第26話 Friendship-6


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

ELHがドラゴンブレイドを構えてエトワールに対峙する。
「先生殿。この場は拙者が任されよう。先を急がれよ」
そして彼はチラリと私を横目で見て言った。
「げ!!! ちょとちょっと何恐ろしい事のたまっちゃってんだこのチョンマゲ馬鹿!! てめーお呼びじゃねーんだよ! ここはうちとセンセのいいシーンだろうが!! あっち行ってろ!! ガムあげるから!!!」
慌てたエトワールがポケットからガムの包みを取り出すとELHへ向けて投げた。
ELHがそれをキャッチすると1枚取り出して包み紙を開いて口へ放り込み、むぐむぐやり始めた。
「愚か者め! この様なもので拙者が心動かすとでも思ったか!」
・・・口入れてから言うなよ。
しかしこの場は私に選択の余地はない。
「・・・さあ、行かれよ。皆が・・・先生殿を待っておる」
すまない。任せるぞ、ELH。
・・・また後で。
「ああ、また後で会おう」
私は走り出した。広間の奥、ゲートのある場所へと。
対峙するELHとエトワールの更に奥でラゴールとキリコが激しい戦いを繰り広げていた。
もう、あれでは声をかけても届くまい。
私は無言のまま唇を噛んだ。
すまない2人とも・・・。
・・・頼むぞ、ラゴール。
・・・頼むぞ、ELH。



ELHは正面のエトワールに注意を払いつつ、走り去るウィリアムを見送った。
そのエトワールは乱暴に自分の頭をガシガシと掻いてふーっとため息をついている。
「あーあ、本当に行っちゃったよ。てんめー・・・やってくれやがりましたね? この代償は高くつくぜ」
ギラリとELHを睨んでエトワールが手にした刀を持ち上げて切っ先をELHへ向けた。
「先生殿は忙しい身よ。御主の相手は拙者がしよう」
油断無くエトワールを見据えてELHが構えを取る。
ふーん・・・とそのELHをエトワールは半眼で見た。
途端にフッとその姿が消える。
(!!!!! ・・・消えた!? ・・・ぐっ!!!!)
がくんと上体を折り曲げたELHがごほっと口から血の塊を吐き出した。
いつの間にか至近距離にいたエトワールが持っている刀をELHのわき腹に突き刺している。
「・・・おめー、状況わかってらっしゃる? 今から死ぬんだぞ?」
ザッと後ろへ飛ぶELH。
わき腹の傷口から床にぼたぼたと血が滴った。
飛びのいた先でELHの膝が崩れ、竜剣を杖にその身を支える。
「・・・今から・・・死ぬ、か」
苦しい息の中で、フッとELHが苦笑した。
そして立ち上がり竜剣を構えなおす。
「生憎と戦地へ赴く際には心は常に死線にある。・・・武士道とは死ぬ事と見つけたりとはよく言うたもの」
その双眸が鋭い輝きを放つ。
「さればエトワール・D・ロードリアスよ。・・・真のサムライの力・・・ヤマト魂をこれよりお見せしよう」
深い傷を負って尚猛る闘気がELHの全身から立ち昇った。


エルンスト・ラゴールと柳生霧呼の戦いは激しい肉弾戦となっていた。
魔術を行使する為に距離を取りたい霧呼に対して、ラゴールがそれを許さない。
徹底した近距離戦をしかけ、霧呼を徐々に追い詰めている。
やはり肉弾戦では剣術を極めたラゴールに一日の長があった。
「・・・忌々しいわね、ラゴール。べったりと張り付いてくれて・・・もう」
徐々に全身に刀傷を増やしながら霧呼がラゴールの一太刀をかわす。
そして刀を持つラゴールの右手首をガシッと掴んだ。
(・・・取った)
全身の稼動で体内に螺旋運動エネルギーを生み出し、それを魔力で相手に伝播させる。
並の相手ならこれで全身がねじれて死に至る。
しかし、ラゴールの手首には僅かな歪みすら生じなかった。
まるで千年の巨木の様に。
(この男には『スパイラル』が効かない)
内心で霧呼が舌打ちする。
ラゴールは即、両手持ちしていた刀を手首を掴まれていない左手1本に持ち直すと、霧呼を突いた。
霧呼は後ろへ飛んでその一撃を回避しようとしたが、手首を掴んで技に集中していた分一呼吸動作が遅れた。
ラゴールの突きが霧呼の右肩を抉る。
「・・・・・っ・・・・・・」
飛び退いた霧呼の足元にぽたぽたと赤い花が咲いたように血が滴った。
「・・・はぁっ」
霧呼が熱い息を吐く。
そして左手で右肩の傷口を撫でると、指先に付いた血を舐めた。
「ふふふ・・・」
霧呼がラゴールを見て楽しそうに笑う。
相対するラゴールは僅かに眉を顰めていた。
たった今自分が霧呼に付けた傷について、彼は疑問を持った。
(浅い・・・踏み込みは十分だったはずだ。右手は潰せると思ったが・・・)
霧呼の右肩の傷は軽傷とは言えないまでも、腕を動かすのに支障のあるレベルでもなさそうだ。
そして彼は手の中に違和感を感じて視線を落とした。
(・・・!!!)
ラゴールが驚愕する。
彼の持つ刀の刀身が半ばから折れて失われている。
半分しかない折れた刀身で突いたのでは霧呼の傷が浅いのも道理である。
(いつ折られた? あの攻防の間にそんな隙は無かったはずだ・・・)
そして、折れた刀身の先はどこだ・・・そう思った時、彼は霧呼が自分を指さしている事に気付く。
霧呼はラゴールを指さして微笑んでいた。・・・正確には彼の顔を指さしていた。
「・・・『そこよ』」
ラゴールがよろめいた。
その足元に壊れた彼のメガネが落ちて砕ける。
「・・・ぐっ・・うぁ!!」
激痛にラゴールが呻いた。
顔面を濡らす液体が熱い。
それは彼の目から滴っていた。
折れた刀の先は、ラゴールの左目に突き刺さっていたのだ。



