第11話 炎の山-4

落ち着いて我々は状況を確認してみる事にした。
まずこの場所だが・・・・。
「ここは炎神山火口内部の横穴だ。この炎神山火口はこの領域にあって例外的に魔人グライマーの力の揮えぬ我が聖域。ここまで貴奴が追ってくる事は無い。そもそも貴奴めは討ちもらした獲物を追ってまで仕留めるタイプではないのだがな」
フェニックスが言う。
瀕死の重傷だったはずの我々の傷は完全に癒えていた。
これもフェニックスの力なのだろうか。
「いかにもその通りである。我は生命の力を司る神獣、人の子の傷を癒す事など容易い事だ。命を落とした場合は蘇生もできる。ただし我に蘇生された者は常にラップ調で喋るアフロの黒人男性になる」
「全然別モンにされてるだろーが」
ジンパチがもっともなツッコミを入れた。
「本来我がここまで人の子に干渉する事は無い。だが、ウィリアムよ。お前はこの先、この島にとって大きな働きをする事になる。それ故に今回だけは信念を曲げて手を貸すことにしたのだ」
大きな働き・・・?見ての通り自分はただの老冒険家だ。かつてはそれなりに剣にも自信があったが、今はあのように魔人グライマーにも歯が立たなかった。自分に何かできる事があるとは思えないのだが・・・・。
「この先も数多くあるであろう新たな出会いがお前を導くだろう。自らの手でこの島の真実に辿り付くのだ、ウィリアムよ。・・・・・あ」
その時風が吹いてまたフェニックスの顔パーツがバラバラと落ちた。
なんだ殴らなくても落ちるんじゃん。
「・・・しかし私はフェニックス!」
それはもういいから。

その後、我々はフェニックスによって先ほどグライマーと戦闘した場所まで飛んできた。
既に奴の気配は無い。
「心配はいらない。貴奴の性格からして先ほどの戦闘に満足して数日は眠り続けるはずだ。今遭遇する事はあるまい」
付き合いも長いのでわかるのだ、とフェニックスは付け足した。
「この島には火の神獣である我の他に、水・風・地・米の神獣がいる。彼らとの出会いもお前を導くだろう、ウィリアム」
・・・・なんか一つ、耳慣れないのが混じってたぞ。米?
「テリーマンじゃないぞ」
聞いてないから、そんな噛ませ犬っぽいカウボーイの人の名前。
「この島の真実へと至れウィリアム!後、我が愛用しているシャンプーはヴィダル○スーン!」
最後まで聞いてないことを叫びつつ、フェニックスは飛び去っていった。

「センセーは毎度毎度こんな目に遭ってんスか。大変っスねぇ・・・・・」
ジンパチがしみじみと言った。
いや、流石にここまで酷い目には今まで遭った事無いんだが。
「にしてもあの火だるまヤロー、ヤバい奴だったな・・・・。あんないい様にあしらわれたのは俺は初めてっスよ。まあ、まりか姐ならもう少し上手くやれたんだろうけどなぁ・・・・」
小夜野まりかは基本、魔法を使わないうぐいす隊で唯一の剣魔両立型隊士だ。
しかも器用貧乏になる事無く、どちらも非常に高いレベルで使いこなす。
ジンパチは強い。私が生涯で出会った戦士の中でも10本の指に入るレベルだ。
しかし相手は強大な力を持つが故に世界から拒絶されたほどの魔人だ。遅れを取るのも無理からぬ話だ。
「まー過ぎた事をうだうだ言ったってしょうがねーや。今は大将の用事済ませて帰りましょうぜ」
気持ちを切り替えるように努めて明るくジンパチが言った。

それから暫く探索を続け、ようやく我々は目的の鶏が群れている場所を見つけた。
「おーいたいた。すっげうじゃうじゃいるじゃねーっスか!」
ウェーイ、ウェーィと鳴き声がうるさい。
「ちょっくら捕まえてきやすぜ! センセーはそこで休んでてくれ!」
ジンパチが群れへと突進する。羽毛が大量に舞い上がり、大騒ぎになる。
「こんにゃろう! 大人しくしやがれ!! オラッ!!」
ジンパチが1羽を皮袋に押し込んだ。
依頼完了である。

「ごくろうさま!これで究極のラーメンが完成するわ!本当にありがとう!」
その後、再びマナトンネルを潜り、町へと戻ってきた我々をイブキは上機嫌で出迎えた。
「ったく大変だったんだぜこの鶏1羽取ってくるだけでよぉ。ツケじゃ割あわんぜよ」
「まあまあ、アンタにも感謝してるって葛城。すぐ作るからアンタも食べて行きなさいよ。究極のラーメン!歴史の証人になるのよ!」
燃えてるなぁ。まあこっちも空腹だ。別に究極の物でなくてもラーメンは食べて帰りたい所だ。
「さあ出して出して!すぐ仕込みにかかるわよ!」
「へいよー。オラ鶏さん出ておいでっと」
ジンパチが皮袋に手を突っ込んで、「それ」を引きずり出した。
「今日できる事を、明日に残すな(※いい声)」
おわああああああああああああああああああああああペリンカーン!!!!!!!111
「あっ・・・・あれ!? いやちょっと・・・・あれ!?」
慌ててジンパチが皮袋をかき回す。しかし他に出てくる物は無かった。
「・・・・・・・葛城・・・・・・・アンタ・・・・・・」
「いやちょっと待ってくれ大将!! こりゃ何かの間違いだ!手違いだ!! 俺は確かに鶏を・・・・・あれ!?」
イブキが振りザルを手に取った。私はジンパチの魂が安からん事を目を閉じて祈った。
「飛燕!!!!!」
こうして夕暮れのアンカーに、ジンパチの悲鳴と窓ガラスの割れる音が響き渡ったのだった。

~探検家ウィリアム・バーンハルトの手記より~


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最終更新:2010年07月14日 12:23