第11話 柳生霧呼の世界-4


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留守の間の事を仲いい皆によくお願いして回る。
特にノルコの事なんかよくヒビキに頼んでおいた。
まー私が言うまでもなくそのへんは大丈夫だと思うけどね。
そして旅立ちの準備も整え、出発の前夜・・・。
ノワールを貸切にして皆が送別会を開いてくれた。

「えーハイハイ皆グラスは行き渡ったかな?僭越ながらオジさんが乾杯の音頭取っちゃうけどいいよね別にね」
スレイダーのオッサンがグラスを手にして皆を見渡す。
「わーい、引っ込めヒゲー!」
既に出来上がってるシトリンが喝采する。
「そうだ!引っ込めヒゲ!帰れ!!」
「甲斐性ナシ!! 独身!!!」
オルヴィエとゲンウが野次ってる。
わー酷いな皆。
「ハッハッハ何か途中から冗談と思えない響きになってきてちょっとオジさん涙目だよ?  ・・・ま、そりゃ置いといて先生達が無事に見つかる事を祈りつつ、旅立つDD達の無事を祈ってカンパーイ!!! ・・・・って言ったらカンパイするからねいいよね」
ガシャンガシャンと何人かがグラスを抱えて前のめりに椅子から落ちた。
結局そのつまんないフェイントが原因でオッサンは降格された。
「そもそもあんなモテない中年に音頭を取らせるのが間違いよ。ここはわらわの出番であろ」
代わって出てきたのはテトラ女王だ。
「ではわらわの永遠の若さと美しさを祝ってカンパイじゃ」
・・・か、かんぱーい・・・。
女王を恐れて誰も逆らいはしないものの、何とも微妙なテンションの乾杯になった。
「ホラホラじゃんじゃん食べなー。どんどん出てくんだからさ、サクサク消化しなよ」
キリエッタが料理の皿を両手で抱えてやってくる。
「・・・・ラーメンは・・・・湯切り命!!!!!」
ボバン!!!!!、とノワールの厨房の屋根がフッ飛んでいった。
・・・姿は見えないけど厨房に誰がいるのか一発でわかるね。
「・・・・ねえ、厨房から星空見えるんだけどオジさんそろそろマジ泣きしてもいいよね?」
オッサンの呟きは黙殺された。
ともあれ宴は盛り上がっていた。
「・・・さあ宴もたけなわだ。誰かかくし芸等披露してはどうかな」
シンクレアがのんびりジョッキを片手に軟骨揚げをつまみつつ要求。
てゆかこの人ビール好きだなぁ。
「1番!!! カルタス行きます!!!!!」
いきなり鼻っちが名乗りを上げる。
そしてフロアの隅っこにボーリングのピンを並べ始めた。
並べ終わると距離を取って、片方の鼻の穴にボーリングの球を詰める。
大きく息を吸い込んだ後、球の詰まっていない方の鼻の穴を手で塞いだ。
皆静まり返って彼を見守る。
「・・・・・・・・フンッ!!!!!!!!」
スポーン!!!!!!!と凄い勢いで射出された球はサイカワと談笑していたエンリケの顔面を直撃した。
噴水の様に流血しながらエンリケが椅子ごと倒れて動かなくなる。
「・・・・やっぱねー」
オルヴィエがシュウマイをつまみながら言った。
「今のは私でも結末が読めました」
そんなエンリケにてきぱきと応急治療しながらアヤメが嘆息した。
「どんどんいけー! 次だーッ!! このよさいさんのド肝を抜いてみやがれーッッ!!!」
大人しくパフェをつついてるひぢりのローブが騒いでいた。
「2ばーん! 竜園寺琴葉・・・・・脱ぎまーっす!!」
真っ赤な顔してけらけらと笑いながらコトハが上着をに手をかけた。
「・・・・・なんだとぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
突然ガバッと跳ね起きるオッサン。
「海里!!カメラだッ!!オジさんの部屋にカメラあっから・・・・」
「了解!!『ドラゴンリンク』!!!・・・この竜の脚力ですぐに・・・」
ドガ!!!! ボガ!!!!!!
「・・・・死んでなさい」
ぐんにゃりとひしゃげたフライパンを手に、シトリンが転がって動かなくなった二人を尻目にフンッと鼻を鳴らした。
「・・・にゃはは、下は水着でしたーっ!」
ひらりと一回転するコトハ。
「・・・つまらぬぞーっ。やり直せーっ」
ゲンウが野次っている。
てゆか何があってもひたすら野次ってるなこの鳥。・・・フーリガン?
「3番!! ドンツーコング・・・・」
『誰だーっ!!!!!』
全員の唱和に突っ込みのパンチが重なった。

