第20話 Chaser of Ocean-4


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「ええ、一度はアンカーの町に着いたんですが、その後気が付いたらここへ来ていまして」
マルーダ長老の家に滞在していたエルフ、パルテリースの話を聞く一同。
「アンカーからここまでか? 気が付いたらってお前さんここはアンカーから高速船でも3日はかかるんだぞ」
何とも言えない表情でオルブライトが言う。
「私、寝相悪いですから・・・」
(そういう問題ではないと思うのだけど・・・)
そう思ったものの、セシルはそれを口に出さずに苦笑するに留めておいた。
「・・・兎に角、アンタはアンカーに用事があるんでしょ? しょうがないから乗せてってあげましょうよ、ミスター」
サムトーがそう言うと、オルブライトは「かまわんよ」と了承の意を示した。
「本当ですか? 有難う御座います。ちょうどアンカーへ向かう船が着くのを待っていたので助かります・・・ぐぅ」
また寝た。
突然座りながらこっくりこっくり始めたパルテリースをサムトーが冷静な目で見ていた。
(森の剣神パルテリース・・・普段眠り続ける事で体内にチャクラを蓄えて戦闘時にはそれを消費する事で爆発的に戦闘力を高める特異なスキルを持つ戦士・・・ま、「四葉」のこのコをアンカーへ連れて行って私達のマイナスになるような事もないでしょ)

セントコーラル沖2kmの位置に巨大な空母が停泊している。
財団の所有する巨大空母「ニブルヘイム」である。
その空母の甲板に1人の男の姿があった。
財団の軍事部門の最高責任者リヒャルト・シュヴァイツァーである。
シュヴァイツァーは空母の端に立ち、静かに波打つ海面を冷たい瞳で見つめていた。
「・・・下らん」
その口から失望の呟きが漏れる。
「お気に召しませんか、今回のプロジェクトは」
そのシュヴァイツァーに背後から女性の声がかかった。
振り向かずに僅かに鼻を鳴らすシュヴァイツァー。
彼は見なくとも背後にいる自らの秘書にして補佐官ジーン・ディートリヒの存在がわかる。
スーツ姿のジーンの頭部には猫科の動物の耳がある。彼女は半獣人なのだ。
「当たり前だ。・・・4億だぞ。この魚臭い僻地に基地を建造するのにかかる費用が、だ。無駄遣いの極みだな。我らとて無尽蔵の富を所有しているわけではない」
吐き捨てる様に言うシュヴァイツァー。
「しかし、彼の地に戦端を開くに当たって前線基地としてここより最適な場所は無いと・・・」
「それこそが無駄だと言うのだ。件の遺跡にある門とやらがどれ程のものかは知らんが、我らがここまでして奪いに行かなければならないものとは到底思えん。各国が奪い合っているのだというのなら勝者が決まってからその国から奪い取ればいいだけだろう。大体計画の主導が柳生霧呼とエトワールの2人だというのも気に食わん。情報部と財政部め・・・こんな時ばかり結託しおって。何なんだあいつらデキてるのか!!!」
突然叫ぶシュヴァイツァー
「・・・御二人は同性ですが・・・」
「それが何だ!! 同性だってデキてる事だってあるだろう!!」
眉根を寄せたジーンが軽くこめかみを押さえる。
「それに、今回のプロジェクトには総務部も全面的に賛同すると・・・」
「おのれ総務!! ピョートルめ!! あいつも霧呼たちとデキてるに決まってる!!! 前から怪しいと思ってたんだ!!!」
もう何でもデキてしまっている。
ジーンは嘆息して上司の沈静化を諦めると、事務的に報告事項を口にする。
「先程連絡がありまして、『ハイドラ』のリチャード・ギュリオン様がこちらへ向かっておられるそうです。24時間以内に合流の模様」
ジーンの言葉にピタリとシュヴァイツァーは動きを止めると、ガバッと振り返った。
「何だと!? リチャードだと!? あいつ俺とデキてたのか!!??」
「知るかぁ!!!!!!!」
思わずジーンは手にしたファイルで思い切りシュヴァイツァーを殴打してしまった。
「ピロシキ!!!!!」
叫び声を上げてシュヴァイツァーは海に落ちていった。

