第19話 花は心のオアシス-3


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新オフィスへと移って2日目の朝。
私たちは転居祝いの騒ぎの翌日で気だるい朝食の席に着いていた。
食卓には私の他に、エリス、DD、ルク、シンラ、ベルの顔ぶれがある。
後の面々は4階のそれぞれの部屋で過ごしているはずだ。
ちなみにこの面子に現在入院しているマチルダを加えたメンバーが当事務所の住み込みのスタッフというわけだ。
・・・華やかな職場になったなぁ。
それぞれタイプの違う妙齢の女性陣を眺めつつコーヒーをすする私。
きっと年頃の男子から見れば天国の様な職場だろうな、と思った。

朝食を終えて少しして、仕事の準備を始めているとオフィスの呼び鈴がチリーンと涼やかな音を立てた。
応対に出たエリスが客を応接ルームへと案内してくる。
・・・おや。
「こんにちわー!」
元気良くそう言って入ってきたのは、昨日のフラワーショップ冴月のオーナー桜貴と銀城の2人だった。
「どーもっス。先生に今日は見て欲しいもんがありましてね」
そう言って銀城が応接テーブルの上に抱えてきた大きなダンボールを置く。
見て欲しいもの?
ダンボールを開けて中を見てみると、そこには骨董品らしい壺や花瓶等が入っている。
割れ物は全て新聞紙に包まれていた。
「昨日来て下さったお客さんが、なんだか聞けば偉い学者先生だっていう事だったから持ってきました! 古いものだから先生わかるかなって思って」
桜貴がそう言った。
いや偉くは無いのだがね。
しかし・・・なるほど、確かに私の専門は考古学ではあるが、美術品関連はちょっとなぁ・・・。
オマケに大和史はまだ私も未開拓の分野だ。
とはいえ、折角頼って来てくれたのだし何とかしてあげたい所だが。
古美術鑑定と言えば、奴しかいない・・・。
非常に抵抗があるんだがまあ止むを得んか・・・。

そういうわけで私は2人を伴って久しぶりに「アサシン堂」へとやってきた。
店のドアをくぐった私を目にしてアーサーは顔を輝かせて両手を広げた。
「これはこれは先生・・・! お顔を拝見できる幸運に恵まれてこのアーサー身体中からヘンな液体が迸ってしまいそうですよ」
くそう。来て5秒でもう帰りたい。
早速強烈なホームシックに襲われながらも私はアーサーに2人を紹介して彼らの荷の鑑定を依頼した。
「わかりました。他でも無い先生のご紹介とあれば喜んで承りますよ」
そう言うとアーサーはカウンターに骨董品を並べ、ルーペを手に鑑定を始めた。
「これは・・・董顕の・・・真作ですね。素晴らしい。その筋のオークションに出せば捨て値でも5万は下らない代物です」
流石は人格に問題大アリでも腕はいい。
アーサーはてきぱきと鑑定をこなしていく。
・・・というか・・・。
「これも真作・・・。この湯飲みは昨年同代のものが共和国のオークションハウスで43万で落札された記録があります」
ちょっと・・・品物どれも凄くないか・・・。
サラっと聞き流していたが、総額がかなり果てしない事になっているような・・・。
2人はと見てみれば桜貴の方はおー、とかふーん、とか平然と聞いているものの後ろの銀城はもうアゴが外れんばかりに口を開けて固まってしまっている。
鑑定も最後の一品となり、アーサーが儀式用のものらしい装飾のある刀剣を取り上げた。
「・・・・む・・・・」
それまでスムーズだったアーサーの舌が止まる。
そして、ふむ、と刀剣に見入っている。
「これは、ちょっとすぐにはわかりませんね。せめて刀身を見られればわかる事も多いのですが・・・」
言われて私もその刀剣を見てみる。
なるほど、御札らしきもので鞘から抜けないように封印してあるな。
「あ、取っちゃっていいですよそれ」
そう桜貴は言ったが、アーサーは静かに首を横に振った。
「いいえ、そういうわけにはいきませんよ、お嬢さん。何か謂れのあるものかもしれませんし、そうでないとしてもこれを取った事で骨董品としての価値が激減する事も有り得ます。とりあえず抜刀せずにわかる所まで調べてみたいと思いますが、その為には少々お時間を頂戴しないといけませんね」
預かりになってしまう、とアーサーは我々に説明した。
「どうします? お嬢」
銀城がそう桜貴に尋ねる。
「ここまで見て貰ったんだし、どうせだからわかるとこまでは調べてもらいましょうよ。それ預けていきますね。よろしく!」
こうして刀剣はアーサーの店に預けられる事になった。