「つまりですね、キュウリというものは『この世の普遍的な悪』を示す一つの象徴的な存在ではないかと私は考えるわけです。そう考えれば、あの恐ろしく冒涜的な唾棄すべき外観にも得心がいこうかというもの。憎まれるべくして在る存在など哀れで物悲しいですが、我々がキュウリを見つめる事で善悪の認識を確立し、ひいてはそれが宇宙全体の認識となるのだとすれば、かの忌むべき存在にも・・・」
サイカワはずっと動かなくなったエンリケに語り続けていた。・・・・酔ってるのかもしれない。
でも皆何も言わない。話の聞き役という椅子が自分に回る事を恐れているんだろう。

なんか男がどんどん脱落してって、バカ騒ぎの度合いは薄まってった。
「・・・つまりね、人は誰でも愛を追い求める狩人なんですよ。愛を否定しても生きていく事はできます。だけど愛を失って生きていく事はできない」
カウンターで静かにグラスを傾けながらホセがえりりんに何か語ってた。
「生きる事は愛する事と同義ですよ」
「愛する事ねぇ・・・・」
はふーっとえりりんが長く息を吐いた。
「・・・私の愛は通じてるのかなぁ」
「それは考えてはいけませんよエリス。愛は見返りを求めてはいけないのです。ただ愛のままに愛しなさい。ひたむきに真っ直ぐに」
カランと、氷が音を立てるグラスを上げてホセがウィンクして見せる。
「・・・・うん、頑張る」
ぐっと拳を握り締めるえりりん。

そして夜は明け、出発の朝がやってきた。

「・・・・・・・・・・で」
ヒクつくこめかみに人差し指を当てて深く息を吐くキリコ。
「この有様はどういう事?」
ビシッとえりりんを指さして睨むキリコ。
そのえりりんは酒臭い息を吐きながら青白い顔でフラついていた。
「・・・あ、朝まで飲んでてそれで・・・うっぷ」
見事な二日酔いだった。
「貴方も!」
ビシッと私も指さされる。
・・・・右に同じです・・・・。
私も二日酔いだった。
「・・・・貴方も!!」
ビシッとカイリを指さすキリコ。
「・・・あ、朝まで・・・ゲホッ・・・朝まで全裸で転がされてて・・・ゴホッ!ゴフッ!!」
ずるずる鼻水すすりながらマスクしたカイリがくぐもった声を出す。
「・・・・・・・貴方は鼻大きすぎ!!」
「すいません生まれつきなんです!!」
まったく・・・と再度キリコが大きく嘆息する。
「操縦は私だからいいようなものの・・・ハイもうしょうがないわね。乗りなさい、貴方達。出発するわよ」
ふぁーい・・・・と力の無い返事を返しつつ撃沈号に乗り込む私たち。
操縦席にはキリコが着く、残りは適当に席に着く。

エンジンに火が入る。
機体がゆっくりと前へと進み出す。
私は何という事も無く窓から外を見た。
・・・・・あ・・・・・。
私たちが滑走路に選んだ港の空き地。
そこからやや離れた場所にシンクレアが立っていた。
いつもの白衣にくわえタバコ。
一番飲んでた様に思うけど平然としてる。
ひらひらと彼女がこちらに手を振った。
気をつけて行っておいで、とその目が言っていた。
親指を立てて彼女に応える。・・・それが彼女に見えているのかはわからなかったけど。
機体が浮き上がる。
眼下にアンカーの町はどんどん小さくなっていく。
・・・あの町へ帰るんだ。・・・ウィルと皆と一緒に。
決意を新たに私は小さく拳を握り締めたのだった。

~DD回想より~