第27話 理想郷計画-5


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『始まりの船』の中央制御エリア・・・コアブロックへの入り口は扇状に広がった階段の上にある。
その階段を1歩1歩ギャラガーが上って行く。
ふいにカツン、と音を立ててギャラガーの足元に何かが落ちた。
・・・それはピンを抜いてある手榴弾だ。
次の瞬間、カッ!!と閃光が走り周囲に爆音が轟いた。
階段の下に悠陽と魂樹が出てくる。
「・・・今ので倒しちゃったんですか・・・?」
もうもうと立ち込める煙の向こうを見ながら魂樹が問う。
「まさかまさか・・・そんな可愛げあるオッサンじゃないわよーん」
NO、とビッと掌を魂樹に向けてぶんぶん首を横に振る悠陽。
「今のは呼び止めただけ『止まってー』って言ったのと同じよ。これでホントにミンチにでもなっててくれたら好感度大幅アップしちゃうんだけどねー」
好感度が最高になろうとミンチになってしまってはどうしようもないのではないか、と魂樹は思ったが口には出さなかった。
「天河悠陽か・・・久しぶりだな」
煙の向こうからギャラガーが姿を現す。
爆発の中心にいても負傷どころか衣服に汚れ1つ付いていない。
「2つに1つよ、ギャラガー」
両手を腰に当てて、胸を張って悠陽がギャラガーを見上げる。
「今すぐしょーもない計画は諦めておうち帰るか、それとも私にふるぼっこされて計画あきらめるか・・・好きな方選びなさい」
ギャラガーは答えず、黙って悠陽を見ている。
「あんたがただ悪の組織の大ボスやっててちょっとした悪さしてるくらいなら見逃してあげてもいいとか思ってたけど、ちょっち今回のコレは頂けないわ。・・・さあ! どうするのギャラガー!!」
ビシッとギャラガーを指差して悠陽が叫んだ。
「答えは・・・」
ギャラガーが目を閉じる。
「これだ」
そして再びその目を開けたとき、ギャラガーは戦闘態勢に入り自身の魔力を外部に解放した。

・・・そして『始まりの船』が震える。

「・・・!! これは・・・何だ・・・!!」
ウィリアム・バーンハルトは驚愕してその波動を感じた方角を見た。
それは先程ギャラガーが歩み去った方角である事に彼は気付いていた。

「・・・おっ、こりゃあちょっとヤベーんじゃねえのか・・・」
居住ブロックへ転移してきたばかりのレイガルドは思わずそう呟いていた。
「ギャラガー・C・ロードリアスね・・・」
隣で呟いたサムトーの頬を一筋汗が伝って落ちる。

ビルの谷間を走るエリックとシグナルの2人も、ギャラガーの魔力の波動を感じ取っていた。
「こんな・・・これが個の存在の持ちうる力なのか・・・」
走りながらシグナルが掠れた声で呟く。
エリックは無言だ。
(果たしてこの怪物に・・・私の・・・いや人の知略は通じるのか・・・)
無言のまま、エリックはそう思った。

周囲のビルが鳴動している。
まだ何か攻撃をしたわけではない。
ギャラガーは普段セーブしているマナを本来の状態に戻しただけだ。
「あちゃ・・・数年見ないだけでまた随分強くなっちゃってるなぁ・・・」
顔をしかめて悠陽が苦々しく言った。



