第2話 翼を求めて-1


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ウィルがルク達と丘陵地帯の調査に出かけて今日で一週間が過ぎた。
当然日帰りの予定だったから、私ことダイヤモンドダストとえりりんとシンラはウィルが出かけた翌日に丘陵地帯へ探しに行った。
そこにはただ、手付かずのえりりんのお弁当の入ったバスケットだけが残されていた。
朽ちているはずのゲートには僅かに魔力の残滓があった。
多分、ウィルたちはこのゲートからどこかへ飛んだんだね。
・・・・しまったなぁ、と思う。無理にでも付いて行くべきだったなーって後悔した。
でも、もうどうしようもない。
えりりんの目の下の隈は日に日に酷くなっていってる。こっちも心配だった。

「オジさんの方でも色々調べてみてるんだけどね。やっぱあの後先生を見たって情報はどっからも入らないんだよねぇ」
スレイダーのおっさんがそう言いながらグラスを磨いている。
ってゆか行動がバーテンっぽいよ。
今日は私とえりりんは昼食をノワールで取っていた。
デザートのチョコパフェをつつきながらおっさんの話を聞く。
「それにさ、こんな時に話す事じゃないと思うんだけどね、よくない話がまだ2つばかりあるんだよね」
はー、まだしょうもない話あんの?いいよ話してよ。
そう言うと、おっさんは普段あんまりしない、ちょっとだけ真面目な顔になった。
「・・・・キリエッタ・ナウシズが死んだそうだよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
場に沈黙が降りる。
何度かしか見た事はないけど、私はキリエッタのブロンドの髪と褐色の肌を思い出していた。
キリエッタ・ナウシズ・・・・シャークの隊長の1人。賞金稼ぎの鞭使い・・・通称「サソリのキリエッタ」
死んだ?どうして?確かキリエッタは素直に罪を認めて取調べにも従順に応じて刑が決まって服役したはずでしょ?
おっさんがうなずく。
「うん。監獄の食事に毒が混ぜてあったそうだよ」
サソリが毒で死ぬなんて皮肉だよね、とおっさんは乾いた笑いを浮かべた。
「手を回したのは恐らく・・・・」
ロードリアス財団・・・・。
「だろうね。彼女は財団の事は何も聞かされて無いと言ってた。それは事実だったと思うよ。・・・・けど、財団は完全に口を封じてしまわないと安心できなかったんだろうねぇ」
何とも言えない気分になる。胃のあたりにマグマが溜まってるような、なんかそんな感じ。
力で自分の意志のみを常に押し通して、他者の存在を一切省みる事が無い・・・・それが私もよく知っている財団のやり方だった。
チラッと隣のえりりんを見る。
えりりんはストロベリーパフェの空の容器をカチャカチャとスプーンでかき回しながら上の空だった。
よし、聞いてない。
・・・・こんな話は今のえりりんには聞かせなくてもいいのだ。
はいそれでもう一つは?
「共和国からね、『三銃士』が来るよ」
本当によくない話だった。後頭部を軽くハンマーで小突かれたみたいな衝撃を受ける。
ファーレンクーンツ共和国の精鋭エージェント隊銃士隊、その中でも最強と言われる「三銃士」
名目は?
「友好使節だってさ。けど本音は査察だよ。しかもよりによって三銃士だよ。彼らは目的の為なら自分らの手を汚す事も厭わないし、またそんだけの実力も持ってる。どうにかしてこの町を四王国勢力下に収めたい共和国大統領アレス・・・・初手から最強のカードを切ってきたよね」
難癖付けに来るんだ。
ご苦労様だなー、あんな遠くからわざわざさ・・・・。
「追ってエストニアからも友好使節としてフォーリーヴズクローバーから何人かこっちへ向かってるそうだよ。恐らくは三銃士の牽制の為に妖精王ジュピターが気を使ってくれたんだろうね」
エストニア森林王国はアンカーの町に対して友好的な国だ。
エストニアの誇るペガサスナイツの4将軍「四葉」(フォーリーヴズクローバー)か・・・・。
「ただねぇ。この島からじゃ共和国の方がずっと近い。同時に出てるだろうけど三銃士の方がこの島へ着くのは10日くらい早いはずだよ。んで、彼らも後から自分達の監視に四葉が追いついてくる事は承知してる。それまでの10日間で何かしでかそうと思ってるだろうね」
「・・・・そんな・・・・」
隣から声がした。
「そんな話はどうだっていいのよ!! 今大事なのはおじさまの行方!!!!」
バーン!!と両手をテーブルについてえりりんがガバッと立ち上がった。
あちゃ・・・いつの間にか聞いてたんだ。
「ま、ま、ま、落ち着きなって。先生は強いんだしルクもミヤモトの旦那だって猛者なんだし、そうそうなんかある心配はないと思うねぇオジさんは」
まあ確かにそれは安心材料ではあるかもね。あの3人が一緒にいて、それをどうこうできる奴ってそうそういないだろうしさ。
でもこの島には魔人とかいるから、そこは不安なんだけどね。
・・・でもね・・・私は別の事が心配だよ。
ルクもジュウベイも、ウィルの「病気」に多分気が付いてない。
病気・・・心の歪み・・・ウィルの中にずっと巣食ってる死神に、2人は気付いてないはず。
ウィルの前で誰かが危機に陥らない事を祈ろう。
もしそうなったら、きっとまたウィルは「その人の身代わりになって死のうとするだろう」から・・・・。
暗殺者のような仕事をしてた事があるんだ、といつか聞かされた事がある。
言わなくてもいい事をきちんと彼は私達に告白した。
その時にピンときた。私は彼の中にいる死神の正体に気がついた。

