第4話 古の島-7


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自らを「四賢者」と称した男。
エビ・ワン・ケノービは魂樹の放った剛拳の前に沈んだ。
その一撃必殺の拳をかました魂樹はハァハァと肩で息をしている。
「な、何なんですかこの甲殻類!!!」
そして何故かエトワールに詰め寄った。
「おー、コワ。うちは知らねーよこんな茹で上がったでっけー甘エビ」
「フォースを感じるのだ」
突然声をかけられてビクリと魂樹とエトワールが飛び上がった。
(何だコイツ…! いつ立ち上がった!!)
身構えたエトワールが反射的に腰の刀に手を伸ばした。
足元で倒れて悶絶していたはずなのだ。
それがいつの間にか気配も感じさせずに、エビ・ワンは2人のすぐ真横に立っていた。
「人にも…」
エビ・ワンがエトワールの額に手をかざした。
何かを言いかけて、不思議なエネルギー波動を感じたエトワールが思わず口を噤む。
「木々にも…」
公園の立ち木にエビ・ワンが手をかざす。
風も無いのに、その瞬間木々を覆う葉がざわりと揺れた。
「鳥にも、海にも、大気にも…そしてゲイにもフォースは宿っておる」
「何で人とゲイを別カテゴリにするんだよ」
ツッコまずにはいられないエトワール。
「そのフォースを極めた時、意識は万物と一体化し、目の見えぬ事も恐れるには値せぬ」
そう言うとエビ・ワンは懐から取り出した白い布を頭部に巻いて自らの両目を隠した。
「見ているがよい」
そう言って目隠しをしたエビ・ワンは歩き出した。
確かにその足取りは力強く正確で、とても目隠しをして歩いているとは思えない。
「あ…」
魂樹が呟いた。エビ・ワンは真っ直ぐ公園の中央にある大きな噴水へ向かっている。
そしてエビ・ワンは2人がゴクリと喉を鳴らして見守る前で
「ぐあッッ!!!」
ガン!!と噴水の縁に足をぶつけ
「…あべし!!!!」
ザパーン!!!!と派手に水柱を上げて噴水に没した。
「帰るか…」
「そうね…」
魂樹とエトワールがそう乾いた声で呟きあった。

やがて日は陰り、一行は「海獅子亭」で夕食の席を囲んだ。
「それで、これから私たちはどうしましょう」
シーフードのサラダをつつきながら魂樹がそう口にする。
どう、とはここからの旅の道程についてである。
「それだが、中央大陸へ行こうと思う」
その魂樹の隣でウィリアムが返事をした。
目の見えぬ彼は食事に難儀しており、両脇の魂樹とエトワールに色々フォローされながら何とか食事を取っている状態だ。
「中央大陸…聖王都?」
完璧なテーブルマナーで小鹿のソテーを上品に食べながらエトワールがウィリアムを見た。
そのエトワールにウィリアムが肯き返す。
中央大陸には、かつて千年以上前に聖王ディナダンが治めた聖王国の首都「聖王都」がある。
聖王都は現在では人は暮らしていない遺跡となっており、特別保護区として不可侵の地とされていた。
「件の聖王の治めた都だ…何か残る聖王の武具についての手がかりがあると思う」
ウィリアムがそう言うと、彼の正面に座ってヒレカツ膳を食べていたELHが肯いた。
「了解した。では我らはこのまま中央大陸へ渡り、聖王都を目指すと致そう」
「中央大陸ねぇ…」
シャンパンを飲んで、エトワールがグラスをテーブルに置く。
「船で2,3日かぁ? うちの飛空艇を出せれば旅も早くて楽なんだけどなぁ」
「ならば何故そうせぬのだ?」
問うELHをジロリとエトワールが睨み付ける。
「おめーな…うちが今、結構危ない橋渡ってるってコト理解しなさいよ。確かに今、財団は伯父上の死でグラついた組織の建て直しが急務で、『神の門』どころじゃなくなっちまってますけどね。それでもウィリアム・バーンハルトと仲間達は優先排除対象としてブラックリストの頭に名前が並んでるんだぞ」
「……………」
エトワールの言葉に何となく場が静まり返る。