・・・これが、ギャラガーの魔力の波動か・・・。
遠くより感じるその圧倒的な力に私は自分がいつの間にか全身に冷たい汗をかいている事に気付く。
かなり強いだろうと思ってはいたが・・・これは完全に想像以上だ。
・・・今まで出会った魔人達よりもその魔力波動は強大だった。
並んだDDと伯爵も顔色を失っている。
「・・・フフフ、ギャラガー様の真のお力に触れて絶望しまして?」
反対に先程まで憤怒に燃えていたエメラダは驚愕する我々を見て余裕を取り戻していた。
「でもご心配には及びませんわよ? ・・・貴方たちはギャラガー様と戦う事はないのですから。この場で私が始末してさしあげますわ!!」
杖を振りかざし、エメラダが呪文の詠唱に入る。
攻撃の呪文とも違うようだが・・・。
周囲の地面を不気味な赤い魔方陣が覆う。
私はその魔方陣の彼方より、迫る何かの気配を感じた。
・・・何か来るぞ・・・!! 
ゴアッ!!と咆哮を上げて魔法陣から飛び出してきた巨体がクラウス伯爵へと飛び掛った。
DDには無数の触手の様なものが絡みついた。
伯爵に襲い掛かったもの・・・それは巨大な獅子だった・・・いや、獅子とも少し違う。
鬣に覆われた顔は老いた人間のものであり、尾は鋭い毒針を持つサソリのものだ。
異形の魔獣に襲い掛かられた伯爵は巧みにそれを回避し間合いを取った。
魔獣が老いた人間の顔でニタリと不気味に笑う。
「我はチェーザレ・・・マンティコアのチェーザレなり・・・。我が主の命にてお前たちの命を貰い受ける・・・フェッフェッフェ」
「これはわざわざの自己紹介痛み入る」
ザッ、と決然とそのチェーザレの前に立つ伯爵。
「我輩はクラウス・ハインリッヒ伯爵である。我が友ウィリアム・バーンハルトへの義によりお前たちを討つ。覚悟するがよい」
そう言って伯爵はヒゲ先を指で摘んで形を整えた。
DDに巻きついたタコの足の様なものが彼女をギリギリと締め上げる。
「・・・うっ・・・! ぬぬ・・・!!」
彼女の顔が苦痛に歪む。
「苦しい? フフ・・・とってもいい顔よ・・・」
女性の声がしたかと思うと、魔方陣から女性が姿を現す。
・・・う、何だあれは・・・。
その女性が全身を現した時、思わず私の背筋に冷たいものが走った。
女性の下半身には無数の犬の様な頭部とタコの様な触手が生えていたのだ。
「私はスキュラのジキア・・・。さあ・・・苦しみ抜いて死になさい!」
そう叫んだジキアがDDを締め上げる触手に更なる力を加えたその時、DDの右目を覆う包帯が外れて真紅の瞳が覗いた。
ビキッと一瞬にしてDDに巻きついた触手が凍りつき、粉々に砕け散る。
そして飛び降りたDDはどこか妖艶でゾクッとする様な凄みを感じさせる微笑を浮かべてジキアを見た。
「私はダイアモンドダスト。絶対零度の魔女・・・さあ、静かに冷たく眠らせてあげる」

エメラダが呼び出した魔獣は2体だけではなかった。
魔方陣からは尽きる事無く更なる魔獣が現れてくる。
「・・・フフ、どうかしら、お気に召しまして? 私はエメラダ・ロードリアス・・・『百の魔獣を従えるもの』・・・貴方達はここでこの子達のエサになっていただきますわ」
残忍な微笑を見せるエメラダ。
・・・く・・・数が多すぎる・・・。
どうする、このままでは・・・。
ひたひたと私の内面を這い登ってくる絶望感を必死に振り払う。
その私に1匹のキマイラが咆哮を上げて襲い掛かってきた。
・・・!!!
咄嗟に剣を構えて応戦の体勢を取る。
しかし、魔獣は私にその牙が届く直前で動きを止めた。
・・・?・・・
何者かが、横合いから手を伸ばして魔獣を掴み止めたのだ。
その男の、鋼の様な筋肉が私の目に入る。
「遅れてすまなかった。・・・レスラーは常に遅れて現れるものだ」
それじゃ試合楽しみにしてるファンに失礼だろうに。
ブレーンバスターの体勢にキマイラを抱え上げると、老いた巨漢のレスラーはそのまま地面に力一杯叩きつけた。
マスク・ザ・バーバリアン・・・来てくれたのか・・・。
「フッ・・・ワシだけではないぞ。見るがいい!!」
バッと大きく手を上げるバーバリアン。

「・・・愛のパーンチ!!!!」
これまた巨漢の筋肉男が魔獣たちを素手で叩きのめしている。
ホセ・・・!!

