第16話 戦士達の厨房-3


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「パルテリースが来るんですか!?」
オフィス内に魂樹の素っ頓狂な声が響き渡り、食事の後片付けをしていたムーミンがビクッと飛び上がる。
食卓の椅子から腰を半ば浮かせて叫んだ魂樹に対して、その対面に座ったジュピターは落ち着いた様子でコーヒーカップを口に運んだ。
「ええ、というかもうそろそろ到着するはずだ、という連絡でした」
食事が終わった所でエストニア本国から精霊通話が入ったのだ。
「・・・どうして・・・。四葉は2人までしか派遣しないって」
呆然と呟いて再び椅子に腰を落とす魂樹。
「ふーむ。まあ実際に数度の銃士隊との交戦があったと報告したのが効いたのでしょうねぇ。そこまでの事態にはなるまいと高をくくっていた長老方が慌てたのでしょう」
でも、と再度魂樹が立ち上がる。
「ここにはジュデッカも来てるんですよ!! どうしてパルテリースを・・・」
パルテリースはジュデッカが殺したエミットの姉なのだ。
「四葉を増援にするならヴァネッサでよかったじゃないですか・・・!!」
ふむ、とジュピターが椅子に深く腰掛けなおす。
「しかしアイアン撫子ヴァネッサ君は現在、共和国で開催中のリングの最強を決める祭典『THE GODDESS of GAIA ~戦姫達の挽歌~』に出場する為に遠征中ですからねぇ・・・」
「なんで女子プロレスの仕事が優先なんですか!!!!!」
繰り出された魂樹の八つ当たりパンチを食らってジュピターは椅子ごと後方へ吹っ飛んでいったのだった。

そしてそのパルテリース・ローズマリーはと言えば・・・。
「・・・・・すぅすぅ」
寝ていた。
往来の真ん中で、シンラから手渡されたオフィスへの地図を手にして立ったまま眠りこけていた。

そして翌日。
勇吹一行は再び食材集めに出かけた。
「昨日の人、大丈夫だったかな・・・」
シンラがやや心配そうに呟く。
パルテリースの事だ。昨日は結局、シンラは店に泊まりになると決まっていたのでオフィスへの地図を描いて手渡したのだが・・・。
「気にしすぎだよ。そもそもあそこから先生んとこは近いし道も単純だ。迷えって言われたって難しいくらいさね」
キリエッタは気楽にそう言って笑ったが、シンラの不安は消えてはくれなかった。
「いぶきー、今日は何を捕りに行くの?」
問うコトハに勇吹は資料を広げながら
「今日はまずチャーシューの材料を捕りに行くわ。豚よ豚」
と返事をした。
「・・・・聞いとくけどどんな豚だい・・・・」
半ば諦めた様な表情でキリエッタが尋ねる。
絶対普通の生き物のハズがない、とその表情が物語っている。
「ハイスピードピッグね。通称『マッハ豚』 ・・・まあ、マッハは大げさだけど時速280kmくらいで走るみたい」
「・・・また無茶苦茶な・・・」
言いながらもキリエッタはやや内心で安堵していた。
動きが素早いのは確かに厄介ではあるが、それだけなら昨日のワカメやコーンに比べればまだやりようはある気がする。
平原をそのまま進む一行。
「・・・そろそろ生息地に・・・」
言いかけた勇吹の言葉が止まった。
本来その場にないはずの音を耳にした為だ。
それはガシャン、ガシャンと鎧が鳴るような重たい金属音だった。

「魔道機械兵・・・・」
キリエッタが呟いた。
確かにそこにいたのは魔道機械兵だった。
その数およそ20ほど。大陸でも大規模な軍事作戦でもない限りは中々見れない数である。
「・・・何をしてるこのグズどもが! たかがブタ1匹捕まえられんのか!!」
そしてその機械兵達の真ん中で、唾を飛ばして指示を出しているターバンにヒゲ面の小男がいた。
「あー・・・」
うんざり、という風にキリエッタが顔をしかめる。
「知り合い?」
尋ねる勇吹にキリエッタは軽く肩をすくめると、
「って程の間柄じゃないねぇ。シャークに自分を売り込みに来た事があんのさ、アイツ。名前はシャハル・・・・西大陸じゃちょっと知られたタチ悪い商人だよ」
そのシャハルが勇吹達に気付く。
「なんだ貴様らは。・・・貴様らも豚が目当てか? だったら残念だな! この場所にいる豚は残らずこのワシが捕まえて帰る! お前達の分は無いぞ!!!」
シャハルがそう言うと、機械兵が数体、勇吹たちを威嚇するように前に出た。
「アンタがこうして出てきてるって事は、その豚ちゃんお金になるんだねぇ」
機械兵をジロリと睨んで言うキリエッタ。
「フン、価値も知らずに捕まえに来たのか。お笑い種だな! マッハ豚は最高級食材だ。肉付きのいい奴なら数十万クラウンの値段が付くこともある」
へえ、とキリエッタが素直に感嘆の声を出した。
1匹で数年遊んで暮らせるのだ。シャハルが機械兵まで持ち出して捕まえにくるのも無理はない。
「さあ大人しく帰れ!! さもなければ痛い目を見てもらう事になるぞ!」
「・・・だってさ。どうしようかねぇ?」
キリエッタが背後の勇吹を振り返って苦笑した。
勇吹はムスッと腕を組んでいる。
「・・・スープのダシにもならないような連中に用は無いわ。大人しく帰らないなら痛い目見せちゃっていいそうだし、片付けちゃって」
はいよ、とキリエッタが鞭を手に取った。
コトハが鉄扇を、シンラが大剣をそれぞれ構える。
「馬鹿どもが!! ・・・やってしまえお前ら!!!!」
シャハルの怒号を背に、一斉に機械兵達がキリエッタ達に襲い掛かった。