ゲートくぐった先は、薄暗い市街地だった。
・・・この世界のものではない町並み・・・。
いつか賢者ギゾルフィと会ったあの砕けた世界の欠片での光景にどこか似ている。
あの老人は確か・・・このタワー群をビルディングと呼んでいたか。
ここが『始まりの船』の内部・・・異邦人たちのかつての居住区・・・。
足を早める。
皆を探さなくては・・・。
・・・!!!
突如、強い殺気を感じて私は横へ飛んだ。
シャアッ!!!と鳴き声を発して何かが私に襲い掛かってきた。
間一髪その何かの攻撃を回避する。
何だ・・・蛇・・・!?
それは大蛇だった。
全長4,5m程はあろうか・・・青黒い体皮を持つ大蛇。
太さは赤子の胴体程もある。
そして只の蛇ではないようだ・・・その頭部には二本の捩れた黒い角が生えていた。
大蛇は私を見てシャーッ!と威嚇するように鳴き声を上げている。
「・・・フフフ、落ち着きなさい、マルデューク」
女性の声がして私はそちらを見た。
褐色の肌の美女がゆっくりとこちらへ歩いてくる。
魔術師か・・・手には豪華な装飾の杖を持っている。
「ごめんなさいね・・・この子、久しぶりの狩場だから少し興奮してしまっているの」
そう言って女性は私を見て妖しく笑った。
そして大蛇は大人しく女性に頭を撫でられている。
あなたは・・・何者だ・・・。
警戒したまま問う。
只者ではない。・・・肌で感じるこの圧倒的な魔力・・・下手をすれば魔人にすら匹敵する。
「私は・・・」
女性は口を開きかけ、そこでハッとその場に膝を折り頭を下げた。
・・・何だ・・・?
見ればマルデュークと呼ばれた大蛇までも頭を低く落としている。
私に・・・ではない。
私の背後にだ・・・。
・・・誰かが・・・来る・・・。
舗装された道路にカツーン、カツーンと鳴り響く靴音は、こちらへ向かって徐々に近付いて来ていた。
男が近付いてくる。
白い外套を羽織ったスーツ姿の男だ。
私は、その男とは顔を合わせた事はかつてない。
しかし私は男が誰だか知っていた。
と言うよりも・・・この世界で・・・ある程度の文明圏に暮らす大人でこの男の顔を知らない者が果たしてどれ程いるだろうか。
「・・・告げよ」
・・・何?
唐突に男は私にそう言ってきた。
「私は名乗りはせぬ。お前に我が名を告げる事を許そう、ウィリアム・バーンハルトよ」
・・・この威圧感・・・。
知らず知らずの内に、私は半歩その場から退いていた。
財団総帥・・・ギャラガー・C・ロードリアス・・・。
肯きもせずギャラガーは只周囲を睥睨した。



ELHとエトワールが・・・ラゴールと霧呼が死闘を繰り広げる最中、広間を無言で通り過ぎる一団があった。
共和国銃士隊の4人、カミュ、エリック、ルノー、シグナルである。
彼らは自らの身を、シグナルが使役するローレライの作り出した光の屈折率を操作し不可視となるヴェールで覆い、一気に戦場を奥へと駆け抜けた。
「・・・バレなかったみてーだな」
広間を通り過ぎて後ろを振り返ってカミュが言う。
「或いは意図的に見逃されたかですね」
エリックがそれに答える。
「気付いてたけど何かする余裕なかったんじゃねーの? どっちもお互い必死っぽかったし」
「・・・かもな」
ルノーの言葉にシグナルが肯く。
そして彼らはゲートを抜け、『始まりの船』内部の居住区へと到達した。
「・・・寂しいトコだなぁバカヤロ」
カミュがそう呟いてくわえた煙草に火を着けた。
「廃墟なんだし当たり前だろ」
ルノーが半眼でそれにツッコむ。
「・・・!! 2人とも」
何かに気付いたエリックが皆を促して物陰に隠れる。
そこへ誰かが歩いてきた。
「・・・はーやれやれじゃい。まーさかここまできてまた殺すな言われるとはのお。殺さんでやれってのは神経使うてイカンわい」
(・・・っ・・・大龍峰!!)
カミュとルノーの表情が険しくなる。
それは『ハイドラ』の1人大龍峰だった。
大龍峰はぶつぶつと何やら呟きながら歩いている。
カミュ達からは誰かは確認できなかったが、何者かを1人肩に担ぎ、1人小脇に抱え、さらに1人を襟首を掴んで引き摺って移動していた。
既に戦闘があり、3人倒した後の様だ。
大龍峰がある程度離れていってから、エリックが3人を振り返る。
「・・・ちょうどいい、彼を付けましょう。あの様子では恐らく仲間たちと合流する筈です」
エリックの言葉にカミュ達が無言で肯いた。

~第26話 終~