第15話 風の聖殿-4


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・・・静かだ。
私はそう思った。
周囲がという意味ではない。
ガ・シアの立てる低い唸り声もその巨体が生み出す地響きも私の耳に届いている。
静かなのは私の内面だった。
心が酷く平静だというのだろうか。
先程までの怒りも絶望も焦燥も全て遠く感じる。
消えてなくなったという意味ではなく。強く意思の元に感情は制御されていた。
呆けている訳でもなく、自らの目的に向かい私の肉体はまったくの無駄なく機能し行動していた。
・・・目の前のガ・シアを倒し、仲間達を救うのだというその目的に向かって・・・。

ガ・シアがその2つの頭部をこちらへと向けた。
明確な殺意を感じる。
私を「排除すべき障害」と認識した動作だった。
上空高く、見下ろす2つの白い仮面の漆黒の眼窩の奥より赤い光が周囲を満たす。
・・・それはもう一度見せてもらった。2度は通用しない。
意識を集中してその光に抵抗する。
麻痺を受けることなく駆け抜けた私はそのまま速度を落とすことなくガ・シアへと迫った。
ヤツの頭部は遠く空の上だ。
飛翔する能力の無い私にはその仮面へ直接攻撃する手段がない。
しかも先日のガ・シアの時と違って今回は向こうが先に私を認識してしまっている。
遠距離から溜めて神牙を放って仕留めるという方法も使えまい。
だが、問題はない。
ヤツを絶命させ消滅させるまでのプランは既に頭の中に組み上がっている。
状況、自分と対敵の能力、あらゆる要素を鑑みて問題は何一つない。
後は静かにそれを実行するだけでいい。
ガ・シアが私へ向けて呪叫を放った。
・・・遅い。その速度で今の私を捉えるのは不可能だ。
加速した私は破壊の範囲を無傷で抜ける。
さて、まずは横たわってもらおうか。
神剣を構えた私はその剣先に力を集中し、ヤツの足元へと叩き付けた。
実体化していない身でも、足元が無くなれば浮遊しているわけにもいくまい。
衝撃波を伴った私の一撃はヤツの足元の地面を抉り飛ばした。
ヤツが咆哮を上げて大きく右へと身体を傾かせる。
右の頭の落ちる場所は・・・・あの辺りか。
地を蹴り、走る。予測した地点へと向けて。
そしてその予測は過たず、足を止めた私の眼前数mの所にヤツの頭部が倒れこんできた。
剣を一閃する。
仮面を縦に断つ。
2つに分かれた仮面が轟音を立てて地面へと落ちる。
私の目の前一杯に、目の紋様があった。
それを穿つ。
絶叫が響き渡る。ヤツの身体が灰色に実体化して罅割れていく。
だが想像していた通り、片方の模様だけではヤツを絶命せしむるには不完全のようだ。
苦しみながらもヤツは再びその巨体を起こしていた。
しかしその動作も想定の範囲内だ。
私は神牙の構えをとっていた。ヤツが立ち上がって再び戦闘体勢を取るまでの間にチャージは終わる。
次の標的、ヤツの左の仮面を見上げて・・・そして私は、神牙の溜めを中断した。
必要なさそうだな。
起き上がり再び鎌首を擡げたヤツの左の頭部に迫る2つの影があった。
それは飛翔したルクとペガサスを駆るマチルダだった。
『・・・・双竜牙!!!!』
2人の声が唱和する。
そして互いの槍から放たれた2条の閃光がガ・シアの仮面を砕き、その下の模様を刺し貫いた。

絶叫を上げたガ・シアが崩れて風に溶けて消えていく。
2人が降りてくる。
大丈夫か?
心配して声をかける。
2人とも負傷しているのだ。最初の呪叫を受けた時に。
「大事ありません。お気遣いありがとうございます。・・・それにしても・・・・」
そう言ってルクが私の方を見た。
「見ていました。ウィリアムが元の姿に戻って戦う所を見るのは久しぶりですが、感動して震えました。やはり貴方は強い。私もマチルダの訓練を受けて自分がやや強くなったと思ったのですが、それでもまだ貴方はずっと遠い」
元に戻った事をか、それとも私の戦いぶりをかはわからなかったが、ルクはそれを頬をやや赤らめて自分の事の様に喜んでいる。
「本当ですねー。今の先生にはまったく『世界樹』(ユグドラシル)が見えません」
マチルダもそう言ってしきりに感心していた。
・・・ユグドラシル? 言っている事の意味はよくわからなかったが・・・。
2人に言われて、ふと私は自分の手を見つめた。
・・・そうではないのだ。この強さは1度目に大人の姿に戻った時に感じたものだ。
それ以前からのものではない。
・・・私自身、自分のその変化の理由がわからないのだ。
私は一体どうなってしまったのだろう・・・。

傷付いた皆を手当てする。
「待ち伏せされていたわね」
ベルナデットが言う。教団の事だ。
そうだ。教団員は確かに私たちを遺跡で待ち構えていた。
あの結界はすぐ準備のできるものではないとアレイオンが言っていたのを思い出す。
少なくとも神都を出る我々の後をつけてきてという話ではないだろう。
奴らは予め我々がここへ来るのを知っていたのだ。
「バルカン、あなた私たちとここへ来ることを誰に話したの?」
手当てを受けているバルカンにベルナデットが問う。
「いや、ワシは誰にも話しとらん。なんせここは聖域で、封印を解くなどという話になれば手続きで当分は足止めを受けるからな。こっそり出てきてやったわい!」
ガッハッハッハと豪快に笑うバルカン。てかそれでいいのか枢機卿って。
そもそもこうやって自分も襲撃によって負傷しているわけだし、彼は容疑者から外してもいい気がする。
元々一番黒幕の可能性は薄い人物だとは思っていたが・・・。
カイリはアレイオンと一緒にいたな。カイリにもその話をしたのか聞いてみる事にする。
「話してないよ。だって僕どこ行くかとか出発するまでわかってなかったしな!」
そもそも彼は大元の話を適当に聞いていた・・・。
他の仲間たちにも聞いて回ったものの、特に誰かに西の遺跡に行くという話をした者はいなかった。
・・・という事は・・・。
「後はキャムデンね・・・・」
ベルが難しい顔をして言う。
あーあいつベルのところの天井からぶら下がってたしな・・・。
私とベルとのやり取りは聞いていただろう。
宰相が黒幕か・・・?
バルカンとは別の意味で彼もありえないような気がしていたが・・・。
まあ口止めしていたわけではないので、宰相が誰かに話していれば全て振り出しに戻る話ではあるが。

そこに再びガルーダがバッサバッサと飛来した。
『見事だ・・・ウィリアムよ。その力を認め、このガルーダもお前に力を貸そう』
・・・そういう流れになったのか。結局遺跡入ってすぐの所で引き返したから中ほとんど進んでないんだが・・・。
『や、まあ予定外の戦闘とかあってこれ以上は尺の問題もありますんで』
尺って何だ尺って。
『あー後ゴール地点で皆さんをお待ちだった方がいらっしゃいますんで、一緒に連れて帰ってあげてください』
何?
言われて見てみる。
誰かがガルーダの背に乗っている。
その人物は身軽にヒラリとガルーダの背から飛び降りてきた。
その顔には見覚えがある。
一度見ただけの・・・しかし強烈な印象と共に記憶に残っている女性。
「・・・キリコ」
DDがその名を呼んだ。
「数日ぶりね。元気にしていた?」
そう言って柳生霧呼は我々を見て柔らかく微笑んだのだった。