セントコーラル諸島は、現実には魚人たちの自治区であったが一応の名目上は南部大陸ロトス共和国の領土と言う事になっている。
ロトスとセントコーラルは今まで先祖代々の友好関係を維持して平和に共存してきた。
そのロトス共和国の特使が大統領からの書簡を携えてマルーダ長老の元を訪れたのは、セシルたちが滞在した日の夕刻の事だった。
「・・・なんと・・・」
書簡に目を通した長老が絶句する。
「申し訳ない・・・先程議会で法案が通りまして・・・もう覆せぬのです・・・」
特使は辛そうな表情でただ頭を下げるばかりであった。
「セントコーラルの開発計画とな・・・表向き海洋研究施設とあるが、こりゃ完全に軍事施設じゃのう・・・」
特使はその言葉を肯定も否定もしなかった。
そしてその態度が何より長老の言葉が事実であると物語っていた。
「この地の皆様の事は、妨害が無い限り今まで通りの生活を保障すると・・・」
「財団から圧力をかけられたか」
今度も特使は否定せず、ただ悔し涙を流して俯いた。
その様子を、セシルたちは隣の部屋から伺っていた。
「・・・何だか、大変な話になってきましたね・・・」
セシルが表情を曇らせる。
「こんな所に基地を作るなら、目的はシードラゴン島でしょうね」
「そんな・・・どうにかしないと・・・!」
サムトーの言葉にセシルが顔色を失う。
「まーそうしたいのはアタシも山々なんだけどねぇ・・・」
サムトーが難しい顔をして首を捻った。
(この場の人数ではちょっち手に余る話よね。本部に連絡とって増援回してもらわないとね)
サムトーがそう思ったその時、表が俄かに騒がしくなった。

浜辺に何台もの揚陸艇が上陸する。
揚陸艇はどれも鉄骨やその他の資材を搭載している。
そして揚陸艇を降りた財団の兵たちが資材を展開し始めた。
『周辺の住民達に告ぐ。この地に研究施設を建造する為、今より当地は建築基地として利用させて貰う。これはロトス共和国議会の決定である。繰り返す・・・』
拡声器での宣言に魚人達に悲鳴と動揺が広がった。
何人かは兵達に詰め寄っている。
「ど、どういう事なんだ・・・!」
「やめてくれ!! 漁ができなくなれば俺たちはお終いだ!!」
だが財団の兵たちは魚人達に取り合わず、乱暴に追い払うだけだ。
遂に1人の魚人がオールを手に兵達に殴りかかった。
「くそっ・・・!! 出て行け!! お前らっ!!!」
チッと舌打ちした兵が銃口をその魚人へ向けた。
「・・・・・・あ・・・・・・」
セシルが小さく呟いたその時、パン!!と乾いた銃声が鳴り響いた。
撃たれた魚人は倒れて2,3度痙攣するとそれきり動かなくなる。
「・・・と、父ちゃん・・・」
フラフラと魚人たちの一団から子供の魚人が出てくる。
そして動かなくなった魚人の脇へペタリと座り込む。
「うわああああん!!! 父ちゃーん!!!!!!」
既に息をしていない魚人にすがり付いて泣く子を見下ろして、兵がフンと鼻を鳴らした。
「大人しくしてりゃ死ななくていいものを・・・!」
「・・・あいつら」
サムトーが怒りに燃えて1歩前へ出た。
そして気が付く。自分の脇にいたはずのセシルがいない。
いつの間にか、セシルは泣いている子供のすぐ隣にいた。
そして自分も膝を突くとその子をぎゅっと抱きしめた。
「なんだ貴様? 人間じゃないか・・・?」
兵士が訝しげに言う。
セシルが無言で立ち上がる。
そして兵の脇を抜けて海の方へ歩いていく。
「・・・?」
セシルの意図が読めない兵たちはそれを無言で見送った。
ざぶざぶと海に入ったセシルが一台の揚陸艇の前で止まった。
「・・・人の痛みのわからない人は・・・」
ぎゅっと拳を握り締める。
「生きる資格はない!!!!!!!!」
ゴォン!!!!!!!とセシルのパンチでひしゃげた揚陸艇が大きく空を舞った。
そして弧を描いて海に落ち、大爆発して海上に火柱を上げる。
その光景に一瞬絶句した兵たちだが、すぐに気を取り直して一斉にセシルに銃口を向けた。
「・・・・・貴様ぁああ!!!!」
同時にサムトーが飛び出していた。
「・・・あのコ・・・無茶して・・・!!」
しかし言葉と裏腹にサムトーはニヤリと笑みを浮かべる。
「けど悪くないわ!!! 付き合うわよセシル!!!」
そのサムトーにパルテリースが併走していた。
彼女が手にしたレイピアの刀身が冷たく月光を弾く。
「許せない・・・全て斬り捨てる方向で行きます」
怒りに輝く双眸を兵達へと向けて、パルテリースが静かに呟いた。

浜辺は乱戦になった。
とはいえ3人と勝負になる兵はおらず、徐々にその数の優位を失っていく。
「・・・!!!!」
突然襲ってくる兵達の間から強い殺気を感じたセシルが反射的に身をかわした。
ピッとその首筋に赤い筋が走った。
慌ててその傷をセシルが押さえる。
(・・・よかった。血管には届いていない・・・!)
「よくかわしましたね」
ザン!と砂地に誰かが着地した。
スーツ姿に獣の耳。ジーンだった。
その手には鋭い鋼鉄の爪がある。
「ですが次はその頚動脈を切り裂かせて頂きます」
そこにモーターボートでシュヴァイツァーも到着する。
「何だこの騒ぎは!!! お前らデキてるのか!!!!!」
浜辺に鋭いシュヴァイツァーの怒号が響き渡った。