最終話 Fairy tale of courage-6


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右腕を繋ぎ終えたギャラガーが身構える。
「・・・貴様、何者だ」
「んん?」
腕を組んでギャラガーが腕を癒すのを眺めていたウィリアムが小首を傾げた。
「先程まで散々俺の名を呼んでいたように記憶しているが。ウィリアム・バーンハルトとな」
そう言ってウィリアムはニヤリと笑った。
先程までの彼からは想像もできない冷たい微笑みだった。
「同一人物とは思えんがな」
わずかに眉を顰めてギャラガーは言った。
外見が違っている。漆黒の髪に赤い瞳だ。
・・・そして内面は外見以上に変化しているようだ。
膨大なマナを感じる。
濃密で・・・そして闇の気配を感じるマナ。
「悪いが・・・」
つい、とウィリアムが瞳を細めた。
「俺はお前の様に解説好きではない。何も語る気はない。・・・何も知らぬままに死んでいけ、まるで莫迦の様に」
その一言が合図となった。
ウィリアム・バーンハルトとギャラガー・C・ロードリアスは同時に地を蹴った。

ズアッ!とギャラガーの右手から閃光が走った。
大地を横薙ぎにして真紅の炎を噴き上げる。
「・・・これは剣呑」
呟いてウィリアムはシュッと姿を消した。
そしてギャラガーの真横に姿を現した時、ウィリアムの姿は別の人間の物に変化していた。
「何ッッ!!!!」
ギャラガーが目を見開く。
炎の巻き起こす風に長い黒髪がなびく。
そこに立っていたのはジュデッカだった。
「ハハッ・・・そらどうした、『この世の指導者』!!」
笑いながらジュデッカは自分の手首を手にした軍用のナイフで切り裂いた。
傷口から鮮血が噴き出し、その血は地面に落ちるより早く無数の赤い蟲に変じて一斉にギャラガーへと襲い掛かった。
「うぐおおおおおおおおおッッッ!!!!!」
無数の赤い蟲・・・ブラッドエレメンタルに群がられてギャラガーが咆哮する。
狼狽するギャラガーの姿を高笑いしながら見ていたジュデッカの姿が一瞬揺らいでまた別の人間の物に変化する。
今度はマチルダの姿だ。
「雷精展開・・・ライトニングディザスター!!」
振りかざしたロンギヌスの槍から電撃のレーザーを放つマチルダ。
ブラッドエレメンタルを引き剥がしていたギャラガーは回避できずにその一撃をまともに浴びた。
「があああッッッッ!!!!!!」
胴体を灼き貫かれて、血を吐きながらギャラガーが絶叫する。
「呆気ないものだ。このまま無抵抗で終わりか?」
マチルダの姿でウィリアムは嗤った。
「こ、これは・・・幻術か・・・!!!!」
必死にマナを集め傷を再生しながらギャラガーが呻いた。
「如何にも」
肯いてウィリアムが元の姿に戻る。
「これはまぼろし・・・悪い夢だ。しかし総帥ギャラガーよ、お前が負った傷は全て現実のもの」
右手を腰に当てて苦しむギャラガーを悠然と見下ろすウィリアム。
「俺は夢と現の狭間を行く者・・・最強の幻術使い『惑わせるもの』ウィリアム・バーンハルトだ」
ギリッと奥歯を鳴らしたギャラガーがオーラを噴き上げた。
「ほう、まだそれだけの力を残していたか」
感嘆するウィリアムを憎悪の篭った瞳でギャラガーが睨みつける。
「図に乗るな・・・下郎がッッッッ!!!!!」
叫び声と共に空中に無数の火球が浮かび上がると周囲を一斉に爆撃する。
爆音と吹き上がる火柱の輝きが周囲を満たした。
爆発を回避しながらウィリアムがふわっと宙に浮き上がった。
「・・・む・・・」
ふとウィリアムが足元に目をやる。
ギャラガーの無差別爆撃が意識を失って倒れている仲間達に迫っていた。

「・・・ふん」
ウィリアムは鼻を鳴らしてそれを黙殺した。
「構う事もない。むしろ命を落とすのなら足手まといが減って・・・」
ザリッ!と思考にノイズが走る。
「・・・っ」
鈍い頭痛にウィリアムが顔をしかめた。
「やれやれだ。まだ俺が不完全な内に余計な刺激を与えるべきではない、か・・・」
舌打ちして地に降り立ったウィリアムが右手を上げる。
「出でよ、『ガ・シア』」
その呼びかけに応じ、地面から黒い影がブワッと噴き出した。
影は巨大な蝶の姿になり、羽を広げて爆風から倒れている者達を護った。
胴体部分に白い髑髏の様な仮面を付けた巨大な魔影の蝶は、体から無数の影の触手を伸ばすと倒れている者たちをずぶずぶと自分の内側に取り込んでいく。
「そのまま離れていろ」
そうウィリアムが命じると、仲間達を残らず身体に埋め込んだ蝶は羽ばたいてその場から遠ざかっていった。
「さて・・・」
飛び去る蝶から視線をギャラガーへと戻すウィリアム。
「お前の顔にもそろそろ飽いた。退場の時間が来たようだぞ・・・総帥ギャラガー」
「ぬかせ・・・死ぬのは貴様よ」
憎憎しげにそう言うと、ギャラガーの手の中に青黒い光の槍が浮かび上がる。
そしてその槍をウィリアムへ向けて放つギャラガー。
文字通りの光速で空を走った光の槍は、狙いを過たずにウィリアムの胴体を刺し貫いた。

