来る。
十数匹目を倒した時に私は撤退を提案した。
このままでは人海戦術でいつか押し切られてしまう。
「すまない・・・・奴らを甘く見ていた」
シンラが苦い顔で謝罪する。まあ無理もないな。統率力があるのはわかってはいたが私もそれがこれ程とは思わなかった。
このまま種族全部が出てくる気すらしてくる。
「またくるよ!」
コトハが鋭く言った。
前方の茂みから数匹のアントベアが飛び出してくる。
「ハァァァッ!!!!!」
即座に一匹をシンラが真っ二つにした。
・・・まさに一撃必殺だな。さっきから気にして見ていたがシンラの戦い方は相手の攻撃をかわして捌きながら気を高めて一撃で相手を仕留めるスタイルだ。
一撃の破壊力は凄まじいのだが、欠点は溜めに時間が要る事と・・・・。
シンラを見る。息が上がっている。
・・・・消耗が激しいことだな。長期戦には向かないスタイルだ。
その点コトハは最小の動きで相手を仕留めていく。最早私の目から見ても何が原因でやられているのかもわからないほど損傷の無い死体もあった。
「・・・・う・・・」
疲労からか、シンラがよろめいた。そして彼女が相手をしていたアントベアはその隙を見逃さなかった。
腕を振り上げる。その鋭い爪の真下にシンラの頭部がある。
・・・・く!間に合うか!!
走りこむ。だが私がそのアントベアに辿り着くよりも早く、突然そのアントベアが地面に崩れ落ちた。
・・・・・何だ?何があった?
倒れたアントベアはのた打ち回って苦しんでいる。
見れば他にも数匹同じ状態で絶叫を上げながら転げまわっていた。
「ぶつぶつぶつぶつぶつ・・・・・・」
周囲の空間に不気味な声の呪文のようなものが響いてくる。
何と言う恐ろしい声だ。まるで地獄の底から響いてくるかのようだ。
思わず戦慄して身震いする。
コーン!コーン!と何か木槌で打ち付けるような音も一緒に響いてきた。
苦悶しているアントベア達が次々に泡を吹きながら絶命していく。
「おお・・・・これはオババの闇狂呪怨殺・・・・」
ラハンが言う。
「遠く離れた場所から、呪詛をかけながら相手に見立てた藁人形にクギを打つ事で呪い殺す技ですぜ」
オババ技までこえーよ!!!!!!!!!!!!!1111111111

ともあれ、そのオババの援護もあってようやく我々は森を抜け出した。
しかし、森を出た途端に広がった光景はまさに絶望的なものであった。
里へと戻る峠道が土砂崩れで塞がれてしまっている。
そしてその土砂を中心に我々を待ち構えていたのだろう。
およそ数百はいようかというアントベアの大軍団が展開していたのだ。