ウィリアムは黙ったまま、彼女の方を向く事なく…それでも彼女、エトワール・D・ロードリアスの事を考えていた。
何度も自分達と『神の門』を巡って死闘を繰り広げたロードリアス財団。その総帥、故ギャラガー・C・ロードリアスの姪にして財団の財務部の総責任者。
覇王の血族、強大な魔力を持つロードリアス家の娘。
何度かこれまでに彼女と接し、ウィリアムは彼女の深い部分を垣間見る機会があった。
一族の魔力に耐え切れなかった父親が目の前で凄惨な死を迎えた娘。
柳生霧呼を大事な存在だとした上で、しかしその彼女を自分と一緒なら殺せると言ったエトワール。
目は見えていないが、その時、その言葉を口にした彼女の口元にあった妖しい微笑みをウィリアムは見たような気がした。
その時に、自分はエトワールという少女の抱えている内面の虚無に触れていたのではないか、と思う。
…そして今、彼女は組織への背信を承知で自分に手を貸すという。
何故…自分にそこまで肩入れするのか…漠然と気に入っている、というレベルでは済まされない話だ。
その事もウィリアムを困惑させる。
いくつものパズルのピースを得た。ここまでの数多のやり取りの中で。
全てはエトワールという少女の内面から出たピース。覇王の血族、父の死、霧呼への愛憎、自身への執着…。
だが、その絵柄はてんでバラバラで、一枚の絵に完成できるとはとても思えない。
「…お待たせしました」
そこへ給仕が新しい料理を運んでくる。
「いや、拙者らが頼んだ料理は既に揃っておる…うおおおおあああ!!!!!!!!!!」
血走った目を見開いたELHが叫ぶ。
4人がかりで棺おけの様な巨大な鍋を運んできた給仕は、その縦に長い鍋をどがーんとテーブルに下ろした。
「…フォースを感じるのだ」
ぐつぐつと海産物の煮立つ鍋の中にエビ・ワン・ケノービが横たわっていた。
「どこからツッコんでいいか困るけどよ…とりあえずよくおめーが入る鍋がありましたね…」
虚ろな目をして呟く様に言うエトワール。
…外面も虚無だった。

エビ・ワンを初めて見たELHはドン引き気味だ。
「な、な、何でござるこのでっかいエビは!!!!!!!!」
「私はお前たちを導く為に来た。我が言葉に耳を傾けるがよい」
鍋に寝そべっているエビ・ワンが穏やかな声で言う。
「と、とりあえずそこから出ませんか…」
引きつった顔で魂樹が言う。
言われてエビ・ワンがよっこいしょと鍋から出てきた。
「あちっ!! あちいい!!! 跳ねが!!」
汁が跳ねたらしく、ELHが絶叫していた。
ほこほこと湯気を立てつつ、異様に美味しそうな香りに包まれているエビ・ワンが椅子に座った。
「…ンで、何を言いたいんですかおめーは」
半眼でエトワールが言う。
「語るべき事は数多ある。…が、まずはお前たちの敵について語っておくとしよう」
「!! 彼らの事を知っているのか?」
エビ・ワンの言葉に顔を上げてウィリアムが反応した。
うむ、とエビ・ワンが肯く。
「先日、聖王の鎧の安置された島で汝らを強襲してきた者たちは『ユニオン』と呼ばれている秘密結社の精鋭…13人の『ラウンドテーブル』と呼ばれている者達の内の3人だ」
「『ユニオン』…?」
ELHと魂樹は怪訝そうな顔をしている。
彼らには初めて聞く名前だった。
「『ユニオン』とは…」
重々しくエビ・ワンが語り始める。
「その出自を遡れば紀元前にまで辿り着くと言われている古い組織だ。最も彼らが『ユニオン』という名で呼ばれるようになったのは比較的近年の事であるが…。元々の起こりは各地に眠る古代の叡智や遺物等を回収、研究する者達の同好会のようなものであった。組織の創設者はメギドと呼ばれる男…そして、この男が現在も変わらず組織のリーダーだ」
「紀元前って…何歳なの、そのメギドっていう人…」
魂樹が眉を顰めて言う。
テーブルに両肘を置いて手を組んでエビ・ワンは話を続ける。