身体に大穴を開けたウィリアムがぐらりとよろめく。
だが、攻撃が命中した事を喜ぶ事も無く、ギャラガーはウィリアムがまったく回避しようとしなかった事を訝しんだ。
「『千の虚構』」
ウィリアムが呟き、その身体がガラス細工の様に粉々に砕け散った。
「!!!!」
ギャラガーが目を見開く。
「・・・こっちだ」
声がしてバッと弾かれた様にギャラガーがそちらを見た。
瓦礫に腰掛けたウィリアムが自分を見て嗤っている。
「いやいや、こっちだぞ」
今度は別の方向から声がする。
見ればビルの壁に腕を組んだウィリアムが寄りかかっている。
「・・・これは・・・」
ギャラガーの頬を汗が伝った。
いつの間にか、周囲に何人ものウィリアムがいてギャラガーはすっかり取り囲まれていたのだ。
「ぬう・・・」
唸ってギャラガーは周囲を凝視する。
通常、エターナルであり優れた魔術師であるギャラガーに幻術は通用しない。
マナを集中して見れば幻は直ぐに看破できるからだ。
だが、いくら今目を凝らしても周囲のウィリアム達の虚実は掴めない。
「ただ幻術を使うだけならば、その辺りの魔術師どもにもできよう」
1人のウィリアムが言う。
「だが俺は最強の幻術使い・・・全ての幻に『実』を与える事ができる」
別のウィリアムが言葉を続けた。
そして全てのウィリアムが一斉に剣を抜き放つと、『神牙』の構えを取った。
「・・・さて、この攻撃は幻か、それとも現実か」
「・・・ぬうう・・・」
呻いてギャラガーが後ずさった。
しかし周囲をウィリアムに取り囲まれているため、彼に逃げ場は無い。
そして白い輝きが周囲を満たし、轟音が『始まりの舟』を振るわせた。

地面は深く穿たれ、周囲の様相は先程までよりも更に凄惨なものとなっていた。
その中心部にウィリアムは立って周囲を見回している。
「・・・逃げたか」
大して興味も無い、といった風に呟くウィリアム。
「まあいい。門の争奪戦から脱落するなら後はどこで何をしていようが奴の自由だ」
そう言うとウィリアムがびくりと身体を痙攣させる。
そして俯いたウィリアムの髪の毛が元のグレイに戻った。
ドサッ!と丸で糸が切れたかの様にその場に座り込むウィリアム。
「・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」
荒い息をつく。
地面に汗が滴る。
「・・・あれは・・・私・・・か・・・」
呻く様に言うウィリアムに答える者がいた。
「そうよ。あれは貴方の中にいるもう1人の貴方。私が力を貸して表側に一時的に押し出したの」
誰かが、ウィリアムに背中同士を合わせて座っている。
その何者かが誰なのか、今のウィリアムには見なくてもわかっている。
「・・・魔女ナイアール・・・」
その名を呼ぶ。背中合わせのウィリアムからは見えていなかったが、彼にはその時背後のナイアールが微笑んだのがわかった。
ナイアールがすっと立ち上がる。
「今日はここまで。・・・感謝してよね、あたしがいなかったら今頃ウィリアム達は皆殺しにされてたかもしれないのよ?」
未だ座り込んだままのウィリアムを肩越しに見下ろしてナイアールが言う。
「テリトリー外で随分力を使っちゃったから私は一度『本体』に戻るわ。・・・いつか、迎えに来てね」
そう言って微笑むとナイアールの姿はまるで蜃気楼の様に周囲に溶けて消えていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
残されたウィリアムは何も言えずに、ただ座り込んで俯くのみだった。



エメラダ・ロードリアスが斃れた事で彼女の使役していた魔獣達は制御を失い暴れ続けている。
カミュを庇いながら戦っていたルノーにもそろそろ限界が訪れようとしていた。
(くそっ! まだダメだ! まだやられるわけにはいかねえ!)
その時、ルノーの眼前に迫っていた魔獣が無数の光の矢に刺し貫かれて絶命する。
「・・・!!!!」
「ご無事ですか、ルーシー」
バサッと背の翼を羽ばたかせてその場にふわりとセイレーンの女性が降り立った。
「ローレライ! ・・・それじゃ・・・」
同時にルノーの左右で魔獣達の絶叫が響き渡った。
黒スーツの2人・・・エリックとシグナルが魔獣達を駆逐している。
「お前ら・・・」
もう襲い掛かってこようという魔獣はいなかった。
「お待たせしてしまいましたね、ルノー」
エリックが歩いてくる。その後ろのシグナルは無言だ。
「それじゃあ」
ルノーの呟きにエリックが肯いた。
そして彼が振り向く。
一行からやや離れた場所にスーツ姿に杖を突いた褐色の肌の老人がいた。
「あー、諸君。喉が渇いたのでカモミールティーを所望したいのだがね」
周囲の惨状には目もくれずに、のんびりと老人・・・カシム博士はそう言った。