「なるほどねー。興味を引く話ね」
自分のデスクに座って、私の話を聞いていたベルがそう相槌を打った。
彼女は私などでは全然仕組みのわからない複雑な魔道機械をいじっている。
キーに休み無く指を走らせて、空中に浮かび上がった画面には複雑な文字や数式が流れていた。
「冴月かぁ・・・。聞き覚えのある名前じゃのう」
自分のデスクでお茶をすすっていたジュウベイが言う。
知り合いなのか?と問うとジュウベイはそういうわけではないと首を横に振った。
「大和最大のヤクザ組織の『紫桜会』っていうのがあるんじゃが、そこの大ボスが冴月莞爾って名前なのだ」
ヤクザ・・・ジャパニーズマフィアか・・・。
まあ苗字が同じという事は有り得ない話ではないし、必ずしも関係者であるとは限らないが。
それでも桜貴の少し浮世離れした所は印象に残っている。
まさかな・・・。


そしてその夜。
今日もフラワーショップ冴月は閉店時間を迎え、店の前に出していた鉢などを銀城は片付けていた。
最後の鉢をしまって、後はシャッターを下ろすだけとなりそのシャッターに銀城が手をかけたその時、スッと店内に音もなく滑り込むように入ってきた男がいた。
「おっと、お客人今日はもうお終いで・・・・!!!!・・・・」
銀城の言葉は途中で止まり、その目が見開かれる。
店に入ってきた男はダークグレーのスーツに丸いサングラスの男だった。
「・・・よう、桜庭ぁ」
サングラスの男が銀城の顔を見てニヤリと笑った。
「てめえ!!! 六角!!!」
ロッカクと呼ばれた男の手には白木の鞘の刀がある。
納刀したままの刀で六角は銀城の足を払って横倒しにした。
倒れた銀城の眼前僅か数cmの所にドガッ!と刀が突き立てられる。
「さぁて桜庭チャンよ・・・『草薙之剣』はどこだぁ?」
「何言ってやがる! そんなもん知らね・・・・」
言いかけた銀城の脳裏を、昼間古道具屋に預けてきたあの御神体の剣の事が過ぎった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「フン、まーそう言うよなぁ。仕方ねえな勝手に探させてもらうぜ」
ぞろぞろと黒麒会の男達が店へと入ってくる。
そしてシャッターを内側から下ろして閉めた。
「ちょっとー何をガタガタやって・・・」
そこへ奥から出てきた桜貴が顔を出す。
「!!!! お嬢、逃げてくだせえ!!!!!」
銀城が叫ぶのと、六角の部下の1人が素早く動いて桜貴を後ろ手に拘束したのは同時だった。
「・・・っ! アンタたち!! 黒麒会!!!」
怒声を上げた桜貴が六角を見る。
「・・・『人斬り六角』・・・!!!」
桜貴に呼ばれて六角が口の端を吊り上げた。
突如売り場から叫び声を上げて巨大植物が六角へと襲い掛かった。昨日臭い息を吐いたイソギンチャクに似た植物だ。
「・・・待って! モル子さん!!!!」
桜貴が叫ぶ。
「おーこりゃまた随分見事なお花ですな。・・・だがちっとばかし伸び過ぎじゃねーですかい? 剪定がいるなぁ」
六角が床から刀を抜くと鞘に一度収めた。
そして見えない剣閃が走る。
縦に2つに断ち割られた植物が左右にゆっくりと倒れた。


「『黒麒会』の六角が町へ入ったそうですよ」
アイザックの報告を受けてエトワールがステーキを切るナイフを止めた。
「六角だぁ? ・・・あんでだよ。黒麒会が神の門に手出す事にしたとか報告受けてねーぞ」
エトワールの言葉にアイザックが肯く。
「ええ、どうもそういう訳では無いようですね」
「別件かよ。とりあえず監視だけ付けて放っておきな。こっちゃラゴールの造反で今余裕ねーんだ。無関係かもしんねーのにヤロウの相手なんてできっかよ。なんせアイツ・・・」
エトワールが忌々しそうに眉間に皺を寄せた。
「六角崇久(タカヒサ)って男は・・・『ハイドラへの誘いを蹴った』男なんだからよ」