・・・ウィルは、恐らく本人もはっきりと認識していないだろうけど、「誰かの為に自分の命を投げ出す」事で「自分が奪ってきた命に帳尻を合わせようとしている」

帳尻を合わせる・・・思わず苦笑してしまう。そして泣きたくなる。頭がごちゃごちゃだ。
誰に対して? 世界に? 運命に? 神様に?
・・・・バカなウィル、そんな事をしても何一つ贖われる罪は無いし、悲しむ人を出すだけなのに・・・。
だから私は、それをウィルにわからせる事が自分の使命なのだと悟った。
自分を助けてくれたこの世で一番大事な人に対して、自らにできる最大の恩返しなのだと理解した。
考えが脇道に逸れた。今考えなくてはならない事は別の事だ。
「そうじゃないわ! 私が目を離したら何だかまたおじさまの周りに女の子が増える気がする!!!」
む、確かにそうだ。・・・それはよくないね。
「あっはっは、そりゃ悩んでもダメだよ。あの先生はそういう体質なんだからねぇ。今ごろもうひょっとしたら新しい美人のアシスタント追加されてるかもしれな・・・・・ヴィッ!!??!?」
左右両側から炸裂した私とえりりんの拳がおっさんの顔をひしゃげさせた。
おっさんはそのままドダーンと後ろに倒れて静かになった。
・・・口は災いの元だってば、寝てなさい。

その後、一度オフィスに戻ってから私はエンリケの所を尋ねる事にした。
エンリケにも事情を話して情報を集めてもらってる。望みは薄だけど、何か情報が届いてるかもしれない。
そう思ってオフィスを出た時、私はばったりと表であんまり嬉しくない相手と出くわした。
それは漂水だった。
「お、どーも団長。ちょうどよかった。お話がありましてね。これからお顔を拝見しにいくとこだったんですわ」
いつもの薄笑いを浮かべて漂水が言う。
何さ・・・言っておくが今私は機嫌悪いよ。つまんない事言うつもりなら遺言状書いてからにしな。
睨みつけてやると、あいつは肩をすくめて苦笑した。
「おっかねーなぁ・・・・けどね団長。俺が今日持ってきた話は今団長が世界で一番欲しがってる情報ですぜ?」
!!!!!
ガッ!!と私は漂水の襟首を掴み上げていた。
ウィルを・・!! 知ってるのか!! お前が噛んでるのか!!!
「いいや団長。誓って言いますがね、今度の話にオレは無関係ですぜ。ただ今先生がどこいるかの情報は持ってる」
「あ、あの・・・・・」
ふいに第三者の声がして私は漂水を掴んでいた手を離した。
声のした方を見る。
ショートカットの女の子がいた。瞳の大きな可愛い女の子だ。隣に、これまたとぼけた顔をした何だか白いもこもこしたヘンな動物を連れてる。
「あ、あの・・・えっと・・・あたしウィリアム先生に会いにきて・・・その・・・ケンカはよくないと思うし・・・えっと・・・」
動揺してまともに呂律が回ってない・・・・あー人通りのあるとこでちょっと私もカッとしすぎたな、と反省する。
あ、ウィルに用事だったんだ?ごめんよー彼今ちょっと用事で出ちゃっててね。
私は彼のアシスタントだから、よかったら私が話を聞くよ。
慌てて愛想良く笑って取り繕う私。
それで漂水の方を見る。
ちょっとウィルのお客さんだから、話は後で聞かせ・・・て・・・・。
私の言葉は途中で途切れた。
漂水は顎に手を当てて見下ろすように女の子の方を見ていた。
その目は・・・一瞬だけだけど・・・・まるで闇夜で獲物を見つけた猛禽類にように輝いていた。
こいつと私は何年も一緒にやってきた。
だけど私がこいつのそんな「生の感情」が表情に出たのを見るのは初めての事だった。
それに私の耳は聞き逃さなかった。ほんの微かな小声で、確かに漂水は呟いていた。
「見つけたぞ」・・・・・そう、呟いたのだ。