「さあ次のクランケはどこだーっ!!! いくらでも医療ミスしていいクランケってのはホントありがたいな!!」
白衣の男が魔獣にメスや注射器を突き立てている。
・・・スーパードクターBBQ!
つかお前の今の台詞は問題ありすぎ。

「フハハァッ!! この覇王の一撃を受けて砕け散るがよい!! そしてその後でタイムサービス直撃よ!!」
巨人(ギガント)の様に巨大な主婦が魔獣達を蹴散らしていた。
民子さん・・・!!

・・・つか、まともな奴が誰もいない!!!!!!!



ギャラガーのマナの波動を感じ取ったマキャベリーがコアブロックの方角を見た。
「おお・・・総帥閣下・・・素晴らしい・・・」
そして陶酔した様に目を閉じる。
そのマキャベリーの前には仁舟とシンラがいた。
2人とも全身傷だらけで荒い息をついている。
「やれやれじゃ・・・折り紙よりあやとりの方が上かの? 納得がいかんワイ」
そう言うと仁舟は懐から取り出した折り紙で素早く折鶴を折る。
そしてその折鶴をそのままマキャベリーへと投げつけ「ムン!」と念を込めた。
折鶴は無数に分裂すると、翼を鋭い刃に変じて一斉にマキャベリーに襲い掛かった。
「フン・・・学習能力の無い。何度やろうと無駄だとわからないのですか」
刃鋼糸を振りかざし、折鶴を切り刻んでいくマキャベリー。
パサパサと乾いた音を立てて折鶴の残骸が地に落ちていく。
「いやいや・・・同じ真似はせんよ。今回は一捻り入れてみたが、お気に召すかのう?」
「・・・!!!」
仁舟の台詞と同時に、マキャベリーも異変に気が付く。
折鶴の背には小さな折り紙の兵隊が乗っていたのだ。折鶴は迎撃されても、兵隊隊は巧みに刃鋼糸の攻撃をかいくぐってマキャベリーに纏わり付く。
そして手にした小さな武器を一斉にマキャベリーに突き立てた。
「・・・ぐっ!!」
マキャベリーが呻く。1つ1つの傷は小さく浅いがとにかく数が多い。
そのマキャベリーが怯んだ隙を突いて、大剣を構えたシンラが踊りかかった。
ブン!!と風を切る大剣の一撃がマキャベリーの肩口を薙ぐ。
「・・・この・・!!!!」
マキャベリーの顔色が変わった。
その目が獰猛さと狂気を孕んでギラリと剣呑な輝きを放った。
「下衆どもがああッッッッッッッッ!!!!!!!!」
雄叫びを上げたマキャベリーが周囲に縦横無尽に刃鋼糸を振るう。
その攻撃は先程までよりも遥かに鋭く速く苛烈であり、咄嗟に2人は防御体勢を取ったものの防ぎきれずに全身をズタズタに刻まれていく。
「ぬおおっっ・・・!!」
「・・・キャアッ!!!!」
血飛沫を上げて2人が吹き飛ぶ。
「やってくれましたね!!! この総帥閣下の為にまだまだ身を粉にして働かねばならぬ私の身体に汚れた手で傷を!!!!」
怒りと憎悪を綯交ぜにした声でマキャベリーが叫ぶ。
吹き飛んだ2人は傷が深く、立ち上がることができずにいる。
「5体バラバラにしてあげますよ・・・!!!」
その2人へ向け、右手を高く振り上げたその時、マキャベリーは背後から近付く気配を感じ取った。
振り返ったマキャベリーの表情が驚愕に固まった。
赤い髪の男がそこに立っていた。
「・・・キサマ・・・何故・・・」
憎悪と驚愕に表情を歪ませてマキャベリーが問う。
「生憎と黄泉路も独りでは寂しいものでな・・・」
そう言ってリューは拳を握り締めて構えを取った。
「悪いが付き合ってもらうぞ。マキャベリー」