「いつの頃からか、『ユニオン』は活動を活発化させ、かつ攻撃的なものとし、規模もどんどん拡張していった。この世の全ての叡智を入手し管理する事を究極の命題としてな」
そのエビ・ワンの言葉の後をエトワールが継ぐ。
「今じゃ世界中の要人にメンバー抱えてるぜ。最も、秘密主義が徹底してるから誰がメンバーなのか洗うのってすっげー難しいんだけどさ。うちら財団の内部にも結構ユニオンの構成員はいるはずだ…」
「知っておるのか、エトワール」
ELHがエトワールを見る。
「まーな…仕事柄そういう『裏側』の情報は結構入ってくるんだよ。一時期『ユニオン』についてはキリコがかなり調べを進めてたしな。この前の3人、あいつらを含んだ『ラウンドテーブル』って13人が今は組織を動かしてる。頭のメギドって奴は組織の管理とか指揮にまるっきり無頓着らしくてよ。基本は放置なんだとさ。…それでもラウンドテーブルや他の構成員たちはメギドを絶対者として崇拝してるらしいが」
「彼らは『神の門』を目指す上での障害として汝を認識したのだ、ウィリアムよ」
エビ・ワンの言葉にウィリアムが微かに俯いた。
説明の途中で、ウィリアム自身もその事は思い当たっていた。
「…そして、汝が今目指さんとする『天上都市』もユニオンの標的の1つである。この先の旅路にも彼らの妨害があるだろう。だが、案ずる事はない。ここからはこの、『四賢者』の一人であるエビ・ワン・ケノービが汝らの旅に同行し、導くとしようぞ」
「いらねーよ帰れよ」
即座にエトワールに拒絶され気を悪くしたのか、エビ・ワンはその長いヒゲを手にとってピシッ!ピシッ!とELHの頬を打った。
「…何ゆえに拙者!!!!??」
打たれながらそのELHが悲鳴を上げていた。


ライングラント王国、首都シュタインベルグ。
華やかな繁華街の裏通り。
時刻は明け方も近い。
酔漢や夜の商売に携わる者達の姿も既に通りからは消えている。
そんな裏通りの壁に寄り掛かって、2人の男が座り込んでごーごーと寝息を立てていた。
黒い服の男と、ベージュのコートの男である。
2人の周りには、空になった酒の空き瓶がいくつか転がっていた。
その2人に、誰かがコツコツと靴音を響かせて近付いて行く。
長いブロンドの長髪が風になびく。
青い瞳の少女。着ている服はサーラと同じスタンリー女学院の制服だ。
ブロンドの少女は座り込んで眠る黒い服の男の前に立った。
漂う酒気に僅かに顔を顰め、しゃがみ込んだ少女は黒い服の男の方を揺すった。
「メギド様…起きて下さい、メギド様」
揺さ振られてメギドがゆっくりと目を開く。
「ん…? おー…エリーゼか」
メギドが立ち上がる。そのせいで彼に寄り掛かって眠っていた隣のコートの男が床にどしゃっと倒れた。
「…御友人の方ですか?」
倒れたコートの男を見下ろして、エリーゼと呼ばれた少女が問う。
「ん~? …いや、知らん顔だな。昨晩の店で一緒になったか…?」
同じように男を見下ろして顎に手を当てて首をかしげるメギド。
「こんな所で寝ていないで、帰りましょう、メギド様」
エリーゼに言われて歩き出そうとしたメギドがフラつく。
その上体を慌ててエリーゼが支えた。
「はっはっは…いや、面目ない」
「どれほど飲んだんですか…」
少し怒ったようにエリーゼが言う。
「いや、楽しい酒でな。ついつい羽目を外してしまった」
エリーゼに肩を借りてメギドは歩き始めた。
「そういえば、円卓は集合がかかっていなかったか?」
メギドが問うと、エリーゼはそうですね、と気のない返事をした。
「私にとってはどうでもいいです。円卓の集まりもピョートルのつまらない話も…メギド様と一緒にいられるのなら、それだけで」
「そうか」
短く答えてメギドは笑った。
「お前は自由だ。好きにするといい、エリーゼ」
重なって歩く2人の影が、昇り始めた朝日に照らされて石畳に長く伸びていた。