第8話 船上の死闘-2


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アビスがゆらりと1歩こちらへと踏み出した。
顎からはぽたぽたと鮮血が垂れている。
「・・・くそ・・・痛ェ。何で俺だけいつもこんな目に遭うんだ。・・・くそ、ツイてねぇ」
ぶつぶつとボヤくアビス。
それを相手にせず、ジュデッカが動いた。
無言で右手のライフル、左手のリボルバーをアビスへと向けて引き金を引く。
バンバンバンバン!!!!!
銃声が鳴り響き、アビスの身体に幾つもの銃創ができる。
「・・・・ぐぇ!!・・・・うごぁ!!!!」
銃弾を浴びながら後ずさったアビスが甲板の手すりにドン、と背中を付けた。
そして両手の肘を手すりに掛けるようにしてがっくり項垂れる。
ジュデッカの足元にキンキンと音を立てて空の薬莢が落ちて跳ねた。
「・・・・チッ、おかしな奴」
ジュデッカが舌打ちする。
アビスがゆっくりと顔を上げる。
「・・・ホントにツイてねぇ・・・・ぜ・・・・・」
ごほっと血の混じった咳をするアビス。
そして手すりに体重をかけつつ、ゆっくりと起き上がってくる。

「な、何なんですか!? あの人・・・!!」
魂樹が叫んだ。
ふむ・・・・。
どういう理由かはわかりませんが、彼は致命傷を受けてもその場で自己修復できるみたいですね。
「俺だけツイてねぇんじゃ不公平だよな・・・。キサマらにもお裾分けしてやろう」
アビスがしゃがんで甲板に右手の掌を当てた。
「『バッドラック・メモリー』」
すると甲板から何かモヤのような、煙のようなものがいくつも立ち上る、
それらはやがてぼんやりと人型をとった。
灰色の陽炎のようなゆらめく数体の人影が両手をこちらへ向けて上げると、ゆっくりと前進してくる。
「教えておいてやるよ。そいつに触れるとな、今まで俺が受けてきた数々の『酷ぇ目』がそいつの肉体に『再生』されるのよ。運がよきゃ軽症だし、運が悪きゃ常人なら3度くらい死ねるような致命傷だ。どの影がどの痛みを抱えてるのかは俺もわからねぇ」
「・・・ちょっ!・・・冗談じゃないわ!!」
魂樹が風精を召還し、旋風を生み出して灰色の影にぶつける。
影は風に吹き散らされて一旦霧散したかに見えたが、やがて再び集まり人型に戻った。
「無駄だ。そいつは動きは緩慢だし、触れた相手に傷を再生するしかできないが、術の効果時間中は絶対に消す事はできん」
そしてアビスは腰に下げていたククリナイフを抜いた。
「勿論俺もぼーっと見てるだけじゃねえぞ」

その様子をマストの上から伺っていたJOKERが突然覆面の口に当たる部分を両手で掴むとビリッと裂いた。
そしておもむろにその覆面の裂け目へと右手をズボっと突っ込む。
「フフフフ・・・・ではそろそろ私めも参戦させて頂くとしましょうか」
裂け目から引き抜かれた右手はサーベルを掴んでいた。
マストの上から飛び降りてくるJOKER。
「おい、メモリーに触るなよ」
アビスが降りてきたJOKERに言う。
「承知していますとも」
JOKERが大仰に頷いてみせる。
その時、魂樹の腰のポーチから水精の呼び掛けの反応があった。
「団長!・・・こんな時に!!」
弓を構えている魂樹が叫ぶ。
どれ、ちょっと手が離せないでしょう。私が出ましょうか。・・・失礼。
ポーチを空けて水の入った小瓶を取り出し、蓋を空ける。
瓶から水精が顔を出してマチルダの声で話し始めた。

魂樹の放った無数の矢がJOKERを刺し貫く。
「おお!! なんと!?」
JOKERが叫び声を上げたかと思うと、その身体がまるで風船の様に膨れ上がった。
「!!?」
そしてパァン!!と大きな音を立ててJOKERが弾ける。すると割れたJOKERから大量の純白の鳩が大空へ羽ばたいていった。
「・・・・くっ! 怪しげな術を!!!」
魂樹が叫ぶ。
舞い落ちる無数の白い羽の向こうに無傷のJOKERが立っていた。
「フフフ・・・・マジックはお嫌いですかな?」

灰色の影を避けながらアビスに弾丸を撃ち込み続けていたジュデッカが攻撃の手を止めた。
そしてフーッとため息をつくと肩をすくめる。
「・・・・やめた。弾の無駄だ」
リボルバーを腰に戻すとライフルを肩に担いでアビスに背を向ける。
「譲る魂樹、2人とも殺っていいぜ」
「ちょっと!」
非難の声を上げる魂樹。
ちょうどそこで、私はマチルダとの精霊通話を終えた。
さあ、では久しぶりに私のカッコいい所をですね・・・・!
と思ったらジュデッカが私の肩を掴んで止めた。
「・・・行かなくていいよ。どうせ出番ないって」
がーん。
「やらせてやろうぜ。この程度の奴あっさり殺れるようじゃないと戦えないって、『あいつら』とは」
ジュデッカの横顔を見る。
彼女はどこか遠い目をして、その表情は真剣だった。
「・・・戦うんだろ? あいつらと・・・・あの世界を手に入れたつもりになってる悪鬼どもと。覇王と奴の率いる9本の首の毒蛇と」
・・・・・・・・・・・・・・。

「どうなさいました? お仲間に見限られましたかな?」
「2対1だろうが手加減無しだぞ。覚悟しろ小娘」
それぞれの武器を構えてアビスとJOKERが魂樹に迫る。
そしてその背後には無数のメモリーの灰色の影。
「どいつも・・・こいつも・・・・」
がしゃっと魂樹が構えていた弓を背中へ戻した。
「?」
アビスが訝しげな顔をする。
「・・・・本気でやるわ。あなたたちどうなっても知りませんからね!!!!」