「・・・く、くそっ!! 覚えてろよ、貴様ら!!!!」
捨て台詞を残してシャハルが逃げていく。
彼のご自慢の魔道機械兵は全てスクラップにされている。
大変な損害だろう。マッハ豚2,3匹捕まえたくらいでは補えない程の・・・。
「よし、それじゃ捕獲に取り掛かるわよ!」
勇吹が元気良く声を張り上げる。
マッハ豚は平原を目にも止まらぬ超スピードで走り回っている。
(なるほど速いねぇ。・・・けどまあ、どうにかならない速度じゃないね!)
数度の失敗の後に、その速度に目が慣れてきたキリエッタの鞭がマッハ豚の胴体に巻き付いた。
「・・・・よっと!!!!」
速度から生じる鞭を伝わる衝撃に耐える。
一本釣りするようにキリエッタがマッハ豚を上空へ跳ね上げた。
そして落ちてきたところをドスンと抱きとめる。丸々太った大き目の豚だ。両手にズシンと重さが加わる。
「・・・ふふん、どんなもんだい?」
「子豚じゃダメよキリエッタ。親豚を捕まえて」
あっさりダメ出しする勇吹。
「・・・へ? 親豚って・・・これ子豚なのかい・・・・?」
手の中の豚を見るキリエッタ。通常の豚なら十分成体の・・・しかも大柄な部類に入る大きさなのだが・・・。
そのキリエッタにふっと影がさした。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
嫌な予感を感じて振り向くキリエッタ。
そこには小山のような巨大な豚がキリエッタを見下ろしていた。
・・・・これ?と冷や汗をダラダラたらしつつ勇吹を見て目で問うキリエッタに、勇吹がグッと親指を立てて答えた。

「・・・ブタサン、コワイネ」
「コワイネー」
ムーミン達がそんな事を言い合っていた。
ムーミンは増援を呼んでおり、総勢10名程で巨大な豚を担いで運んでいる。
一行は全員ボロボロだった。捕獲はかなりの死闘だった。
中でも体当たりの直撃を受けたキリエッタは立ち上がることがまだできずに、今はシンラに背負われている。
そんな一行は次の目的地へと到着していた。
「さあ、着いたわ!」
勇吹が元気よく皆を振り返る。
そこは、シンラの故郷鬼人の谷であった。

「だーめじゃだめじゃ!! あれは一族秘伝のもの!! 外へ持ち出す等とんでもないわい!!!」
勇吹の話を聞くなり叫んだオババだったが、しかし・・・と、シンラを見る。
「姫様のご友人の頼みとあっては仕方が無いわい。待っておるがええ」
そう言うとオババは奥へ引っ込んでいく。
やった、と勇吹とシンラは手を打ち合わせた。
「よかったね。オババの味噌は里で一番美味しい」
「シンラがいてくれて助かったわ。鬼人味噌は門外不出って聞いてたからね」
そこへオババと大きな壺を持ったラハンがやってきた。
「姫様お久しぶりです!」
ラハンがどすんと壺を床に降ろす。
「ホレ、持っていくがええ」
ありがとう!と言って壺を受け取る勇吹。
「あれ・・・」
シンラがラハンの額の三角形の白い布に気付く。
「ああ、このババめが呪いで寿命を消費させすぎたらしく、死んでしまいおったんで亡霊化させて今は使っておりまする」
オババが事も無げに言う。
全員がええええええええええと言う顔をする。
「・・・オババ、コワイネ」
「マジデイチバンコワイネ」
ムーミンがそんな事を言い合っていた。